2024年5月15日水曜日

2024年5月15日(水)明治安田J1リーグ第14節 北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田 〜飛車角どちらか選ぶなら〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • 「Jリーグの日」ということで平日開催のリーグ戦。
  • 補強禁止の逆風を乗り越えJ1に戻ってきた磐田。かなり苦戦するのでは?と予想していましたがセンターラインに川島、リカルドグラッサ、マテウスペイショットと一定の強度がある選手を確保していることに加え、2節の川崎戦での4ゴールをきっかけに爆発したジャーメインの得点力もあってここまで4勝2分7敗で15位と少なくともコンサよりはポジティブに序盤戦を乗り切ったと言えるでしょう。
  • しかし12節でジャーメインが負傷、おそらく1ヶ月以上の離脱と診断されて迎えた前節の鳥栖戦は下位に沈む鳥栖にホームで0-3と完敗。この時は川島が負傷、リカルドが出場停止とセンターラインをごっそり欠いていたのはありますが、ジャーメインが不在のこの1ヶ月でなんとか踏ん張りたいところです。
  • メンバーは、復帰の山田がトップ下でジャーメインに変わってスタメン出場。左サイドハーフは平川が不動のスタメンでしたがこの日は古川を起用してきました。

  • コンサは武蔵が前節、前半終了時に退いたのは負傷だったようで、ゴニのスタメンを予想するメディアもありましたが久々の駒井FW。ただ、スタート時はスパチョークが前、駒井がシャドーないしはインサイドハーフでしたが徐々に駒井が中央で体を張るいつもの役割分担からポジションもその影響でシャッフルされたという感じで流動的でした。また最終ラインには岡村が5試合ぶりにスタメン復帰。


2.試合展開

点を取りにきた(と思われる磐田)となるべくボールを捨てなかったコンサ:

  • ほぼ90分を通じて、コンサがボールを持っている時は、磐田はまず高い位置からpressingを仕掛けてなるべく撤退せずにボールを回収できないかをトライしていました。
  • おそらく磐田はジャーメインが不在なこともあり、前線にカウンターの際にスピードで脅威を与えられる選手がいないので、ボール回収位置が低くなってロングカウンターを繰り出さざるを得なくなるという展開よりは、なるべく高い位置で奪って、自陣に戻る距離や機会をなるべく少なくし、ロングカウンターよりもショートカウンター気味の形からコンサゴールを脅かしたかったのだと思います。
  • 加えてコンサは前線に駒井、スパチョーク、浅野とサイズ・パワーがあまりない選手が揃っているので、コンサのGKとDFにpressingを仕掛けてボールを捨てさせれば、サイズやパワーで上回る磐田の最終ラインなら比較的容易に跳ね返して回収できるとも計算していたのでしょう。

  • この際、磐田は↓のように、アンカーの荒野にはレオゴメスが見る対応で基本的にはマンマーク主体。上原はどのくらい浅野にぴったりついていたかはDAZNのカメラワークの問題で確認できないですが、少なくとも上原が後ろを担当して最終ラインの枚数不足をカバーすることになっていました。これはコンサが押し込んで磐田が自陣ペナルティエリア付近で守ることになった時も同じで、上原が空いたスペースを埋めることになっていました。

  • 前節川崎戦でもそうでしたが、今のコンサの数少ない、いいところとして、相手のpressingがコンサのフィールドプレイヤーからマイナス1程度なら比較的回避できる、という点が挙げられます。
  • 川崎戦では加えて相手のFWのゴミスがあまり守備で走ってくれないタイプだったこともあって、コンサは川崎の1列目を外すことはできていました。
  • この日は、磐田の前線の選手はゴミスよりは戦術理解があり頑張れるタイプ。ただGK菅野にはあまり二度追いして圧力をかけてはこないので、菅野はボールを持てて、またいつもチームを助けてくれるサイドのDFへのフィードも問題なく繰り出せていました。

  • 加えて、15分くらいで荒野が岡村と宮澤の間に移動することが多くなります
  • こうなると↓レオゴメスはここまで荒野が下がるとそのまま自分がマンマークでついていくか、それとも撤退してスペースを埋めるのか決めていなかったようで中途半端なポジショニングになってしまいます。
  • コンサは中央にスペースができると、駒井やスパチョークが下がってきてそのスペースでキープしたりターンしたりを試みるということは、チームとして共通理解が割とあったと思います。というのは、単に彼らが下がってきたらフィードを当てる、というだけではなくて、菅野や宮澤はサイズがない選手でもコントロールしやすいように丁寧なフィードを蹴っていました。
  • そして磐田はここでも下がってくるコンサの前線の選手に、CBのリカルドと鈴木がどこまでついていくか不明瞭で、ターゲット(武蔵)がいないコンサの方が敵陣に入るという点では磐田より先行する展開となります。

  • 前線にボールが入ると、コンサの展開は8割がた、右の近藤に渡すところから始まります。
  • ボールを持って前を向く近藤の近くに浅野と馬場が寄ってきて、そうなると磐田としては近藤を松原が中切りで外に追い出し、リカルドが浅野を捕まえる、リカルドが空けた中央のスペースを上原が必死にカバー。馬場の攻撃参加を止めるために古川が頑張って戻る…といった対応が必要になります。
  • 要するに右サイドの近藤に渡るだけで、磐田はそこからの展開を1人でストップできないのでフィールドの全ての選手が自陣に戻らなくてはならずこれは結構な負荷になります。近藤が仕掛けられそうだったので行っても良かったですが、ゴールもアシストもなくとも磐田相手ならいてくれるだけで小さくない影響を与える存在でした。

