2019年5月13日月曜日

2019年5月12日(日)明治安田生命J1リーグ第11節 松本山雅FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~俺はパスをつなぐことなく生きてゆく~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、荒野拓馬、早坂良太、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF濱大耀、MF檀崎竜孔、白井康介、中野嘉大、金子拓郎、FW岩崎悠人。報道通り右太もも裏痛のチャナティップはメンバー外。札幌との気温差も考慮し、松本には2日前に乗り込んだとのこと。
 松本(1-3-4-2-1):GK守田達弥、DF今井智基、飯田真輝、橋内優也、MF田中隼磨、宮阪政樹、パウリーニョ、高橋諒、前田大然、杉本太郎、FWレアンドロ ペレイラ。サブメンバーはGK村山智彦、DFエドゥアルド、MF藤田息吹、中美慶哉、塚川孝輝、岩上祐三、FW永井龍。永井のスタメンを予想していたがFWにレアンドロ ペレイラ。故障で出遅れていた初スタメンの杉本と合わせ、よりアグレッシブな選手起用に感じられる。



1.ゲームプランと基本構造

1.1 互いのゲームプラン

・札幌:
 基本はいつも通り(ボール保持攻撃、セット守備にそれぞれ最大人数を割く)。
 ただし、アンデルソン ロペスとチャナティップの不在は、前者はファストブレイクでの攻撃力低下(=少ない人数で攻撃を完結させることが難しく、またオープンな展開での撃ち合いに不利になる)、後者は遅攻フェーズでのボール保持攻撃の精度低下(敵陣深くの、狭いスペースで前を向いてドリブルで相手を剥がしたり、崩しのパスを供給する)という攻撃面で非常に大きなマイナスの影響がある。
 よって、得点するにはいつも以上に攻撃にリソースが必要になる。ただし、松本のチーム特性を考えると、リスクを負って前に出ていくことは考えもの(先制されると余計に厳しくなる)。そのためロースコアで試合を進め、1点勝負の展開に持ち込むことを考えていたのだろう。

・松本:
 いつも通り、相手のミスや”事故”を誘発する。反町監督のインタビューを読む限りでは、ロペスとチャナティップの不在があっても、オープンな展開では札幌に分があるとみていた模様。よって、松本もオープンにはしたくない。”事故”の誘発については、FWに永井を起用して追いかけまわすだけでなく、札幌相手ならばレアンドロ ペレイラのパワーやボールキープ力を活かした攻撃でも十分に見込みがあると考えていたのだろう。

1.2 仕掛けることもできないこんなスタメンじゃ(札幌ボール保持時の基本構造)


 前半、札幌ボール保持時の構図を以下の通りに図示する。「1.1」に書いた通り、松本はロースコアに持ち込むため、ブロックに人数を割き、札幌の前線の選手が活動する空間を狭め、かつ5トップに対するマンマークでの対応を明確にする。
 荒野、武蔵、早坂の3選手は密集した松本のブロック内に閉じ込められ、この状態では足元でボールを受けても、ボールを収めて味方に展開したり、自らターンして仕掛けるといった効果的なプレーは殆ど繰り出せない。Jリーグでイニエスタの次に密集地帯での打開が得意なチャナティップがいれば、この状態でも何かが起こせるかもしれないが、荒野と早坂ではそれは困難である。
札幌ボール保持時の松本の対応

 ブロックの外にいる選手はどうか。
 深井とキムミンテがボールを持っても、すぐに脅威となる展開にはならないため松本は放置。だが、それよりも前にいる(松本ゴールに近い)選手がボールを持つと、裏に抜ける武蔵や、サイドに張るウイングバックに展開され、札幌がゴールに近づく機会を作られてしまう。特に、福森は札幌の最大の供給源。
 よって、深井とキム ミンテよりも前にいる選手がボールを持つと、松本は自由を奪うために寄せてくる。福森には前田、杉本には進藤。更に、レアンドロペレイラは常に中央に立ち、宮澤を監視する。
福森、進藤、宮澤にはボールを持たせないよう監視

 札幌の前進を長い距離のパスに限定させ、それぞれ潰していく。深井やキム ミンテ、監視されている宮澤のパスが合わない局面も目立った。
 ただし、前半の札幌は長めのパスを放り込むことを、消極的ながら容認していたようにも思える。無理にブロックの中に陣取る早坂や荒野にパスを入れてボールロスト⇒カウンターの機会を招くよりは、サイドの菅やルーカスに放り込んでボールロスト、の方が、松本のカウンターを受けるリスクが小さいためである。
長い距離のパスは簡単に成功しない

