2021年6月27日日曜日

2021年6月27日(日)明治安田生命J1リーグ第20節 鹿島アントラーズvs北海道コンサドーレ札幌 ~原則論に向き合う部分と逃避する部分~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


スターティングメンバー&試合結果

  • 鹿島は、東京オリンピック代表に選出された上田が負傷で2試合続けてのメンバー外。他は、相馬監督就任以降で序列が変化していることもあってか、両SBは杉岡と常本が起用されています。
  • 札幌は前から思っていたのですが、このメンバー(高嶺がスタメン)で相手が1-4-4-2系のシステムだと、高嶺は常に宮澤と福森の間でプレーするなど、ほとんどの時間を1-4-4-2っぽい陣形で戦っているのでこういう表記でもおかしくないでしょう。メンバーについては特段触れることがありません。

最初から勝負を避けていた札幌:

  • 「ミシャのサッカーと四方田さんのサッカーのハイブリッド」みたいな雑な表現はあまり好まないのですが、現状の鹿島は相馬監督(が率いていた頃の町田や川崎)と、ザーゴ体制で1年半トライしてきたもののミックスっぽさを感じます。
  • 両者は1-4-4-2ないし1-4-2-3-1の基本陣形は同じでメンバーもほぼ変わらない。相違点は、ザーゴはボールを狩れるチャンスでは積極的にブロックを崩して前方向にアプローチさせるのを好んでいましたが、相馬監督はよりオーソドックスなゾーンディフェンスというか、バランスを自ら崩すよりも相手を誘い込んでボールを回収することを好んでいると感じます。
ブロックの密度が高くて中央にスペースがない

  • 序盤(スコアが動く前)、札幌が2,3度ほど鹿島のペナルティエリア付近まで進出した場面がありましたが、それはいずれも▼の形…鹿島のブロックの外、いわゆる2トップの脇と言われる領域から、右なら田中駿汰、左なら高嶺加福森晃斗が、30mくらいの長いパスを荒野に当てるか、前線のスペースに蹴って荒野か金子を走らせる、いわば中盤を省略した形から生まれています
  • 荒野はFWではないというか、それは例えば5分に田中駿汰のパスで抜け出した際にコントロールをミスってチャンスを逃してしまったようなシーンからも感じられるのですが、一方で器用な選手であり、かつ一定水準以上の身体能力やボールコーディネーション能力があるので、中盤をすっ飛ばして長いパスを当てる雑な攻撃であっても、それをコントロールしてたまに攻撃の形を作ってしまうのは彼の能力の高さだと思います。

2トップ脇からの長いパスで鹿島ゴールに迫る
  • ただ、その辺でボールを蹴ってみればわかるのですが、相手がいる状態で、しかもその相手を動かせていない状態で30mのパスが何度も繋がることは非常に稀で、こうした荒野や金子の運動能力なり、田中駿汰や高嶺の配給能力に頼った展開に対し、鹿島はそのうち対処できていたと思います。

「サッカーはスペースの奪い合い」からの逃避:

  • 10分の鹿島の先制点の後ぐらいからだったと思いますが、駒井が落ちてくるのは上記のような展開が背景だったと思われます。
  • つまり鹿島相手に中盤でボールを持てない(正確には、ボールを持とうとトライすらしてないのですが)ので、中盤に居ても無駄だから後ろに下がってこよう、というのが駒井の考えだったかもしれません。
  • ただ、これも何度も指摘している話なのですが、もともと中央に駒井1人しかいない配置になっている札幌は、駒井が下がると中盤に誰もいない状態になる。これでは後方のビルドアップ部隊と、仕掛けを担う前線の選手がリンクされるわけがない。
  • 仮に選手にこれを聞くと「だってボールを持ちたいから」って答えそうですが、「下がってボールを持つ」状態は一時的にできるとして、最終的には前線の選手に長いボールを蹴る選択肢しか残らなくなるのは必然だと言えます。もっともミシャはこのポジショニングを長年推奨しているので、織り込み済みで全て成り立っているともいえるのですが。
駒井(アンカー)とチャナティップ(シャドー)が1つずつ下がる
  • 中央に誰もいなくなるまではミシャチームの得意技だとして、かつてミシャが率いたチームとの相違点は、シャドーのチャナティップの存在が挙げられます。
  • チャナティップはシャドーと言えない位置まで下がってボールを受ける傾向が強い。これはメリット・デメリット両方あり、前者はその抜群のキープ力と、相手に対して突っ込むドリブルをしても簡単に奪われないので相手を引き付けてスペースを作ることができる。後者は、シャドーが下がるとゴール前の枚数が減り、フィニッシュの迫力が落ちる。
  • 近年の札幌で最も完成度が高かった2019年のチームは、1トップ2シャドーと言いつつ、キャラクター的には前線は鈴木武蔵とジェイの2トップだったので、「迫力が落ちる」という状況にはならない。半面、武蔵があまり組み立てや崩しの手前で関与しない分の仕事はチャナティップが引き受けていました(ですので組み立ては極めて左偏重)。
2019モード(左シャドーに下がる選手/右シャドーにはFW的に張る選手)


