2021年10月3日日曜日

2021年10月2日(土)明治安田生命J1リーグ第31節 ガンバ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~ミシャさん初めまして~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 前節、柏に勝って連敗を4で止めたガンバ。システムは3バックと4バックを交互に採用していて定まっていないイメージですが、「勝っているチームは変えない」原則を意識なのか、前節と同じく4バックベースの布陣で30周年記念試合に臨みます。前線は宇佐美とパトリックの2トップとも解釈できますが、役割やプレースタイルから縦並びで表記します。
  • 札幌は離脱者(福森、深井、チャナティップ)以外は特筆点ナシのメンバーでしょうか。



ガンバの対応を検証:

  • 予想外の大差がついた試合でした。普通に考えれば、誰かに脅されていたとかでなければゴール前の対応に何らか問題がありそうなので、試合展開とは別出しでこの点を確認します。
  • 15分、最終ラインにボトムダウンした駒井から、右のルーカスへの長いフィードが通った局面がありましたが、この時の選手の動きがわかりやすいでしょうか。

  • 札幌のボール保持に対して、ガンバはパトリックと宇佐美を1列目に並べて、ある程度は高い位置から宮澤や高嶺を制限する意思があったのでしょうか。率直に言うと、これは配置だけでは窺い知れず、私は自信がありません。
  • 時折この2人が高嶺と宮澤に突っ込んでいく場面もありましたが、札幌も問題がある…例えばマンマークでずっとついていく関係上、宮澤が左で高嶺が右、最適配置と逆になったところからスタートしたりもするが、ガンバがこのシチュエーションを突くような姿勢もなかったので、本当に”制限”をかけたかったのかは微妙です。そして駒井が落ちて3on2の関係になると、殆ど1列目はあきらめていたかもしれません。
  • ただ、ガンバは中盤の4人は基本的には人を決めて守っていて、この「決めている人」にボールが出れば強い(それこそ札幌の1点目の駒井のように)けど、札幌がいつもの長いパスで中盤をすっ飛ばすとこの強みは消されることになります。
  • 言い換えれば、中盤はハイプレスからのボール奪取を意識しているけど、1列目があまり制限をかけていないので連動する気配がない
  • そして札幌のロングボールで中盤がすっ飛ばされると、前がかりの対応のウィークポイントが露になります。
マンマーク気味の対応に長いパスで対抗

  • ▲の図の途中、札幌のWBにボールが渡ると、ガンバはSBの藤春が出てくる。そしてCB2人でFWのトゥチッチを挟むように後退しますが、そうするとSB-CBの間のスペースが空きやすい。
  • ここは、ガンバとしては恐らく中盤のチュ セジョンと奥野が下がって対応のイメージなんでしょうけど、ハイプレスのために前がかりになっていると、このシチュエーションで最終ラインまで迅速に下がって対応することは難しい。
  • 結果、CBが遅れてスライドして札幌の選手(この時は金子)に対応することになりますが、全般に、金子やルーカス、小柏、場合によっては駒井も含めて、札幌の選手が敵陣中央でこれだけドリブルで仕掛けられるのも珍しいなというくらい、ガンバ守備陣はスペースを与えていたと思います。
  • 金子は右シャドーにせよウイングバックにせよ、左足を切られてゴールライン方向に追い込まれて最後は右足でフィニッシュ、というのが多いのですが、この試合はガンバの対応は金子の左足を切れていなくて、それはまず金子がボールを持った時に簡単に前を向ける、左右どちらにでも行けるような状況でスペースを与えていたから。

  • ガンバは中盤2人がタスクオーバー、と言えるかは微妙ですが、前線が守備で制限をかけない、そして後述しますがボールをどうマネジメントするか方針が定まってない、だと、ピッチ中央にいる選手が対応しなくてはならないタスクやそのシチュエーションは増える。
  • 例えばまず引いてスペースを消す、札幌の速い攻撃を遅らせる、とかチームで方針が決まっていれば、中盤の2人も動きやすくなるとか、自陣でより効果的に仕事ができたと思います。

2.試合展開(前半)

駒井の独走:

  • 両チーム最初のシュートだったでしょうか。5分に駒井の得点で札幌が先制します。
  • 一言でいうとキム ヨングォンのエラー。ボールを大事にしたかったのでしょうけど、そんなにトゥチッチが脅威に感じられるような対応をしていたようにも見えませんでした。駒井はよく準備していましたけど、このシチュエーションならで一番近くの選手に出してしまった選手の判断が根本的にまずかったかなと感じます。

妥協点の設定:

  • ガンバの印象は、「多分ボール保持のトレーニングあんまりやってねぇんだろうなぁ」というか、札幌相手にパスを何本か繋いで前線のパトリックや宇佐美、ウェリントンシウバに安定的に届けられそうな雰囲気は、前半からなかったと思います。
  • 形に言及すると、4バックの形から特に可変しないでボールを動かしていく。よって、マンマークで1人1人捕捉したい札幌にとっては、その補足が極めて容易で、案の定というかガンバのSBのところで簡単に札幌のWBに捕まります。
絶対SBのところで詰まるので”出口”が欲しい(この時どうするのか)
  • 札幌のやり方を知っていれば、これは誰でも想定できるので、この日のガンバ(の、松波監督)に対する私の疑問は、①なぜ簡単にパトリックに放り込まなかったのか、②なぜトランジションを整備していなかったのか、の2点。
  • 1つ目については、単調な展開にしたくない、とかそれ自体をone issueとして捉えた時の理解はできる。しかし、ボールを持てない展開が想定できる以上、ビルドアップの出口を用意できないチームは、”単調な展開”どころか、大しけの海に漕ぎ出すボートのような不安定な戦いを強いられます。
  • 2つ目については、山本のコメントから推察すると、
  • いきなりビルドアップの段階で放り込むよりは、ラスト30mで札幌のDFを動かして攻略するためにパトリックを使うイメージだったのかもしれません。もっとも、それでもどうやってそこまで到達すんねん、って観点は非常に怪しかったのですが。

