2018年1月1日月曜日

北海道コンサドーレ札幌の2017シーズン(1) ~危機を好機に~

0.21年目の出発点

0.1 二刀流で制したJ2


 北海道コンサドーレ札幌が2016年のJ2リーグにおいて、42試合、勝ち点85という成績で優勝とJ1昇格を成し遂げることができた要因はいくつかあるが、端的に札幌の勝因を挙げると、①札幌よりも戦力が上~同程度のチームに対して「弱者のサッカー」で勝ち点を積むことができた、②札幌よりも戦力が下のチームに対して、安定して勝ち点を積む武器を持っていた、と筆者は考える。22チームが参加するJ2は多様性に富んだ長期戦であり、前評判の高いチームであっても、戦術が読まれて対策を講じられた時に、"プランB"を持たないチームは勝ち点が伸び悩む傾向にある。四方田監督率いる札幌は、強者のサッカーと弱者のサッカーの二刀流を使い分けることで効率よく勝ち点を積んでいった。


0.2 2016年のチームの根幹とネック

1)拠りどころとなった強烈な個


 一方で、二通りの戦い方を使い分けながら、共通してベースとなる戦い方として、ボールを相手に支配されながらも、FW3人の個人能力を活かしたカウンターを攻撃の軸としていたことが挙げられる。野々村芳和社長は以前より、強化費や予算面を念頭に、札幌の戦力はJ2リーグでも6番目程度だとの旨の発言を繰り返していたが、都倉賢、内村圭宏、ジュリーニョ、ヘイスという年間15ゴールが期待できるFW4人を保有していたチームは他になく、この部分のスカッドにおいては間違いなくリーグで上位だった(加えて、J2は毎年論外な予算の使い方をするチームが2つ程度あるので、強化費が6番というのはかなりいい位置にいる)。
 2016シーズンに四方田監督が徹底していたのは、このJ2随一のFW陣を最大限に活かすことで、そのためにはまずとにかくピッチに3人を同時に立たせること。札幌のシステムは3-4-1-2と表されたが、実態は前3枚がほぼFWとして振る舞う3-4-3然としたものだった。第9節でジュリーニョがトップ下でスタメン起用されてからこの傾向は顕著となり、守備はDFとMFの7枚+GKク ソンユンで耐えて、前3枚はあまり守備では細かい仕事を求めない、というバランスは、先に述べた"二刀流"、強者のサッカーでも弱者のサッカーでも共通していた。
 このFW3人を同時にピッチに立たせる戦略ことが功を奏し、実質就任1年目の四方田監督の下で、札幌は最終的にリーグ2位の65得点を挙げる攻撃力を手に入れた。またシーズンのクライマックスとなった41節のジェフ千葉戦、都倉の超人的な得点が決まった24節の松本戦など、窮地で都倉や内村のスーパーな個人技が炸裂し、際どい試合を拾ったことも幾度とあった(加えて、福森のセットプレーも言及しないわけにはいかない)。

2)見つけられなかったソリューション


 一方、持ち駒の能力を活かすためにFW3人をピッチに立たせるシステムは、守備のバランスという点では最後まで最適解が見つからないままだった。2016年シーズンによく見られた状況を以下に示すが、特に試合後半において札幌は前3枚と後ろ7枚が分断し、MFの周囲において相手にスペースを与えやすくなっていた。(なんでこうなるのかは、過去の記事を漁ってみて下さい)。
(2016年J2第26節)

(2016年J2第41節)

 日本代表のハリルホジッチ監督がコンセプトを示すように、欧州のクラブシーンでは攻撃と守備、加えてその両局面に介在するトランジションを含めた試合の局面全体のシームレス化が進んでいて、またそうした中で、トップクラブの選手には攻守のあらゆる局面でゲームに関与することが求められている。言い換えれば、守備専門のセンターハーフや、点を取るだけのFWは淘汰されつつある。
 対する2016年の札幌の考え方は非常に"攻守分業"的なものだった。後ろはソンユンが守ってくれる、増川が跳ね返す。前にボールを出せばヘイスや都倉が何とかしてくれる。敵陣でファウルを得られれば大半が得点機になる。なので中盤でボールを持たれても、バイタルエリアに簡単に侵入されても最終的に勝ち筋を残せる。
 このことはスタッツにも示されており、試合展開にかかわらず札幌は特に試合後半になると相手にボールを持たれ、攻め込まれることが多かった。
北海道コンサドーレ札幌の2016シーズン(3) ~先行逃げ切りスタイルの裏~

 中盤が瓦解し、相手がボールを持ち、攻め込まれる局面が多くなれば、最後はゴール前の攻防で決まる。普通のチームなら決壊してもおかしくない状況でも、札幌には"専門家"である増川やク ソンユンがいた。この点においては、攻撃だけでなく守備も"個"によるところが大きいチームだった。