  • 武蔵もジェイもいない、前線には荒野と金子という、ゴール前で仕事をできるタイプではない、MF的な選手が並んでおり、シャドーのチャナティップが下がりすぎてゴール前にいない展開では、本来の1トップ2シャドー的な攻撃(渡邉晋氏が言うには、「1-3-4-2-1は2シャドーに対してボールを入れられるかが全て」)は発揮できる余地がない。荒野と金子の実質2トップだとしても、ジェイのように力技で解決できるわけでもない。ですのでチャナティップをこの展開で使うなら、かつてのように下がってほかの選手との組み合わせで帳尻を合わせるやり方は通用しないと思われます。

2.試合展開

  • 鹿島はブロックを作って速攻全振りでしたので、札幌側の話を中心に書きます。

「CB・高嶺」:

  • DAZN中継がハーフタイム等に見せてくるチャートやスタッツにはあまり意味がないと思っていますが、この試合は鹿島は殆ど右サイドから展開していた、という数字が出ていました(確かハーフタイムの時点で右サイドが66%とか)。
  • これについては、鹿島は右(札幌の左)を狙っていたというかは、そんなにきれいにボールを運ばなくても、最後はエヴェラウドに当ててセカンドボールを拾って二次攻撃、という割り切っていたと感じます。犬飼か常本が持ち出して、運べるだけ運んで行き詰まったら前線にフィード、といったものです。
  • 札幌は実質1-4-4-2だと見ると、エヴェラウドvs宮澤、荒木vs高嶺、たまにこのマッチアップはスイッチされます。荒木はそんなにパワーもサイズもないのですが、やはりエヴェラウドが厄介で、相手が1トップで宮澤はずっと相手をしていればいいならともかく、本来CBではない高嶺の様子もケアしながらの対応は非常に難しかったと思います。


「ターゲット・ルーカス」:

  • 駒井とチャナティップが下がってくることが恒常化してから、左サイドは「いるべきところに人がいない」状態に。ですので、最終的に福森にボールが渡っても、そこからの配球は前線のプレッシャーが少ないところへのロングフィード(放り込み)。ターゲットになりやすいのは大外で相手DFの死角になりがちなルーカスで、この時点で突っ込みどころ多数ですがそれでもたまに放り込むと相手DFが処理できなくてチャンスになるな、という印象でした。
  • チャナティップが下がることについてもう一つ言えるのは、2019シーズンは1-4-1-5に変形したときの左CB役が深井、たまに宮澤と荒野で全員が右利き、右サイドにフィードを蹴ったりすることは稀で、その分チャナティップを経由する意味合いはあったのですが、今は高嶺が起用されることが多く、高嶺は蹴ろうと思えば蹴れる選手なので、あまりチャナティップが下がって何をする?というのが見えませんでした。
  • 関連する話?でこの試合、一番気になったのは20分くらいに、高嶺が後方でフリーの状態で菅野にバックパス。菅野は高嶺に戻す。また高嶺から菅野…が3回ほど続いていました。高嶺は鹿島相手だといつも以上にボールを運べなくなる、というプレッシャーのようなものはあったのでしょうか。


「CB・駒井」と諸々:

  • 48分の鹿島の追加点は、菅野のフィードの判断は特に問題なしというか、普段からこの判断はOKとしているチームですからその後の事象の方が気になります。鹿島は犬飼が荒野相手に余裕で跳ね返して、拾ったピトゥカが駒井を余裕で千切って冷静にフィニッシュ。ピトゥカの能力以前に、駒井がCBのポジションでプレーしていることのデメリットが如実に表れた格好でした。
  • かつて兵藤慎剛が浦和相手にカウンターを止められなかった試合とか、類似事例はいくらでも思い当たる▼のですが、ミシャ的には問題にならないのでしょうか。

  • 56分に荒野、高嶺→ドウグラスオリヴェイラ、深井のカードが切られます。深井については、駒井を残したことで深井は高嶺の位置(左のCB)になる。深井を使うならベストは駒井の位置にリプレースだと思いますが、前から指摘している通り、宮澤と深井のユニットが最もボールを大切にする2人なので、鹿島が「待ち」の状態だと、多少の起用法の議論はあっても深井は絶対にピッチにいた方がいい選手です。駒井が落ちることも少なくなっていったと思います。
  • ドドちゃんについては、私がドドちゃんに甘い(というか年俸500万円?の選手に過度な期待するのは変でしょ、野々村社長の「うちは金がないチーム(だから上位相手には勝てない)」を真に受けるなら)ということもありますが、構造的には、うまくいかない時に引いて解決しようとする荒野(駒井とチャナティップと揃って引いたところで何が生じるかというと「?」だった)よりは、前線で一応は勝負しようとしていたドドちゃんの方が起用に妥当性があったように思えます。
  • 結局札幌はゴール前では、頭を狙ったクロスボールが9割なので、この点で期待値が低い荒野の起用にあまり固執すると、今後重大な問題が発生するかもしれません。いつぞやの等々力大勝利や、先日の三ツ沢大勝利のように長い時間守ってカウンターしていればいい展開なら成り立つかもしれませんが。

