2017年10月10日火曜日

2017年9月30日(土)16:00 明治安田生命J1リーグ第28節 サンフレッチェ広島vs北海道コンサドーレ札幌 ~忌避する理由~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、宮澤裕樹、荒野拓馬、石川直樹、都倉賢、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK金山隼樹、MF河合竜二、稲本潤一、石井謙伍、小野伸二、FW内村圭宏、菅大輝。ヘイスは右ふくらはぎ痛でこの週の練習を休んでおり、具体の症状を札幌は例によって隠していたがタイメディアによってバレていた(全治3週間程度)。兵藤は具体の情報がなかったが、試合2日前の練習中に右足腿裏に違和感を感じたとのことでメンバー外。マセードは首痛で直前の練習を休んでおり帯同していない。前節接触プレーの影響で途中交代のク ソンユンがスタメンに名を連ねたのは朗報である。
 サンフレッチェ広島のスターティングメンバーは4-2-3-1、GK中林洋次、DF丹羽大輝、千葉和彦、水本裕貴、椋原健太、MF青山敏弘、稲垣祥、アンデルソン ロペス、フェリペ シウバ、柏好文、FWパトリック。サブメンバーはGK廣永遼太郎、MF高橋壮也、森崎和幸、柴崎晃誠、野上結貴、森島司、FW皆川佑介。ヨンソン監督の就任後、リーグ戦で4勝3分2敗、ここ5試合は3勝2分と好調。低水準で残留ラインが推移していたこともあって16位まで順位を上げてきた。中断期間に獲得したパトリック、丹羽、椋原はいずれもスタメンに定着しており、GKは林卓人から中林、塩谷はアル・アインに移籍、パトリックの加入に伴いミキッチはメンバー外、という具合にメンバーも何人か入れ替わっている。トップ下はここ6試合起用されてきた柴崎ではなく、ドームでの前回対戦で前半札幌守備を切り裂いたフェリペ シウバ。青山の相方となる左ボランチは野上が務めてきたが、その第4節札幌戦以来のスタメン起用となる稲垣。


1.前半

1.1 セイブ・ザ・ライオン

1)手負いのライオン


 ヘイスの負傷に伴い先発起用されたジェイだが、39度の高熱を押しての出場だったことが試合後に明かされた。そこまで悪い状態でもジェイを使うという判断が、純粋に戦術的な意図であれば、やはり今の札幌は(ジェイ以外の選手も含め)"個"への依存度合いが大きすぎると感じるところはある。
 もっとも、コンディションに関係なく(このブログ及び筆者のtwitterアカウントで何度か指摘しているが)、ジェイは攻守ともにオフザボール、またトランジションやプレーの連続性においてJ1レベルのクオリティを見せているとは言い難い。
 細かく見ていくときりがないが、大半の試合でボール支配率50%を切る札幌において、まず問題となるのが、相手のビルドアップ部隊(主に最終ラインの選手)がボールを保持している時のファーストディフェンス。ジェイがセンターフォワードで起用されると、その対応の甘さ、またトランジションの悪さのためそもそも守るべきポジションにいない、という状況も散見され、ジェイの一帯は相手にとって「フリーパス状態」となることも少なくない。

2)ライオン親衛隊(1回目は罠)


 平たく言うと、札幌はジェイのワントップではファーストディフェンスに問題を抱えることになる。そこで四方田監督が高じた策が、ジェイの護衛として都倉を2トップ気味に最前線に配することだったと思う。
 序盤の両チームのラッシュが落ち着いた5分30秒頃、広島の最初のセット攻撃に対する札幌の守備は5-4-1だった。このときやはり札幌はジェイを頂点に置いているが、ジェイの脇を使われて広島のCB千葉の前進・サイドへの展開を許している。
5-4-1の頂点・ジェイの周囲を使って広島は前進・展開

 もっともこの時、前進してきたCB千葉をケアするのは2列目の選手の役目。千葉に殆どプレッシャーがかかっていないのはジェイ個人ではなくチームとしての守り方の問題である。
簡単に1列目を突破しサイドに張るSHへ

 そして札幌の、「5-4-1で対応したこの試合1回目の守備」は四方田監督が考えた一種の"罠"のようなものだったのかもしれない。以降の時間帯は、基本的に全て違う守り方…すなわち、都倉をジェイの護衛につける5-3-2に近い守り方をしていた。