1.開幕はマイナーチェンジで

1.1 3週間の突貫工事


 2017シーズンの開幕戦に四方田監督が送り出したメンバーは、3バック+3センターの3-1-4-2だった。中盤は深井を中央に置き、宮澤が左。キープレイヤーとして期待されていた兵藤が負傷の影響でベンチスタート、キム ミンテが右で起用された。2トップは都倉とジュリーニョで、内村はベンチスタートとなった。2016シーズンの立役者である内村は、以後受難のシーズンを過ごすこととなる。
開幕戦のメンバー

 札幌はキャンプ期間中、非公開のトレーニングが多く、約1ヶ月間でどのようなアプローチがされていたのかは不透明な部分も多いが、報道によると、キャンプ序盤は2016シーズンの戦い方に近い、2ボランチの3-4-2-1を試していて、2/5に行われたトレーニングマッチの浦和戦の後に中盤センターに3枚を置く3-1-4-2に切り替えたということだった。
 3-4-2-1も、前のシーズンの3-4-1-2と比較すると、前3枚のスタートポジションが変わり守備に移行しやすくなる点では守備寄りのバランスになってはいる。しかし3-4-2-1であっても3バックに中盤センター2枚、前線に攻撃の選手3枚という人数配置は不変であり、(兵藤や金園の加入はあったにせよ)ピッチに立つ選手のキャラクターも変わらないため、この浦和戦の結果(35分×4本で行われており、主力が出場した1・2本目は合計スコア1-4)が示すように、3-4-2-1の採用によっても、2016年シーズンの課題の解決は難しかったのだと予想する。

1.2 まずまずの守備が攻撃につながらない


 開幕から3試合を3-1-4-2で戦った札幌。守備の面では、第2節こそミスや相手のスーパーゴールもあって3失点を喫したものの、開幕戦と第3節は1失点に抑えまずまずといったところだった。
 一方で、攻撃面は3試合で得点1にとどまっていた。この数字以上に課題となっていたのが、守備から攻撃への移行がほとんど効果的にできないことだった。
 シーズンの序盤、サポーターのブログやSNS等で見聞きした意見に「5バック+3ボランチでは守備的すぎて攻撃が機能するイメージがわかない、2ボランチにして攻撃の選手を増やすべきだ」というものが多く見られたが、この指摘はごもっともであって、5バック+3ボランチで守備ブロックの強度は増したものの、ボールを回収した後の攻撃への移行はあまり緻密にデザインされた戦術だったとは言えなかった。
 第2節の横浜F・マリノス戦で顕著だったが、守備時に札幌は5バックと3センターで8枚のブロックを組んで撤退することでスペースを消し、ボール周辺の圧力を高めることで失点を防ぐ。1on1では対応が難しい選手に対しても、枚数を確保しプレーの空間を奪い、カバーリングの関係を作ることを徹底することで前半は失点ゼロで凌ぐことができた。
(3/4 第2節の記事より)人数をかけて奪うことはできるが…

 しかしボールを奪った後、あまりに重心が低いと、スペースを使ったカウンターを繰り出すことが難しくなる。また攻撃時3バック⇔守備時5バックの変換を行うには、攻撃に転じた際にボールをキープすることで、変換をする時間を捻出することが必要になる。

 近年、3バックで結果を出しているチームは必ずこのいずれか…奪った後の強烈なカウンターか、ボールキープで陣形を整える仕組みを持っている。開幕当初の札幌は、ピッチ上のあらゆる局面において、ボールを保持することによるリスクを徹底して避けていたので、例えば最終ラインの3枚でボールを保持して時間を作るようなプレーはほぼ全く見られなかった。となるとかつてのクライトンのように、個人でボールをキープしてくれる選手がいると助かるのだが、頼みのヘイスはお母さんの手料理の影響でウェイトオーバー、期待の金園は負傷で開幕から欠場、という状況だった。
(3/4 第2節の記事より)素早く展開できなければ潰される

1.3 否めない枚数不足


 となると札幌の攻撃は必然とダイレクトなものに限られるが、2016シーズンはFWが3人いたため前に放り込めば3枚は攻撃の枚数が確保できる。しかし3-1-4-2(守備時5-3-2)にしたため、前に蹴っても都倉とジュリーニョの2枚だけ。都倉をゴール前でフィニッシャーとして残すと、ジュリーニョがゴール前までボールを運び、ラストパスを出すという役割を1人で担わなくてはならなくなる。
 開幕当初、この攻撃面において四方田監督はジュリーニョに対する期待が高かったのだと思われる。というのは、都倉、内村、ジュリーニョ、ヘイス、金園、菅というFW陣において、30m程度の距離をスプリントしてカウンターを成立させる能力がありそうな選手がジュリーニョと都倉くらいしかいないため。膝に不安のあるヘイスや、一瞬のスピードはあるが長い距離を走り切ってフィニッシュに持ち込む強さはない内村には、"カウンターマン"としての役割は務まらない。都倉は走力はあるがボールを運べるタイプではなく、また空中戦でのターゲットという重要な役割も担っている(チームとしてボールを運べないので、ゴールキックやDFからの放り込みをまず都倉が競り勝つことでマイボールにする必要がある)。
 開幕当初、札幌の数少ない攻め筋はロングボールを都倉に当て、セカンドボールを拾ってジュリーニョに渡し、ジュリーニョが持ち込んで都倉と2人でフィニッシュに…という、人数も手数もかけないシンプルなものに限られていた。開幕2戦はキム ミンテが中盤で出場しており、持ち前の走力を活かして最終局面でのターゲットとして加わることもあったが、多くの場合はジュリーニョのクロスに飛び込むのが都倉1枚のみで、攻撃のクオリティ不足は否めない状況だった。
(2/25 第1節の記事より)都倉に当ててジュリーニョが持ち込む


