0.スターティングメンバー
スターティングメンバー |
- 両チームともメンバーは予想通り。札幌はCB中央にキム ミンテ。柏はルヴァンカップから、ヒシャルジソンが入って戸嶋がメンバー外。
- プレビューはこちら。
1.両監督の頭の中を予想する
1.1 ミシャの頭の中を予想する
- スタメンと、試合の入りから読み取れることは2つ。1つは、やはりオルンガ対策でキム ミンテ。ルヴァンカップの鳥栖戦でボールを保持できず、「簡単に前に蹴り出すことが多い」と不満を漏らしていたミシャだが、ミシャ的に”ボール保持のためのリベロ”と扱っている宮澤ではなくミンテ。この用兵は、札幌としては最大限に近い警戒をしていたことになる。
- もう1つは、そのルヴァンカップでの反省から、この試合は簡単に蹴り出さないで、ボールを保持しての攻撃にチャレンジしていこうとの意思疎通がありそうだった。ミシャにかなり口うるさく言われたのではないかと勝手に予想する。
1.2 ネルシーニョの頭の中を予想する
- ネルシーニョの他、三原や選手のコメントからも、やはり札幌が柏ゴール前に侵入する前にプレッシャーをかけてボール回収→ショートカウンターの形を狙っていたようだ。札幌もこの柏のスタンスは予想通りだったと思う。何故札幌相手に前線から圧力をかけることが重要かは、プレビューでも書いているので割愛(今年は極力、文章を短くしていきたい)。
2.基本構造
2.1 「ハイプレス」の実態
2.1.1 札幌の守備での入り方
- 柏のボール保持時の、まさに”構造”について。シチュエーションとしては、札幌側のメディアがこぞって取り上げている「ハイプレス」のシチュエーションだ。
- 柏はプレビューでも書いたが三原がアンカーになる[1-4-1-2-3]に変形。この形はCB2人の間にアンカーを置くことで、2人で相手守備を分散させつつ中央で展開の起点を作りやすいメリットがある(DF3人でもいいけど、2人が最少人数)。
- 対する札幌はこの形でセット。ジェイがアンカーをマークするのは、サンペールを擁するヴィッセル神戸戦と同じだ。そしてその運用は、四角で囲っている「Man-marking」の選手は最初からマーク対象を捕まえて、基本はその選手についていく。一方「Newtral」の、矢印を2本引いている選手は、常に複数選手を意識しながら、必要な(基本的にはボールが入る/もしくは入りそうな)選手を捕まえる。最終的には1人ずつ捕まえていく(マンマーク)で解決するスタイル。
- ジェイはスタート時点では三原をケアしているが、”プレス”が起動されると三原を他の選手に預けて、GKやCBにアタックする仕事を担う。
前3人は中間ポジション、2列目はマンマーク |
- GKキム スンギュからボールが入るとこうなる。
※gif 中間ポジションから制限をかけたいが柏の選手が空いてしまう |
- (2枚目)札幌はすぐに人に寄せるのではなくて、まずジェイが三原を切りながら、チャナティップは染谷と高橋の”中間ポジション”を維持しながら2人を見る。
- (3枚目)そしてボールがCBからSBに渡ると、シャドー(チャナティップ&武蔵)がSBをタッチライン際に追い込む(プレスの起動)。SBはタッチラインを背にしてプレーするので使えるスペースが180°しかない。これを利用して、選択肢を狭めていく。
- (4枚目)高橋には隣のCB染谷の”選択肢”が残っている。これを消せば、高橋は誰もパスを出せないので単騎で突破したり、前線に放り込んだりしかできなくなるが、札幌は染谷を消しきることができない。それは、ジェイは三原を見ているので染谷やGKキム スンギュへの対応に全振りできない。三原へのコースを切りながら寄せようとするが、十分な圧力にならない。ジェイ1人で3人を見なくてはならない状況は明らかにタスクオーバー。
