2022年6月27日月曜日

2022年6月26日(日)明治安田生命J1リーグ第18節 北海道コンサドーレ札幌vsガンバ大阪 〜完成度の差〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • ガンバは水曜日の天皇杯(大分に3−1○)では倉田、齊藤、ウェリントンシウバ、山見、中村、昌子らが先発出場。大分相手に先行を許しましたが、リードを奪って昌子以外はある程度は休ませることができました。
  • システムは、前回札幌と対戦した5月頭あたりからは一貫して4バックのようです。ここ数試合、最終ラインの軸になっていた左利きのクォンギョンウォンが出場停止で、三浦と昌子の組み合わせ。小野瀬と黒川の不在はよくわかりません。前線はまだ組み合わせが見つかっていない模様で、パトリックと山見の出場機会が多めかもしれません。

  • 札幌は天皇杯で(甲府に1−2●)は岡村、菅、金子、宮澤、深井がフル出場。宮澤と深井はベンチスタートですが、体調不良によって前半でピッチを退いたシャビエルは5/14(vs鹿島)以来のスタメン起用。興梠とシャビエルの併用となると2/26の第2節(vs広島)まで遡ります。
  • 明るい材料はGK菅野の復帰。毎試合2〜3回のビッグセーブという最大の武器を失ったチームは、公式戦9試合で2勝(磐田と桐蔭横浜大)2分5敗でした。復帰したからもう大丈夫、と言っていいのでしょうか。もう一人、高嶺も練習に完全合流していたようですが、復帰は見送られています。そしてルーカスは試合前に手術のリリースがあり、数試合の離脱となるのでしょう。

見えない外的圧力:

  • 前節のマリノスとのゲームで、ガンバがハイプレスで試合に入ったことが話題になっていました。監督会見によると、マリノス対策だったというかは、今後も採用されそうな感じのことを言っていたと思います。
  • 前節はこのハイプレスから、7分にダワンのゴールで先制したガンバ。試合は逆転負けに終わったものの、戦略的な観点だと、ビルドアップに難があるなら自陣から敵陣にボールを運んで攻撃するよりも、敵陣で奪ってから攻撃する方が効率が良いので、この方針転換は理解できるところがあります。ただ、「選手のリクエストもあって」みたいな表現はやや気になるところですが。

  • 札幌もビルドアップに難があるチームなので、ガンバがプレッシング重視でくるなら難しい展開になりそうだと予想していました。
  • 札幌はどうもGKが大量失点の原因、みたいな風潮があるとして、鳥栖や鹿島にも4点、5点奪われて敗れているのですが、これらのチームはプレッシングと速攻を一定水準で備えており、リスク管理をしないし、そもそも相手のスカウティングをしない(とされている)ミシャチームにとっては苦手なパターンが見えている。そんな予感は少なからず試合前にはありました。

  • ガンバに関してもう一つ言うと、大分だと最終的に1ー0で勝つスタイルでも文句は言われない。しかしガンバだとカルチャー的に点の奪い合いというか、アグレッシブなスタイルが好まれるとするなら、そこは監督とカルチャーと、また選手との間で何らかギャップがあるといえるかもしれません。

2.試合展開

昌子とシャビエルのマッチアップ:

  • 実際の試合の入り方をみていきます。
  • 札幌とガンバは、互いに2人のCBを2トップがマークするところから始まるのは似ていました。2トップのマーキングに抜かりがなければ、フリーの選手を作ってボールを運ぶには、GKを使うか、誰かが降りてきてフリーになるとか変化を加える必要があります。

  • ただ、札幌はシャビエルと興梠がそこまで相手のCBに対して強く守れるタイプではない。このチームスタイルに変化した時は、前線は荒野、駒井、チャナティップでしたので、彼らを基準とすると強度は落ちています。
  • ガンバに対しても、ガンバが三浦、GK東口、昌子でボールを動かすと、シャビエルのところでマークが外れかけることがある。意図的にそうしている(誘導している)と見えなくもないですが、ミシャは殆どスカウティングはしないというので、おそらく違うでしょう。

  • 昌子がボールを持ったときにフリーならそこから札幌の選手が捕まえにくるまではドリブルで運ぶ(conducción)ことが推奨されます。そうしないと味方のマークが外れないためです(簡単にいうと)。
  • ただ左CBの昌子がこの位置でボールを持つと、左足で扱えばシャビエルから遠ざかるようにドリブルできるのですが、あまり左足に自信がないのかだいたい右足でボールを扱っていました。こうなるとシャビエルの守備で間に合ってしまって、昌子がフリーの状態から組み立てることは難しくなります。
  • もしくは、左足で持つと、明らかにパスレンジも精度も低下するということで、藤春や山見が昌子を助けるために下がってくる。彼らが高い位置をとってそこにボールを届けるとチャンスになるのですが、下がってくるとその狙いが達成できなくなります。
シャビエルのマークが外れかけるがそこから何も起きない