  • ただ磐田は一応、コンサの右、磐田の左サイドでボールを奪ったら、(相変わらず)背後に無頓着な馬場の背後を強襲してカウンターを仕掛けるだけのスピードを、古川は最低限備えていて、危ない場面もなくはありませんでした。
  • 5分には古川が左を突破したところから、馬場にペナルティエリア内で手に当たったように見えるプレーが発生してVARが介入しますが判定はノーハンド。この判定はかなりコンサとしては助かりました。

角を確保した磐田と角不在のコンサだが…:

  • 今更ですが記事タイトルでは、前線の選手の関係性を、ストライカーや決定的な仕事をする選手(磐田のジャーメイン、コンサの浅野)を飛車、そのストライカーが前を向いてプレーするためにポストプレーをしたり体を張って潰れ役になる選手(マテウスペイショット、鈴木武蔵)を角、と表現してみました。
  • この試合、磐田には飛車がいないけど角がいる。逆にコンサは飛車がいるけど角がいないという対照的な関係性。ジャーメインはいないけどペイショットが体を張って、ロングボールを収めて攻撃機会を作ってくれるかと思いきや、コンサは復帰の岡村がペイショット相手に強さを発揮して、単純な放り込みには安定した対応を見せます。ロングフィードを競り合うという点ではペイショットはなかなか仕事ができない状況でした。

  • 決勝点も、磐田のGK坪井のフィードを岡村が頭で跳ね返し、(武蔵の代わりに”角”役の)駒井が拾ってスパチョークのスルーパス。浅野がリカルドを引き付けてから見事な切り返しとコントロールショットでゲット、という形で、岡村の強さが活きた格好になりました。
  • またコンサはスパチョークももう一人の”飛車”と呼べるだけのクオリティを持っていて、体を張る役割はほとんど駒井や他の選手に任せていましたが、その分前を向いてボールを持つとこのアシストのように決定的な仕事を期待できるというのを証明してくれました。やはりこうした選手を活かすには体を張る選手や、前線の潰れ役は不可欠で、それは駒井や岡村の担当だとして、役割分担がうまくできていたと言えます。

  • ただペイショットはゴール前にクロスボールや楔のパスが入ると、自らが潰れて味方にフリックしたりしてシュートチャンスを作るのは上手く、磐田がシュートに至ったのは彼がなんらか関与する場面は多かったです。大柄な体格ですが、力強いというかは巧いプレーをする潰れ役と言えるのかもしれません。

夢の勝ち点7(7試合で)に向け専守防衛へ:

  • 後半は、磐田が後半開始と同時に山田→平川のカードを切ったのを皮切りに、まずは戦術的交代よりはミッドウィークのためコンディションを考慮した交代が繰り広げられます。
  • 戦術的なカード及び打ち手としては、69分にコンサがゴニと中村桐耶を投入した際、最終ラインに宮澤を下げて岡村と2人でペイショットを見る形に変更。前線が1人足りなくなるのですが、左から中央に移った青木が磐田の中盤の選手とCBの選手を交互に見る役割をうまくやっていて、また磐田がここの数的優位をあまり活かせる能力がなかったこともあって、この策は非常に効果的でした(↓の図は最終の選手配置なので宮澤が中央、コンサは家泉を投入して岡村と2CB)。
  • 7試合で勝ち点7!という壮大な目標を掲げたコンサにとって、残り2試合(柏と鹿島相手)で勝ち点2を確保するために、またその先の試合においてもオプションとなるかもしれません。磐田相手だから効果的だった気もしますがないよりはマシのオプションでしょう。
  • コンサは守備固めと言えるのか謎の中村桐耶が入って怪しいプレーもありましたが中央の強度もあって乗り切ります。最後、磐田はパワープレーしかないかなと思っていましたが、DFを上げることもなく試合終了。

雑感

  • この試合前の時点で、コンサは1試合平均で2点取られているので、単純に考えれば勝つために毎試合3点が必要な状況。だから、「FWがもっと決めていれば勝てる」というのは現実が見えてない話で、それよりはまず失点を減らしてロースコア展開に持ち込み、。前線の選手になんとか決めてもらって1点守り切る、というのが(お金がないと言い訳できるチームならば)普通の勝ち方になります。
  • またこれは別に〜〜監督は攻撃的だから、とかそういう言い訳で回避できるものではなく、基本的に強いチームや攻撃力があるチームほど守りも安定していて、守れるしボールを奪えるから何度も攻撃できたり攻撃に枚数をかけられるのがサッカーというものです。
  • だからとにかく残留したいなら失点減らせよ、1ゴールでも勝てる方法必死に考えろよ、って感じなのですが、この点については相手のエース・ジャーメイン不在というウルトラ僥倖があるにせよ、残留に向けようやく最低限の対応をした記念すべき日になったのかもしれません。だとすればJリーグの誕生日とか、まさおカレー復刻とかどうでもよいくらい偉大な1日です(カレーはちょっと欲しいです。永谷園なんですね)。
  • まぁ相手がもうちょいいいpressingをしてくるチームだとどうなるかは知りませんが。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. お疲れ様です。
    ポストプレーヤーを角行、ストライカーを飛車と表現するのは面白いです。
    やはりこの陣容では武蔵は角行の役割になりますね。小柏は両方の役割をそれなりのレベルでこなしていただけに武蔵にも期待してしまうところですが。

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    1. ありがとうございます。
      タイトルのアイディアは随時募集中です。

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