- (5枚目)ジェイ、武蔵、チャナティップの3人で誰かを見ようとするなら、柏の4バック+GK+アンカー三原の誰かが空いてしまう。このパターンだと、三原かSB古賀がフリーになりやすいのでそこから運ばれて終わり。
2.1.2 怪物のプレッシャー
- 枚数が足りないなら増やせばいい。札幌は両サイドが以下の、高めのポジションを取って柏のSBへの対応に加勢できるようセットする。
柏の選手を捕まえるためにWBを前に出すと… |
- この場合はサイドのスペースが空く。
※gif 前進したWBの背後にクリスが走ると福森と1on1 |
- そして、CBがサイドを意識しなくてはならなくなるので、中央で怪物オルンガとキム ミンテの1on1の性質が強くなる。
- 3人でオルンガをケアするのと、ミンテ1人でケアするのでは全く話が違ってくる。裏を取られたら誰もカバーしてくれないし、セカンドボールも拾ってくれない。それに福森の背後をミンテもカバーしなくてはならない。後方の選手は、一気に仕事量が増える。
3バックが守る範囲が広くなると中央でミンテvsオルンガの性質が強くなる |
- 菅や白井が5バックを崩してアタックするのはかなりギャンブル性が高い。柏相手にこの状態はあまりにも危険すぎるので、札幌はこのやり方を信頼できるオプションとして位置づけることはできず、前線はなるべく3枚で問題を処理することが要求される。これでは到底プレスと呼べるほどのPressureを与えることはできない。札幌は3枚に対し、柏は4バックとGK+三原で6人。常に1~2人はパスコースがあるので、そこにボールを流していけばいいだけだ。
2.1.3 相手ゴール付近でのボール奪取に拘る札幌
- 見ていればわかるが、前線3枚だけではボールを奪いきることは難しそうだ。だが札幌は前線で”奪いきる”ことに非常にこだわっていて、チャナティップやジェイは柏のボールホルダーに対してかなり距離を詰めていく。この要求は荒野や宮澤に対しても同じで、とにかく札幌は「行ける時に」距離を詰める。
(後ろが重めなシステムだけど) 前で制限をかけるだけでなく「奪いきる」ことに拘る札幌 |
- 前への意識が強くなると中央は手薄になる。これはセカンドボールの争奪戦や、トランジションで江坂やオルンガが中央でボールを受け手からの展開への抵抗力が弱まることを誘発する。
前に人を割くと中央が手薄になる |
2.2 (あくまで初期配置)福森を空けた柏
- 札幌ボール保持時の柏の対応。クリスティアーノが変則的で、オルンガと2トップ気味に札幌のCB役の2人を見ていた。江坂がトップ下で、荒野を見るところも含めて整理されているので、これはエースの気まぐれではなくてチームとして決めていたことがわかる。
- 札幌は、福森が構造的にフリー。これは非常に重要で、何故ならフリーの選手にボールを渡せば、ミシャが切望している「自分たちでボール保持する時間」を労せずして作れる。そして福森に渡ったとしたら、ケアするのはヒシャルジソン。いくら優れたボールハンターでも、福森とチャナティップ2人を見ることは大変だ。
初期配置では福森の位置が空きやすかった |
- 但しこの構図は試合展開と共に微妙に変わっていく(詳細は「3.」)。試合を通じて不変だったのは、チャナティップはヒシャルジソンが密着マーク。
2.3 トランジションにおける構造
- Optaのデータでは両チーム合わせて50本以上のシュートが飛び交うゲームとなった。シュートに積極的、だけでは説明しがたいスタッツだ。
27+25 - 第1節の柏vs札幌では、両チーム合わせて計52本のシュートが記録された(柏:27本、札幌:25本)。2015年以降、J1の1試合では最多のシュート数となった。— OptaJiro (@OptaJiro) February 22, 2020
52 - 柏v札幌(2020/2/22)
49 - 浦和v大宮(2016/7/17)
47 - 仙台v川崎(2015/04/18)
47 - 横浜FMvC大阪(2018/12/1)
開宴。 #JZN
