2022年10月9日日曜日

2022年10月8日(土)明治安田生命J1リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vsアビスパ福岡 〜願望こそが戦術〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果

  • 福岡の前線は概ね、山岸、ファンマ、クルークス、ルキアン、金森から3〜4人をチョイスしていていましたが、ファンマ、クルークス、金森がベンチスタートとなった点がまず注意を引きます。夏加入のジョンマリが2試合目のスタメン。
  • 前線から3人チョイスならDFを1枚増やした3バック(5バック)採用で、この日は心ないサッカーファンに苦しめられた奈良が3試合ぶりに復帰。
  • 札幌は高嶺が出場停止、荒野と深井が負傷、宮澤も戻らずで、中盤センターの人選がポイント。青木を下げて、前線に他の選手(菅が試されていたようです)もオプションとしてはあったけど、無難に?西としたのは、福岡のパワフルなセンターラインとの攻防に備える意味あいもあったでしょうか。

ゲームプランの推察:

  • 撃ち合いになると厳しいとみた福岡は、我慢してロースコア展開に持ち込み、後半にクルークスのような選手を投入して勝ち点を奪うプランだったと思います。

  • 福岡は、基本型の1-4-4-2と比べてバランスが悪い3(5)バックはあくまでオプションの位置付け。前回はマリノス相手に採用しましたが、開始早々にマリノスが福岡の撤退守備をこじ開けることに成功。福岡は、バランスの悪い(前で奪いたいけど前に枚数を割けない)3バックのシステムでファンマやクルークスが長い距離を走らされる展開が続きます。
  • 内容的には走らされまくるし、ピッチ上のスペースととボールを支配されての完敗に見えますが、それでもなんとか最少失点での負けにとどめたのは評価が分かれるところ。1点差のまま90分やり過ごせば、セットプレーさえあれば勝ち点獲得のチャンスが常に生きるからです。

  • そのセットプレーが福岡の生命線で、オフに名手サロモンソンを放出した分はクルークスと日本人選手で補えると思っていたが、なかなかそうはいかないのがここまでの苦戦の要因でしょう。9節ぶりに勝ち点3を獲得した30節の清水戦では、中村の直接フリーキックとCKから山岸の得点で、2点を奪っています。

  • ここまでインパクト不足のジョンマリのスタメン起用も、後半に勝負をかける狙いだったのでしょう。
  • 札幌の最終ラインは岡村の強さに拠るところが大きい。序盤からFWに長いボールを放り込むとして、ファンマがスタメンだと、岡村相手に勝負どころで疲れてしまって仕事ができなくなる。
  • ファンマは「ここまで1ゴール3アシストの巨体FW」ですが、福岡が流れの中で崩しがうまくいく場合はファンマが関与していることが多い。それはファンマはスペースが狭い中でもクイックにプレーできるのと、自分が相手CBを引きつけて中央にスペースを作って使わせることがうまいから。
  • ジョンマリはより純粋なパワー型のFWで、勝負どころでキーマンはファンマと見て、ジョンマリは偵察部隊のような扱いで岡村に当てたのだと思います。

2.試合展開

眠れる獅子:

  • ここ数年、J1とJ2を見ていると、特に日本においてはカテゴリーが変わると選手のフィジカルやフィットネスで差が出てくるのだろうな、と感じます。
  • 2021シーズンに”昇格組”として明暗を分けた福岡と徳島。両者の差はゴール前のパワーで、福岡のDFはクロスボールに対してゴール前で簡単に競り負けたりしない選手が揃っていて、特にクルークス以外の外国籍選手はいずれもセンターラインのFWやDFで、揃って大柄かつパワフルなプレーができる選手でした。
  • 対して、テクニカルかつタクティカルなチームとして注目を集めていた徳島が散ったのは、何本パスを繋いでもDFのクリアランス能力が足りなくて、シンプルに放り込まれただけでゴール前でピンチになってしまうから。
  • もちろん体格の良い選手を集めれば勝ち点が上がるとかそんな因果関係はないのですが、「安い失点」のうちいくつかはこうしたフィットネス的な要因があると見ていて、福岡の昨シーズンの躍進はリクルートの成功が大きかったと思います。

  • そんな福岡に2022シーズンから加わったのが、磐田のエースだったルキアン。
  • 開幕時の構想では、速さも技術も強さもあるFWを前線の軸とする1-4-4-2システムでのスタイルで、アウトサイドにはFWにラストパスを供給できる選手を配置して、サイドアタック主体のスタイルにシフトしたかったのだと思いますが、右はクルークスでいいとして、左に田中達也がフィットせず、適任者が見つからなかったのがここまでの福岡だと思います。
  • そうするとボックス内で待つルキアンは宙ぶらりん、というか持ち腐れになる…と思いきや、長谷部監督は下がり目の位置でボールに触った時のクオリティを評価していて、ここのところは2列目(サイドハーフ)や1.5列目(1トップの下)での起用が増えているのが面白いところです。
  • ただ今のチーム状態だと、2列目にせよ1.5列目にせよ、相手がボールを持っている時間帯が長く、まずルキアンも守備から入らなくてはならないのが、ゲームプランやチームバランス的には収支として釣りあうかは、難しいところでもあります。

