2017年8月1日火曜日

2017年7月29日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第19節 北海道コンサドーレ札幌vs浦和レッズ ~”弱者の兵法”の盲点~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、横山知伸、福森晃斗、MFマセード、宮澤裕樹、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、ヘイス、チャナティップ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF河合竜二、石井謙伍、小野伸二、FW内村圭宏、ジェイ。事前の予想では、中断期間中に継続して試されていたジェイを頂点に配した3トップ(併せて福森のWB起用も報道されていた)だったが、3日前のセレッソ大阪戦で45分間出場したチャナティップが初スタメン。荒野は累積警告4枚で出場停止。中断期間は7/20にタイでムアントン・ユナイテッドとの親善試合、7/26にルヴァンカップのプレーオフステージ2ndレグを戦い、いずれも控え中心のメンバーで敗れている。
 浦和レッズのスターティングメンバーは3-4-2-1、GK西川周作、DF森脇良太、遠藤航、槙野智章、 MF関根貴大、柏木陽介、阿部勇樹、駒井善成、李忠成、武藤雄樹、FW興梠慎三。サブメンバーはGK榎本哲也、DF那須大亮、田村友、MF宇賀神友弥、長澤和輝、FW高木俊幸、ズラタン。ラファエル シルバは累積警告4枚で出場停止。リーグ戦では4/22に札幌に勝利して以来、11試合で3勝1分7敗。勝った相手は新潟2勝、広島1勝。アウェイでは4連敗中でミハイロ・ペトロビッチ監督の解任も囁かれるようになった。リーグ戦中断期間は、7/12に天皇杯3回戦(ロアッソ熊本戦)、7/15にボルシア・ドルトムントとの国際親善試合、7/22に第22節の先行消化分であるセレッソ大阪戦と、札幌とは対照的にレギュラークラスの選手を投じて強度の高いゲームをこなしてきている。

※いろいろあった試合ですが、これまで通り、ピッチ上で起こっていたことについて書いていきます。


0.ミシャスタイル


 所謂”ミシャ式”のチームとの対戦は今シーズン、あるいは四方田監督になって3度目。
 1度目、3月の広島戦は5-2-3と5-4-1の守備を併用し、高い位置から相手のビルドアップを阻害しつつ、最終ラインはマンマークで勝負した。結果的にはFW3人による高い位置からの守備はあまり機能しなかったが、広島の不安定な守備を突いて2得点を奪い逃げ切った。
 2度目は4月、アウェイでの浦和戦。当時、首位を走っていた浦和相手ということもあり、開始直後から5-4-1ブロックで自陣深くに撤退し、ミドルゾーンまでのエリアではボールに殆どアタックしないスタイルで戦った。守護神ク ソンユンの3度のビッグセーブ、福森の直接フリーキックによる見事な得点もあり、スコアこそ2-3だったが、ゲームの大半を浦和に支配され、またボールを動かされたことで札幌の選手は消耗し、終盤に反撃を仕掛ける体力は残っていなかった。
 これらの試合の状況を見ていると、札幌はミシャ式特有の後ろ4~5枚+GKでのビルドアップを巧く阻害できていない(詳細はそれぞれの試合の記事を見て下さい)。結果、守備ブロックがズルズルと下がり、5バックと4枚のMFが自陣にくぎ付けになる。そこから何とかして陣地回復を試みるが、この初期配置の時点で「相手に変化を強いる」というミシャ式の基本コンセプトの1つにはまってしまっていて、常に浦和や広島の土俵で相撲をとらされることになってしまう。
 チームとしての戦い方が劇的に洗練されない限り、今の札幌がこの構図を覆すことは難しく、となると対策として、個人で陣地回復ができる選手…都倉もそうだが、プレーエリアが狭いジェイではなく、チャナティップに白羽の矢が立ったのはそのためだと思われる。

1.前半

1.1 "奇策"の正当性

1)四方田監督の解釈


 予想通り、そしていつも通り。あるいはいつも以上に明確にリトリートし、相手にボールを持たせる札幌。ヘイスを頂点とする5-2-3でブロックを組んだ時、札幌が自陣の低い位置に1列目を設定するので、浦和は柏木が札幌のブロックの外にいるような局面も少なくなかった。
 札幌の守備の考え方は、やはり最終ラインは浦和の5トップに対してマンマーク。1列目、2列目は初めは5-2-3なので、下の図のように森脇と槙野の前にはスペースがある。
いつも以上に撤退の構え

 森脇と槙野による前進に対し、札幌はチャナティップと都倉を中盤に下げた5-4-1に変形で対応する。ここも事実上、森脇-チャナティップ、槙野-都倉というマンマークに近い関係が成立することになる。
5-4-1で対応

 しかし5-4-1が札幌の基本形となると、今度は下の図のようにヘイスの脇に大きくスペースができ、ここを柏木や浦和の両CBが起点にしてボールを動かしてくる。
ヘイスの脇は1人ではカバー不能
1トップ脇からの前進は5-4-1攻略の定石

2)持ち場放棄という"奇策"の正当性


 札幌の対策は、ここでも人につくことでマッチアップを明確にすること。宮澤と兵藤のWボランチには、本来の持ち場(中盤の中央)を放棄して遠藤や阿部につくことが許されていたようで、しばしば中盤を離れて阿部や遠藤に食いつく様子が散見された。
持ち場を守ることよりも人を見ることを優先

