2017年11月23日木曜日

2017年11月18日(土)15:00 明治安田生命J1リーグ第32節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 ~人と組織のミスマッチ~

0.プレビュー


スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF横山知伸、河合竜二、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、石川直樹、兵藤慎剛、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF前寛之、稲本潤一、小野伸二、FW内村圭宏、菅大輝。ルヴァンカップ決勝と国際Aマッチウィークによる3週間のリーグ戦中断期間中、右膝痛で離脱していたヘイスは11月7日の練習から復帰したとの報道があったがこの試合は帯同外。石川は右膝痛で10日から別メニューだったが、14日から復帰している。11月4日の練習ではジェイがアップ中に意識を失って倒れるという出来事があった(その後、持病のてんかんを公表)が、その後のトレーニングでは問題なくプレーしていたようでスタメンに名を連ねた。残り3節で16位広島とは勝ち点差7、15位甲府とは勝ち点差6と、残留に向け圧倒的優位な状況には変わりない。積雪シーズンを迎えた北海道で調整ができなくなるリスクを考慮し、試合2日前に静岡入りして調整していたが、都倉は都倉は故障でもない、その他試合で起用できない問題もない中で謎の帯同外となった。
 清水エスパルスのスターティングメンバーは4-4-2、GK六反勇治、DF清水航平、犬飼智也、二見宏志、松原后、MFミッチェル デューク、河井陽介、竹内涼、白崎凌兵、FW金子翔太、北川航也。サブメンバーは GK西部洋平、DF鎌田翔雅、フレイレ、MF村田和哉、増田誓志、FW鄭大世、長谷川悠。10月14日の静岡ダービーで右膝内側側副靱帯を損傷した鄭大世が復帰。夏場以降スタメンに定着していたカヌは8/27の浦和戦直前に負傷して以来コンディションが整わない。UAEのアル・シャルジャから夏のマーケットで加入した増田もリーグ戦出場は2試合のみ、9/16の川崎戦で負傷した六平も離脱中、チアゴ アウベスは11日の練習試合の負傷で欠場と故障者が相次ぐ。リーグ戦ここ10試合で1勝3分6敗と失速し、14位まで順位を落としている。



1.前半

1.1 札幌のターン


 開始15分から20分間は「札幌のターン」だった。試合後、早坂が指摘していたが、清水の試合の入りは慎重、言い換えれば消極的なもので、自陣に撤退して札幌にボールを持たせて”くれた”。
Q:立ち上がりはかなり押し込んでいましたね。A:押し込んでましたね。僕らはアウェイの入りが悪いんですよ。だから、そこは意識していて、やっぱり相手も大一番というか、勝たなきゃいけないシチュエーションだったので、「来るだろうな」と思って僕らもゲームに入ったら、相手が逆に来なかったので…

 清水は撤退することで序盤をイーブンスコアで乗り切れるとの見立てがあったと思うが、結果的には10分にクロスボールから、警戒していたジェイのヘッドで先制点を献上してしまった。リーグ戦ここ4試合で得点ゼロの清水にとっては痛すぎる先制点だったが、その根底には、札幌の攻撃時に生じていた「人と組織のミスマッチ」がに巧く対処できなかったという問題があったと思う。

1.2 密集守備の前提

1)基本構造


 札幌がボールを保持している時の初期配置は以下の通り。中盤センターはここ5試合連続となる荒野と宮澤のセットで、より機動力がある荒野がやや下がり目でボールの運び役、宮澤は3バックと荒野に後方を任せて、より前方に飛び出していくことを意識している。荒野と宮澤の並びは荒野が左、宮澤が右なので、荒野は守備⇒攻撃の切り替わりの局面においてしばしば左サイドからスタートする。このこともあり、札幌の攻撃の組み立ては、荒野と福森が配置されている左サイドがキーになる。
初期配置

 清水の守備の特徴を三つ挙げると、一つは中央密集の4411のような陣形でゾーンで守ること。初期配置では、サイドは大胆に開けている。札幌がWBにボールを預けたとき、またボールがタッチラインを割って札幌ボールのスローインで再開される時は、ほぼ全選手がピッチの半分からボールサイドに配置するような具合にスライドさせ、ボールの位置を基準としたポジションを取り、スペースを消す守り方をする。
スローインの際は大胆にボールサイドにスライド

