2019年5月3日金曜日

プレビュー:2019年5月4日(土)明治安田生命J1リーグ第10節 北海道コンサドーレ札幌vsヴィッセル神戸

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

・札幌:
 ×(欠場濃厚)…DF石川、MF駒井、MF中原、FWアンデルソン ロペス、FWジェイ
 ▲(出場微妙)…MF小野
・神戸:
 ×(欠場濃厚)…DF初瀬、DF藤谷
 ▲(出場微妙)…MFアンドレス イニエスタ、FWルーカス ポドルスキ

 札幌のメンバー予想の理由は「3.2」に記載。前節の試合中に負傷交代したポイントゲッター・アンデルソン ロペスはこのゲームには出られないだろう。得意のInstagram更新も途絶えており異常事態を思わせる。

 神戸はまず外国籍選手枠5名のチョイスがポイントだが、コンディションを考慮しなければ、イニエスタ、ビジャ、ポドルスキ>ダンクレー、サンペール>キム スンギュ>ウェリントンという序列に見える。浦和戦で負傷した(と自分で公表した)ポルディが戻ってくるなら、これまでの起用法通りとするとGKはキム スンギュに代わり前川、戻らないなら、恐らくキム スンギュが3試合連続の先発。
 ただし、チーム状況を考慮すると、「いじれるポジション」を変更してくる可能性はある。副キャプテンに就任した山口と西は新たなチームのコアであり、SBは初瀬と藤谷が離脱中。となると「いじれるポジション」は限られてくる。サンペールを外すならこのタイミングか。
 イニエスタは1日の練習を別メニュー調整。そのため出場微妙とした。ただ、イニエスタがいるといないとではチームは別物であり、4連敗を阻止するためにも、状態によっては強行出場もありうると予想する。前キャプテン・ポルディの「微妙」とは同列ではないだろう。


2.戦術面の一言メモ

(以下、札幌の黒字は前節のプレビューと同じ。青字が変更点)。

2.1 札幌


 基本戦略:より多くの人数による攻撃を突きつけ、相手の攻撃機会や攻撃リソースを奪う(守勢に回らせる)。

 ボール保持:ビルドアップはミシャ式4-1-5や5-0-5の形。中央3枚がローテーションしながらオープンな選手から前進を図る。ハイプレスを受けるなどして後ろで詰まったら、シンプルに武蔵かロペスへ。躊躇なく放り込む。アタッキングサードで相手よりも多くの攻撃枚数を確保したいためボールを保持して時間を確保するが、ポジティブトランジションで枚数が確保できているなら、時間をかけずに突撃することも許容される。

 ボール非保持:ハイプレス時、リトリート時ともにマンマーク基調の守備を展開する。特に相手のCBと中盤センターに同数で守備できるよう、前線の枚数を調整することが多い。

 攻撃→守備の切り替え(ネガティブトランジション):中盤2枚は即時奪回を目指すが、その位置取りは「中盤」ではなく最終ラインにいることが多い。要はCBの前進守備と同じなので、狩り切れるならいいが裏を取られるリスクも大いに抱えている。

 守備→攻撃の切り替え(ポジティブトランジション):2トップ気味で前残りしやすい武蔵とアンデルソン ロペスをまず使う。ロペスは背負ってのキープと仕掛け、武蔵はターゲット兼裏抜け担当。

 セットプレー攻撃:キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドで、シンプルに高さを活かすことが多い。ゴールキックは相手がハイプレスの構えを取らなければCBにサーブする。そうでなければ無理せずロングフィード(武蔵やロペスのいる右へ)。
 セットプレー守備:コーナーキックではマンマーク基調。

2.2 神戸


 基本戦略:時間とスペースをマネジメント(自分たちのためのスペースを拡げ、相手のスペースを奪う)しつつ試合を支配する。

 ボール保持:巨大ロンド(後述)によりゆっくりと前進しつつ、相手の陣形を動かす。ただしロンドは得点を担保しない。相手を動かした上でイニエスタの個人能力による侵入や、古橋やビジャの裏抜け、(ピッチにいるなら)ウェリントンの高さなどを活用する。