2.思わぬ転機


 守れるけど攻めれない、そんなジリ貧の戦い方を変えたのはキャプテン宮澤のアンカー起用だった。
 第5節、甲府戦で深井がシーズンアウトの大怪我で離脱すると、四方田監督の選択は宮澤をインサイドハーフからアンカーに移動、宮澤が担っていたインサイドハーフには荒野の起用というソリューションを示した。背番号こそ10番だけど、プレースタイルはここ2シーズンほどbox to boxとしての汗かき役に徹していた宮澤のアンカー起用はどう転ぶか読めないと見ていたが、結果的にはアンカーを務めた第6節~第12節にかけて完全に中盤を掌握したプレーを見せる。
 第6節は、結果的に(またも)失望のシーズンを送ることになったFC東京が相手だったが、それを差し引いても宮澤のパフォーマンスは傑出していた。アンカー宮澤が成功した理由の一つに、半径2mほどのスペースでターンして前を向ける能力があるため、相手の2トップ~MFの狭いスペース間にポジショニングできることが挙げられる。
(4/8 第6節の記事より)菱形を作るポジション

 アンカーがFW~MF間に配されると、3バックと合わせて4枚で菱形ができる。3バックがボールを持った時に、相手は中央からの前進を阻害するために菱形の頂点(=アンカー)を消さなくてはならないが、アンカーと3バックの両端を同時に見ることが困難になる。
 札幌は元々3バックの両端に福森、菊地、キム ミンテとボールを運べる、保持できる選手を配していたが、中央に宮澤が配されたことで3バックへのプレッシャーが弱まり、ボールの保持と展開が劇的に向上した。
(4/8 第6節の記事より)アンカーに付かれれば3バックの両端から前進

 また3バックでボールを保持することができるようになったため、守備⇒攻撃の切り替え時に時間を作ることができ、それまで守備に奔走させられていた中盤~前線の選手がポジションを上げて攻撃に参加する(=攻撃の枚数を確保する)ことが可能になる。これらの変化によって、ソンユンのゴールキックや最終ラインからのアバウトな放り込み⇒都倉の競り合い、という不確実な方法以外でボールを前に運ぶことができるようになった。
ボール保持が安定すれば攻撃の枚数を増やせる

5 件のコメント:

  1. 待ってました‼
    今年も楽しみにしてます❗

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    1. >Nyaos83さん
      コメントありがとうございます。書きたいことが多すぎて纏まらなく苦戦してますが、全4回程度、1月下旬には〆る予定です。遅くなるかもしれませんが気長にお待ち下さい。

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  2. 序盤戦を思い出しました!
    ミシャサッカーとの親和性も興味深いですね。
    真逆のようにも、表裏一体にも感じます。
    ぜひ、見解を聞いてみたいです

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    1. コメントありがとうございます。
      終盤のジェイのスーパーな活躍もあって、序盤戦のイメージを忘れかけていますが、自分が観に行った試合の写真とか見返してると、結構悲壮感を持っていた記憶があります。とにかく心配でした。

      ミシャの部分まで、今回のシリーズで言及できるかわからないですが、2016-17のチームとはコンセプトこそ違えど、やっているアプローチは似ているところはあると思います(攻守分化的なところなど)。
      個人的には、戦術面とは別に、選手が考え方を変えるということとフィジカル的な部分で、札幌の主力があまり若くないのが気がかりです。そのうえで、札幌はプレーの上でも人間的にも、中心となる選手が結構明確なチームだと思っているので、1年目は現実的な着地地点をいかに早く探せるかが重要だと思います(その辺が四方田コーチの仕事でしょうか?)。
      ベンゲルもアーセナルに来た1年目はイングランドのクラシカルなスタイルを踏襲して、2年目以降にフランスから若い選手を毎年連れてくることでチームを変えていきましたが、札幌も監督だけでなく、選手もがらっと変わることになる未来も何となく予感はしています。

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  3. なるほど1年目大事ですね。
    ミシャってACLのアウエーでターンオーバーさせたときとか守備をしっかりはめて1-0で勝った後
    「こういう試合をするのは簡単」みたいなことを言っていたことを思い出しました。
    意外に引き出しが多いですし
    2016年シーズンは3から4バックになる変則ビルドアップを止めて
    ペップのバイエルンミュンヘンみたいなビルドアップを取り入れていましたから
    こっちが思っているミシャサッカーをやるとはかぎらないですよね。
    世代交代のチャンスでもあるので荒野、深井、菅、進藤あたりに期待したいと思います。
    ありがとうございました。



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