  • 結局ガンバはGK東口からのフィードで活路を見出すことになります。ここで両チームの相違点があり、ガンバのロングフィードのターゲットはトップのパトリック。札幌には明確なターゲットがいない。パトリックは右に流れて相手のSBを狙いますが、札幌は岡村と福森で分担して処理し、というかだいたい岡村がついていて、ある程度は跳ね返してくれるのでズルズル下がって守ることにはならなかったと思います。

小野瀬不在の影響(サイドバックの負荷):

  • ガンバは何らかボールを運ぶことに成功すると、アウトサイドからのクロスボール→パトリックが競ってセカンドを拾う、というここ数年よく見た形を何度か見せていました。
  • ただこの際に、左右両サイドともウインガーやドリブラーがいないため、ボールがサイドに入ってもそこからラストパスまでに更に枚数をかけなくてはならない状況が多かったと思います。山見はあんまりよくわからないのですが、倉田は選手特性的に必然とそうなりますし、山見も倉田も元々中央寄りからスタートすることが多くて、そこは多くを求められていない印象でした。

  • サイドを突破するためにガンバのSBが攻撃参加する。背後は誰もいなくなります。近年は両ワイドに攻撃参加が得意なSBを置くことが減った気がしますが、SB両方同じタイプにして攻撃参加させると中盤とかCBがカバーしないといけないから、というのもあるでしょう。
  • どっちかのサイドはウインガーで、どっちかはサイドバック、とかがバランス的に多くなってきたように思えます。小野瀬がいたらそういうバランスにできるし、1人でサイドを任せられるので枚数をかけなくてもいいのですが、このガンバのやり方だとバランスが悪くなります。
高尾が攻撃参加した背後が空きがち

  • 一応ガンバはDFが3人残っていて、奥野かダワンも攻撃参加しないで残っていることが多いのですが、その人員配置がうまくない感じもしました。
  • 札幌は自陣に下がって守る時は、興梠1人だけがトップに残って、その興梠も裏に抜けるよりは下がってボールを収める仕事の意識が強いので、ガンバは後ろに3人も4人も必要なかったはずです。

遂に本領発揮?:

  • 対する札幌がボールを持っている時のプレー。ガンバは荒野と岡村を、パトリックと石毛で見るところからスタート。駒井がアンカーですが、そこはダワンか奥野が見るようになっている。

  • マリノス相手に何度か決まったガンバのプレスがあまりうまくいかなかったのはいくつか理由があります。
  • 一つは、ガンバの2トップは決まった人しかマークしない傾向が強いので、例えば中央の駒井に対し、ダワンや奥野が遅れていても、パトリックは味方に指さしして「お前だよ」とするだけ。その間に札幌は待ってはくれないので、菅野から駒井に渡してガンバの1列目は無力化されます。

  • 二つ目は札幌のGK菅野の貢献で、菅野は田中駿汰に直接フィードできる。札幌のGKだと、かつて「ソンユンの課題は何ですか?」と」質問されたときに、CBを飛ばしてSBにフィードできるといい、と回答したのですが、38歳の菅野がかつてソンユンに望んだプレーを再現度高くできるようになっています。小次郎もこれくらいの距離はけれるのですが、菅野のフィードは低く速い軌道なので、相手のDFが追いつきづらいボールになる。
  • ガンバは倉田と山見は福森と田中駿汰を見る役割だったと思います。ただ、この2人は割と中央寄りにいることが多くて、それはおそらく青木やシャビエルが落ちてくると、奥野やダワンの脇を誰かが見なくてはならないので、自然とそうなったのだと思います。札幌のDFとの噛み合わせはあまりよくありませんでした。
菅野のフィードから
  • 三つ目が、青木や興梠が落ちてくる場合のガンバの対処。特に、青木がアンカーくらいまで落ちて、興梠がシャドーくらいに落ちてくることが頻繁にありました。
  • 青木はダワンか奥野が見るのが妥当なのでしょうけど、ガンバはこのポジションチェンジ(及び、マークを入れ替える必要性)に対してやや鈍感で、青木は割と簡単に前を向けていました。駒井はこの時は、前に行って青木と入れ替わったり、割と自由にやっていたと思います。