  • この試合、札幌が序盤から60%以上のボール保持率を記録した(最終的にはスポーツナビでは62:38)のは、福岡の前線3人がほとんど札幌に有効なアプローチをしなかったから。
  • しなかったとも、できなかったとも、する気がなかったとも見ることができるのですが、福岡はトップのジョンマリを1人だけ残して1-5-4-1で撤退する(この場合はする気がないと見ることができる)か、山岸やルキアンをジョンマリの近くに置いて、なんらか札幌のDF(岡村、下がってくる駒井や西)に制限をかけるか、のどちらかになります。
  • 後者の場合、ジョンマリは中央に1人でいて、岡村か駒井か西をなんとなく見る、といった感じで多くを望めそうな雰囲気はない。これは右のルキアンも同じで、ルキアンは札幌の左:対面の福森をほぼマンマークのような対応になる。
  • 山岸だけが、1人でマルチなタスクを担えそうで、右の田中駿汰を見るだけではなく、ジョンマリが見ていないCBをみたり、背後のスペースを埋めたりと頑張っていた時間帯もありましたが、次第に福岡はそれも諦めて1-5-4-1で撤退。札幌に完全にボールを渡す戦い方になります。

  • そして福森は(不用心、無防備にも)高い位置をとるようになる。
  • 前半はルキアンがこれについていき、下がることで、このサイドでの均衡は保たれていたかのように見えましたが、福岡はトップに長いボールを当ててからは、福森のサイドで速い攻撃を仕掛けます。枚数をかけて攻撃しても、福森がこのサイドでカットすることはできないから、福岡としては比較的リスクを取りやすいからでしょう。
  • 湯澤やルキアンの右クロスは、試合を通じて、オープンプレーにおける福岡の主要な攻撃パターンとなっていて、後半には山岸のダイビングヘッドがポストを直撃しています。

2人で9人を釘付け:

  • 「スペースを埋める」とか「スペースがない」は私もよく使ってしまう慣用句的なものなのですが、厳密にはどれだけ引いてもスペースがゼロになることは基本的にはない。
  • 札幌の先制点は、福岡がペナルティエリア付近までかなり引いて、これはまさに「背後にスペースがない」と言われやすいシチュエーションですが、ラインを押し上げたこともあって厳密には2-3mくらいはあるといえるでしょう。
  • 金子がそこに飛び出した時に、スペース管理以上に福岡にとって問題なのが、ボールホルダーに誰もアタックしてないこと。
  • ただ1-5-4-1という陣形はそもそも高い位置でボールにアタックする思想はないし、ジョンマリの起用もそこまで考えていなくて、後ろのスペース管理とマーキングだけで守れる(もしくは守ってほしい)と、福岡としては考えていたので、その意味ではしょうがない失点かもしれません。

  • このゴールは、スペースの奪い合いというサッカーの特性を踏まえた、この試合における札幌の明確な優位性を示しています。
  • それは、札幌はワイドに張る選手に対して斜めに長いボールを蹴る。これだけで、福岡はまず5バックの選手が目線を操られながら札幌のワイドの選手に対応しなくてはならなくて、その際に福岡はマンマーク的な少ない人数で守るのではなく、5枚のDFでライン形成しながらスペースを管理する(誰かが抜かれたりスペースを開けたりすればすぐに隣の人がカバーできる)ように守るのですが、言い換えれば札幌のアタッカー1人に5人が引っ張られるような守り方でもある。
  • さらに最終ラインの5枚で、”横”のスペースを管理するだけではなくて、その前の4人はDFの前のスペースを管理するので、札幌のロングパスでDFが下がったらその前のスペースを埋めるために4人が下がることになる。
  • ですので、札幌がサイドにパスをするだけで、2人のボール関与で福岡は9人が動かされていることになるんですよね。それだけ相手に操作されると、自分達でボールを握って攻撃をするリソースが(普通は)徐々になくなっていくのは、なんとなく皆さんわかるでしょうか。

  • 懐かしの動画を貼りますが、
  • これはリプレイのアングルだとわかりやすいですけど、札幌は5バックで守っていてゴール前のスペースが少ない、強固な状態に見えますが、浦和のウイングバックが札幌の5バックの選手を突破すると、突破で生じたスペースというか相手選手がフリーな状態をカバーしないといけないので、自分が元々守っていた人とかスペースだけに集中できなくなってマークがずれたり、ペナルティエリア幅を守りきれなくなるんですよね。
  • ちなみにこの試合は、札幌はシャドー(チャナティップと兵藤)も下がって7バックみたいな感じで守っていたのですが、1対1で勝てないなら枚数を増やすよりも、どこか捨てて(大事な部分だけに注力して)守ることも大事、という意味ではこの得点シーンは似たものを感じます。

目覚める獅子:

  • 内容的にはそこまで書くことがないので一気に話は飛びます。
  • 39分に、駒井にアクシデントで札幌は駒井→キムゴンヒ。前節に引き続き、青木が下がることになりますが、普通はここでFWが入ることはない。ベンチメンバーで、菅とキム以外は長いプレータイムを与えることができないから、そして駒井の役割が出来そうなのが青木しかいないから、前線に選手を入れることにしたというだけ。

  • 福岡は60分にジョンマリがお役御免でファンマを投入。コンディションを除いても、明らかにファンマは1トップとしての守備能力がジョンマリよりも高くて、札幌がボールを持っている時やバックパスで戻した時に追いかけることで、蹴らせて強引にボール回収ができるようになるのと、そして札幌はそれまでのようにのんびりボールを持てなくなるので、試合は落ち着かなくなります。
  • そんな展開で福森をピッチに置くわけにはいかないので、66分に福森→中村。リミットが近い興梠→菅。
  • ただ中村も守備固めというか、現状は、福森をピッチに置いておきたくない時に出番があるといった状況で、このシーズン中村個人としてもチームとしても何度か痛い目に遭っている。全般に、中村は良くも悪くも前への意識が強くて、背後を守ることに課題がいくつかあるなと感じます。

  • 中村が入った66分は、もちろん投入時は気合が入っていたとはいえ、まだ福岡が札幌の喉元に凶器を突きつけるような雰囲気は(ベンチから見ても)なかったかもしれません。決定機は先述の、山岸のヘッド(49分頃)くらいでした。
  • そんな中で71分、ルキアンが右サイドで、「お前そんな速いんか」と言いたくなるような爆発的なスピードでの裏街道で中村を突破。中村も全く予想していなかったところで後ろから抱き抱えるファウルでイエローカード。
  • 印象論ですがこのワンプレーで雰囲気がかなり変わった感じがして、序盤から足がかりにしていた福岡の右、札幌の左サイドでのパワーバランスは変わっていきます。中村もそれまでは攻撃参加してクロスボールなんかもありましたが、背後をケアする必要性に気付いたというか。
  • そしてこのプレーでFKを獲得してから、福岡のセットプレーがらみの攻撃が3分ほど途切れず、最後はロングスローを中村が頭でクリアしてCKに。個人にフォーカスした感じの書き方になってしまいますが、3分ほどのプレーで2度ほどあった中村のクリアランスはいずれも不安定で、それが福岡の波状攻撃に繋がります。

  • このCKは札幌が凌ぐのですが、直後のプレーからまた福岡が札幌陣内に侵入。札幌は前で食い止めることができなくて最後は山岸のシュートがDFに当たってCK。そこからのプレーでした。


  • 狙い通りのセットプレーと、札幌がオープンになったところでファンマの個人技。追いついたタイミングでクルークスを入れて4バックの1-4-4-2、前線の枚数を増やしてオフェンシブにするのですが、2点目に関しては、札幌がマーク関係を把握するのに時間がかかったところでのプレーでもありました。引いた山岸に田中駿汰が出ていくところが映っていますが、福岡が4バックで左にルキアン、右にクルークス、中央が山岸とファンマの2トップなら、田中駿汰は山岸のマークじゃなくてルキアンのマークで、札幌は青木か西がCBとして山岸を見るはずなんですよね。

  • そして後ろに誰もいなくても岡村が1対1で止める(止めてくれる)、が札幌の戦術といえるものなので、そして人間はいつかは勝つしいつかは負けるので、そして岡村は75分間ジョンマリとファンマをマークしていて、ファンマはまだ15分しか動いていないので、札幌の願望戦術が機能しなくなるのは、「まぁそうだろうな」って感じでしょうか。
  • ここまでシーズンを通じて、岡村が願望戦術を支え続けてくれたことに賞賛の声を送りましょう。

3.雑感

  • 皆さんご理解されていると思いますが、川崎と対戦してからの1週間でサッカーが上手くなったり下手になったり理解度が向上したりするものではないです。川崎はコンサに撃ち合いで勝てると思ってオープンな展開を選択したが、福岡はロースコアじゃないと勝ち目がないとみて、ゲームを寝かせる選択をして上手くいった。
  • コンサの選手の(野々村チェアマンがいうところの)”クオリティ”は、相手の出方次第で何ができる、できないが変わる傾向が強く、福岡がゴール前に人を集めると何もできなくなるのはこれまでの数シーズンと全く変わらない、その意味では想定通りの展開だったといえるでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. 相手はコンサドーレだと分かって、いつもと違うサッカーをしてきたりしますよね。コンサドーレはいつもおんなじ。ジャンケンでずっとグー出してる感じ。強いグーを目指しているんでしょうけど、僕はちょっと胃もたれしてきて、最近ちょっと小食気味です。要はあんまり試合を楽しめてません。

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    1. 相手と駆け引きするゲーム感はかなり薄いですよね。
      例えが適切かわかんないですが毎試合ボディビルみたいな感じ。戦術ゲームとしては、少なくとも書くことが本当に少なくなっちゃいました。ただの日記ですね。

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