- 柏のシュートに繋がりやすいかった構造として以下を挙げる。札幌の何らかのボール喪失→柏のポジティブ・札幌のネガティブトランジションの局面。
※gif(札幌ボールから柏ボールへのトランジション時の特徴) 江坂と荒野のマッチアップがずれる |
- (1枚目)札幌のボール保持時は、柏のトップ下の江坂と、札幌の[1-4-1-5]の[1](アンカー)を任されている荒野がマッチアップすることが多い。
- (4~6枚目)トランジション時に柏が中央で早く展開すると、札幌は中央に1人だけ配されている荒野がボールホルダーにアタックすることが多い。するとそれまでマッチアップしていた江坂がトップ下の位置で構造上どうしても浮きやすい。他の選手は、柏の3トップ気味のアタッカーが札幌ゴールに向かってスプリントしてくるのをケアしなくてはならないので、中央のスペースを埋めることができないためだ。
- 柏の2点目(オルンガの得点)はこの形から生まれている。
- これは荒野に問題があるというより、札幌の構造上、前線に5枚も割いているのでどうしても中央は薄くなる。ここを狙われると、荒野(というかアンカー)はやるべき仕事が多すぎる。柏はこの点をよく把握しており、ワイドの瀬川とクリスティアーノはポジティブトランジション時に前線にすぐに飛び出すが、江坂はステイしてスペースを使うようにしていた。
- 札幌はトランジションの瞬間に、荒野だけでは対応しきれないので、瞬時の判断で進藤や宮澤が最終ラインからポジションを上げて対応する場合もある。が、そうすると最終ラインにスペースができてしまい、オルンガやクリスティアーノへの柏の縦の展開は成功しやすくなる。
3.最初のターニングポイント
3.1 勢いを削いだミンテのミス
- 柏がコイントスで勝ってエンドを入れ替えてスタート。
- オープニングシュートは札幌の白井。札幌の左サイドからのサイドチェンジを、大外で余っている(フリーの)ウイングバックが受けてそのまま仕掛ける、得意のパターン。左サイドは上記「2.2」の通り、クリスティアーノが2トップのような振る舞いをするので、オープンプレー/セットプレーを問わず空きやすい。ここを起点に札幌が開始5分は先手を取ることに成功した。
- 開始5分ほどで最初のターニングポイント。キム ミンテからのク ソンユンへのバックパスがミスとなり、オルンガが拾ってシュート。これは何とかソンユンがコースを切ってミスを誘った。直後のプレー、ソンユンのフィードは柏の選手(ヒシャルジソン?)に引っかかって再び柏のチャンス。クリスのシュートは枠外。
- 札幌はこのミス2連発で、ショートパスによるビルドアップを一旦諦めて、GKク ソンユンからのフィードに切り替える。すると、柏も繋いでこないとわかるので、一旦撤退して形を変える。(下図参照)
※gif 開始5分での柏の変化 |
- クリスティアーノが下がって1-4-4-2の形に。福森がフリーではなくなる。
- 見かけだけでもクリスティアーノが守備に加担することは重要だ。いるだけで、福森が使いたいスペースは狭まるし、ヒシャルジソンはチャナティップに専念できる(2020シーズンからジャッジの基準が少し変わったらしいが、ヒシャルジソンとチャナティップのマッチアップは、ハードマーカーの前者がその恩恵を被っているように見えた)。6分のカウンターのシーンは、クリスが福森を制限して、ヒシャルジソンがチャナティップからボールを引っ掛けて始まった。札幌は”確実にボールを持てるエリア”を、ミンテのミスから失った格好となった。
※gif (6分)チャナティップからボールを奪っての速攻 |
- 福森のポイントを失った札幌。構造的には1トップのオルンガが守っているミンテと宮澤のところが空く。柏は受け手をマンマークでケアするので、宮澤は近くではなく遠く…対角へのフィードを狙う。この選択自体は悪くない。
