1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 横浜は厳しいシーズンでした。4/8に早川監督が就任し、5/26の福岡戦からは韓浩康が中央に入る3バックの1-3-4-2-1が多いようです。噂では、夏のマーケットで加入したGKブローダーセン、FWサウロ ミネイロといった選手はまずまずのクオリティで、彼らの個人能力を押し出しているようなチームに変わったと聞いていましたが…この日は前線は日本人選手3人のユニットでした。
- 札幌はジェイが帰国して、また”インパクトプレイヤー”(横浜ではサブの選手をこう呼ぶようです)にFW不在のスカッド。
2.試合展開(前半)
横浜FCの基本スタンス:
- 三ッ沢のメインスタンド上段からだと、普段見えづらいディティールもよく感じ取れる気がします(ただしスタ飯のバリエーションの乏しさと、そこにたどり着くまでのコンコースの使い勝手の悪さとかは正直なところJ1の”スタジアム”としては限界だなと感じました)。
- 単にポジショニングだけではなくて、選手の視界確保だったり様子というか振る舞いを総合的に考慮した上で言及すると、横浜が1-5-2-3の陣形を敷いて、札幌にボールを持たせる選択から試合がスタート。
- この時、横浜の1列目は、トップの渡邉が札幌のCBではなくてアンカーの駒井を意識、シャドーのジャーメイン(この選手がメインスタンド側なので振る舞いをよく見ていました)と松尾が札幌のサイドのDFを意識します。最終ラインは5枚でマンマーク気味に対応し、中盤センターの瀬古と安永は入ってくるボールなり選手に対処するためポジションを守るところからスタート。
- 札幌は田中と福森にボールが入ったところから組み立てが始まるので、この2人を意識するのはわかるのですが、ただ宮澤と高嶺に殆どプレッシャーがない状態で、高嶺(運ぶ意識が低めでミシャによく怒られる)はフリーでするすると持ち運ぶことができる。
- そして、高嶺をフォローする必要がないと確認した福森は徐々に高い位置を取るのですが、そうするとジャーメインは福森に出ていけるポジションに、福森に連動するような感じで下がる。
- そうなると横浜はますます札幌のDFに圧力がかからない状態になりますが、多分「これでいい」とのスタンスなのだろうなと思います。ボールは持たせるから、後ろで跳ね返して何らか回収して、そこからリスタートしようという考えだったのでしょう。
- 一応、横浜は、札幌のゴールキックの時だけ前線3人でのプレッシングの形を持っている。札幌の[1-4]の中間ポジションから、ボールホルダーを1人ずつ捕まえて、アンカー[1]の駒井には安永か瀬古がマンマークでついていくことで、札幌に長いパスで回避することを迫っていたと思います。
- ただこれは札幌のGKでのリスタートの時だけしかしないので、ゲームプランとしては、やはりあまりプレッシング+速攻の用意はしていなかったと言えるでしょう。札幌がボールを保持しているときに何度も"小休止"することはあって、そこでギアを上げると面白そうではありましたが、横浜にはそうしたエネルギーは欠けていました。
持たされるとどうなるか(このチームの傾向):
- この(監督体制下での)チームの試合を100試合くらいは見ているのでわかるのですが、「持たされる」状態になると、まずCBやアンカーは相手の前線の選手から解放された状態になるので小気味よくボールを動かします。
- ここだけ切り取ればメリットしかないように思えるのですが、結局後ろで動かしてもそれはゴールには直結しない。最終的には相手ゴール前で誰がどうプレーするかにかかっていて、その際にクオリティを発揮するためのリソースがスペースです。「持たされる」と相手は大体ゴール前を固めているので、肝心な部分は未解決、棚上げ状態のまま個人のアイディアや即興に頼ってプレーする傾向が、札幌の場合は多いでしょうか。
- ただ、この試合は、それにしてもあまりにも横浜が持たせすぎ、札幌の後方の選手にスペースを与えすぎだったと感じます。いつもそう、ってわけでもないですが、高嶺や駒井は横浜陣内に侵入しても、5秒くらい何もしなくてもボールを保持できたりもしていて、まるで素人のフットサルみたいな緩さだな、と感じました。
特にサプライズなく…:
- その駒井だったり、高嶺だったり、たまに下がってくるチャナティップだったりが前線5人の誰かに預けると、そこから仕掛けが始まって、成功すればゴール前の攻防、失敗すれば横浜のペナルティエリア付近でボールロストからトランジション。この際、右ウイングの金子に一番ボールが集まるのはいつも通りです。
- ぱっと見た感じ、個人で仕掛けるにあたり、札幌にとって明らかに分が悪いマッチアップみたいなのはなくて、金子も力強い突破を見せていましたし、チャナティップに対して横浜は本来SBの岩武をCBでぶつけてきましたが、ここもチャナは簡単にボールを失わない。指摘するとしたら、おそらくスペースに走る方が得意そうなトゥチッチは、韓を背負った状態であまり収まらなかったでしょうか。