 二つ目は2トップの金子と北川の役割分担で、金子は44の2ラインの前方を守る。北川はほぼ常に最前線で張っており、これはボールを奪った後のカウンターの起点とするためだと思われる。そのため、金子と北川は初期配置はともかく、運用上、縦並びになることが多い。また金子は必然と荒野を見る機会が多くなる。このやり方は、昨シーズンJ2で対戦したとき(鄭大世と金子の2トップ)も同じだった。
 そして三つめは、札幌が所謂アタッキングサード、ゴール前にクロスを放り込めるゾーンまで侵入すると、ゴール前でターゲットとなる選手を捕まえる守備に切り替える。これは4バックで、CBを2枚しか起用しないチームにおけるオーソドックスなやり方であるが、特にvs札幌ということで、清水はゴール前からCBを動かしたくないという事情もあったと思う。

2)捨てているエリアにボールを運ばせないことの重要性


 ゾーンで守る場合、「人の密度」が守備強度を担保する。一方でピッチ上のある地点に人を集めて密度を高めると、他のエリアには人を配せず、「捨てる」ことになる。よって、攻撃側としては、この守備側が捨てているスペースにボールを展開することでボールを前に運んだり、フリーな状態からプレーを始めたりとしたい。逆に守備側は、捨てているエリアになるべくボールを運ばせないこと、運ばれた場合、素早くスライドしてボールを中心としたポジションを取る必要がある。
 全般に、清水はこの点において問題があった。札幌が一度ボールを清水陣内に運び(運ぶ手段は主にジェイへのロングボール。又はCBの持ち上がり等)、清水のブロック内にボールが入ると、中央で基点となろうとするチャナティップやジェイを取り囲んでボールを回収し、クリアする。そして清水のブロックからボールが外に出る(札幌陣地側にボールが押し戻される)と、先述の通り、ブロックの前方を金子が守るという役割分担になっているのだが、端的に言うとこのエリアを金子一人で守り切れない。明らかに北川や、2列目に並ぶMFの積極的なサポートが必要な状況だったが、それもないので清水はMFの前のスペースを札幌に使われ放題…札幌のサイドチェンジが容易に決まるので、密集したブロックを組んでも、「捨てているスペース」にボールを展開され、ブロックを組みなおし…となっていた。
金子一人で守れないので荒野経由でサイドチェンジが容易に決まる

 また金子は主に荒野を意識しているのだが、金子だけでなく北川を含めて2トップとして見ても、札幌は3バック+荒野で4枚で、仮に荒野が消されても、横山や福森を使うことで機能停止が避けられる。もっとも、北川は序盤15分頃、殆どプレスバックしなかったので、そうした勘定以前の問題でもあった。

 4:57。右サイドのスローインから、一度前に運ぼうとしたボールが荒野に戻されたところで、やはり清水は4MFの前を金子が守る。ただ金子が縦を切っても、清水は横を全く切れていないので、荒野→福森のパスから札幌は容易にサイドを変えられる。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 福森⇒石川と渡って、清水が捨てているエリアにボールを運ぶことに成功する。こうなると、清水はブロックを組んでいたのが無駄になり、全体がボールサイドにスライドして再び陣形を組みなおす必要に迫られる。
 また詳細は次の項で述べるが、デュークが一旦福森にアタックしかけて、無理だと判断して石川へのスライドに切り替える。ここでデュークが福森をオープンにすると、高精度のロングフィードが飛んでくるので、まず福森をケアする必要がある。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

1.3 人と組織のミスマッチ

1)デューク大忙し


 先述のように、金子一人ではMF前のスペースのケアが難しい清水。ただ厳密には、金子が一人で見るというより、適宜2列目のMFが前進してサポートするように考えられていたと思う。札幌右サイドに対しては、白崎と竹内、札幌のストロングポイントである左サイドに対しては、デュークと河井である。
MF前のスペースのケア

 問題は、2列目の選手…具体にはデュークが別に担っているタスクとの兼ね合いである。
 デュークが前方のスペース、もしくは福森をケアするために前進すると、札幌は福森から直接、もしくは荒野を経由して、サイドでオープンになっている石川に預けるという選択をとる。このとき石川をケアするのは誰なのか。デュークが前方をケアすると、そこからサイドの石川もみるのはきつい。
 しかし、石川を見る役割もデュークだった。