- が、風(柏はキムスンギュの意見を聞いてエンドを変えたようだが、メインスタンドで見ている筆者の正面方向から吹いているように感じた)の影響もあってか、そして中央でボールを持っている時は柏のブロックも中央に寄っている。柏のブロックを動かせていない状況でフィードを蹴っても、ターゲットの白井は古賀にケアされている。ジェイはケアされていても勝てる能力があるが、染谷と鎌田で体を張って跳ね返す。序盤5分は活きの良かった白井が使えなくなってしまう札幌。
※gif 風の影響もあって中央からサイドへのフィードは不発 |
3.2 柏の先制点&追加点
- 12分に江坂のゴールで柏が先制(1-0)。直前のプレーを振り返る。
- (1枚目)札幌は前3人+荒野+菅で高い位置から柏の選手を捕まえる。「2.」で書いた通り、札幌は限定してミスを誘うというより、ボールを奪いに行っている。そして枚数が必要なので、1列目に加えて荒野と、最終ラインから菅も突っ込んでいる。
- そうなると、「2.1.2」に書いた通り、最終ラインは福森がスライドしてクリスティアーノをマーク、ミンテがオルンガと対峙している。
- (3~4枚目)チャナティップに追いかけられた染谷がフィード。キム ミンテが跳ね返すが、この時まさに「2.1.3」に書いた状況…中盤から前の選手が追いかけているので、札幌は中央に味方がおらず、ミンテが頭でパスできる選手は福森しかいない。その福森もクリスティアーノのプレッシャーを受けていたので、ミンテはクリスがいない方向に頭でパスを狙うが失敗。
- (6枚目)柏のスローイン。クリスティアーノは札幌の選手が戻り切れていない状況を見て素早くオルンガにスローイン。オルンガが中央のスペースを察知して江坂にラストパス。札幌は”ハイプレス組”の荒野がここまで戻り切れておらず、江坂が(江坂にとっては十分な)スペースを得た状態で前を向いて仕掛ける。白井が必死に戻るがゴールを横断するドリブルで剥がされてサイドネットに見事なシュートで先制。
- 19分には札幌が自陣で奪ってからの速攻。武蔵が運んでジェイ→右を60mほど駆け上がってきた白井のクロスはキムスンギュがキャッチ。スンギュはすぐに起き上がってスローから逆襲(この辺…札幌がオープンに突っ込んできた後の逆襲は、かなり試合前から狙いどころにしていたのだろう)。
- 「2.3」で図示した、江坂が浮いた状態でセンターサークル付近で受けて裏のオルンガへ浮き球のパス。裏のケアを任されているソンユンが飛び出すが、NBAのフォワードのような大股のストライドで突進するオルンガがソンユンをボックスの外でかわし、仕切り直しを図るソンユンの脇を冷静に逆足で射貫いて2-0。
- この時は札幌のネガトラに問題があると思っていたが、見直すとソンユンがオルンガの走力を見誤ったに尽きる。江坂はフリーだったが、オルンガに対してミンテと福森を残していたので、札幌としては最大限の対応をしていた。後半の序盤にキム ミンテとオルンガの競争をメインスタンドの約10mの距離で観覧する機会があったが、ミンテに走り勝ってしまう195cm級のFW(しかもフェホetcと違って枠内にシュートを飛ばせる)は別格というしかない。
- どっちかというと、その前の白井のクロスで終わった攻撃が勿体なかった。速く攻めたいのかわからないが、ドタドタッとゴール前に数人で駆け上がって攻撃失敗~その後の展開はどうなっても知らん、はちょっとお粗末だ。
4.何でお前が補欠なんだ
4.1 宮澤の移動
- スコアが2-0となったくらいで、札幌の後方に変化が生じる。
※gif 宮澤の中央移動からの展開 |
- (1枚目)ボール保持の形は、当初の並びは[1-4-1-5]…荒野がアンカーの[1]で、最終ラインは右から進藤・ミンテ・宮澤・福森。
- (2枚目)宮澤が中央に移動。荒野も同時に移動していたように思えるが、何らか未コミュニケーションがあったのかは不明。恐らく宮澤は、福森がクリスティアーノを引き連れて中央に絞ってくるタイミングを見て発動していたと思う。
