2021年5月9日日曜日

2021年5月9日(日)明治安田生命J1リーグ第13節 徳島ヴォルティスvs北海道コンサドーレ札幌 ~理不尽なるライオン~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 徳島はCBにいずれも初先発のカカとドゥシャン。鳴り物入りで加入した前者には大きな期待がかかります。ドゥシャンにはそんなに真新しさがない(やれる/やれないことはわかりきっている)ものの、札幌が得意とするクロスボール攻撃を意識した起用でしょうか。後は、トップ下にバトッキオ、左の西谷もリーグ戦初先発。
  • 札幌はチャナティップが負傷とのことで、普段の”序列”の通り、駒井が前線で起用されます。空いた中盤センターの椅子には深井。

2.試合展開(前半)

読み違えと出遅れ:

  • 「全員で全ポジションマンマーク」がポリシーと化している札幌は、相手が4バック(CB2人)なら2トップ、3バック(CB3人)なら3トップもしくは1トップ2シャドーを採用するのがお約束。
  • 見たところ、徳島は右から岸本、ドゥシャン、カカ、ジエゴの4バック。となると、いつも通りなら、札幌はドゥシャンをアンデルソンロペス、カカを小柏がマークする形からゲームに入るはず。が、実際は駒井がドゥシャン、アンデルソンロペスがカカ、小柏は微妙なポジションにいながら、ジエゴにボールが入ると捕まえに行く、というのが前半開始~飲水タイムまでの挙動でした。
  • 恐らく札幌は、▼の通り、徳島が3バックだと見てその3人(右からドゥシャン、カカ、ジエゴ)に駒井、アンロペ、小柏が当たれ、と指示していたのでしょう。
  • 読みが外れたとしてエヘヘブヒーで済ませて試合中に修正できればいいのですが、徳島が4バックだとしたら、3バックの際とマーク対象が変わる選手が、アンロペ、小柏、駒井、金子、田中駿汰と少なくとも5人はいる(鳴門のカメラアングル的に確認できないところもあるのですがもっといるかも)。
  • それを試合中に気付いて話し合うタイミングが恐らくなかったので、23分頃の飲水タイムまではこの形…金子が西谷を意識したポジションになるので右SB、小柏は右SH、駒井とアンロペの2トップみたいなポジションでプレーすることが多くなります。
  • 基本的には、札幌がボールを持つと金子はポジションを上げようとしますが、全は安は徳島が6割ボールを持っていたことも踏まえると、金子が高い位置をとりづらい状況は想像できるかと思います。
  • 相手に引かれた時の打開役である右WBの金子と、速攻の絶対的キーマンである小柏が本来とりたいポジションから離れてプレーする時間が多くなることで、札幌は散発的なカウンターから、「FW・駒井」が仕掛ける以外は序盤戦、殆ど攻撃機会がなかったと思います。

受け手と出し手の問題:


  • さて、徳島は、大分やヴェルディでプレーしていた頃から、上福元はフィードが計算できるGKということになっている。となると、受け手に誰を用意するか?が焦点になりますが、序盤は札幌に、例の「小柏がジエゴを見ている問題」があり、ジエゴが高い位置を取るとマークが曖昧になる。上福元とジエゴでフィーリングが合えば、徳島は”質的に勝てる選手”が見当たらなくてもビルドアップ成功、となります。
ジエゴが高い位置を取れば小柏は困る(飲水タイムまで)
  • 問題はジエゴとのフィーリングがあまりよくない時。こうなると、前線が宮代、西谷、垣田、バトッキオの徳島のファーストチョイスは垣田。
  • この試合、垣田はだいたい宮澤とマッチアップ、序盤札幌が勝手におかしなマーク関係でプレーしていた時は田中駿汰ともありましたが、自分よりも経験がある選手相手にどうだったかというと…あまり味方に時間や攻撃機会を提供できていなかったと思います。このあたりのデュエルは、純粋な強さだけでなくて競り合いの巧さがものを言う。宮澤はそつなく対処していました。
  • そもそもというか、ポジショナルプレーのボール保持は、どこかのポジションで強引に優位性を作るというより、「まずGK使えば絶対数的優位から始まるじゃん」というもので、基本的にFWやウインガーは後方で作った”貯金”を最後に消費して求められる仕事を遂行する役割なので、垣田の役割が”貯金”を使う人から創出する人に変わったのは、普段に比べてタフな仕事になったなと回想せざるを得ないでしょう。
  • 前線に頼りになるターゲットが不在なことで、上福元が見ていたのは両SB。トップ(右FW)のアンロペがプレスのスイッチを入れて、上福元の左側から寄せてくるので、まず岸本を見ますが、このマッチアップは時間帯に関係なく菅。こういう時は菅の強みが出ます。
  • なので、徳島はジエゴに当てる、まずジエゴからの展開で左サイドでなんとか前進し、フィニッシュは西谷が抜け出す形が多かったと思います。もっとも選手特性的に、右に宮代、左に西谷なので札幌がどうであれ、この形に収束するのは必然だったかもしれません。