 ボール非保持:4-4-2でセットしてハーフウェーライン付近からゾーン基調の守備。ゾーン1ではCBが相手FWを捕まえる。サイドはある程度捨てている。サイドに展開されると、SBはハーフスペースを中盤センター(山口、サンペール)に受け渡しながらサイドをケアするが、第7節広島戦ではここを特に狙われている。

 攻撃→守備の切り替え(ネガティブトランジション):敵陣侵入後のボール喪失のシチュエーションをなるべく限定させる。具体的には”ロンドのフリーマン”であるイニエスタやポドルスキのみチャレンジパスが許容されており、フリーマンのチャレンジが失敗した時に山口がすぐカバーできるポジションをとる。山口のカバーリングが失敗すると撤退に移行。

 守備→攻撃の切り替え(ポジティブトランジション):オープンな展開を好まないため、基本は遅攻(ロンド)に移行。ただし相手の枚数が揃っていなければビジャや古橋を使った速攻を仕掛けることもある。

 セットプレー攻撃:合わせる場合のキッカーは、右足のイニエスタ、サンペール。直接狙う場合はビジャ、ポドルスキ等。ただショートコーナーもよく使う。ゴールキックは大半、センターバックかアンカーに配給してのロンド開始を狙う。
 セットプレー守備:コーナーキックではゾーンとマンマークを併用。

2.3 監督交代の影響は?


 第7節の後にファン・マヌエル・リージョ監督の電撃的な退任に見舞われた神戸。吉田新監督の就任後、特に大きくスタイルを変えているようには、今のところは見えない。少なくともトップが掲げるプロジェクトがある以上、変える気はないだろう。

 スタッツを見ても、第8節はイニエスタ、第9節はポドルスキが欠場し、ウェリントンや小川といった、リージョ体制下では出場機会が多くなかった選手がスタメン起用されている影響を考慮しても、まだ「リージョ路線」を踏襲している状況にあると言えそう。

試合別ボール支配率と走行距離

試合別ボール支配率とスプリント回数

 ひたすらパスを回しているように思えるがシュートもまあまあ撃っている。
シュート本数とボール支配率

 シュートを撃っているのは主にビジャ(4.2本/90分)、古橋(2.6本/90分)。
神戸のシュート内訳(選手別)
※スポーツナビより。

3.予想される試合のポイント

3.1 巨大ロンドによる前進


 僅か公式戦16試合の指揮に終わったリージョ政権だったが、そのサッカーは、ピッチに「巨大なロンド」を描くことにより時間とスペースとボールを支配し、相手を”従属”させることを目指していたと言える。
 下はサンペールが初めて起用された清水戦後半のメンバーより、そのポジショニングを例示している。神戸の選手は非常にバックパス、横パスが多いが、これはフィールドプレイヤー8人で外周、2人をフリーマンとするロンドを作ってパスを回しながら、少しずつ着実に前進を図っていると捉えることで理解できる。
巨大なロンド状の選手配置

 ボールと人の動きを例示すると、基本的には相手と正対しながら隣り合う選手にボールを循環させていく。下の図では左の大崎から開始し、トップのビジャからフリーマンのイニエスタを経由して右SBの西に預けると前進の準備が整う。巨大ロンドをボールが循環すると、相手はオリジナルポジションから大きく動かされ、かつ自陣に押し込まれた”従属”状態に陥る。これは神戸が相手ゴールに近づくだけでなく、相手のオフェンスに使うリソースを取り上げることも意味する。なおポドルスキはこの時は外周役だが、イニエスタとともにフリーマンを担うことが多い。
隣の選手にボールを流す

3.2 前で止めるか、後ろで止めるか(札幌の予想スタメン)


 札幌はどのように前進を止められるか。端的に言うと「前で止める」「後ろで止める」の2通りがあるが、恐らく「前で止める」だと予想する。
 理由は、札幌はボール保持を得意とするチーム相手には「守備から入る」場合が多い(ただし、大分は例外だった)。
平均スプリント本数×ボール支配率(第7節まで)
※データ再集計が面倒なので以前示した第7節までのチャートを流用。

・マリノス相手には毎回4バック。
・川崎相手にはマンマーク基調のハイプレス。
 (その1) (その2…0-7で敗戦)
・名古屋相手にはハイプレス。 (0-4で敗戦)