- (3枚目)中央でフリーの選手を確保できると展開が広がる。そのままサイドを使ってもいいし、トップに当ててDFを収縮させてからサイドに展開もあり。
4.2 2点差で後半へ
- 23分、宮澤の縦パス→ジェイのポストプレーから左の菅へ展開。菅のクロスにジェイのヘッドは、キム スンギュ(何でお前が補欠なんだ)がビッグセーブ。26分には白井が右サイドで粘って中央に折り返す。最後は武蔵が左足で狙うが、柏のDFが体を張ってブロック。
- 30分に柏は負傷の瀬川→神谷に交代。ネルシーニョは代わって入る神谷と、ヒシャルジソンに指示を出す。ヒシャルジソンに対しては、「2点リードだからセーフティーに」のような内容だったかもしれない。神谷は何だっただろうか。瀬川はDFラインまで戻るハードワークが持ち味だが、神谷の後半のプレーを見ていると、「後ろを気にするよりも、速攻の際にしっかり走って仕留めてこい」的な話だったのではないかと予想する。
- 32分頃にはトランジションから江坂→クリスティアーノの展開でシュート。構図は「2.3」の通り。
- 38分にはオルンガのミスを中央で拾ったチャナティップからの逆襲。荒野→菅と展開し、ジェイのヘッドはまたもキム スンギュの正面。札幌も逆襲の速さで対抗していく。
5.後半戦へ
5.1 自ら服を脱いで終戦モード
- 後半戦へ。柏は前半に接触のあった染谷→高橋祐治に交代。
- 47分に柏の中央からの速攻(構図はまたも「2.3」)。
- 50分。キム スンギュのパントキック→神谷と進藤が競って神谷が勝ち→オルンガとミンテがセカンドボールを競ってオルンガがキープ。江坂が荒野を振り切ってミンテの背後に飛び出し、左サイドからグラウンダーのクロス。クリスティアーノの眼前で福森がカット。
- この試合の象徴的な構図だった。札幌はゾーン1(自陣ゴール付近の危険なエリア)で進藤-瀬川(途中から神谷)、福森-クリスティアーノ、そしてミンテ-オルンガ。更には荒野-江坂の1on1のマッチアップが、ボール保持/非保持を問わず頻発する。
- 「守備は5バック」のはずが、トランジションから柏に速い展開を仕掛けられると、そして札幌が自らハイプレスや!との名目でウイングバックを前に展開し、柏陣内での戦いを挑もうとすると、後方で枚数が最低限しか残らなくなって誰もカバーリング関係が作れなくなる。1人でも負けるか、サボる(と言うと荒野に怒られそうだが、この時の荒野のように完全に置いていかれる)と誰もカバーがきかない。数的不利状態でソンユンに祈るしかない。札幌のボール保持に関しても同様で、自陣ではある程度リスク回避的に動きたいが、柏に同数関係で守られると常にリスクと鉢合わせだ。
- 基本的に突っ込んできて右足でシュートしかないクリスティアーノに対しては、福森は奮闘していたと思う。厄介なのは進藤の「一周回ってジェイボスロイドがJリーグ最強」を更新しそうなオルンガと対峙したミンテと、左右両足で遜色なくボールを扱え、戦術理解にも優れ、局面から消えることが非常に少ない江坂と対峙した荒野のところだった。
- 57分、札幌は白井→ルーカス フェルナンデスに交代。直後の58分に柏に3点目。
- これもオルンガへのキム スンギュのフィードから。ミンテが一度はマイボールにするが、右サイドで進藤が江坂を”背負っていた”宮澤にパス。江坂が突っかけてからオルンガが進藤の背後を疾走。グラウンダーのクロスに逆サイドからクリスティアーノ→中央に走ってきた江坂が流し込んで3-0。パスは味方にスペースと時間を与えるための手段だ。その意味では、進藤の”優しくない”パスがまずかった。
- 65分には柏に4点目。
- 札幌の左CK。柏は前線に神谷1人を残し、札幌はいつも通り菅がお留守番。ルーカスのシュートのリバウンドを、チャナティップが回収しかけるが柏が拾って速攻発動。オルンガ、江坂、クリスティアーノの3枚が走り、オルンガが2点目と同じようにボックスの外に飛び出してきたソンユンをかわして4-0。