 選択肢としては、右SBの清水航平が石川を見るやり方もある。それができないのは、石川にボールが渡るとチャナティップがハーフスペースに侵入するため、清水航平はハーフスペースをまず守らなくてはならない。
 ハーフスペースを清水航平ではなく、他の選手が見ることはできないのかというと、ボランチの河井は一応可能ではあるが、3-4-2-1のシャドーに配されているチャナティップは元々河井の背後を取るポジションにいるので、ついていくには決め打ち気味に対応しなくてはならない(本来のタスクを捨てることになる)。CBの犬飼は、ジェイがゴール前にいる限り持ち場を離れられない。
 更にこうしてできるスペースを消すべく、河井や竹内がカバーに回ると、清水は最終ラインの前方でセカンドボールを拾う選手がいなくなる。前線に強力なポストマンもいない清水は、この状態で放り込まれると、跳ね返せたとしてもセカンドボールを相手に明け渡してしまう。
清水航平は迂闊に石川に出られない

 よってハーフスペースは清水航平が、大外の石川はデュークが見るしかない。早坂もそうだが、左で福森、荒野、チャナティップのこうしたサポートを受ける石川はこの試合、終始フリーになっていて、札幌のボールの逃がしどころであり、ジェイへの砲台として機能した。

2)人のミスマッチ(上げさせてはダメ)


 11分、左サイドでやはりオープンになっていた石川がフリーでクロスを上げた時、清水のゴール前では、根本的な問題として、カヌもフレイレも起用しない清水はジェイに対抗できるビッグマンがいないという点が、特に対抗策もないまま残っていた。
 都倉とジェイを擁する札幌は、ファーサイドへのクロスを長身のFWが競るというのが、フィニッシュにおけるほぼ唯一の形である。清水はファーサイドを狙われると、犬飼と二見を飛び越えて松原が空中戦に晒されるというのはわかりきっていたが、SBとしてはサイズはあるもののジェイに対抗できるはずがない松原はジェイに弾き飛ばされて完全に無力化されていた。
 序盤からジェイはたびたびサイドに流れてボールを引き出していて、この時も石川のクロスが上がるまでDFの視界から完全に消える位置いて、絶妙のタイミングで飛び込んできた(DAZN中継のカメラからも消えていた)のは巧みだったが、必ずファーサイドが焦点になるので、そこで勝てないならば前節鹿島がやったように、徹底してクロスをカットする等のやり方が必要だったと思う。

1.4 捨てられない二択を作った時点で勝負あり

1)札幌の左サイドアタックが効果的な理由


 セットプレーは別にすると、現在の札幌のフィニッシュの局面で重要な選手は、大半のDFに勝てる高さを持つジェイ(&都倉)と、密集地帯で受けることと、シュートに繋がるパスをだせるビジョンを持っているチャナティップ。札幌が左サイドから攻撃を仕掛けたときは、チャナティップが左、クロスをファーサイドで待つジェイが中央から右にポジションをとることが多く、福森や石川からのパスの供給を寸断しない限り、清水はチャナティップ&ジェイの二択を常に突きつけられることになる。
 ただでさえジェイに対しゴール前で分が悪い清水は、ジェイへの監視を強化すると、ゴールから遠いところ…チャナティップや兵藤へのケアが薄くなってしまうということが示されたのが2点目の局面だったと思う。

2)ジェイのピン止めで活きるチャナティップ


 2点目の直前、37:52はスローインから福森が持ち上がり、石川に預けたところ。石川へのパスがスイッチとなって、先述の1.3で言及したのとまったく同じ形…チャナティップが清水航平の背後に走る。この時、兵藤も同じ狙いを持っていて、動きが完全に被ってしまうが、結果的には兵藤からチャナティップへのパスが成功し、チャナティップがゴール方向を向いてボールを持つことができた。
 この時、清水はゴール前でジェイを捕まえるために二見と松原はピン止めされており、チャナティップや兵藤がハーフスペース付近に走ると、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 清水は犬飼と河井が兵藤とチャナティップのカバーで動かされて、ペナルティエリアの角付近が完全にオープンになる。結果的にはチャナティップからこぼれたボールが福森に渡り、福森の狙いすましたパスからジェイが追加点を挙げたが、おそらく宮澤と福森はその前のタイミングで下の写真の白円付近が空くことを完全にインプットしていたと思う。
 このように清水が崩しの局面で、ジェイとチャナティップの両方を封じることは、非常に難しい状況になっていて、やはりその前の段階(ボールの供給を封じる)にもう少しエネルギーを割くべきだったと思う。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