- そして6分に、左CKから小柏がファーで詰めて簡単に札幌が先制します。
🎥Match video🎥
— 北海道コンサドーレ札幌公式 (@consaofficial) December 4, 2021
【2021明治安田生命J1リーグ 第38節】
横浜FC VS 札幌
前半6分に先制点。
小柏選手が放ったシュートが相手DFに当たってネットを揺らしました。
小柏選手2試合連続ゴールです!#consadole #コンサドーレ
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- スコアが動いた後も特に横浜はギアが上がる感じがない。ボールは、GKからならトップの渡邉かジャーメインに当てて、安永が頑張って拾おうとしますが、競るところも拾うところも札幌に対して勝てそうな感じがあまりしませんでした。
- 個人的には、長い距離を走れそうなジャーメインがそれこそ福森の背後を狙っていくのかと思っていましたが、ジャーメインは前残り気味ではあるのですが、トップに近い位置によくいて、サイドのスペースを突いていく狙いはあまり感じられませんでした。
- 横浜の前半最大の得点機は15分、札幌のビルドアップのミスを拾って渡邉が左サイド角度のないところからシュート。菅野がしっかりとコースを消してブロックします。
- 飲水タイムを過ぎても相変わらず札幌が”自由に”ボールを動かします。前線5人に加えて、駒井が時折前を向いた状態から中央に突っ込んでいく。
- 普通この位置・役割の選手があまり突っ込んでいくプレーは少ないと思いますが、駒井の選手特性によるとも言えますし、もしくは横浜が中盤でかなり緩めの対応だった(駒井が突っ込んだ後でカウンターを狙ってるとかもプランとしてはアリですけど、そうは見えなかった)ことの象徴とも言えるかと思います。
- 計算外だったのは、前半終了間際に立て続けにトゥチッチと田中が負傷交代。最終ラインに柳、そして中盤に荒野が入って、駒井が右シャドー、小柏がトップにスライドして後半のキックオフを迎えます。
3.試合展開(後半)
a symbolic game:
- 横浜は後半になってもメンバーもスタンスもあまり変わらなかったと思います。
- 変化があったのは札幌の方で、相手ゴールに最も近い位置・役割に小柏。この小柏が、絶えず対面の韓の視界から消えつつ背後に抜け出す動きをして、高めのラインを維持したい横浜最終ラインを牽制します。高嶺や福森(今日はあまり放り込まなかった)からのパスで1発で裏を取るのもありますが、これをやると横浜のライン間にスペースができる状態になる。残念なことに、シャドーの駒井もチャナティップもあまりスペースよりも、ボールに寄る(下がって受ける)ことを好むタイプなので、ライン間に誰も待っていないという状態でしたが、小柏の能力の高さは垣間見れたでしょうか。
- ただ、60分以降に両チームがカードを切って、横浜はブラジルトリオを投入、札幌は荒野、深井、岡村と起用できるカードを最大限に切るのですが、これで荒野がトップ、小柏が右シャドー、駒井が左シャドーの形になると、また小柏がシャドーとMFの中間のようなタスクに変化して、トップでDFと駆け引きをする機会が激減します。
- 結局、2021シーズンのコンサドーレは前線で小柏以外に計算のできるアタッカーがいない(アンロペの移籍後。チャナティップや駒井はMFとしてみるとして)ので、右シャドーでもトップでも小柏にやらせたいタスクが多すぎて、ゴール前で勝負できる機会がそもそもかなり少なく、そうしたチーム事情が表れた象徴的なゲームだったかもしれません。
- 試合はその後もあまり動きはなくて、横浜はトップにパワーのあるクレーベを入れてダイレクトな展開を強めようとしたのかもしれませんが、宮澤が彼に対しては難なく対処していました。カウンターから、左シャドーの松尾が仕掛けて、中央に折り返した時に右シャドーに入ったフェリペ ヴィゼウと福森のマーク関係がちょっと怪しかったりはしましたが、最後のクオリティ不足もあって菅野がゴールを守り切りました。
4.雑感
- 2試合続けて、図を描いて皆さんに説明したり、個人的に記録したいと思うようなトピックがなくて文章だけになってしまいました。
- ミシャ体制4年目は、スカッドの予算不足もあって戦術的には進歩がないように感じましたが、開幕戦や2020シーズンの様子からガラッと変わってしまった横浜FCを見ると、変わらないまま(変化を強いられないまま)シーズンを乗り切った札幌は、ある意味幸せと言えるのかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
※今冬はTOEICの勉強を頑張るので更新控えめです
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