5.2 一瞬の反撃
- 札幌はルーカスにボールを集める。地上戦で右サイドを使うのもあれば、ピッチを斜めに横断するサイドチェンジも、風が札幌の左→右サイドに向かって吹くためあまり邪魔に感じられなくなる。
- 68分にルーカスが右サイドを突破しクロス。ジェイにクロスは合わないが、チャナティップが折り返したボールを荒野が中央で叩き込んで4-1。
- 72分にジェイ→アンデルソン ロペスに交代。
- 76分、ソンユンのGKを武蔵が競る。セカンドボールを(定位置よりも離れた)右サイドでチャナティップが回収して意表を突いたスルーパス。武蔵が抜け出してキムスンギュとの1on1を制して4-2。
- 直後の77分、サイドアタックから中央でロペスが潰れ、セカンドボールを荒野が回収してボックス内で3人を交わして左足シュート。これも何でお前が補欠なんだ、がビッグセーブ。荒野は笑うしかなかった。
- 以降はオープンな展開で互いにシュートの応酬。戦術的には特筆すべきトピックがないので割愛。
雑感
- イソップ寓話の「北風と太陽」では、旅人は太陽に照りつけられて上着を脱ぐ。札幌は太陽に照らされて(柏に仕向けられて)、というよりも、(何らかに理由で)自ら勝手に上着を脱いで怪人オルンガに立ち向かうことを選択したかのようだった。
- 勝つためにプレーしている前提で考えると、この「何らかの理由」が読み取れなかった。この相手なら、「ハイプレス」という名目で前に出ていくことは明らかに悪手だ。
- 「ハイプレス」について(前提として、イーワンの個サルでおっさんに又抜きされるような程度の筆者から、J1で何百試合も指揮している監督やコーチ、選手に対して「わかっていない」と言いたいわけではない。あくまで原則の整理)。
- この日の柏に対する札幌のやり方だと、枚数関係は相手のDFよりも1枚札幌が少ない(4バックに対し札幌1列目は3枚)。この場合、一般的には以下の考え方が多いと思う。
※gif 一般的な中間ポジションからのプレッシング |
- (1~2枚目)1列目は常に中間ポジション…常に複数選手をマークすることを想定したポジショニングをする(但し、1人だけ負担が大きくなるような配置にはしない。この日のジェイのように)。
- (3枚目)相手に2つ選択肢を示しておいて、相手がどちらかを選択したら選択肢を1つずつ消していく。ここまでが1列目の仕事。
- (4枚目)パスコースと、可能なパスの質を制限した状態(例えば、パスコースを消されている選手には浮き球でしかパスできない)を作って、パスを”出させた”ところで2列目以降の選手がボールにアタック。要するに数的不利の1列目は制限を行う役割が主で、ボールをハンティングするのは2列目以降になる。
- どうしても1列目で奪いたい場合は…完全に同数にして、どの相手選手にも誰かが必ずアタックできるようにマンマーク色がかなり強めのやり方しか(基本的には)ない。
どうしても敵陣で”奪いきりたい”なら同数にしないと難しいのでは? |
- 札幌が柏に対して上記をやれない理由は、①トップ下を置くシステムにしないといけないので、攻撃時に取りたい陣形とのギャップが生じる、②最終ラインを完全に同数にしたくない、等があるのはわかる。
- ただ、結果としてこの試合のやり方では非常に中途半端で、少なくとも前線でボールを刈り取ることはできない。選手のコンディションは非常に良好だったらしいが、それでもうまくいかないのは構造的に問題がある。
- それでもミシャが”ハイプレス”をしたい理由はなんだろうか。理由とは、例えばビルドアップに難があるチームは後方からボールを運べないので、敵陣高い位置で刈り取ることに意義がある。もしくは、自陣ゴール前の守備に難あり、の場合も、自陣ゴール前から遠ざけるための手段としてありうる。札幌はいずれにも当てはまらない。どれだけ押し込まれても、ジェイ ボスロイド様(と、チャナティップ)がいる限りは一定水準のビルドアップができる。加えて、ボールを持ちたがっている割に、ひたすら縦に攻め急いであっさりとボールを喪失することが多い。ボールは自己表現の手段でありボールを持つことは目的ではない。色々とミスマッチ感が否めなかった。