3.雑感

  • スコア的には鹿島の4ゴールで圧勝で終わりましたが、10分の先制点はコーナーキックから。見たところ鹿島もそこまで崩して得点する能力がありそうにも見えなかったので、この得点はありがたかったでしょう。
  • もっとも札幌も、この失点がなければ勝ち筋はあったか?というと、何度か前線でプレーする場面はあったものの、鹿島のGK沖を脅かすようなシュートは皆無でした。鹿島の2点目が典型ですが、この試合では普段いかに中盤でボールを捨てて、ロングフィードに依存したフットボールをしているかが浮き彫りになったと思います。
  • 突如4失点負け、というとスキャンダラスな捉え方をする方もいるかもしれませんが、札幌の常套手段である、単純な放り込みに対処できる鹿島相手だと非常に妥当なスコアと内容だったと感じます。

  • 私がミシャについて評価している点の一つは、25年間「守備」といえばゴール前に人を集めるしかやり方を知らなかったチームに対して、最終ラインをハーフウェーライン付近に設定して相手からボールを取り上げるやり方もあるんだよ、と示した点です。これは何度も言っていますが、ルヴァンカップ決勝のように引いて守るだけでは、クオリティがあるチーム相手だといつか崩されて終わります。
  • しかしミシャの問題は全部マンマークで解決を図ることで、前線高い位置からプレスを仕掛けるチームは世の中にたくさんありますが、ミシャのようにほぼ全部のポジションでマンマークで守る(しかもMFの選手が相手FWをマークする)やり方は稀です。結局これだとマッチアップしている選手の力関係で決まる部分が大きく、今シーズン上位相手に全く勝てていないのはこの問題が大きいです(上位のうち福岡…選手の質で劣っているとは断言できない昇格組にだけは負けてないのが示唆的ですね)。

  • 野々村社長が言う通り、札幌はお金の力で選手の質を簡単にアップグレードできないとしたら、選手の個人能力がモノを言うミシャのやり方は明らかにアンマッチだと思う(ただし原則論…サッカーでは1on1は避けて通れないので、その能力が向上するとしたら努めていくべき、とする考え方は正しいと思う)のですが、この辺りは、その人がどこを見ているのかで論点や考えが異なってくる(この順位や内容でも満足というのはそれでいいと思います)のでまたの機会にします。
  • ただ、ブロガーとしては最近は「ここのマッチアップで勝てるので試合は優勢でした/劣勢でした」みたいな話しか書けなくて、面白くなくなっています。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

4 件のコメント:

  1. 駒井と田中の位置替えた方が良くないですか?

    フォワード補強するとしたらどんなタイプが欲しいですかね?
    チーム編成的に日本人の中堅だと思います。
    林大地来てくれれば嬉しいんですけど、現チームはワントップに求める役割が多いのでなかなか選択肢は多くないのかもしれません。

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    1. 田中駿汰の方が終盤に中央に入った時の方がよほどセントラルMFっぽい振る舞いをしますよね。
      FWは実現性はともかく、林はいい選手だと思いますが、FWにどういうラストパスを供給するかとセットで考える必要がありますよね。今みたいな思考停止で放り込むチームだと林でも苦労すると思います。

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  2. いつも読ませて頂いております。この試合、屈強なセンターフォワードの前に、歯が立たなかった印象を持ちました。宮沢はよく頑張っていると思いますが、やはり後ろの真ん中には屈強で、できれば足の速いディフェンダー(ミンテなり大八)を置くべきと思いますが、いかがでしょうか?

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    1. 前提として監督や今のやり方を変えないで議論するなら、私はその3人の中では宮澤が1番適任だと思います。
      この辺りの話って、Euro見てても思いますが結局ルカクが最強かというと、それで終わる話ではない。FWはボールが来ないとどうしようもないので、運動能力で劣っても対処のしようがあるし、宮澤は実際ジョー(名古屋)なんかも抑えてます。

      前提を他に置くと、例えばそれこそアタランタみたいな前方向のプレッシングが強めで行くならミンテも候補に入ると思います。

      ただミシャ体制の場合、問題は真ん中の人選よりも、4バック相手だとサイドのDFがSBになって、アンカーが下がってCBになる役割分担とかの方が要改善に思えます。高嶺にもあの役割をやらせている時点で絶対相手は狙ってきますし、そもそも選手の移動が多すぎて最適配置からほど遠くなっている。
      その意味では高嶺の位置にも宮澤が欲しくて、それなら最終ラインはミンテかもしれない。けど高嶺を使いたいとか、左利きがいないと難しいとか、色々事情があって今のやり方になってる。結果としてこのチームは何が目的で何がコンセプトで、何を優先したいのかよくわかんないな、という印象です。
      そういうのを諸々考慮しても、宮澤が1番バランスとれて、さまざまな局面に対処できる選手だと感じます。

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