1.5 清水のターン


 20分頃から徐々に清水のターンになっていく。
 これについては、確かに札幌の、ミスマッチを活かしたボール保持~前進の仕組み、および前線のジェイの強さや間で受けるチャナティップの捕まえにくさなど、札幌のターンが続く要因はあったものの、それにしても清水のターンがくるのは随分遅かったという印象である。札幌はボールを持っていない時は、いつも通りの5-2-3守備で、行けるときにアタックする、という程度の守備でしかなかったので、清水がこれだけボールを持てない時間が20分まで続くことは予想外だった。

1)近藤祐介ロール


 試合後のコメントにもあるが、まず清水は札幌が3バックになった状態で裏を突くことを意識していた。序盤から、マイボール時には右サイドに置いているデュークに当てることで、福森サイドを何度か狙っていた。この時、札幌は福森一人に任せるのではなく、石川がサポートすることで福森が競り負けたり、釣り出されて背後を突かれる局面を作らなかったことは大きかった。
 石川のカバーリング等により速攻が難しく、遅攻に切り替えざるを得なくなったとしても、レシーバーとしてデュークは頼りにされていて、清水が前進を試みるときはまず右SBの清水航平⇒デュークという縦のラインを狙っていた。ここを札幌が、チャナティップと石川でケアすると、
SBからの縦パスのファーストチョイスはデューク

 右サイドから中央方向にボールを動かして前進を伺う。
 ここで、札幌は加入当初に比べるとコンディションが劇的に上向いているジェイが積極的にボールに食いつく。ジェイを起用している場合の札幌の守備は、多くの時間でジェイをワントップとして独立させた5-4-1に近い形になっていて、ジェイは中央を埋めていればOK、という程度の組織になっているのだが、ジェイがボールに食いつくと、中央のスペースは空いてしまう。このスペースに向かって縦パスで前進し、竹内や河井から、逆サイドへの展開という形で、松原のオーバーラップを引き出すことに何度か成功していた。
ジェイが食いついた裏を使って前進しサイドチェンジ

1.6 松原と石川の違い

1)清水のもう一つの仕組みと狙い


 徐々に清水がボールを持つ時間が増えていく。遅攻の際の清水の共通認識の一つとして、ボランチ脇でデュークや白崎が収めてからの展開は意識していたと思う。
 これは札幌の攻撃時にミスマッチ(清水が守りにくい場所に選手を配置しやすい)が起きていたのと同様で、システムのかみ合わせ上、清水の攻撃時にもミスマッチを作りやすいようになっていて、それが札幌が前に3枚を配して中盤はボランチ2枚だけになった局面に露見される。

 下の34:08は清水航平がボールを持った時、札幌はチャナティップが清水からのパスコースを切る。チャナティップ、兵藤、ジェイの3枚を前に出して、清水のボールホルダーにプレッシャーをかけようとしているが、必然とボランチ脇が空くことになる。
 また、この時は攻撃から守備へと移行した流れの中で兵藤とジェイが入れ替わっているが、ジェイが攻撃時に流動的に動くと、兵藤やチャナティップは被るポジションを取らないように合わせてポジションを変える。要するに、中央から頻繁に行方不明になるジェイを兵藤がカバーしている(この働きは都倉もよくやっている)が、並びがどうであろうと、札幌は前3枚で守っているものの各選手間の距離は離れていて、”チェーン”としての強度はない。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 よって、清水は横パスで簡単に、札幌の守備の強度が低いポイントに回り込んで縦パスでライン突破を狙える。
 縦パスでラインを突破し、ボールを収めるポイントとしてボランチ脇が考えられているのだが、札幌はここを主にCBの迎撃でケアする。この際、CBが前に出て、スペースで受ける選手に圧力を与えられるようには、ラインを押し上げていることが重要で、ラインが低すぎると前に出てもボールとの距離を詰められない。この局面では、清水の斜め後ろ~横方向のパスを見て河合が押し上げていたため、横山が白崎に対して出ることができ、また白崎が享受できるスペースは狭くなっている。
 「河合はラインが低い」という意見をよく聞くし、個人的にもその印象はあったが、今シーズンの数試合を見ていると、河合はハイラインでも守れる。ただしそれは前線がしっかりボールホルダーに圧力をかけていることと、河合が疲れていないことが前提になる。

