0.スターティングメンバー
スターティングメンバー&試合結果 |
- 札幌はキムミンテが出場停止で、最終ライン中央に宮澤。ジェイは6節ぶりの復帰で、アンデルソンロペスとの併用は第14節以来です。
- 横浜はここ数試合スタメンに定着しているのが、トップの瀬沼、最終ラインの伊野波、そして岡山一成氏に似ていることで有名な安永聡太郎氏を父に持つ安永。草野は前節のゴールが評価されたのか、地元で初スタメンとなりました。
1.ゲームプランの推察
- ホームが続いたりアウェイが続いたりする変則日程下でのリーグ戦を見ていて感じるのは、9月頃からホーム/アウェイで戦い方やゲームに入るテンションを調整しているチームが多くなっているように思えます。
- 札幌ホームでのゲームは、移動距離や前泊が必要なことも考えると(当日入りするチームもあると思いますが)、その意味ではアウェイチームとしてはある程度、テンションを抑えざるを得ないゲームである。この日の横浜FCを見てもそのような思惑は感じます。
- 札幌のスタメンでジェイが出てくるかはわからなかったですが、横浜がメンバーを見てハイプレスを選択しなかったのはこうした考え方が幾分かあったのではないでしょうか。ジェイがいるなら、高さのない横浜のDFが対抗するには、まずラインを上げてボールホルダーに対する圧力を強めにし、クロスボールが供給されないようにする選択が考えられましたが、横浜はどちらかというとラインは中~低め、プレスの開始位置もハーフウェーライン付近として、まずはゲームを落ち着かせることを考えていたと思います。札幌のFW相手にオープンな展開を選択すると、得点も失点も多くなるためです。
- そして、後半に斉藤や一美を投入して、スペースができてきたところで得点を奪いに行くのが理想だったと予想します。
- 対する札幌は、「実験」は徐々に集計~考察のフェーズに入っています。現有メンバーおよびこのチームのフィジカル面や戦術面を踏まえて、どの程度までのリソースをプレッシングに注ぐことで効用を最大化できるかは既に見えています。
- ですのでプレスに全振りはせず、そしてトップにジェイがいると、相手にブロックを作られた状態でもシュートに持ち込むことは可能なので、ゲームはスローダウン(≒ボールが行き来する展開にはならず局面の遷移は安定的になる)します。ただ、展開次第ではベンチスタートのドウグラスオリヴェイラを投入し、得意のオープンな展開から得点を狙うことは常に考えていたと思われます。
2.ゲームの基本的な構造
2.1 密かに進むソフトランディング
- ここまで、2トップの1-4-4-2、あるいは1-4-2-3-1といったシステムを採用するチームに対する、札幌の対応は一貫して、3バックのサイドのDFが相手のサイドのMFをマンマーク、中央の2人(2トップ、もしくは1トップ+トップ下)は、CBとアンカーの選手が担当するやり方としています。
- どちらかというと後者の方が対応がしやすい。それは、アンカーがCBと兼任できる田中駿汰のようなタイプならいいのですが、そうでなければ、ゴール前でプレーするFWと中盤を守るアンカーのマッチアップはミスマッチになりやすいためです。加えて、アンカーが相手のFWをマークするなら、中盤から最終ラインまでを常に動き回りながら広範にカバーしつつ、しかも危険なFWをマークしておく必要があり負担が大きい。
- 4失点を喫した浦和戦、杉本健勇と興梠のコンビで、トップ下からスタートした杉本が背後に飛び出すと札幌DFは捕まえることができなかった、あの試合が典型だと言えます。
札幌の2トップのチームに対するマンマーク対応(セレッソ大阪戦) |
- 横浜FCの1-4-4-2に対しては対応を変えてきました。前線が2トップ、中盤を逆三角形にしてそれぞれ2-2の関係を作ってマークを決めて対応するまでは同じ。異なっていたのは、高嶺と福森の役割分担で、横浜のサイドハーフの瀬古に対しては、高嶺が常にマンマーク。福森は、最終ラインに残って宮澤と並び、横浜の2トップを担当します。つまりこれまでの試合と比べ、福森と高嶺が役割を入れ替えていました。
福森と高嶺の役割の調整 |
- 横浜のこの試合の右MFは、本来中盤センターを担う瀬古。ですので福森と瀬古のマッチアップはそこまで危険が生じなかったかもしれません。ただ、他のチームは、サイドアタッカーに突破力のある選手を置いている場合があり、名古屋の前田が典型ですが、福森がマッチアップすると即ウィークポイントになるリスクがあります。このことを考えて、福森には相手のFWを見させた方がいい、という判断をしたのだと予想されます。
- 横浜FCの設計については後述しますが、瀬古はどちらかというとサイドに張るというより、中央に入ってプレーします。その場合は、高嶺は中央寄りのポジション、つまりさほど本来の位置から動かなくても対応ができる。一方、局面によっては、サイドに開いてプレーすることもあり、この時は高嶺は、福森や菅よりも外側を守ることもあります。そうなると札幌は中央に誰もいなくなるので、横浜はそのスペースを突けるといいのですが、どうなったかは後ほど見ていきます。
