2020年10月12日月曜日

2020年10月10日(土)明治安田生命J1リーグ第21節 北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ ~技術的エラーと戦術的エラー~

 0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果
  • 札幌は高嶺がベンチスタートで、中央は久々に荒野と宮澤のユニットが先発します。前日の予想では進藤と田中駿汰はメンバー外でしたが、進藤のみ外れています。前線はルーカスが復帰し、金子がチームを離脱した特別指定選手の小柏に代わって、右シャドーにスライド。
  • 湘南はここ数試合で左右のCBの舘と田中、トップのタリクといったメンバーが起用されており、また三幸はJ1初出場。

1.ゲームプランの推察

  • 1-5-3-2でセットする湘南の特徴は、前5人と後ろ5人を分化した運用で、前5人は、準備が整えば基本的に敵陣のどの位置からでもプレッシングをスタート。だいたいプレッシングを開始する高さはチームで決まっているのですが、過密日程が緩和されたこともあってか、かなり深追いする場合もあります。
  • 一方で後方の5人…5バックは前5人と別運用というか、背後を取られることへのリスクヘッジを第一に慎重にラインをコントロールするので、前からプレスをしているけどあまり押し上げていないとする状況もたまに生じます。当然中央にはスペースができます。

湘南の[1-5-3-2]セット守備
  • 恐らく湘南の考え方としては、札幌をなるべくゴール前に近づけたくないのだと思います。ジェイは出たり出なかったりで、またパフォーマンスも安定しませんが、サイドからのクロスボールの形を札幌は持っているので、それを籠城で防ぐというよりそもそも自陣ゴールにあまり近づけない。そのためにボールホルダーへのアプローチは可能な限り行う。但し、ロングフィード1発で裏を取られるのは本末転倒なので、リスクマネジメントはしておく、というものだったでしょうか。
  • そして前半はリスク回避的に凌いで、後半オープンになったところで、ボックス内で最も頼りになる石原直樹を投入、彼の決定力で試合を決める、という考えだったと思います。

  • 対する札幌。詳しくは過去記事参照なのですが、湘南相手にはプレスからのトランジション合戦を嫌って、また相手に長身のDFがいないこともあり、前線の長身選手に早めにロングフィードを蹴っての”短期決戦”に持ち込むやり方が、本来志向するスタイルと共に併用されてきました。
  • この考え方は今回も一部意識されていたと思います。なので、トップにはある程度パワーのある選手を起用したいので、アンデルソンロペスだったのでしょう。
  • なお、湘南はCB中央に坂ではなくて大野を起用したのは、札幌のこの傾向を意識したのもあったかもしれません(川崎戦では中央に169cmの石原広教を起用したらしいです。しかもそれで0-1と善戦)。

2.ゲームの基本的な構造

  • 湘南のボール保持は、[1-3-1-4-2]のうち[1-3-1]までが所謂ビルドアップ部隊。インサイドハーフから前の選手は、”前目”で関与する意識がより強めです。札幌は湘南がボールを保持すると、前線の[3]が湘南の3バックをマンマーク、中盤から上がった荒野がアンカー金子大毅を担当。
  • これで、中盤は宮澤1人に対して湘南がインサイドハーフ2人で数的優位になるのですが、湘南はこの配置を活かすでもなく、札幌が3バックを監視するとGK谷はリスクを嫌って前線にフィード。この判断は繰り返されます。そして、松田とタリクの2トップでは札幌の3バックに全く勝てないので、湘南のボール保持はここで終了。特に図で説明するまでもないのでこの話はこれ以上は拡げません。


  • より、札幌の方がボールを保持しようとしていたと思います。が、湘南は「1.」に示したように札幌の選手に対し、各ポジションで1on1の守備基準を設定している。なので、初期配置からプレーを始めようとすると、札幌のDFは常に湘南の選手に監視されていて、それだけでプレッシャーを感じる(ミスが即ピンチに繋がる)状況だったと思います。
  • 特に、湘南は札幌の右DFの田中に対するアプローチは、先発の三幸、そして三幸がアクシデントで交代した茨田に代わってもその入念さは継続されていました。恐らく、福森はロングフィード主体ですが、同数でマンマークしており、かつ最終ライン5枚で守っていれば、福森であっても長い距離のフィードはスライド対応で間に合ってしまう。寧ろ、より確実に味方にボールを渡して攻撃の起点になる田中駿汰の方が警戒する必要がある、と考えていたように思えます。
  • 田中が三幸&茨田に監視されると、そのプレッシャーを嫌って田中は下がるのですが、そうすると縦関係のルーカスとの距離が空く。ルーカスはボールが欲しくて下がってきます。