海が荒れるなら準備しよう:

  • そして、”海が荒れる”ことも予想できれば、その対策も必要になる。準備不足のガンバはトランジションで常に後手に回ります。
  • ルーカスフェルナンデスの2点目が典型ですが、札幌がカウンターを仕掛けるには、トランジションからボールを動かしたい方向はだいたい決まっていて、それはサイドをボールの奪いどころとしていたら、ピッチ中央付近にまず動かして、空いているスペースへの展開を窺いたいと考える。
  • パトリックに頼らないで、カオスな展開が増えるなら、ピッチ中央をプロテクトできるように選手を配置しておきたい。しかし▲のルーカスの得点の際も、数秒の猶予がありながら中央方向、ゴールに向かって切り込む選手を藤春1人で対処していて、ルーカスの個人技は見事でしたが、彼にこれだけスペースを与えるチームはなかなか珍しいなというのが率直な感想でした(まるで普段の札幌みたいな対応でしたね)。

  • 17分の、ボックス内でのトゥチッチのシュートもトランジションから。奥野のコントロールミスを拾ってのプレーでしたが、自陣側1/3で簡単に失ってシュートまで持ち込まれてしまうとゲームのコントロールは難しくなります。
  • 22分にも中央でのトランジションから札幌のチャンス。トゥチッチのポストプレーを起点に小柏が抜け出し、最後は金子がボックス内で切り返しからシュートでネットを揺らしますがオフサイド。この時は札幌が少ないタッチで速くボールを動かして、この速さに精度があると守備側は対応が難しいので落ち度は少ないかもしれません。最後は、左サイドで小柏が運んでからDF4~5人を引き付けてパスしたのが効いていました(この点については、小柏1人にちょっと釣られすぎで、ボックス内でのガンバの対応は怪しいかもしれません)。

  • という具合に札幌のチャンスは全部トランジション、もしくは中央でロングボールを競ってセカンドボールを回収してから、ガンバの守備が揃わないうちに速い攻撃を仕掛けたものなんですよね。
  • ガンバの視点だと、トランジションの時に出足が遅いとか球際に弱いとか、そういうのもあるかもしれませんが、そもそも中央でのこのシチュエーションを多発させすぎ、コントロールする意図はあったか、という点からまず論点になるでしょう。

マンマーク崩しの鉄則:

  • 一方で(ほぼ)完全マンマークの札幌に対して、「スペースへのフリーランでマーカーを置き去りにする」という点は意識していたでしょうか。14分ウェリントンシウバのヘディングシュートに繋がった井手口のクロスボールは、対面の菅の背後を取って抜け出すプレーから生じたもの。ウェリントンもファーサイドで田中の背後を取っていたので、本人は頭を抱えましたが決定的なチャンスでした。


3.試合展開(後半)

  • ガンバはHTに3枚替え。右SBと中盤センターの2人をフレッシュな選手にします。が、開始1分に金子。また、また、また中盤での競り合いから札幌が拾って速く前線に展開、ガンバのDFが整っていないスペースに選手が入って好き勝手仕掛ける形でした(藤春が絞るのか、山本が見るのか不明瞭でしたね)。

  • 4点差になってようやくガンバの変化が見えてきます。一つはパトリックへの放り込みを解禁。もう一つは、山本と井手口(中央に移動)の位置関係をずらして、マンマークでついてくる駒井や金子を中央からどかして、そのスペースを使う。
  • これでガンバペース…とはそこまで劇的な変化はなく、あとはお互いにスペースをふんだんに与えながら、強めに当たって後は流れでお願いします的な感じで緩く殴り合う光景が続きます(特に見どころないので割愛しますね)。

4.雑感

  • 30周年なのにミイラの中のモンゴルマンくらい元気がなかったガンバ。一言でいうとこれでしょうか▼。

  • 「ガンバは何でこんなスカスカなのか」を説明するのは色々な要因があって難しいですが、一番はピッチ縦幅を使う札幌に対して前線からいくのか、後ろでスペースを消して守るのかどっちつかずになってしまった、が大きいんだろうなと思います。記念試合で「ミシャさん初めまして」をやられた側は萎えるってもんじゃないんでしょうけど。
  • 札幌は、一つ挙げると、小柏のシャドー起用によってボール回収から速い攻撃(開幕の横浜FC戦のような)が復活気味で、これが曖昧な対応のガンバディフェンスに対して終始刺さっていたでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。
    ゴール期待値の指標は信用してますか?

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    1. 一時期興味ありましたけど今は関心ないですね。
      まず算出方法にopta式と何かで2通りあって、世界各国のリーグで出てるのは多分サービスの性質的にopta式。そもそもこの時点で、巷で出回ってる指標はどうやって算出してるのか概要すら書いてないのが多いので統計データとしてダメでしょ、とか思ってます。

      その上で、opta式は単にシュート撃った場所の座標とシュートのシチュエーションで出してて、ヘディングか足かとかは考慮するけど空いてるのDFは考慮してないと。
      だとすると、なんでもいいからシュート撃ってればポジティブ評価にだいたいなるよねって感じで、とてもゴール期待値とは現状呼べないものだと思ってます。

      繰り返しですが日本だとfootball labとかsporteriaとかが最近これを扱ってますけど、特に前者は期待値だけじゃなくて、各種独自データの算出方法とか不明瞭なのが多くて、それを基に何かを論じるのは無意味だなと思ってます。

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