- このやり方は微妙そうなのは見え見えなので、そこまでしてやりたい理由を探ることにシーズン序盤はフォーカスしていきたい。あとおっさんに又抜きをされない方法も考えていく。
用語集・定義
1列目 | 守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。 |
---|---|
守備の基準 | 守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。 |
ゾーン3 | ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。 |
トランジション | ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。 |
ハーフスペース | ピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。 |
ビルドアップ | オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。 |
ビルドアップの出口 | ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。 |
マッチアップ | 敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。 |
マンマーク | ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。 対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。 |
ミシャが最近どこかで前で奪えれば相手ゴールまで近くて余力を持ってフィニッシュに行けるということと、日本で良くやる守備側One Man Moreは保守的すぎるし組織で守ろうとすると何となく守れてしまっていつまで経っても個の守備力が上がらない的なことを見たのですがソースは見つかりません。
返信削除あとそもそも論ですがミシャ浦和が強かった時期ってゲーゲンプレス的に奪われたら6秒間チェイスとかやっていました。当時のリベロとボラは那須、阿部、柏木、青木あたりで経験値の多さはともかく走力的に特別に優れていたわけでもないと。今季のうちだと上手く使い使われられる選手が増えれば枚数は足りるし走力は高いはずと見えるような。
個人的にはミシャにはあの浦和での成功体験があって、去年後半のようなひたすらリトリートして見ているうちに打たれ失点するケースは納得いっていないのかと思います。
by広島時代からのミシャウォッチャー
スカパーのルヴァンカップの後日談みたいな動画で言ってましたね。
削除>ミシャ浦和が強かった時期ってゲーゲンプレス的に…
ネガトラの設計で即時奪回を目指すのは、セット守備でハイプレスや!で突っ込むのとは別なので、それはそれで追求すればいい話だと思います。森脇が流行りの偽SBみたいなのをやっていたのは見覚えがあります。
あと、そこまでしてボール持ちたい割に、ずいぶん攻め急ぐ(簡単にボール失う)のは、どういう考え方なんでしょう。
攻め急ぐのか速く攻めるのか…
削除邪推は、
▪ウチだと正確なプレーやアイデアのような遅攻で崩しやすい選手よりフィジカルに強みを持つ選手が多いこと(フロントもそういう選手の獲得が得意)
▪ウチの攻撃陣は多国籍なので言語的なすり合わせをしにくく複雑微妙に同じ絵を描く作業は難易度が高いこと(ミシャ→通訳→通訳→選手?)