 松本の対応は、
・5バックは札幌の5トップをマンマーク
・中盤2枚は中央を締める(スペースを守る)
・1トップは宮澤をマンマーク
・シャドーはスタートは中盤センター2枚の脇を守りつつ、福森と進藤を監視
という具合に、シャドーのみ複数のタスクを担っている。

1.3 松本ボール保持時の基本構造


 松本のボール保持時。札幌は5-2-3でセットする。1列目は敵陣センターサークルの頂点付近と、松本よりも重心は高めだが、荒野-武蔵-早坂のユニットは松本DFのボール保持を殆ど限定しない。
 松本は開始10分ほど札幌の様子を見ていたようで、後方でのボール保持にパウリーニョや宮阪を加えつつ、札幌が守備で仕掛けてくるとすぐにリスク回避(=ボールを前に蹴ってリセット)できるよう準備していたが、札幌は仕掛けない。
札幌は5-2-3でステイする

 松本はいつもよりもボール保持時間が長くなる。両WBの田中、高橋もポジションを上げる余裕が生まれる。いつもはボールを持てない(=パスをつながず放り込む)ので松本のWBがサイドの高い位置に進出することは、ファストブレイク時に全力でスプリントするシチュエーションに限定されるのだが。
 札幌はこれも織り込み済みで、松本のWBが攻撃参加してもそう大きな問題にならないと考えていたように思える。
 

2.俺はパスをつなぐことなく生きてゆく(OH OH)

2.1 松本のチャナティップ


 前半は札幌は抑え目。「1.3」に書いたように、松本は様子見が終わった(札幌が特に守備で仕掛けてこないことが確認された)10分過ぎ頃から前進を開始する。
 ポイントになっていたのは松本の右シャドー・杉本。松本はシャドーに(シャドー以外もだが)走力に優れた選手がよく起用されるが、この試合、初先発の杉本は狭いスペースでも前を向ける攻撃的MF。その杉本が、10分過ぎころから下がってボールを受け始めると、札幌は誰が対応するのかはっきりしない。ポジション的には進藤、ルーカス、宮澤、早坂のちょうど中間的なポジションを取る。
 マンマーク関係を意識すると一番責任がありそうな進藤は、あまり持ち場を動きたくないのか、あまり積極的に杉本を捕まえようとしない(早坂が橋内に完全に捕捉されていたのとは対照的だった)。そこでルーカスが捕まえると、大外の高橋がフリーになる。じゃあルーカスもステイすると、杉本が前を向いてルーカスと進藤の間や、裏に走る高橋にスルーパスを狙う。
 両チームとも5バックで守るので、前線の選手は一様にスペースを見つけるのに苦労していたが、初めに活路を見出していたのが杉本だった。
前線の選手中、杉本が初めに活動領域の確保に成功する

2.2 引きずり出されるキム ミンテ



 もう一つ松本にとって前半、効果的だったのはレアンドロ ペレイラへの放り込み。より正確に言うと、ゴールキックである。
 2017年の四方田札幌を語る上でも何度か言及したが、ゴールキックはオープンプレー中のロングフィードによるビルドアップと異なり、ターゲット以外の選手を望ましい位置に配置した状態で始められるメリットがある。松本も四方田札幌と同じく、ゴールキックに時間をかけることで選手を望ましい配置にしてからプレーを始めていた。
 シャドーもウイングバックも高さがない松本は、ターゲットは全てレアンドロ ペレイラ。レアンドロがボールサイドに移動すると、札幌はキム ミンテが福森や進藤をポジションをシャッフルして対応する。
レアンドロ ペレイラへのゴールキックはミンテが全て対応

 重要なのはその後。レアンドロとミンテが競り、松本にボールが転がると、札幌は最終ラインで一番足が速いキム ミンテが留守になっている状態。代わりに中央にいるのは一番足が遅い(と思われる)福森。松本は前田が前を向いて走り出している。後は何が起こるかは言うまでもない(ただしシュートまで。前田のシュートのクオリティについては後述)。
ミンテと福森がシャッフルしているので前田vs福森の不利なマッチアップになる

3.サイドでの斬りあい

3.1 進藤の攻撃参加


 中央が閉じられ、サイドのルーカスと菅も徹底マークで前を向けない状況で、札幌は進藤が攻撃参加を解禁する。2018シーズンもよく見られた形だが、進藤が前進すると、ルーカスは隣のレーン(ハーフスペース)にスライドしてより中央のスペースを狙う動きをするとともに、進藤の活動範囲をサイドに確保する。
進藤の攻撃参加

3.2 突貫小僧をどっちに置くか?