2)早坂の難しい仕事


 札幌にとって対処が難しくなるのが、清水の左サイドで白崎だけでなく金子も絡んでボランチ脇のスペースを使う時。清水の2トップ+攻撃的MF2枚、計4枚に対して札幌は5バックで守るが、白崎と金子が同じエリアに出現すると、対処できるのは横山と早坂。ただ早坂は、大外のエリアを守る役割も担っており、具体的にはオーバーラップしてくる松原に対応しなくてはならない。
 よって、横山が金子or白崎の1枚を見て、早坂がもう1枚を見るというやり方は通用しない。清水の最後の崩しは、多くがこの松原が攻撃参加して勝負からのクロス、という形で、これと併存する形で、中央が薄くなった時に白崎やデュークへの縦パスからフリックで中央突破、というパターンもあるが、膠着した状況で個で打開する役割は主に松原が担う。早坂は中央も見つつ、松原が上がってくるとついていく、という難しい仕事を迫られる。
早坂は両方見なくてはならない

3)松原と石川の違い


 しかし松原が前半何度か攻撃参加したものの、清水の得点に結びつかなかったのに対し、札幌は石川の2度目の攻撃参加からクロスが成功し、ジェイの得点が生まれた。端的に言うとこの違いは、両者のスキルというよりも、プレッシャーを受けずにプレーできたか否かの違いだった。
 札幌はあらかじめ、清水のギャップとなるポジションに石川を配していて、そこに福森やチャナティップを絡めたことで、最後まで石川をデュークが見るのか、清水航平が見るのかはっきりしなかった。一方で松原は、いくつかの困難はあったものの、札幌は早坂がケアするという決まり事自体は明確で、またゴールまでの高さでは札幌に分があるので、松原のプレーの選択はほぼ全てが縦への勝負→抜きかけたところで低くて速いクロス、というパターンに限定された。
 石川と松原がボールを受けたときの局面を見比べると、石川はそもそも対面の選手と勝負する必要がないし、絶対的なターゲットに「高さ」を意識したボールを供給すればよい。松原はまず早坂との勝負を制し、そのうえで札幌のDFとGKの間にピンポイントでボールを届けなくてはならない。

2.後半


 前半40分に北川との接触で河合が負傷。札幌は進藤を投入し、横山が中央に移る。前半はそのまま、何も起きずに終了した。

2.1 ビルドアップ能力のリトマス紙

1)ボランチが空かない


 ハーフタイム空けは、前半のラスト15分と同様、清水がボールを握り札幌が撤退する展開でスタート。
 前半の清水の問題点の1つに、ビルドアップに人数をかけすぎているという点があったと思う。具体には、札幌は5-4-1だと最前線はジェイ1枚、5-2-3と解釈するなら前3枚が並ぶが、いずれにせよ中央には1枚しか配していないし、兵藤とチャナティップの守備の基準はサイドバック。となると清水は中央にそこまで人数をかけなくてよいと思うが、CB2人に加え、河井と竹内もジェイの周辺で終始プレーしていたので、計4枚が中央のエリア(ジェイの周辺)に投じられている。
 札幌はこのエリアの守備をそこまで重視していなくて、ジェイが基本的に竹内を見る、という程度の対応しかしない。小林監督の試合後のコメントで、「裏を取るということを意識していたが、思った以上にボランチに(相手の)プレッシャーがかかった。」とあるが、恐らくジェイが思ったより守備をするので中央がそんなに空かない、という意味合いも含まれていたと思うが、それでもジェイの周辺に4枚も配してしまうと、他のポジションで無理が生じてしまう。

2)札幌の1列目突破に苦戦する清水


 このことを踏まえて、後半の立ち上がり、清水は竹内をアンカーとして、河井をより前方で運用しようとしていた時間帯があった。ただ竹内が中央にいることが多くなり、かえってジェイが竹内を見るという約束事は明確になった印象で、また河井は右寄りの位置にいたが、荒野がケアしていた。
 竹内と河井がオープンにならないと、CBがあまり組み立てに関与しない清水は縦パスの供給が難しくなるので、札幌の1列目(チャナティップ-ジェイ-兵藤の3枚、あるいはチャナティップ-荒野-宮澤-兵藤)の突破に非常に苦戦する。前半から引き続き、デュークと白崎は宮澤や荒野の側方にポジショニングしているが、ここにパスが渡らない。余談だが札幌の1列目を簡単に突破できるか否かは、そのチームのビルドアップ能力のリトマス紙のようなものだと勝手に思っている。
ボランチが封じられると1列目突破の縦パスが入らない

3)SBの背後を突く札幌


 ボランチが封じられると、清水はSBからデュークと白崎への縦パスを狙う。清水の両SBがタッチライン際に目いっぱい開いてポジショニングすると、札幌の1列目(3枚または4枚)はピッチの横幅全てをカバーできないので、縦パスを入れること自体は比較的成功していた。
 問題は、SBが縦パスを入れて、収めて再び追い越していくという流れがどこまで効率的か、という点であって、左サイドを例にとると、松原が縦パスを入れた後、崩しにおいても攻撃の横幅を担う松原はここからスプリントしてポジションを30mほど上げる必要がる。白崎は松原がポジションを上げるためにキープして時間を作る必要があるが、札幌は進藤が潰しに出てくる。また白崎が収めて、再び松原に渡すことが成功したとして、スプリントした後の松原が対面の早坂を抜き去るか、北川を使うなどしてギャップを作らないとサイドを突破できない。
SBが縦パスを入れてポジションを上げる必要がある

 この一連の流れでミスが生じると、清水は松原が攻撃参加した背後をカウンターで兵藤に突かれる。パターンの一つとして札幌も把握していたので、進藤や早坂のところで封殺し、背後を突くという狙いを遂行できたいたのは札幌の方だった。

2.2 清水の動き

1)レシーバー長谷川


 60分過ぎころには2つの変化があった。
 一つは札幌のラインが徐々に下がってきて、中盤での圧力が弱まり、清水は札幌陣内に徐々に侵入できるようになったこと。これにより、サイドからアーリークロスの射程内に侵入すると、清水はシンプルに放り込むようにもなってくる。札幌は5バックに清水の前線が競り勝てるかというと別の話だが、押し込んだことでセカンドボールも拾えるようになっていった。
 もう一つは、66分の白崎→長谷川の交代。初め、60分過ぎころに清水は村田と鄭大世の投入を準備していたが、これについては小林監督のコメントで、
前半から(中盤の)宮澤(裕樹)が前にかかり、荒野(拓馬)の1枚になるので、脇は必ず空くということで、金子(翔太)を早めに代えたいと思っていたが、金子が少し良くなったので、我慢していた。白崎(凌兵)がバイタルのところで(ボールを)取られ出したので思い切って代えた。長谷川は荒野の両脇で受けられればチャンスになると思い投入をした。
 とあるが、やはり狙いはボランチの脇。どちらかというとこの文脈だと、宮澤が攻撃参加した背後をカウンターで突きたいというイメージだったのかもしれない(守備時は、荒野が食いついて宮澤が残っていることが多い)が、いずれにせよ、札幌が引いてくることも予想すると収まる長谷川を、収めたいポジションに配することが重要だとの考えは理解できる。

 札幌はこれにはマンマーク気味の迎撃で対抗する。清水はこの長谷川が入った時、竹内がアンカー、長谷川と河井がインサイドハーフで最前線に金子、北川、デュークが並ぶ形だったが、ウインガーがいない。変わらず、横幅を担うのはSBの役割になっていて、長谷川が受けたところで結局落としを受けるのは松原。前を向けば、最前線に並ぶ3人にパスが出てきたり、という形もあるのだが、間で受けるだけでは特段脅威はない。

2)エースとウインガー


 72分には河井と金子を下げ、村田と鄭大世を投入。これにより前線は長谷川と鄭大世の2トップ、トップ下に北川(もしくは鄭大世1トップで2人がシャドー気味)、右に村田、左にデュークという布陣になる。中断期間中に札幌で行われたトークショーで、石川直樹は「1on1で仕掛けてくる選手が苦手」「清水にもそういう選手がいる…」と語っていたが、恐らくそれは村田を指しているのだと思う。
72分~

 狙いは変わらず、ボランチ脇で受け手の前進。清水は鄭大世、長谷川、北川、デュークらが代わる代わる中盤に顔を出してボールを受ける。受けた後の展開は、大外で張る村田か松原。札幌はジェイや兵藤、福森に疲れが見えるが、5バックがまだゴール前を固めているので一度サイドを迂回する。
中央を一度使ってからサイドへ


3)危なげないクローズ


 札幌は84分、福森→稲本に交代。荒野が左WB、石川が左CBに移動し、何度目かの村田vs荒野が実現する。村田は相当警戒されていて、荒野や石川の寄せが速くなかなかボールが渡らない。となると左サイドに清水は活路を見出したい。デュークが空けたスペースに松原が突っ込んでくるが、兵藤が必死についていき、早坂とダブルチーム気味に対応する。最後まで両サイドを割らせず、鄭大世と長谷川にボールも供給されないため、危ないシーンを作らせなかった。

3.雑感


 「空中戦に強い」「ドリブルがうまい」「足が速い」といった要素は間違いなくサッカーでは重要なのだが、それらを発揮させないために守備側は11人を投じて戦術を構築し、攻撃側はそうした才能をどう組み合わせ、運用するかが重要ということになる。平たく言えば、どれだけ空中戦に強い選手がいても、その選手をゴール前に配した状態で競り合えるボールが供給されなくては武器は活きないし、いいボールを供給するためにも”準備”が必要になる。
 これまでは人を配して終わり、だったのが、シーズン終盤にきてようやくその配置が「1+1」以上の意味を成してきている、というのが、ボールを持っている時の話。守備はとにかく、毎試合2点は防いでくれるGKがいることに尽きる。その上で、適切にラインを保って相手に与えるスペースを限定できれば、このレベルのゲームならば相手の精度を落とすことができるし、効果的なカウンターにもつながる。

2 件のコメント:

  1. コバさんには山形時代に長谷川を真ん中にデンと置く4-3-3のイメージがあるせいか、ただでさえジェイと清水CB陣の力関係でも苦慮するのに前で収めて時間を稼いでくれるFWがケガでメンバー構成的に清水はかなりの苦境にあるとは思っていましたが、想像以上の惨状ですね。
    1点目は清水が異常なまでに中を固めてるなと思っていた矢先の荒野の石川へのパスで半分決まったなと思いました。仙台戦のように石川への対応が完全に遅れ、柏戦の3点目と同じように楽々とクロス上げられた時点で勝負あり。ジェイをいったんサイドに出しておいてからCBを外す形で外から飛び込んでこられたらどうしようもありません。スカウティング勝ちと言っていいと思います。
    前でボールが収まらずチョン・テセが「出してくれ!」とアピールするもなだめられてイラついていた…という画がありましたが、これはコバさんがボランチの脇で受けるのを狙っていたのに対してテセは最前線で自分が収める、決めてやると微妙に思惑にズレがあったのかもしれません。
    ケガ人だらけでメンツが足りず無理ゲー気味だったところに封じなければならないジェイにやられ、ジェイを抑えに行ったらチャナティップに間に入られ…と前半だけで2点のビハインド。コバさんは速さやパスワークで勝負したかったと思うんですが、籠城戦のコンサに長谷川やテセを使わざるを得なかった。清水としては散々な試合だったのでは。
    点が取れない、点を取るルートが見つけられずにいるうちに専守防衛で臨まざるを得ずズルズルと負のスパイラルに陥った石崎コンサと重なって見えるのが気のせいであればいいのですが…。

    返信削除
    返信
    1. >フラッ太さん
      清水はミドルブロック守備で行き詰って撤退に変えたと聞いていますが、札幌相手ならもう少し重心高めでも良かった気がしますね。相変わらず札幌のビルドアップは微妙ですし、特に都倉がいない情報を入手していれば、裏抜けの脅威は殆どなくなるのでラインを上げてジェイをゴール前から遠ざけることができたと思います。
      札幌はWBが張っているのが非常に効いてましたね。福森が石川だけでなく早坂を見ていて、オープンになったところでWBにボールを逃がせば一発でブロックを外せるので、もっと福森のところに厳しく来られると展開できなかったと思いますが、そこはスカウティングと、清水の対応の問題でもあったと思います。

      削除

注目の投稿

2021年5月5日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第5節 北海道コンサドーレ札幌vsサガン鳥栖 ~諸々の発動条件~

1.ゲームの戦略的論点とポイント スターティングメンバー: スターティングメンバー&試合結果 4試合で勝ち点1の鳥栖は、グループステージ突破がかなり難しい状況で、ホームでの試合に出場していた山下、仙頭といったメンバーも帯同せず完全に消化試合モードを感じます。 金監督のポジショナル...