2.2 カードの裏表
- 1-4-4-2の横浜FCは、時折札幌のGK菅野の近くで2トップが構えることもありましたが、基本はハーフウェーライン付近に1列目を設定したブロックを敷きます。
- 横浜の考え方としては、札幌は最終的にはサイドからのクロスボールが主体。ターゲットは言うまでもなくジェイボスロイド様であり、小林と伊野波(対人守備とカバーリング共に堅実な対応を見せますが資産運用ポリシーはリスキー)だと高さでは心もとなく、GK六反を考慮して考えても、クロスボールを供給される前に対処したいと考えていたと思います。
- ですので、極端にラインは下げず、まずはラインコントロールによってジェイをゴール前から遠ざける。そして、アウトサイドの選手にボールが渡ると早めにアプローチすることを意識していました。
横浜の非保持の考え方 |
- イレギュラーだったのが、福森と瀬古のマッチアップ。瀬古はサイドバックでは何度か起用されていますが、この位置では初めてのようです。下平監督としては、恐らく福森からのボール供給を規制するための起用だったのではないでしょうか。事実、瀬古は福森に対するマンマーク色が強い振る舞いを見せます。草野はあくまで、味方の隣のスペースを守る、つまりゾーナルディフェンスもしくはスペース管理の意識が強そうですが、瀬古と対比するとこの左右の傾向は明白だったと思います。
- 横浜FCはアウトサイドに中山のような、サイドハーフ/ウイングタイプの選手をチョイスすることもできましたが、福森が”抑止力”となって攻撃力を削ぎ、このことはゲームプラン全体にも影響を及ぼすものだとも言えます。こうしてみると、互いにふくもりの存在がチームの設計に大きく影響していることは興味深いものです。
3.前半
3.1 予想の範疇
- 札幌は横浜FCに対して全ポジションでマンマーク。ですのでGKだけがフリーになります。一方で横浜はスペースを守るので、札幌のCBは最初からプレッシャーを受けている状態にはならない。なので、横浜の攻撃はGKの六反、札幌の攻撃はCBからスタートします。
- 横浜は六反のフィードがある程度、計算できることが強みの一つで、彼の存在によって、札幌にマンマークされただけでは困らないチームになっています。
- 例えば名古屋グランパスは、GKランゲラックがボールを保持することをあまり計算に入れていない。こうしたチームなら、GKが持たされると困ることが多いのですが、横浜は、今回の札幌のような対応をされると、六反が渡せる選手に渡して、GKとその選手で数的優位な状況を局面で作ってスタート、難しそうならスペースにフィードして、味方を走らせる、というプレーの優先順位は決まっています。
六反のフィードは織り込み済み |
- ですので、横浜は攻撃のスタートは比較的スムーズだったと思います。
- 一方、札幌は2トップのマークをいつもと変更していたことが巧く作用していました。例えば皆川が裏に走ると、高嶺がマークだとどうしても移動距離が長くなってしまうのですが、福森に代えておくと本来のDFとMFの関係性に近いポジショニングで守りやすい。瀬沼と福森だとやや怪しかったですが、皆川に対しては、福森が簡単に走り負けないマッチアップでした。28分に六反のフィードから、福森が被ってしまって抜け出しかけたプレーは危なかったですが(菅野がカバー)。
- 2トップに蹴らない場合は、横浜は左サイドからの組み立てをより意識しています。右はマギーニョがおり、彼は無理の利く攻撃参加ができるのですが、下平監督はより、確実性を重視している。この点では、スペースを見つけて中継点となれる左利きの手塚、そして適切なタイミングで攻撃参加する袴田を使って、横浜は左サイドから侵入します。札幌の対応はマンマークで変わりません。
繋いで前進する場合は左から |
3.2 同じ絵を描ける3人から
- 16分に札幌が見事な攻撃で先制します。ミシャが10年来よく使っているパターン攻撃でしたが、特に、出し手の宮澤とジェイのポストプレーが秀逸でした。横浜が2トップの2人で中央を閉じると、その脇には必ずスペースができるのですが、札幌のDFにはここでドリブルでボールを運んでドライブできる選手が少なく、この点は宮澤の、キムミンテに対する明白な優位性です。
- ジェイのポストプレーについては、左利きなので身体の向きが逆側、サイドの左サイドを向いたプレーの方が得意なように見えますが、この時は完璧なタイミング、パスのスピードでした。
宮澤の前進からの先制点 |
- そして、最後に抜け出しからゴールを決めたアンデルソンロペス。確かにジェイのアシストは見事でしたが、抜け出したタイミング的にはDF小林の半歩先、ぐらいだったかと思います。抜けた後で小林をブロックしながら、ゴールに向かうコース取りができたのはパワーのあるアンロペならではで、駒井やチャナティップのような軽量級の選手だと難しかったゴールかもしれません。