田中駿汰に対する湘南のアプローチ
  • ここで一つこの試合のポイント、と言っていいのかわからないですが、頻繁に見られた事象として、ルーカスが石原を引き連れて下がったことで右サイド奥のポジションが空く。このスペースに、本来シャドーというより右サイドハーフでプレーしたい(ようにしか見えない)金子が頻繁に流れてきます。
  • 図示すると↓のようになります。この形が直接試合を決めることにはならなかったですが、なるべくDFがポジションを守ってスペースを埋めたい湘南としては嫌だったかもしれません。札幌は、金子はこの形が好きだとして、ルーカスと被ってしまうのですが、その場合はルーカスが中央寄り、シャドーっぽいポジションに流れていく。比較的これはスムーズに行われていて、何かしら調整があったのかもしれません。
ルーカスが空けたポジションに金子拓郎が入ってくる
  • この、ルーカスが本来得ているスペースを代わりに使う格好となった金子(拓郎)と共に、札幌のもう一人のキープレイヤーだったのがトップのアンデルソンロペス。俺らが知ってるぜなアンロペと言えば、ボールを持つと常に強引に前を向いて、周囲にDFが何人いようとドリブル突破を選択するあのアンロペが、この試合は大野を背負ってボールを収める、収まらなくても体を当てて50:50の局面を作ることで、湘南のプレスに苦戦する最終ラインに対してターゲットとしての役割を果たします。
  • アンロペが頑張っていたのもありますが、湘南はアンカーの金子大毅が前(対面の荒野)への意識が強く、これでスペースが得られていたことも重要なトピックとして挙げられます。
  • まとめると、札幌ボール保持の際の選手の動きは概ね↓のような形からスタートします。駒井については初めて言及しますが、この試合の駒井は後方のビルドアップを助けるべく頻繁に下がってボールを受けようとします。が、スペースを埋めて守りたい湘南はこれについていかない。なので、駒井が下がると、札幌は単に前線の駒が1人減ってしまうだけの状態に陥り、駒井の列移動はあまり効果的には感じませんでした。
金子・ロペス・駒井の移動

3.技術的エラーと戦術的エラー

  • セレッソのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、かつてインタビューで

失点は3つのタイプに分類できる。1つ目が「避けることのできない失点」で、ゴラッソ(スーパーゴール)が典型だ。2つ目は、例えばGKのパンチングミス、CBのクリアミスなど「ヒューマンエラーによる失点」で、シーズンにおいて一定数ある。3つ目が「避けることのできる失点」。ポジショニングミス、カバーリングの遅れなどに起因するもので、守備の戦術コンセプトを知っていれば、実行していれば避けられたゴールだ。

  • と語っていますが、36分の湘南の先制点は、札幌のGK中野のパスが湘南に渡ったものからで、これだけを見ると「ヒューマンエラー」ではあるのですが、ただ、じゃあ小次郎はエラーを回避するためにボールを持ったら全部アンロペに蹴っ飛ばしてればいいのか?というと、それは札幌がどんなサッカーを志向しているかによる、との回答になります。
  • GKがボールに関与することの意義は、相手の1列目のプレスを回避することだと考えると、この試合、小次郎は失点の前も後も一貫して湘南の1列目を突破し、宮澤や荒野に時間を与えるためのチャレンジを続けています。蹴っ飛ばし続けている限りは前線のクオリティや、中盤の選手の頑張り、そして運やミスといった不確定なものでゲームが決まりがちになります。それでいいならいいんですけど、札幌はそのようなサッカーがしたくてミシャを招聘しているわけでもないし、GKに小次郎を起用しているのでもないと考えられます。
  • なので、小次郎のクリアしなかった判断自体は悪くない。問題はパスがズレたことと、パスをした対象が不利な態勢だった駒井、ということになりますが、この時、小次郎にバックパスをしたキムミンテがポジションの取り直しを怠っているように見えます。
  • GKがボールを保持した時に、CBはその左右で選択肢を作るべく、大きくペナルティエリアの両端に開かなくてはならないのですが、ミンテはバックパスをした後そのポジションに留まっているので、ミンテがいた左には小次郎は出せない。右は、宮澤が監視を受けているので無理、となると中央しかなかった、ということになります。そう考えると、これは技術的エラーでもあるけど、戦術的なエラーだとも言えます。
  • うまくいかなかったプレーで「セーフティにやれよ!」と言うのは簡単ですけど、あそこで前に放り込んでも何も生まれません。ミスしたくないならトライしなければいい。けどトライしないと何も得られない。他の誰かが何かをもたらしてくれるのを待つだけになる。そういうサッカーでいいならいいんですけど、小次郎はこの点では非常にタクティカルな振る舞い、チャレンジをしたと言えると思います。

  • 湘南の圧力に苦しんだ札幌は、前半シュート3本に終わりますが、そのうちの2本…最初の2本が得点に繋がります。42分の金子拓郎の得点は、左の菅がややアバウトに右足で送った中央へのパスが、駒井→アンデルソンロペスと繋がって、最後は再び左から駒井がクロス(味方が上がる時間を作った”溜め”が見事でした)からの展開でした。
  • やはりこの時も、湘南はスペース管理を優先して、DF-MF間で受ける駒井とアンデルソンロペスへの圧力は弱め。駒井は湘南MFの前まで下がってしまうと、金子拓郎とアンロペとの距離が開いてしまうし、湘南DFと勝負することも難しくなるのですが、この時はいいポジショニングからスタートできたと思います。