  • 飲水タイム後に札幌のマークが整理されると、上福元としてはより、シンプルに蹴る選択をとりずらくなる。ですのでカカに対して、ポジショニングをずらして3バックにする(カカが最初に立っているレーンを空けてジエゴに使わせる)ように2度ほど指示していました。
  • CB2人に対して常時2トップで監視してくる札幌は、繋ぎたい、というか繋ぐ以外の選択肢がない(繋がないならそれこそ盟主福岡のように、センターラインにパワフルな選手を置きたいが、そういう選手は獲ってない)徳島にとっては、その意味ではやりづらさはあったでしょう。

見え隠れするゲームプランの選択:

  • こちらも主に飲水タイム前の話。札幌は、自陣で小柏が誰をマークしたらいいのかがわからないような挙動になっていて、どうした?と思ったのですが、それは徳島が左サイドから前進すると、そこでマークをスイッチするようになっていたから。
  • 西谷を見ていた金子が大外に出て(これが本来のタスク)、金子の背後に田中駿汰。田中がバトッキオをリリースすると、深井が下がって捕まえる。
  • これで、深井がマークを捨てることが多くなり、岩尾に対して札幌陣内で誰が見るのかが不明瞭になります。ボールと反対サイドの選手(主に高嶺、駒井。福森はいつも通り黙々とプレーしていました)は、徳島の絶対的キャプテン・岩尾がフリーになると「おい誰が見るんだよ!」というジェスチャーをしていましたが、小柏がそこで遅れて捕まえるようになる。
岩尾がフリーになる決まった形があった
  • 岩尾にとって、小柏が捕まえるまでの数秒は、本来は何かを起こすには十分な時間でしょう。ただ、ここでフリーで持っても、この日は殆どスピードアップする気がないようでした
  • 恐らく徳島のプランは、これまでの札幌の対戦相手と同様、マンマークの守備が維持できなくなってオープンになる後半まで待つ。維持できないのは単に疲れ、という単純な理由だけでなくて、色々あるのですが、ともかく札幌相手だと後半が重要になる。福岡をベンチスタートで、カカとドゥシャンのユニットを選択したのも札幌のパワーに対抗するためだったでしょうか。福岡は、スペースが出てきたところで投入する考えもあったかもしれません。

  • ですので前半は、動かない徳島、いつも通り散発的な攻撃しか発現しない札幌、で長閑な展開になります。お互いにスコアレスで御の字、といった展開から、ATにデザインされたCKから最後は西谷。徳島が先制して折り返します。

3.試合展開(後半)

ジェイ様1人に右往左往する徳島:

  • 後半開始から札幌は高嶺→ジェイ。徳島が4バックでCB2人とすると、札幌は攻撃の選手を使える”椅子”が2つしかない。その点ではリスキーなカードですが、天才監督ミシャは小柏を下げることで解決を図ります。
HT~
  • これ(椅子が2つしかない)もあって、個人的には55分ぐらいでジェイが入るかな?と予想していましたが、ダメならさっさと投入することは決めていたのでしょうか。割り切れるのは強みでもあるし、このチームのダメなところでもあるのですが、結果的にはジェイのパワーが全般に「賢いが非力な徳島」にはぶっ刺さります。
  • 以前ジェイ本人は「年齢なんて単なる数字だよ」とか言ってましたが、現実的にはジェイのゴール前での制圧力は年々低下しています。ですがとにかく、ジェイ及びその配給役にボールが入るだけで、ゴール前で右往左往してしまった徳島でした。