- 本来ミシャが得意としていたはずの攻撃ですが、これまでのシーズン殆ど見られなかったのは、出し手、受け手、フィニッシャー全てに課題があった(あとは、相手にもっとマンマークで付かれるとギャップを作りにくい)のが大きいです。
- 宮澤は前半、度々この形から攻撃を組み立てます。宮澤のプレーや判断がいいこともありますが、高嶺、荒野、駒井と並ぶと、これらの選手は簡単にボールをリリースしないので、ボールを保持している間に何度もチャレンジができるし、宮澤が中央から右寄りに移動する時間の創出もできます。また横浜が特定の選手にマークを付けないでスペースを守っていることも作用していたので、宮澤にとってはやりやすい状況でもあったと思います。
- 飲水タイム後の変化としては、横浜FCは手塚を小林と伊野波の間に落とした形からのスタートを多用します。ここで荒野がついてこなければ、手塚が運ぶ形からの展開を狙っていたと思いますが、荒野がついてくると手塚もリスキーな選択はできない。最終的には、六反や他の選手からの長いフィードでの展開が多いことは変わりませんでした。
- また、横浜のプレス強度もやや強まり、そして2トップがスライドの意識を徹底することで、宮澤や高嶺が運んでからの展開が難しくなります。これに対する札幌の対応としては、札幌もロングフィードでのビルドアップに早めに切り替えます。ジェイとアンデルソンロペスが並んでいると、簡単に競り負けることはなく、選択は間違っていなかったと思います。
- 41分には菅のクリアをセンターサークル付近でジェイが競って、セカンドボールを拾ったアンデルソンロペスが突進。ジェイへのラストパスからの浮き球シュートは伊野波が掻き出してクリア。2人のパワーが発揮されたプレーでした。
4.後半
- 後半頭から札幌はジェイ→金子、田中→早坂。いずれも負傷交代とみられます。
- この2人の交代の影響はボール保持において大きく、▼の51分の局面では、簡単に金子へnのフィードが跳ね返されてしまってから、中央に誰もいないスペースを運ばれて決定機に繋がっています。これは言うまでもなくトップにパワーのある選手を1人減らした影響だと言えます。ただ、小次郎と比較すると、菅野のフィードは素直すぎる印象も受けますが。
蹴って収まらないと落ち着かない展開に |
- 田中はプレッシャーを受けても簡単にボールをリリースしない選手なので、早坂に代替されると、右サイドを循環するボール保持の際はボールが落ち着かなくなります。
- そして横浜は後半開始から、プレスのスイッチを起動して札幌のDFにアプローチします。これでゲームは落ち着かない展開になります。
- 後は、横浜のSBは後半頭から、前半開始よりも高い位置を取るようになります。例えば、袴田はビルドアップの際はほぼ自陣でスタートしていましたが、53分にはフィードに反応してルーカスフェルナンデスを追い越すポジションを取る。この役割は、前半は皆川や草野が担っていました。
- 落ち着かない、慌ただしい展開になると、両チームともフィジカル的に優れた選手、そしてスペースに突撃できるスピードのある選手が力を発揮します。札幌はこの点では金子が徐々に目立っていきます。
- 札幌名物?ミシャ名物?アンストラクチャーな攻防での展開が続きますが、60分頃からは徐々に札幌が押し込むようになります。横浜はプレスの構えを取れる状況ではアグレッシブに出ていけますが、自陣に撤退し、前線に瀬沼か皆川1人になると、宮澤や高嶺の予防的対応によって彼らが起点となれず、札幌のターンが続くようになります。
- 60分過ぎから互いにFWの選手が投入されます。横浜は一美と斉藤、札幌はアンロペとドウグラスオリヴェイラの2トップにそれぞれ変わります。飲水タイム後にセットされた局面から、再び横浜はプレスのスイッチを入れることに成功しましたが、79分に伊野波と入れ替わったアンデルソンロペスが長い距離を運んで、ループシュート気味のパスをドウグラスオリヴェイラが押し込んで、札幌としては狙い通りの速攻から2-0とします。(以降は割愛)
雑感
- 全体としては、マンマークが困難なほどの強力なアタッカーもいないし試合序盤から厳しいプレッシャーに晒されることもない、久々に素直な1-4-4-2というか、特徴を出しやすい相手だったかと思います。
いつも拝読しています。
返信削除キーパー菅野ですし、横浜FCに前から来られるとヤバいし、斎藤光毅が2トップに入って中盤のギャップでウロチョロされてマーカーが動かされる展開を予想していたので肩透かしのような試合でした。
逆に札幌も無謀なマンツーマンハイプレスをやっているときはアウェー移動がもっとも大変なJクラブですから修正する時間がなかったんだろうと思いますし、よく連敗中メンタルで切れなかったなと。
ミシャは200勝達成ですが、結果を出し続ける監督は戦術云々以前にカリスマやモチベーターとしての才能が桁違いだと思い知らされました。
見ていただいてありがとうございます。
削除相手のプレス強度に左右されるのがここ数試合の傾向かなという感じはしますね。
実際ジェイやアンデルソンロペスをあれだけ守備に走らせて、不満を漏らさせないのは凄いですよね。