4.タクティカルなチャレンジが実るとき

  • 後半頭から湘南は齊藤未月→石原直樹に交代。松田が中盤に下がります。
  • 札幌は、メンバーは変わらないものの前線の配置を変更。駒井をトップ下に置いてアンカーの金子大毅を監視。荒野と宮澤は茨田と松田に専念できるとも言えますし、蹴っ飛ばす頻度が高い湘南に対し、中盤の枚数を1人増やしてセカンドボールを拾いやすくしたとも言えます。
46分~
  • 机上論的には湘南は3バックvs2トップの関係性でまずチャレンジしたいところ。が、湘南に限らずあまりJリーグのチームはこうした数的関係をあまり有効に活用しないイメージがあります(全てではないですが)。札幌が2トップに変更したことのデメリットは、殆ど感じられませんでした。

  • 湘南は2トップが変わっても前線からの圧力は継続。後半最初の10分で、札幌のGK中野小次郎が足でボールをコントロールする機会が5回ほどありました。が、小次郎は全てパスを選択し、それらはすべてノーミスで、湘南の1列目を突破することに成功していたことは、前半ミスから失点していることを踏まえても特筆に値します
  • 55分、右サイドで、やはりタッチライン際からスタートして抜け出した金子拓郎が長い距離を運び、最後は大野の股を抜いて2-1。得意な形に入った金子の個人技は見事でしたが、このプレーもGK中野小次郎のパスから始まっています
  • キムミンテからのバックパスに湘南の前線が反応します。ここで小次郎がアンロペに蹴ってしまえば50:50。アンロペ頑張れ、で終わるのですが、小次郎はタリクを引き付けて荒野へパス。これが荒野→田中駿汰と渡り、前に枚数をかけてきた湘南の選手4人を置き去りに(無力化)します。そうすると湘南は中盤にスペースができますが、ここに食いつかなければ田中駿汰はフリーでボール展開できる。残っていたアンカーの金子大毅や他の選手が食いつけば、新たなスペースが生じる。
  • この時は、湘南の18歳のDF田中聡(そもそもDFですらないんですかね)が金子拓郎のマークを外してしまったという決定的なエラーもありましたが、田中聡が何故前に出たかというと、前方を担当する選手がおらずスペースが空いていたから。そのスペースは中野小次郎から始まった展開から生じています。
小次郎のパスから生まれたスペースを使った攻撃から2点目
  • ラスト10~15分ほどは湘南の攻勢が続きます。要因は一概に説明しがたいのですが、一つはトップに入った札幌のドウグラスオリヴェイラのポジショニング(真面目に?湘南のCB2人を見ようとして、結果的に中央の大野がフリーになっていました)。
  • ただ、よりクリティカルなのは変わって入った湘南の畑や石原のパワーで、対面の菅や、田中駿汰を凌ぐ空中戦、競り合いの強さを発揮し、そこから敵陣での湘南のプレー機会が生じていたと感じます。あまり湘南はポジショナルなビルドアップの形がなく、最中的には肉弾戦でいかに勝てるか、が出来不出来を分けていたように思えます。

雑感

  • 戦術的に際立っていた、中野小次郎以外の話題を書きます。
  • アリゴ・サッキだったかと思いますが、「良い騎手になるのには良い馬である必要はない」(自身がプロ選手としてのキャリアがないことを指摘されて)。
  • この2試合、典型的な「競走馬」だったはずのアンデルソンロペスに変化の兆しというか、プレーの幅の拡がりを感じます(馬とか騎手よりマタドールに例えられるとよかったんですけど)。2ゴールを挙げたのは金子ですが、金子が突っ込むスペースを作っていたのは前線で身体を張り、かつ自身はボールにもっと触りたくても我慢し続けたロペスでした。まだ今後どうなるかわからないですが、このままトップでやれることを示せれば、混沌としたシーズンの数少ない光明になるかもしれません。

2 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。(アジアンベコム)さんの予想通りハイプレス路線は落ち着いてきましたね。
    仙台戦前にアンロペが攻撃の練習が久々にできたと言っていたので、ミシャは崩しのコンビネーションのところはトレーニングで落とし込むのが上手いんでしょうね。

    チャナが冬スペイン移籍の可能性があるみたいですが、来季の補強ポイントはどこだと思いますか?

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    1. 読んでいただいてありがとうございます。
      年末に総括記事を書こうと思っているのですが、選手層が薄いポジションってどうしてもボトルネックになりがちなので、今のチームで言うと福森選手のところが該当すると思います。彼はとんでもなくすごい左足を持っていますが、守備に関しては…なので、彼が常時スタメンだとチームの基準が福森になる。つまり、5バックでスペースを埋める守り方しかできなくなる。
      ここにもっと若くて平面の守備に強い選手がいれば、戦い方が広がるし、プレッシングももっと機能する。それはオフェンスにも(福森のスーパーなキックは失うにしても)メリットをもたらす。と思うのですが、左利きのDFは希少なので、福森中心でいく、という選択もありといえばありなんですよね。

      前線は小柏選手と檀崎選手がいることを考えると、チャナティップが仮に移籍するとしても、代替選手は優先度が低いように思えます。岩崎選手も一応いますし。

      但し、いずれにせよ「一定の資金がある」が前提になりますね。

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