 この進藤の攻撃参加が解禁された30分頃だったと思うが、この時間帯に松本は前田と杉本の配置を入れ替えている。恐らく松本としては、前に置きたい(守備に回らせたくない)のがファストブレイクで威力を発揮する前田。ある程度下がって守備をすることを許容できるのが杉本。
 と考えると、要は札幌が使ってこない方のサイドに前田を置きたかったのだろう。序盤、松本に引かれた札幌は福森のいる左サイドからの展開を狙っていた。30分過ぎ、ちょうど松本が前田を左に(進藤のサイドに)動かしたのと同じ時間帯に進藤の攻撃参加が始まる、という関係だったと思う。よって30分から前半ラスト15分間は、この進藤と前田のサイドで斬り合いのような関係になっていて、前半終了間際に松本がインターセプトから前田が持ち込んで放ったシュートは、この”斬り合い”が松本側に作用して均衡が破れるチャンスでもあった。しかし左足のシュートは枠外で、前半はスコア上は大きな動きはないまま終了した。

4.勝負の後半

4.1 中央を起点に


 札幌は後半、勝ち点3を得て帰るためにリスクを冒して攻撃のリソースを割き始める。
 前半の状況は、「1.2」に書いた通り、スペースを消しつつ福森、進藤、宮澤をケアする松本の対応により、札幌は「パスの出し手の精度」、「狭いスペースで活動できる受け手の確保」の両方に問題がある状況だった。

 ↑前田がスペースを消しつつ、福森を見ることも可能な位置取りになっていると言いたかった。では札幌で(チャナティップの次に)優秀な出し手である福森が、前田の監視から外れるポジションを取るとどうなるかと考えた。
 ご存知の通り福森はフリーダムなポジションを取るので、チームとしてはどのようにデザインされていたかわからないが、後半に入ると、筆者の予想通りに福森が中央でボールを持つ機会が増える。深井や宮澤と位置を入れ替えたり、単に真ん中に自分が位置取りを変えたりと例によって形は不定だったが、ともかく重要なのは、中央で福森がボールを持つと、予想通り、5-4-1の松本は「4」の右側を守る前田では対応が難しくなった。
福森が中央に移動すると前田が見るべきか迷う

 松本は前田ではなく、本来動かしたくない中央の選手による対応を余儀なくされる。宮阪やパウリーニョが動くと、前半全くボールに有効に関与できなかった、中央の武蔵や荒野、早坂が足元で受けてターンしたり、ボールを収められるようになる。これは宮阪やパウリーニョが動かされて中央にスペースができていることもあるが、出し手が右利きのキムミンテや深井から左利きの福森に変わると、福森は武蔵に、より角度をつけた(≒受け手がDFを背負った状態で収めやすい)ダイアゴナルなパスを出せる。
福森がフリーのままだと宮阪が出てくるが、中央が空き縦パスが通りやすくなる

 出し手が明確になると、受け手の動きも呼吸が合うようになる。後半最初のチャンスは48分頃、福森の裏へのパスにルーカスが抜け出してチップキックでのシュート(枠外)。早坂が引く動きで橋内を引っ張って作ったスペースに走り込む、ミシャチームでよく用いられるオプションの一つだが、出し手がフリーで質の高いボールが出てくることもありあっさりと決まる。松本はDF-MF間を圧縮するので前半からラインは高め。それを攻略できなかったのはシンプルに、ボールの質の問題もあった。福森がフリーになればその大部分は解決に近づく。
(48分頃)ルーカスの裏抜け

4.2 宮澤の攻撃参加


 ”受け手”に関する変化では、宮澤が受け手としての関与を高めるようになる。前半はレアンドロ ペレイラに消されて中央で活動できなかった宮澤は、明らかに左サイド~左ハーフスペース付近での活動量を増やしていく。この動きは、単に後ろにいた選手が上がっていくというだけの関係ならばバイタルエリアの渋滞を招いてしまうが、先述の福森が中央でボールを持つことにより宮阪やパウリーニョを引き出す効果、武蔵やルーカスの裏抜けで最終ラインを押し下げる動きがあることで、宮澤が前を向いて高いポジションでボールに関与することが有効になっていく。
宮澤の攻撃参加

 財前、バルバリッチ時代は受け手として評価されていた宮澤。松本も宮澤にボールが入った瞬間を(特にトランジション時に)狙っていたが、この試合のピッチ上の22人では別格にボールが持てる宮澤は、松本のそうした混乱を誘発する動きに殆ど動じなかった。その宮澤が高い位置取りを

4.3 まっすぐ突っ込んでくる 前田をケアするために


 もう一つの札幌の変化は、クソンユンのポジショニング。「1.1」に書いたように、クオリティを担保するロペスやチャナティップがいない中で得点するには、リソースの質よりも量(攻撃に投じる選手の数)を確保する必要がある。具体的に言うと、宮澤と深井はネガティブトランジションの際のセカンドボール争奪戦に投入したいので、ビルドアップに成功した後はポジションを上げさせたい。更に陣形をコンパクトにするために、最終ラインも高い位置に押し上げたい。
 となると問題は裏に走ってくる前田への対応。札幌が最終ラインを押し上げると、前田のような足の速い選手を擁するチームとって格好の餌となる。
 札幌の解決策はク ソンユンを前で守らせること。比較になりそうな写真を下に張ったが、前半もソンユンはそこそこ前目で(場合によってはペナルティエリアの外を、手を使わずに対応することも想定して)守っている。後半は更に前で守るようになる。札幌が松本陣内で攻撃を展開している時は、最初から、ペナルティエリアをかなり前に出た状態で守っており、殆どキム ミンテの背後に立っている時もあった。
ク ソンユンのポジショニングの比較

 バックスタンドにいた筆者の周辺の山雅ファミリーがざわつき始める。松本がボールを回収するたびに「撃て!」と声援が飛ぶ。上里一将のように、ロングシュートが得意だったり、常に狙っている選手が1チームに1人いると望ましいが、松本にはそうした選手がいなかったのか、ソンユンのポジションが狙われることはなく、この点ではリターンはプラスだったと言える。

4.4 5-4ブロックの無視できない負荷


 個人的にはソンユンがここまで前に出る必要はなかったと考えている。結果的には松本にはロングシュートがなく、ポジトラ時の振る舞いは前田の裏抜けにかなり依存していたのもあったが、それ以上に、松本のポジトラには、「常に5-4ブロックで守るので、ボールを回収した時にレアンドロペレイラ以外の選手は全員自陣深くにいる」という構造的な問題がある。
 前田は札幌の左サイドで、菅に加えてもう1人(深井や福森)が攻撃参加すると、数的同数を確保するために必ずプレスバックする。そこから攻撃に転じると、確かに足が速いので札幌の福森や、キム ミンテすらもぶっちぎってゴール前まで運べるが、50メートル程度を全力でスプリントした直後のシュートはかなり質が落ちる。この試合では4本のシュートを放ったがうち3本は枠外、1本は(恐らく前に出ているク ソンユンの頭上を越すチップキックを狙ったが)力なくGKの正面だった。
 セレッソの恋人・都倉のような特殊な選手を見ていると、ロングカウンターというプレーが非常に簡単に見えるときがあるが、これだけ守備にエネルギーを割き、更に攻撃に転じた時に50メートルをスプリントしなければシュートチャンスにならないという状況はFWにとって非常に負荷が大きい。
松本のポジトラ時、前田はゴールからかなり離れたところにいる

 なおDAZN中継では、58分頃ピッチリポーターにより「ミシャが札幌の選手に「戻れ戻れ」とジェスチャーしているが伝わらずイラついている」との情報が入る。これを片山真人解説員は「札幌の選手はやっぱり攻撃が好きなんですね」と解釈するが、上記の状況的に、ミシャからソンユンに対する指示だったとも考えられる。

5.終盤の展開

5.1 前線の選手交代


 スタイルとゲームプラン上、前線の選手の消耗が激しそうな松本から動く。73分に杉本→中美。76分にレアンドロ ペレイラ→永井。
 札幌も同じ時間帯、77分に荒野→金子。ルーカス左シャドー、金子が右シャドーになるが、仕掛けられる両選手を聞き足と反対サイドに配する(中央方向にボールコントロールしやすい、いつものチャナティップ&ロペスの関係と同じ配置)。ロペスとチャナティップがいない以上、ルーカスのシャドー起用は当然ミシャの中でもアイディアとしてあっただろうが、それを終盤のこの時間まで温存していたのは、後半勝負というゲームプラン、ミスを待っている松本相手に付け入る隙を簡単に与えないため(中央で仕掛けが成功すればビッグチャンスだが、松本が中央を固めている間は難しい。ロストしてカウンターのリスクの方が大きい)。
77分~

 構図的には消耗した選手を代替する松本(前田はかなり消耗しているが引っ張っている状況)と、更なる勝負を仕掛ける札幌。
 が、いつもと勝手が違うルーカスのシャドー起用がフィットしない。松本は前田がほぼガス欠で、中盤から後ろの選手の距離感も開いた状態で札幌のシャドー周辺にスペースがある。それでもルーカスが足元で受けて、得意のドリブルが発動することにはならなかった。
 ルーカスがダメなら、札幌の2本目の矢は福森の攻撃参加。これも守備に戻らない前田のサイドで福森が前に行くと、数的優位関係から簡単にクロスを上げることができる。
 80分にはその福森の背後をトランジションから前田が強襲。ク ソンユンが慌てて戻るが、先述の力のないシュートに札幌は救われる。
札幌の攻め手はルーカスと福森

5.2 わずかに変わった風向き


 松本は83分に前田→岩上。これで前線3枚はフレッシュな選手になり、3人で札幌のビルドアップ部隊の監視を強める。またガス欠の前田がケアしていた福森に岩上を当てて対応する。福森はこれ以上の前進が難しくなり、再び放り込み役に戻る。
 まだ2枚の交代カードを残している札幌は85分に早坂→白井。そしてシャドー・ルーカスに見切りをつけて90分にルーカス→檀崎。この檀崎投入を決断したタイミングでは、確かに札幌は松本のDFの前までは侵入できていたので、後は中央でより仕事ができそうな檀崎を入れて座して待つ、という考えは理解できた。
90分~

 しかし檀崎投入の直前、試合のラスト数分間で再び松本が息を吹き返す。前線にフレッシュな選手が3人入ったこともあれば、ここまで来ると最後は気持ちの問題と言ってよいかもしれない。AT1分、白井の大脱走(by駒井)は象徴的で、札幌のターンはもう訪れることがなさそうな状況だった。それでも猛攻を凌ぎ、最低限の勝ち点1をお互い分け合った。

6.雑感


 何事もそうだが、一つのプロジェクトで全てがうまくいくことは殆どない。ただ、この試合、札幌の視点で見るとミシャの打った手は8割型うまくいっていたように思える。大きな考え方でいうと、初めに立てたゲームプランは非常に有効だったし、個別の選手起用や戦術的なディティールの部分も松本にかなり刺さっていたように思える。
 チャナティップは恐らく次の試合(vs FC東京)も起用できない。勝ち点3を取りに行くホームゲームではなく、最低限勝ち点1でも許容できるアウェイ2連戦に故障が重なったことはマシといえばマシかもしれない。
 恐らく次のゲームも同じようなゲームプランで、後半勝負になるだろう。この試合は巧くゲームコントロールできたが、まず失点せず45分間を過ごすことが重要である。こういうことを言うと怒られそうだが、駒井のような試合をコントロールできる選手が欲しくなる。

用語集・この記事上での用語定義

・1列目:

守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。

攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。

・守備の基準

守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。

・トランジション:

ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:

ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・ビルドアップ:

オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。

・ファストブレイク:

元は恐らくバスケットボール用語。速攻のこと。

・プレスバック:

FWやMFの選手が自陣に戻りながら、ボールを持った相手選手に対し、味方と挟み込むなどしてプレッシャーをかけること。

・ブロック:

ボール非保持側のチームが、「4-4-2」、「4-4」、「5-3」などの配置で、選手が2列・3列になった状態で並び、相手に簡単に突破されないよう守備の体勢を整えている状態を「ブロックを作る」などと言う。

・マッチアップ:

敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

・マンマーク:

ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

・リトリート:

撤退すること。平たく言えば後ろで守ること。

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