  • あまり私はこの形は本来、有効だとは思わないです。なぜなら興梠はゴール前でゴール方向を向いて「あとは決めるだけ」を解消するのが本来の役割だから。青木もシャドーとしては本来そうでしょう。前にいるのはシャビエルと、大外の金子と菅だけ。ワイドの選手はゴールまで距離があるので、実質シャビエルだけがストライカーの役割をできることになる。
  • ただそのシャビエルの好調もあって、1人でもガンバDF相手にそこそこ脅威になっていて、20分過ぎの▼のシチュエーションだと文字通り1人でシュートまで持ち込むプレーも見せます(明白なオフサイドでしたが)。

ガンバDFの構造や関係性:

  • このプレーはシャビエルがガンバDF(三浦)よりも動き出しが早かったのは差し引いても、ガンバの守備の構造を察するに好都合でしょう。菅野→田中駿汰のフィードは先に説明した通り。青木が右サイドにかなり寄ってくるのですが、ダワンは前に出て駒井を見ているので、奥野が青木を捕まえるためにかなりの距離を移動している。
  • 青木→シャビエルに出る瞬間をよく見ると、ピッチ中央には誰もいない状態になっています。この時は真ん中に誰もいなくても直ちに何かが起こるわけではないけど、ガンバのCBは前方向を意識して守らないといけない構図だったとは言えると思います。

  • 映像がないので詳しく触れませんが、30分くらいに札幌の荒野の中央スルーパス→青木が抜け出してGKと1対1、があり、この時もガンバDFが簡単に背後をとられたのは、中盤でフィルターがかからなくてCBが前に出て潰すか考えていたのだと思います。

  • このCBと中央MFのエリア以外にも問題だったのが、左SB藤春のところで札幌のSB金子とシャビエルとの1対2の関係をどう処理するかが不透明なところ。この構造は4バックvs前線に5枚並べるチームのマッチアップであるあるなのですが、ガンバはSB-CBの間のスペースに無頓着だったと感じます。
  • 自陣ゴール前だと、CBはステイなのでしょうけど、ハイプレスで押し切るなら4バックは横スライドするとかしてボールへの圧力を維持しつつ、どこでボール回収するかを明確にする必要があったでしょう。

  • 後半の得点の場面を確認します。セットプレー(札幌CK)から一度ガンバボールになって、速攻を札幌が札幌陣内で止めたところから。ですので札幌もガンバもやや配置は崩れています。
  • 駒井が左CBの位置にいて、福森からのパスを受けてDFが外れたのを見てドリブル。この運ぶ判断は非常に良かったと思います。もたもたしてたら、前でプレスしていたガンバの選手の戻りが間に合っていたからです。

  • ガンバについて気になるのはたくさんあるのですが、最終ラインは三浦が背後の興梠に引っ張られて下がる。昌子はシャビエルを見て、藤春は大外の選手を見ていて中央に絞るのが遅れたようです。駒井がガンバの2列目を切り返しで剥がしたのは見事ですが、その先には広大なスペースがあって駒井はモーセになりましたね。
  • ガンバの最終ラインの対応を見て思うのは、「まだここで札幌のFW捕まえなくていいし、背後は背後のDFに任せればいいんじゃない?」というものです。三浦の背後で興梠が動いている時に、三浦が一気にラインを下げてしまったので、仮に昌子が前でアタックしたくても出にくくなります。興梠の動きはゴールから遠ざかる典型的なおとりの動きですので。
  • そして藤春が大外を見ていて中央に絞るのが遅れるのもそうなんですが、ガンバのDFは相互に背後を守る関係性がないから三浦が興梠から目を離せない、ということもあったでしょう。
  • 普通はここは中央を守るのが大前提なので、三浦か昌子が前に出る、その分他の選手が中央に絞る、サイドに出されたら一気に寄せる(この、寄せとかスライドとかプレスバックのパッションは、ダワンの様子を見てもガンバは全体的に足りないかも)がセオリーですが、前半からうまく行ってなかったのもあって、曖昧な対応に終始してしまった感があります。

雑感

  • 札幌がガンバを「攻略した!」と言えるのでしょうかね。普通は、相手がこうしてくるからこちらはこうしよう…と対策を立てて実践すると「攻略」なのでしょうけど、いつも通りプレーしていたらガンバが全然はまらなかったという感じですね。この相手だと札幌の方が明らかに完成度が上でした。
  • ガンバは後半頭から5バックにするとかしかなかったと思います。交代カードが石毛→中村で、そこまで形を変えない選択をしたことは、この試合に限っていうならば札幌にはラッキーでした。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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