3)ライオン親衛隊(4MFの"欠損")


 「2回目以降」の守備における札幌の初期配置は下の写真のような状態。中継だとカメラアングルの関係で、メインスタンドとバックスタンドの空間の見え方が異なるためわかりにくいが、白円で示した位置に札幌は誰も配していない。ここは本来、中盤を4枚で守るシステム(4-4-2や5-4-1)ならば選手を1人配しているポジションだが、札幌は都倉をここに置かず、終始2トップとして振る舞い、最前線でジェイと並んでいる。なおこの時は都倉(本来右)とジェイ(本来中央)の位置が入れ替わっているが、これについては後述する。
 一方でチャナティップは、都倉-ジェイのラインよりも低い位置、MFの宮澤と荒野と並ぶような位置で構えている。チャナティップのポジションを基準に考えると、5-4-1で片方のFW(都倉)が高め、逆に都倉のポジションを基準に考えると、5-2-3でチャナティップを低く置いた、という見方になる。
 両方の見方ができるが、数字が3とか2とかはあまり重要ではない。重要なのは、都倉とチャナティップに与えられた役割である。
5-4-1の中盤1枚欠け、又は変則5-3-2

4)ライオン親衛隊(護衛兵・都倉)


 都倉に与えられた役割は、ジェイと共に広島のCB2枚をケアすることだった。
 先述の「最初の守備」のように、最前線がジェイ1枚だとその周囲は使われ放題。欧州だと5-4-1の1トップの脇を2列目のMFがポジションを捨ててどんどん出ていきボールホルダーをフリーにさせない守備をしているチームもあるが、札幌でこれをやるのは難しい(できないとしたら、監督の問題でも選手の問題でもある)という判断なのか、単にやらないだけなのか、札幌は他のJリーグのチームと同様に、あまり5バックや4人のMFがオリジナルポジションを捨ててボールにプレッシャーをかけない。
 ということで、CBが攻撃の起点となる広島のようなチームに対し、相手のボールの出所をケアするには、最初から2トップにして前に2枚を置かなくてはならない。加えて札幌の場合、ジェイを1枚にすると(いてもいなくても同じというメンタリティなのか?)勝手にピッチを彷徨うなどして、1列目の守備は完全にゼロに等しい状態にもなりかねない。こうした事情があって、都倉を最前線に置いて、ジェイと都倉で千葉と水本をケアさせたのだと思う。
都倉を上げて2トップにして守る

5)普通のことをしない理由


 「守備を考えて2トップにしたいのはいいけど、なんで普通に5-3-2とかにしないの?」と思う方もいるだろうし、筆者も同じ認識なのだが、前節終了時の四方田監督のコメントで
--終盤の守備布陣について。
稲本(潤一)はどちらかというと3ボランチの経験が少なかったので、ダブルボランチという選択をしました。また、ジェイとチャナティップも3ボランチの形をあまり経験していないので、そうした中で判断をしました。
 というものがあった。要するに、タイのメッシことチャナティップを純粋な3センターの一角、インサイドハーフとして振る舞わせるのはそれもまた問題だ、という認識で、守備負担をあまり増大させないための折衷案として、変則5-4-1ないし5-3-2の守備陣形が生まれたのだと思われる。
 ただ「チャナティップは守備に難あり」というレッテルを貼るのは失礼だと思う。札幌の一員として数試合を見ていて、時折状況判断を誤っているような局面も見受けられるが、基本的には必要な時に必要なポジションを守っているし、この試合でもインターセプトからカウンターまで一人で持っていく局面もあった。風貌やイメージで勝手に決めつけられがちだが、香川真司の守備がクロップに評価されていたように、身体が小さいからと言って守備ができないということにはならない。

 また、実は前々節の神戸戦でもこの変則布陣に近い形が見られていた(イレギュラーなものかと思ったので、あまり記事では触れなかった)。神戸戦は都倉がトップ、ヘイスが右シャドーで、ヘイスのポジションはやはりチャナティップと比較すると高く、チャナティップは宮澤や兵藤と並んでいた。この時も、ヘイスと都倉で相手のCB2枚をケアする形が多く(数的同数で当たったことで何度もパスミスを誘発していた)、やはり四方田監督は数的同数の形を作ることが重要だと考えているのかもしれない。
ヘイスと都倉の2トップ気味の形

1.2 広島の認識

1)何の変哲もない前2枚布陣


 変則システムの採用と1回目の"罠"(?)を張った札幌だったが、広島は少なくとも札幌に対し、ピッチ上で何が起きているのかは把握していた。 
 広島は札幌について、変則的ではあるが2トップなのでその脇を起点にすることは問題なくできるという解釈だったと思う。札幌が広島のCB2枚に対する数的同数守備を企図しているならば、広島はボランチを1枚降ろせばよい。青山が主に右サイド、2トップ脇に落ちると、札幌はここへの対応が曖昧なので安全地帯になる。
一般的な2トップ系システムと同様に2トップ脇を狙う

2)札幌右サイドの"欠損"部位は早くから認知


 そして上記1)とも連動する話だが、都倉が2トップとして振る舞うので札幌には右MFの位置を守る選手がいない。この点も非常に早い時間帯から広島は認識しており、このポジションの"欠損"を突くべく柏やフェリペ シウバがスペースに位置取りをする。
柏が白円の位置に落ちてくる

 一方で序盤、広島の攻撃は多くが右サイド(札幌の左)からで、柏が仕掛ける局面は稀だった。これは右の青山を起点としていたため。広島の左サイドはCB水本、SB椋原で、どちらかというと左は守備に比重を置いている。札幌はこのことまで考えて左偏重の守備陣形を作ったのか、それとも選手特性(チャナティップは左、都倉は右という考え方)によるのかはわからない。ともかくスペースを享受する柏の仕掛けが札幌に致命傷を与えることにはならなかった。

1.3 ヨモ将が忌避していること

1)右サイドはどう守るのか?


 上記のように広島の攻撃は主に右サイドから。"欠損"を抱える札幌の右サイドが脅威にさらされる機会は前半さほど多くなかったが、広島が左サイドから攻撃を仕掛けたとき…札幌の手薄な右サイドを突いた時の局面として、下の5:57を見ていく。
 広島のバックパスを、札幌はやはり2トップが2CBを見る形で追い込む。広島は左SBの椋原に逃がすと、ここに札幌はWBの早坂が5バック化していた最後尾から出ていく。
CB2枚vs2トップ。SBの椋原に逃がす

 この局面で確認できたのは、基本的に札幌は右サイドの"欠損"を、早坂の前進守備でカバーするという考え方であること。他のやり方として、例えば中盤3枚…宮澤のスライドで対応するか、都倉が最前列にあまり滞留せず、プレスバックして中盤右サイドに加わるというようなやり方もある(体力的には相当厳しいが、ドルトムントがバイエルン戦で3年ほど前にやっていた)が、ピッチの横幅をMF3枚で守り切ることは難しい。また都倉も長い距離を走らされることとなる…と考えると、早坂を前に出すことは妥当ではある。
対応策は③(早坂の前進)

2)ヨモ将が最も忌避していること


 しかし早坂を前進させると、恐らく四方田監督のサッカーにおいて最も避けたいと考えられている現象…最終ラインのマークずれが発生しやすくなる。
 札幌の試合を見ていて、「なぜ高い位置からプレスをかけないのか」、「相手に好きなように持たせてリトリートするのか」という疑問を抱く人もいると思うが、それは恐らく連動したプレスを仕掛けた結果、最終ラインの枚数が欠けたりマークがずれたりするというリスクを回避したいためだと思う。
 そのため札幌は、殆どの試合で最終ラインの選手の守備の基準点を明確に設定していて、この日の広島のように4-4-2系(4バック+Wボランチ)のシステムが相手なら、札幌のWBと相手のSH、3バックで相手の2トップないし1トップとトップ下を見る、というマッチアップを極力崩さない。
 一方で、8月~9月にかけ、仙台と磐田にホームで連勝したが、この時はいずれも相手が3バックの3-4-2-1。札幌とは同じ布陣のミラーゲームなので、対面の選手を守っていれば最終ラインでマークズレは起こらない。言い換えれば、対面の選手を見ていれば、ハイプレスを仕掛けても破綻しない。これらの試合は、都倉を頂点に置き、前3枚で高い位置から守備を仕掛けたが、最終ラインは常に数的同数、マークがずれて混乱することもなかった。
最終ラインは一度設定したマッチアップを極力動かさない

 話をこの試合に戻すと、右サイドの"欠損"をカバーするために早坂が前進すると、早坂が本来見ているはずの柏をマークするのはスライドした菊地。この時、柏が中央寄りにずっと留まっているならいいが、大抵は早坂が空けた背後のスペースを使うべく、サイドに流れてくる。すると菊地はサイドに釣り出され、5枚で守っていたはずの最終ラインは3枚。
 更にフェリペ シウバが下の図のようにライン間で活動し、横山がチェックすると、最終ラインの中央右…菊地と横山で守っていたエリアには誰もいなくなる。このスペースにパトリックが走ってこればついていくのは福森しかいない…という具合に、早坂が前進したことで1枚ずつずれが生じ、マークの受け渡しも伴うと最終ラインにはギャップができる。
早坂が前進し4枚がスライドするもギャップができてしまう

3)与えたくないギャップとスペース


 上記1)、5:57で早坂が前進守備でSB椋原に対応した後の展開が以下。広島が自陣でボールを動かしているところに出ていくので、早坂は中盤の選手を追い越して高い位置を取っているが、当然この背後にはスペース(白円)。ここに流れてきたのは、この時は柏ではなくフェリペ シウバ。フェリペが降りてきたところで菊地がかなりタイトに寄せ、前を向かせまいとしているが、菊地が捕まえるのが一瞬(ほんの一瞬だけ)遅れたこともあり、ここはフェリペが巧くターンして前を向く。
早坂の背後でフェリペvs菊地

 ターンしたフェリペが加速しながらルックアップ。この時、最終ラインは石川が絞り切れてなく、横山&福森とパトリック&柏の2on2。「なんだ、数的同数だからまだ大丈夫じゃん」とも思う方もいるかもしれないが、DFにとってこのように前にスペースがある状態で背走しながらの対応は非常に難しい。
 加えて、菊地と早坂が無力化されたので、横山は右サイド(ボールサイド)のスペースもケアしなくてはならないので、この時の視線は横山はボール周辺。パトリックと並んで走っているが、パトリックが背後を取っている状態(しかもよーいドンなら圧倒的にパトリック)。
パトリックに裏を取られてしまう

 結局この時はフェリペの裏へのパスでパトリックが抜け出しかけるが、最後は逆サイドから絞ってきた福森のカバーリングでなんとかCKに逃れた。

1.4 変則システムの裏テーマ

1)動く(動かされる)都倉


 札幌の変則システム採用のメインテーマが守備にあるとしたら、その”裏”の要素として変則性を活かしたカウンターアタックについても考えられていたと思う。
 前半にいくつかあったカウンターの局面のパターンとして、広島のボール保持から見ていくと、まず広島が最終ラインでボールを保持し、ボランチの青山やSBを使って左右にボールを振る。ここで札幌は2トップ、特に都倉がCBや青山に対して出ていくが、この時、都倉は攻撃に転じると、殆どジェイと並んだ2トップのように振る舞うため、攻撃から守備に転換した際のポジションは、恐らく札幌の当初想定よりもかなり中央寄り、場合によってはジェイと左右が入れ替わっていることも何度かあった。そのうえで、都倉とジェイの守備意識の差もあり、広島の攻撃の始動役である千葉がボールを持ち、千葉⇒青山と展開していくと、ここにアタックするのは大抵都倉。ジェイはステイしている(恐らく水本を守備対象だと認識している)。
 ただここでの問題は、この試合の都倉の可動範囲はかなり広くなっていて、ピッチ中央からたびたびいなくなる。ジェイ1人では中央を守れないため都倉を置いていたはずが、都倉が中央からいなくなってしまい、広島にここを使われてしまうことが前半は多かった。
守備に積極的な都倉が頻繁に中央からいなくなる

2)チャナティップ=平間現象


 中央が空いたのを見ると、広島は千葉や稲垣が縦パスを狙う。千葉や稲垣が札幌1列目を突破してくるが、札幌のWボランチ、宮澤と荒野はなかなかアタックに行けない。これは中盤に2枚しかおらず、可動域を限定して考えないと相手にスペースを与え放題になってしまうということもあって、スペースを守りたいが故に迂闊に動けない、という状況もあったと思う。
 そのため簡単に広島は縦パスを入れてくるが、パトリックやフェリペへのパスについては、パトリックもフェリペも、前を向いた時に威力を発揮するタイプということもあって、札幌はCB3枚を中心によく潰せていた(この辺りは、マークを決めて極力ずらさないことの効果が表れている)。
CBの迎撃で奪った後はFWか、浮いているチャナティップでカウンター

 そして札幌はCBのところで奪うと、ボールを攻撃の選手に預けてカウンターを仕掛けたい。この時、広島の切り替えが速かったり、奪う位置が右サイドだったりすると、札幌の預けどころ、もしくはボールをまず当てる先は都倉かジェイになるが、札幌がカウンターからゴール前にボールを運ぶことができていた局面は、大抵チャナティップが絡んだものだった。
 都倉と非対称な形で左サイドに配されたチャナティップだが、体力の残っている前半は札幌が攻め込まれると大抵プレスバックして中盤を助けに来る。必然とカウンターのアクションを開始する位置も低い位置になるが、札幌はチャナティップを明確に守備ブロックに組み込んでいるというよりも、「半端な位置に置いて、状況を見て守備に加わる」という具合の運用をしていたので、チャナティップは左サイドよりの中途半端なポジションにいることが多かった。
 そしてこの中途半端なポジションが、広島の選手が攻守の切り替え時に捕まえにくいポジションでもあった。前を向いたチャナティップは、簡単には失わない。多くの場合、広島は右ボランチの青山が捕まえに行くが、青山の守備力とチャナティップの技術、機動力では後者に分があった。

2.後半

2.1 片翼の早坂

1)1列目は難なく突破


 後半も開始数分間は前半と同じように、両者ともロングボール主体のラッシュから始まった。徐々に展開が落ち着いていくが、札幌はようやくボールを保持できるようになっていく。
 この時間帯、DAZN解説の中島浩司氏が指摘していたが、ボールを保持する時間ができてからの札幌の攻撃でキーとなっていたのが早坂だった。

 52:30~の展開。ホームで勝ちたい広島は、札幌のボール保持に対して高い位置から当たってくる。前半も2,3度こうした局面があったが、札幌は開幕時の3バック…菊地・横山・福森が揃い、アンカー役として前を向ける荒野(守備は問題だが)。この4人が揃えば半端なプレスは問題なく回避できる。
菱形ビルドアップでプレス回避

2)到達点は仕掛けの手前まで


 広島の1列目を突破し、FW~MF間を使えるようになった札幌。崩しの段階では、広島が中央を固めること、前線にジェイと都倉が並んでいることで、サイドアタックに活路を見出したい。ただ、中島解説員の指摘の通り、広島は早坂と石川の両ワイドにボールが渡ると、SH又はSBが素早くスライドしてくるので、シンプルに早坂に出すだけではサイドで封殺されて終了してしまう。
椋原が早坂をカバー

 そこで札幌は早坂をすぐに使わず、FW~MF間を使ってサイドチェンジ。サイドを変えると、横幅を4枚で守る広島はボールサイドにスライドするので、反対サイドは大きく空く。
サイドを変えると広島はスライド

 反対サイドで何度か展開すると、早坂への監視は徐々に緩くなる。早坂はこのタイミングを狙っていて、53:19のタイミングで札幌随一のロングキックの持ち主、福森に渡ったところでボールを要求する。この時は福森から展開されなかったが、早坂がこうして高いポジションを取れるようになると札幌としてはチャンス。中島解説員も、早坂はいい動きを繰り返しているので、ここにパスが出てくるようになると更に札幌がゴールに近づく…という旨の見方をしていたのだと思う。
監視が緩くなったところでボールを要求

2.2 一進一退


 均衡が破れたのは60分。札幌ゴール前での競り合いから抜け出したアンデルソン ロペスの突破に菊地がファウルで止めてしまう。この試合、サイドで所在なげにしていたロペスだが、中央に進出してきたこの局面で大仕事、菊地にとっては痛恨のファウルとなった(菊地・横山の並びではゴリゴリ来られると厳しい)。このPKをロペス自ら決めて広島が先制。
 先制後、前掛かりになる札幌と、凌いでカウンターを繰り出す広島という構図。札幌が前掛かりになったことで一気にオープンな、別の言葉で言えば大味な展開となる。互いに前残り気味のアタッカーが仕掛け、DFがペナルティエリア付近で食い止めるというアタックの応酬。その中で、65分の丹羽の左足シュートが枠内に飛ばなかったのは僥倖だった。
 そして67分、札幌は自陣からのカウンター、やはりチャナティップが青山を振り切って前線にボールを運ぶと、都倉の左クロスから荒野がサポートし、稲垣のハンドを誘う。PKを都倉が決めて同点。広島のリードは10分足らずの時間だった。

2.3 ミッションコンプリート


 DAZN中継では80分頃、四方田監督がピッチ内の選手に対し「あと10分だ!」と声をかけていたとのリポートがあったが、追いついてからの札幌は勝ち点1でOKとの認識でプレーしていた。その中で足に限界が来た宮澤が75分に小野と交代、逃げ切りを考える局面でボランチ小野は戦術的にはどうかと思う節もあるが、ジェイを下げなかったことも考慮するとワンチャンスを狙っていたのもあったと思う。ただ札幌でワンチャンスを作っていたのはやはりチャナティップ。単騎で運べるチャナティップがこの時間帯にピッチに残っているだけで、後ろの選手は相当楽になる。
 勝ち点1では足りない広島は75分にフェリペに変えて皆川。皆川を誰と代えるか迷っていたようで、結果的には2トップ気味になり、高さを使ったプレーで残り15分を費やす。79分、皆川の落としから柏が決定機を迎えるが枠の外。ここも広島の決定力不足に助けられた形となった。その後、交代出場の内村(明らかに試合勘を喪失した状態だった)が嫌な位置でファウルを与えるなどもあったが、スコアは動かず1-1で終了。

3.雑感


 負けだけは許されない試合。といいつつも、やり方こそ多少変えてはいるが、全体としてのクオリティはこれまでの試合とそう変わらない。チーム戦術よりも個々の選手のタレントや経験が札幌の拠り所となりつつあり、若手など、ここまで出番の少ない選手は今後更に使いづらい状況になりそうである。ただこの試合後、インフルエンザで離脱したチャナティップ、膝を痛めたヘイスという前線の状況を考慮すると、金園や内村の奮起が待たれる。

2 件のコメント:

  1. 高熱を押して強行出場させるくらいですから四方田監督はどうしてもジェイを攻撃の駒として組み込みたいのでしょう。都倉をお供につけて強制的に軌道修正してまでですし…。

    動かされた挙げ句マークのズレが生じて守備崩壊というのは三浦コンサからの課題とも言えるかも知れません。三浦コンサの場合は4-4-2のゾーン一辺倒で入ってくる相手を捕まえるから動くのは禁止、高さのあるCBで固めてCBが4バックのSBのように攻撃参加するのも禁止っていうガチガチぶり。石崎コンサの場合は3バックにして(主に)2トップには1on1でついて1人余るといった格好でしょうか。いずれにしてもDFラインにおける守備の受け渡しというのはあまり考慮されないまま今に至っているような…。

    ジュリーニョが離脱しても攻撃が何とかなっているのは代わりにチャナがやってくれているのが大きいでしょう。兵藤も頑張ってますが、チャナはプレスバックもやってくれるので単純な差し引きではジュリーニョよりプラスかも。柏戦、ヘイスとチャナ抜きで勝つってのは相当無理ゲーかと(チャナはベンチ入りくらいはさせそうですが)。セットプレイ1発で火事場泥棒して、あとはひたすら耐えきるくらいしか…。

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  2. >フラッ太さん
    後ろ4枚でペナ幅から動かないやり方は結構ありますが(大抵SHが滅茶苦茶走らされる)、後ろ5枚があまり動かない、となると、非常に「いるだけ守備」に陥りがちですよね。シーズンオフに書こうと思ってますが、監督はその辺のバランスを開幕時から何度もいじっていて、結果今は4バック相手だとこのような守り方になってますが、仰る通り札幌ってずっとそんなサッカーなので根は非常に深いですね。

    ↑の話とも連動しますが、個人的には間で受けられないジュリーニョはあまりトップ下として評価していなかったのですが、札幌は必然とボール回収位置が5バックのラインと低くなりますね。監督がロングカウンターマンとして優秀なジュリーニョの前線起用に拘った理由はそこだったと思います。

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