→リーグで最もボールを保持するチームである神戸相手にも何らか仕掛けてくると考えるのが妥当。またその仕掛けは恐らく、得意のマンマーク基調のハイプレス。

 となると人の配置は、ダンクレー&大崎と同数の2人、サンペール&山口と同数の2人を配する3-1-4-2と予想する。そして武蔵と組む2トップの右の選手は、前線で大崎と対峙することになる。前節ロペスに代わって起用された荒野か、ルヴァンカップでも前線で試された早坂が候補。後者は空中戦のターゲットとしても貢献できるが、”MF”としては荒野の方が買われているだろう。また神戸にボールを持たせる戦い方をするとしたら、カウンターで活きるタイプがいい。この点でも荒野がファーストチョイスだと予想する。
「前で止める」にはマッチアップを合わせることが不可欠

 この時、サイドは札幌が5バックで守ると神戸の両SBとは距離が生じる(=時間とスペースを与える)。よって菅やルーカスが相手のSBに前進守備を敢行できるかがポイント。リスクもあるが、あまりフィードが得意ではないキム スンギュの先発が予想されることを考えると、SBに対しても常に圧力をかけ続け、神戸のロンドを機能不全にしたい。
SBを前進守備で封殺できればロンドは機能不全に近づく

 菅とルーカスの前進守備によるリスクを嫌うなら、「後ろで止める」もある。ただ、ミシャがホームゲームで自ら”従属される”展開を選択することはないだろう。一応配置は下に示しておくが現実味は薄い。
引いて守れば裏のスペースは消せるが、自陣に「閉じ込められる」状況に

3.3 サイドでの攻防(1)


 ロンドに対する習熟度が選手起用のキーとなっていたリージョのチームだが、吉田新監督下の2試合では「平等な競争」のもと(加えてイニエスタやポドルスキの故障もあり)、小川やウェリントンといった異質な選手が出場機会を得ている。特に小川はロンドを作って前進していくよりも、オープンな展開で前に突撃していくプレーを好む。
 上記「3.2」では前進を止めるために「前で止める」「後ろで止める」の2つがあるとしたが、前で止めようとする場合には、札幌相手に小川が右、古橋が左で並ぶとそれだけで困難な状況が予想される。
 小川はスペースへのランニングが持ち味。福森の背後にスペースがある状況なら、何度でも裏を狙ってくるだろう。勝負は見えている。後は、その配球役次第。古橋は神戸で唯一と言っていい、ウイング的な働きができる。左サイドで大きく張ると、札幌はルーカスが高い位置を取りづらくなるだろう。三原に圧力がかからなくなること以上に、攻撃のキーマンであるルーカスの守備負担が増大することの打撃が大きい。
小川の裏抜けには分が悪く、古橋がサイドに張ると進藤では対処が難しい

3.4 サイドでの攻防(2)


 逆に札幌がビルドアップに成功すると、神戸に対して得意のサイドアタックを突きつけることになるだろう。神戸はSHがあまり下がらない。サイドではSBが初めハーフスペースを封鎖し、大外の選手にボールが渡るとハーフスペースは中盤センターの選手に受け渡しながら大外に出ていく。
SBはハーフスペースを守っている

 そのため大外の選手は対面のSBが出てくるまでに時間を得られる。第7節で神戸と対戦した広島は、大外からファーサイドのCBを越えるクロスの放り込みを徹底することで得点を重ねた。ルーカス フェルナンデスのクオリティなら、この時間を決定機に変えることはたやすいだろう。このサイドでのマッチアップは何らか神戸もいつもと別の策を用意してきてもおかしくない。
ボールさえ渡ればルーカスの仕掛けは多くなりそう

3.5 ウェリントン


 出てくるなら、 キム ミンテにかかっている。
(おわり)

用語集・この記事上での用語定義

・ゾーン3:

ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。

・トランジション:

ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:

ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・ビルドアップ:

オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。

・マッチアップ:

敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

・マンマーク:

ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

・ロンド:

円形や多角形の配置でパスを何度も繰り返し繋ぐプレーやその練習。語源は「rondo」だが、サッカー用語では(鳥かご)と訳されることが多い。

1 件のコメント: