2017年10月19日木曜日

2017年10月14日(土)13:00 明治安田生命J1リーグ第29節 北海道コンサドーレ札幌vs柏レイソル ~若武者をボーイに変える~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、宮澤裕樹、荒野拓馬、石川直樹、FW都倉賢、兵藤慎剛、ジェイ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF増川隆洋、MF稲本潤一、チャナティップ、マセード、小野伸二、FW内村圭宏。国際Aマッチウィークに伴う2週間のリーグ戦中断中、トレーニングのほかサポーターズデーの開催等で消化してきたが、ヘイスが1週間前のトレーニングで膝を負傷しメンバー外。タイ代表に招集されていたチャナティップは、インフルエンザで代表を離脱し、体調はまだ万全ではない。増川は初のメンバー入り。
 柏レイソルのスターティングメンバーは4-4-2、GK中村航輔、DF小池龍太、中谷進之介、鎌田次郎、古賀太陽、MF伊東純也、大谷秀和、中山雄太、ハモン ロペス、FWクリスティアーノ、ディエゴ オリヴェイラ。サブメンバーはGK桐畑和繁、DF橋口拓哉、輪湖直樹、MF小林祐介、キム ボギョン、武富孝介、大津祐樹。第22節からハモン ロペスが左サイドに定着し、右偏重だった攻撃の改善を図っているのかもしれない。第20節神戸戦で負傷し長期離脱中の、手塚の代役は主に小林が務め、前の試合は左利きのキム ボギョンが起用されたが、この日はマルチロールでもある中山をボランチに配し、最終ラインに鎌田。左SBはここ数試合、輪湖ではなくユン ソギョン。そのユンが負傷し(代表招集も辞退した)、代役は古賀。一方で負傷を抱えていたディエゴ オリヴェイラ、大津が戻ってきた。


1.前半

1.1 ホームアドバンテージ

1)変化を強いられたアウェイチーム


 前回、柏での試合は柏のサイドアタックを警戒する札幌の守り方が非常に特徴的だった。柏は攻撃時、2列目の選手は組み立ての段階ではワイドに張ってSBを助けることもあるが、基本的には中央に絞り、ペナルティエリア幅で活動する。陣形を整えたうえで、空けたサイドのレーンを活用しSBが攻撃参加する。このSBに対応する選手を用意しておくため、札幌は5-3-2の守備陣形で宮澤を走らせまくったが、結果的には前半でガス欠、後半のジリ貧を招いてしまった。

 前回はこのように、柏に対して変化を強いられた札幌、という構図から始まったが、この試合、変化を強いられたのは柏の方だった。幾つかのメディアで触れられているが、柏は厚別での札幌対策として①前線にブラジル人選手を並べる、②中山を中盤に起用する、という策をとってきた。
下平隆宏監督は、芝の状況を見極めた上で「厚別対策」として韓国代表MFキム・ボギョンをベンチスタートとし、ブラジリアントリオを先発に並べ、ロングボールにフィジカルを交えた攻撃を展開したかった意図を明かした。また、ジェイ、都倉賢の「ツインタワー対策」でDF中山雄太をボランチで起用し、競り合いに強い選手の枚数を増やしたという。

 考え方としては、①厚別のピッチで繋ぐのは非効率、②札幌も繋いでこないので肉弾戦に備える必要がある、という認識だった模様である。
 中山に代わってCBに入ったのは鎌田だが、180cm程度の鎌田ではジェイと都倉相手にいずれにせよ制空権は握れない。サブには190cmのCB橋口が入ったが、若手を積極的に起用する下平監督であっても、ここまでリーグ戦出場のない大卒新人のスタメン起用は憚られるところである。
 という具合に、柏は札幌の高さと、厚別のホームアドバンテージを非常に気にしていて、試合開始の時点で「いつもの形」(自分たちのサッカー?)から変化を強いられている。ピッチに立っている11人の選手の市場価値では柏が上を行くことには変わりないが、得意とする戦術で戦うことができないことは、必然と戦闘力を削ぎ、6月の対戦のように、ボールを動かすことで札幌に負担をかけることも難しくなる。

2)質的優位を活かしたい柏


 5:30頃、柏のCKを跳ね返した札幌は、荒野がドリブルで持ち込むが柏の帰陣が速くカウンターが成立しなかった。DAZN中継で解説の吉原宏太氏が「柏は一気にカウンターができる、札幌は一気に攻撃に持ち込めない」といつもの関西訛りのフワッとした解説を披露していたが、この場面に限れば、札幌が速い攻めを繰り出すことが難しいのは、長い距離を運べるような選手が都倉くらいしかいないため。対する柏はブラジルトリオに前線の伊東、計4人ほど、前を向けば一気にボールを運べる選手がいる。
 柏はこの4人が前を向いて走り出せば、それだけで札幌に対して脅威を与えることができる。ということで、柏の選手たちが言及しているように、中盤を省略してとにかく前にシンプルに蹴って、前4人の質的優位を活かそうとしてくる

1.2 攻守の収支


 ボールを持てる柏がシンプルに蹴るサッカーを展開し、あまりボールを持たない。ボールを持つことにこだわりがない札幌もシンプルに縦に蹴ることが多く、序盤は攻守が頻繁に切り替わる展開になる。

 柏の恐ろしいところは、2トップと2列目の2人の前にスペースさえあれば、攻撃が成立してしまうところ。例えば下のように、札幌が縦にボールを運び、柏の1列目~2列目のラインを突破したとする。この時、伊東はともかく、クリスティアーノ、ディエゴ オリヴェイラ、ハモン ロペスの3人は殆ど守備をしない。柏は1列目を突破されると、しばしばDF4枚+ボランチ2枚の計6枚ブロックでの対応を余儀なくされる。
 しかし裏を返せば、ボールを回収できれば強力な攻撃の駒が4枚も前残り気味にカウンターに備えている。札幌が中途半端な形で攻撃を終えてしまうと、攻撃参加したWBの背後のスペースはクリスティアーノや伊東の格好の餌。自陣でボールを回収して、前半は追い風となった厚別の風も味方につけてロングパスを送り、裏に強力アタッカー陣を走らせれば、後はクリスティアーノvs横山という勝負を制するだけ。「収支」という言い方をすれば、守備をしない分のマイナスは、カウンターで1発仕留めてくれればプラスが上回りお釣りがくるという勘定である。
スペースに走るだけでチャンスになる

1.3 生命線となった2列目のハードワーク

1)札幌は守備で収支を確保する


 一方の札幌にはクリスティアーノどころかヘイスもチャナティップもいない。この日の前3枚の組み合わせは、都倉・ジェイ・兵藤。初めての組み合わせとなったセットだったが、結果的にはジェイはともかく、都倉と兵藤のハードワークがこの試合のキーポイントとなった。
 柏がDFラインでボールを持つと、札幌は多くの場合、ジェイ1枚を最前線に残し、都倉と兵藤はボランチの位置まで下がる5-4-1で対応していた。ブロックを作ると、兵藤は必ず適切なタイミング、状況でボールホルダーへのファーストディフェンス…守備のスイッチを入れる。行くべきタイミングでいかない、ということがないので、連動する他の選手も迷いなく動くことができる。
守備のスイッチを入れる

 恐らくこうした中盤でのボールホルダーへのプレッシャーのかかり方は、四方田監督の就任以来最もクオリティがあった。兵藤、荒野、宮澤、都倉がそれぞれチャレンジとカバーを繰り返すことで、柏にボールは持たせても、安易な縦パスを許さなかった。
連動して動ける

2)連動した守備を担保するハイライン・コンパクト


 2列目の選手を中心としたハードワークに加えて、もう一つの札幌の守備のポイントが、陣形をコンパクトに保っていたことだった。このブログで何度か言及しているが、基本的に札幌の守備は低い位置に撤退しての"待ちの守備"であって、裏のスペースを与えない代わりにボールホルダーへのプレッシャーは弱くなりがちである。この試合では、そうしたこれまでの傾向がみられず最終ラインを高い位置に保っていた。
最終ラインはセンターサークルのすぐ後方

 最終ラインが高い位置に設定されていることで、守備時のDFとMFの距離が近くなる。それにより、守備時にチャレンジ&カバーの関係、また連動したアタック(チャレンジ)といったアクションが展開しやすくなったことが、守備面で好影響を与えていた。

 ↓の10:23の局面では、サイドでまず兵藤がボールにアタック。兵藤、宮澤と連動してボールホルダーにアタックし、ボールを敵陣側に交代させると、ジェイが連動して中谷にプレッシャーをかける。本来ならば1トップのジェイがもっとファーストディフェンダーとして機能してほしいところはあるが、兵藤に始まり中盤の選手が連動したことでジェイの気まぐれなディフェンスも無意味なものではなくなった。そしてジェイの動きに連動し、手前側では都倉が次にボールを受ける選手(鎌田)にアタックする。
兵藤がスイッチを入れ宮澤とジェイが連動する

 鎌田がハモン ロペスに縦パスを狙うが、菊地が前を向かせない。ハモンの落としを早坂がインターセプトしてカウンターにつなげることができた。
 鎌田がパスを出す瞬間、札幌は最終ラインが非常に高い位置にある。菊池・横山・福森という決してスピードのない最終ラインを、これだけ高い位置に設定できるのは、絶えずボールにプレッシャーをかけて裏へパスが出るタイミングを潰しているため。どこかでサボれば、柏は一発で裏に出すことができ、柏の強力FW陣が走って決定機となってしまうが、兵藤のスイッチに始まり、札幌は柏のボールホルダーがパスの循環と共に移り変わっても連動してケアできている。
縦パスを菊地が狙い最後は早坂がインターセプト

3)ボールをケアできないと陣地を明け渡してしまう


 上記で書いたように、いつもよりも最終ラインを高く設定し、ボールホルダーへのケアを強化した札幌。この二要素は相互補完的な関係にあって、どちらかが維持できなくなるともう片方の要素も維持できなくなる。
 特に危険なのが、攻撃→守備の切り替え時に札幌の前3枚が戻り切れず、中盤を2枚で守っている状態。中盤2枚…つまり兵藤と都倉が守備に加わらないと、枚数が足りなくなりピッチ中央を荒野と宮澤でカバーしきれない。となると柏のボールホルダーにプレッシャーがかからなくなり、ラインを高くしていれば裏へのパスが簡単に通って、スピードのない札幌のDFは振り切られてソンユンと1on1。
 これを嫌うと、札幌のDFはいつものように低い位置に撤退してスペースを消すしかなくなる。撤退すると、今度は柏にボールを持たせて、繋ぐだけのスペースを中盤で与えてしまう…という具合で、ボールをケアできないと陣地を明け渡し、防戦一方になってしまう。
ボールにプレッシャーがないと裏を狙い放題

1.4 若武者がボーイと化す圧倒的な強さ

1)柏のジェイ対策


 冒頭で触れたように、柏は札幌の高さを警戒していて、具体の対策としては、中山を中盤に入れてゴールキックを中山に競らせる、という考えがあったようである。実際には、中山のほか、185センチのハモン ロペスも可能な範囲で空中戦に加わることで、都倉やジェイとの競り合いでの負担を最小限に留めようとしていた。
 ただ柏の対策は、この日絶好調のジェイの前では無力だった。札幌の先制点の攻撃は、ソンユンのゴールキックにジェイが競り勝つところから始まる。ジェイは競り勝ちキープしたボールを自ら左サイドに展開、札幌はサイドから柏陣内に侵入する。
中山とハモンが競るが勝ったのはジェイ
サイドに展開

2)札幌の質的優位と柏のネガトラ問題


 サイドに運んだボールが一度荒野に戻される(14:23)。この時、荒野はボールを受けてからルックアップして前線に浮き球のパスを送るまで、柏は荒野をまったくケアできていない。これは札幌と同じような問題でもあるのだが、サイドの深いところに長めのパスで一気にボールを送られると、サイドハーフの選手が戻って対応しなくてはならない場面で、サイドや前線にあまり攻撃的な選手を並べておくと、どうしても長い距離を戻って対応するのが難しくなる(文字通りネガティブなトランジション)。ジェイが競り勝ってから荒野がパスを出すまでちょうど15秒。荒野をここでケアできていないというのは、柏は前線の選手の切り替えの強度が不十分だったと言わざるを得ない。
 そしてゴール前では、札幌のツインタワーに対して競っているのが鎌田と古賀。鎌田はいずれにせよどちらかと競らなくてはならないが、古賀vs都倉というマッチアップもかなり厳しい。札幌はシーズン序盤、都倉を必ずファーサイドで競らせて相手のSBを狙い撃ちしていた(シーズン途中からあまり狙わなくなった)が、それが復活したかのように、この試合は左から福森や石川が放り込み、ジェイが右サイドに流れて競る形が多かったが、ここで素直に古賀を都倉やジェイと競らせるのはあまりにも無防備。仮にボールが伸びて、ジェイではなく都倉が競ったとしても、恐らく都倉が勝っただろう(都倉の頭に当たっても宮澤の前に転がらなかったかもしれないが)。
荒野には特大の猶予


 38分には右サイドから宮澤がゴール前に上げたボールが風に押し戻され、飛び出した中村が触れなかったところをジェイが叩き込み2点目。中村、中谷、中山といった柏の若い守備陣だが、工夫もなくただ真っ向勝負で競り合うだけでは、ジェイによってボーイと化してしまった。

2.後半

2.1 悪化したバランス


 柏は後半開始から小池⇒武富に交代。伊東を右SBに下げ、攻撃の枚数を増やす。武富のコメントによると、後半のゲームプランもまずロングボールで前線の外国人に当てるという考えはあったようで、武富はセカンドボールを拾うべく前に張っていた、とのこと。
46分~

 武富の言葉通り、柏は前に4人を張らせたロングボール攻撃を継続する。ただ前半と状況が若干異なるのが、2点ビハインドなので柏の前線の選手はおそらく前半以上に意識が前掛かりになっていて、前張りの傾向がどんどん強くなっていく。必然的に、攻撃の際は前に4人が張るので中盤が薄くなる。
速いタイミングで縦ポン

 このロングボールを札幌が跳ね返すと、柏は前線4枚の足が止まってしまう。ボール周辺の枚数が多い札幌がセカンドボールを拾ってカウンターに移行する
セカンドボールは札幌に 柏は前後分断に

2)無理のあったキャスティング


 セカンドボールを拾った札幌の宮澤がカウンター。左サイドでキープしスローダウンすると、柏にとってはネガティブなトランジションだったが、なんとかクリスティアーノやハモン ロペスが戻ってくる。
なんとか帰陣するクリス

 しかしここでクリスティアーノは、守備対象の石川がボールを簡単にはたいてスペースに走ると、この動きについていくことなく石川をフリーにしてしまう。
石川についていかないクリス

 石川がフリーなので当然荒野は石川にパス。石川と小池との1on1が発生するが、サイドに広大なスペースができているのを利用して石川はマイナス方向に切り返してクロス。逆足のキックだったが、これだけスペースが与えられているとプレッシャーはさほどない状況。結果このクロスをジェイが合わせて勝負は決した。クリスティアーノはサイドで使えるだけの守備能力がないことを露呈してしまった。
クリスが追ってこなかったので悠々クロス供給に成功

3.雑感


 前半の試合運びについて、記事中で触れたように、いつもとは打って変わってハイライン・コンパクトな守備がある程度実践できており、ポジティブな印象を受けた。ただ柏の前線の個人能力を考えると、隙を作ると(一発で裏を取られると)即、終了というリスクがあり、2点目が入るまでは安心できなかった。2点目が入るまでに、兵藤に代表されるハードワークで持ちこたえられたこと、21分のソンユンのビッグセーブが大きかった。
 いつものサッカーを自ら放棄した柏は、攻撃が散発的だっただけでなく、守備でも強度が足りておらず中途半端になってしまった。ジェイがゴール前にいるよう調整したこともある(広島戦からおそらくそうしている)が、ジェイや荒野が快適にプレーできる環境は札幌が勝ち取った環境というより、柏が与えてくれたものだった。

3 件のコメント:

  1. パスで繋ぐというのが厚別では難しい(適応するのに時間がかかる)のでお互いに蹴り合う、放り込み合戦になるという読みはあったと思います。で、札幌の高さを封じればOKと相手の長所を消す(というより、それしか札幌側の長所がないw)アプローチを選択したことで却って柏の長所まで消えてしまったということになるのかな、と。荒野がクロス上げる時はえらい余裕ありましたからねぇ。
    後半こっちがカウンターって時に柏の方が戻りが早かったのを見たときには「えぇー…」とため息が出ました。アウェイゲームと同じように運動量、プレス勝負で来られたら負けていたのではないかと。ジェイがいくらハイボールに強くてもボールが来なければ置物にしかなりませんし…。結果が出た後なのでいくらでも言える話ではありますが、ジェイだけならまだしも都倉が地味に厄介で都倉をどこで捕まえるか高さ・強さを消すかに注力したというのもあるかもしれません。
    いずれにしても、前線に大駒を並べすぎたせいでコンサにおける兵藤のような動き回れる汗かき役がいなくなり柏のバランスが崩れたというのが味方した面はあったと思います。仲川あたりに走り回られたらコンサには相当ストレスになったと思うので…。

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  2. 仲川→中川の誤りです。訂正します。

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    1. >フラッ太さん
      ちょうど今FC東京戦を見直しているところで、柏との違いは、東京戦は最終ラインからジェイに直接当ててボールの前進を図るプレーが効いていたのに対し、柏戦はそもそもジェイに当てなくても柏が出てきてくれた隙を突いて前進ができていたのはあったと思います。厚別での試合の方が、より部活サッカー的な蹴り合いは知り合いだったというか。
      あと仰るように中川はやはり重要な選手ですね。おそらくシーズンを通じてあのサッカーだったり、ハモンやディエゴをベンチに置いておくというマネジメントが難しかったりといろいろと問題があると思うのですが、いるといないで全然別の戦い方になりますし、ブラジルトリオを1枚削って中川の方が嫌だったと思います。

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