  • まず51分に金子の右クロスにファーでジェイ。52分のCK、カカのマークを外してニアで触ったのもジェイ。前半、小柏や金子のスピードにも殆ど崩れなかったカカを1発目で攻略して格の違いを感じさせます。
  • なんで金子の右クロスが(恐らくこの試合初めて)発現したか、というと、ルーズボールの競り合いからたまたまそっちに転がっただけ、で、ジェイはこの少し前のプレーの間、ずっとゴール前から”持ち場を離れている”状態。でも、ファーにクロス1本入っただけで何かを起こしてしまうのがジェイの恐ろしさで、51分のプレーも、ジェイの頭での折り返しを触れば1点、という局面でした。
  • 55分、岩尾⇒垣田へのスルーパスを駒井が体で止めたような格好になりましたがノーファウル。札幌が拾ってカウンターで、小柏の左サイドでのキープから福森が岩尾のタックルを交わして抜け出してフリーでファーのジェイにクロス。

  • 「トランジションで枚数が揃ってない」、「なぜか福森が上がってくる」、「なぜかマーキングが無茶苦茶に(オープンな局面に)なっている」、「ともかくゴール前にターゲットがいる」。ダニ・ポヤトスとしては絶対に避けたい理不尽なシチュエーションが発現してしまって、ジェイの落としをアンロペが体に当てて同点。駒井のチャージがノーファウルなのもアンラッキーですが、一つ挙げるなら、福森の攻撃参加を体を投げ出して止めに行った岩尾の判断がらしくなかったかもしれません。

一番のマテリアル:

  • 若干順序が前後するところがありますが、ジェイが入った後の札幌の守備は、ジェイが左、アンロペが右のFWのイメージでスタート。
  • しかし、徳島は(厳密に言うと前半からもそうでしたが)4バックと3バックと両方いけるようなポジションからスタートする。相手の形を見てどっちも行けるように、わざと非対称な配置にしているのでしょう。ジエゴと岸本の役割を見ればわかりますが、前者はサイドに張るだけでなくてカカと並ぶこともある。後者はだいたいタッチライン際で幅を取っています。
  • いずれにせよ、札幌のやり方だとジェイがドゥシャン、アンロペがカカをずっと見ていればいい。しかし、こうした徳島のような曖昧なポジショニングは、セオリー通りの対応でいいのか?との判断の余地や、純粋にシステムに対する誤認の余地を与え、このあたりの認識違いから、チーム11人が共通認識でプレーすることは難しくなります。

  • ジェイとアンロペのところで、札幌はアンロペと小柏または駒井のユニットだった前半に比べるとバランスが悪くなります。ジエゴのファジーなポジショニングにアンロペが動くと、アンロペ⇔カカの関係が崩れる。ジェイがそれを見て、自分もドゥシャンからマークを変えて動くのですが、ジェイはセカンドアクションが全くできないのでドゥシャンが一度フリーになるとそのまま。
2トップのところでズレたままになる
  • マークが決まっているはずの札幌は、フリーで持ちあがってくるドゥシャンをどうすればいいかわからないので、とりあえず撤退。そこからあるラインを越えるとようやく”誰か”が捕まえるようになりますが、こうした2人の前線守備によって、構造的には①札幌はマンマークというか普通の1-5-4-1でジェイだけ残して撤退みたいな形が多くなる(≒徳島は最終ラインに時間ができて運べるようになる)、②札幌はマークがズレたまま遅れて人を捕まえる対応が多くなる、こんな展開になっていきます。
  • ただ、「無秩序に食いつきがちなマンマーク」はサッカー界で最もオープンな展開を引き起こしやすいマテリアルで、それによってできたスペースを使って、徳島も攻撃するようになる。札幌はこういう展開から、前線のクオリティを活かしたカウンターが数少ない得点パターンでもありますが、結局ジェイがいれば何でも収めてくれるので、あんまり気にしてない感じもありました。

両監督の異なるフェーズ:

  • ゴールキックはサッカーにおいて最も再現性のあるシチュエーションで、そこでの振る舞いでピッチ上の選手の考えなり、状態が推察できます。78分、決勝点となったシチュエーションで上福元がフィードを選択したのは、徳島のスタイルからすると、またこの数分前に渡井を投入していることを踏まえても悪手だったように思えます。
  • 案の定というか、パワーで勝る札幌が跳ね返して、ジェイが頑張って追いかけたところでミスを誘ってアンロペがこの日2点目。これが決勝点になりました。

  • 個人的には「交代早い/遅い」論はあまり好きじゃないのですが、この日は選手交代を使って局面を変えることに成功していたのは間違いなくミシャ。
  • ジェイ投入でそれまでの秩序を壊してオープンな勝負を持ちかけましたが、ポヤトスは70分過ぎまで渡井投入を我慢。勿論、こうした展開になると切れるカードが徳島にはないのですが、結果的には選手交代によって確実に、札幌に利がある展開に持ち込んだのは事実でしょう。
  • そして逆転後、一気に後ろの選手を替えてクローズを図り、特にウインガーではない柳の投入は明確な逃げ切りのメッセージ。徳島に対してゴール前でスペースを与えない対応に切り替えましたが、こうなると徳島には打開は難しくなったと思います。

4.雑感

  • チームビルディングはともかく、90分の采配においては、結果的には我々の200勝監督が一枚上手だったでしょうか。
  • 前半はボールを互いに捨て合う展開。そこにバランスブレイカー・ノースロンドン生まれのライオンハートことジェイが投入されて札幌のディフェンスのバランスが(更に)おかしくなると、徳島はCBのところで余裕ができるはずでした。これはゲームの焦点が「ボールを捨てる」(捨てた方が利がある)から、「ボールを確保する」(保持することにインセンティブが生じてくる)に大きくシフトするターニングポイントだったとも言えます。
  • 徳島はここでボール保持に切り替えられればよかったですが、結果的には札幌得意の(かつ、ダニ・ポヤトスが嫌がる)オープン局面からの攻防の応酬にキャプテン岩尾もろとも引き込まれ、ジェイのパワーから同点ゴールが生じたのは悪夢の展開だったでしょう。もっとも徳島にはジェイみたいなカードがないので、そこは持つ者と持たざる者の差でもあるのですが。

  • チームとしては依然として、内容に乏しいというか、ミシャ4年目で上積みを感じない内容が続いています。それでもゴール前では別格かつ固有の能力(スペース消されて自由にポジショニングできなくても空中戦で何とかしてしまう)のあるジェイの存在が試合を強引にぶち壊しました。それでは皆さん、また会う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。

    報道では今季でミシャは契約満了なので延長するのかは気になるところです。
    個人的には、もっと現在のチームを安定して戦える方向にブラッシュアップして欲しいという意味で四方田さんが良い気がしています。
    3バックでボランチが降りずにビルドアップする形は四方田監督時代レイオフを使って仕込んでいた記憶がありますし、攻撃で大きく変形しない方がマンツーマンとの相性も良いかなと。

    返信削除
    返信
    1. 交代するなら現実的には四方田さんがファーストチョイスでしょうね。2017年の退任の仕方を考えると。
      私の予想では四方田さんになれば、良くも悪くもミシャ→森保さんの広島みたいになると思います。就任当初は互いのいいとこどりができるけど長期的に見ると…というか、2018年からミシャと四方田さんのいいとこ取りをした結果が今なんですよね。

      願望は、マイナーチェンジではなくてこの数年間をしっかり総括して、クラブが目指す方向に相応しい人材を呼んでほしいです。義理だと絶対四方田さんなんですが、ここの選択次第で今後10年置いていかれます。

      削除