▪パスが上手い選手は宮澤くらいしかゲームに出ていない(三好はいない/去年は駒井もいない/フジレン中野は序列が低い)ので、タイミングで裏をかくとか、FWが瞬間的に裏をとった瞬間にピンポイントで配給とかができにくい
▪ウチはボールを持てて回せそうでも、相手からすると、追うとミス出ることも多く、何より追って外されてバランスが崩れても(ウチは)一発で良いシュートまで持っていけそうにないので追いかけやすい
▪いつもの先発だと狭いスペースでドリブルからパス出せるのはチャナのみ
▪ジェイが中盤で起点になれたとしてもそのボールを受けた選手とその次でミスが多い(3人目4人目が走っても無駄になりしかもカウンターをくう)
こういうのの合わせ技で今のような多少雑で伸びきるけど縦に急ぐサッカーになっているのかと。
キツイ表現をするなら遅攻で崩せたり相手がプレスかけてきても相手を揺さぶってスペースを作ったり崩せるだけの選手のクオリティはないので過度に急いでいるように感じます。
いまってミシャ十八番の相手が釣り出された瞬間に3人目が決定的に裏を取るとかできないですし、そもそも90分間のゲームを組み立てるような頭の使い方もなかなかできていないですよね(^^)。
このあたりは仮に三銃士揃い踏みになればかなり改善されると思いますが、そうなると道産子率が下がるし情に厚すぎるミシャには1つのハードルはありましょうか(^^)
正直ミシャがどういうチームを目指しているのかまだ、私にはよくわからないんですよね。言葉では色々言ってるけど、日本語訳の問題もあって、とらえきれないというか。所謂「ポゼッションサッカー」ではないだろうな、というのはなんとなくわかるんですが。
削除アタランタの試合をよく見ている、との話もあったので、イメージは近いのかもしれませんが。
アンロペみたいなダイレクトな展開で強い選手の価値を認めつつも、ファーストチョイスはジェイだし、シャドーでは今は金子の方が評価が高そうだなという風に見てます。
こういうアタランタですかね(^^)
削除https://00m.in/w4hjY
ミシャは浦和時代に先鋭化し、ウチに来てからはより柔軟になったように思います。
削除ミシャもいろいろの経験から学んでいてかつ欧州のサッカーの進化もあると思います。ベップよりクロップが上回る時代ですし。
ミシャが国内で圧倒的に優位に立てることがあるとすると1つは連日の狭いコートでの制限ミニゲーム等から得られる3人目の動き、これを活用する崩し、それを前提とした相手選手の釣りだし、釣りについてくるか釣りかもと迷う一瞬の2オプションの突き付けといったシリーズと思います。
ミシャの練習はこれをやるためにある種のトレーニングは捨てていると。
(もう1つは横幅をいっぱいに使えること。)
(ミシャ以前には3人目の動きをチームで個人の才能を越えて常用させられる指導者なんてほとんどいなかったのかと)
(ほとんどのチームでは練習時間=ゲーム時間=90分なので何かにフォーカスすると何かができなくなる)
結局どこで戦うにせよ、選手の武器を生かすこと(チームのスタイルに合わせてストロングが合う選手を獲得すること)と、ミシャ練で作れるストロングの併せ技で勝とうとしていることはずっと変わっていないように思います。
浦和でさえ局地戦をやると欧州クラブともやれていたわけで。
問題は手持ち選手とトレンドから縦に速いサッカーをやるほどに、トレンド的にも3ラインで戦わないデメリットが顕在化するわけで、そこを高価な選手で埋められない以上は構造上の課題を抱えていて、それは承知の上でやっているということではないでしょうか。
もう1つに、ミシャは選手獲得に淡白なことの裏でしょうが、結局のところあるレベル以上の選手で序列を付けて11なり18名を選びそのメンバーの力を最大化するために調整をしていると。ウチに来てからはここで原理主義者的には振る舞わなくなっていると思います。
「さぁ才能に目覚めよう」という課題克服型ではなく長所発展型で伸ばそう的なビジネス書がありますが、ミシャはそれを地で行っていて、ノノもそれを支持していると。
この危うさでずっと日本では(それなりのという厳しめの評価もありましょうが)結果を出せてくたということな気がします。
股を抜かれないためには正対しないことと両足均等荷重にしないことと思います。
返信削除https://youtu.be/r7i9XE26Ptw
これ見ていただくと身体の向きが正対していないかと。
正対して足が揃って両足荷重になると後ろに下がれなくなるのが遅くなるのをみんな知っているのでまともにドリブルで距離を縮められるか股を狙われやすいです(結果的にボールだけ股をくぐって身体は当てられて倒れられてPKを奪われるまでがセット)。
ご参考になれば幸いです。
帰省した時に頑張りますw
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