 となれば、下の図で示したように宮澤の背後にはぽっかりとスペースができてしまう。ここを使われると簡単に前を向かれ、FWにラストパスを出されてしまうので、こうした人に食いつくことでスペースを作るような守備はセオリーとは言い難いのだが、恐らく四方田監督がこれを承知で人に付く守備を徹底させているのは、浦和は4-1-5、ないし柏木が下がれば5-0-5とも評されるように、後方で作り、中盤を省略して最前線の5トップにボールを当てるというスタイルであるため。
どうせ中盤を使ってこないと踏み、持ち場放棄を許容して人につかせる


 要するに浦和は元々大して中盤の中央のスペースを使ってこないでしょ、ということで、じゃあそこを守ることの優先度は低い、5バックをマンマークで運用するならば、残りの5枚もマンマーク気味に運用した方がマークのずれも回避できる、ボールの出所も抑えやすい、といった発想だったのだと思う。

3)進藤、発進


 札幌にとって予想外だったのは、立ち上がり早々に横山が接触プレーで痛み、続行不可能となったこと。選択肢は河合か進藤だったが、これまで最終ラインの中央として重用されてきた前者を差し置いて後者が選ばれたのは、恐らく河合が水曜日に90分プレーしていて、ほぼフルタイムでの連戦に耐えうる状態ではないということが大きかったと思う。進藤が右、菊地が中央に回ることで対応する。
7分~

1.2 質が現れたポジション、隠されたポジション

1)そのマッチアップで大丈夫?


 先述のように、最終ラインはほぼマンマーク、中盤から前もマンマーク気味に運用するとなると、ピッチの至る所で1on1が発生しやすくなる。言い換えれば、札幌のマンマークを主体とした守備戦術は、1on1で簡単に負けないという前提のもと成立するものであって、1on1に弱い選手、そもそもサボり癖があって守備に加担しない選手が、特に後ろのポジションにいると成立させることが厳しくなる。
 特に浦和とのミスマッチだったのが、浦和の左の関根と、札幌の右のマセードのマッチアップ。止まった状態から縦にも中にも仕掛けられる関根と、対人守備が不安視されていて2016シーズンもたびたび終盤に守備固め要員と代えられていたマセード。といっても荒野が使えないこの試合で、札幌は明確にサイドで守備固めになりそうな選択肢がない。仕方ないとも言えるが、こうしたウィークポイントをカバーできないならば、攻撃面でプラスになる"何か"がないと厳しい。
 19:05頃の、関根の仕掛けから低いクロス、李のシュートは前半最大の決定機だった。マセードは関根にあっさりとクロスを許し、中央では枚数は揃っていたが、対応が1歩遅れた。やはりサイドの攻防がゲームを左右しそうだな、という予感がこの時はあった。

2)準備やスカウティングは質の差を隠す


 一方で中央のエリアにおいては、やることはシンプル化されていて、浦和が柏木や最終ラインから入れてくる楔の縦パスを徹底して潰す。浦和は単なる縦パスからのポストプレーというより、興梠のフリック等を使った崩しのパターンが幾つか用意されているが、札幌はとにかく人に付くことを徹底し、簡単に中央を割らせない。恐らくこの5vs5の数的同数での守備は中断期間中にトレーニングしてきたのだと思われる。
前進して縦パスを潰す

1.3 守は易し、反撃は難し


 最終ラインの迎撃で奪った後は札幌のカウンターのチャンス。浦和は5トップで攻撃が完結できなかった際のネガティブトランジションに問題を抱えていて、ここ数試合で対戦したチームはいずれも奪った後、速い攻撃で攻略に成功している。
 札幌も当然速攻は意識しているが、5-4-1となった状態での札幌のカウンターはやはり、最初にボールの収めどころとなるヘイスの出来に依存するところが大きく、マッチアップ上、阿部と遠藤の2人を相手にすることも少なくないヘイスがどれだけ収めてくれるかで攻撃の成功が左右される。
速攻はヘイスのキープに依存する部分が大きい

 この日のヘイスの出来は「普通」といったところで、前半2度ほどヘイスのポストプレーからカウンター発動の機会があったが、逆にヘイスが潰されて二次攻撃を受ける局面もあった。

 上記1.2から1.3の形の例を、一連の流れとして以下に示す。下の写真34:28(槙野が退場する少し前)は、森脇が右サイドから持ち上がり、斜めの楔のパス。札幌はマンマークで対応していて、菅は駒井を見ている。李が菅の裏へのランで福森を動かし、斜めのパスのコースを作る。
李のランでパスコースができる

 李のランで札幌のDFが動かされた状態で縦パスは通るが、札幌はほぼ完全なマンマークなので、このムーブで剥がされることなく、問題なく対応できる。菊地が興梠の前に出てインターセプトに成功する(この前進守備が若い頃の菊地の真骨頂だった気がする)。
マンマークで対応し菊地がインターセプト

 菊地が奪ったところで札幌はカウンターのチャンス。菊地から宮澤と渡り、宮澤からヘイスに預けられる。このヘイスへの楔のパスを浦和の遠藤と阿部が狙っており、出される瞬間に(数秒前の菊地のように)一気に寄せる。流石のヘイスでも、遠藤と阿部2人の相手は難しいので、ここは寄せきられる前にダイレクトで菊地(手で要求している選手)に落とす。しかしダイレクトのパスはずれてしまい、再び浦和ボールに。
ヘイスでも2人相手は難しい

1.4 パーソナリティも含めたクオリティの差

1)2つの伏線?(得点と攻撃参加)


 一進一退の攻防が続くといったところだったが、32分、札幌は福森の左CKを都倉が頭で合わせて先制。ニアに2人を走らせてコースを空け、中央で都倉と槙野で競らせる形を作るという、恐らく狙い通りの形。手を使って止めようとする槙野だったが都倉のパワーが上だった。

 この得点直後のプレーで、浦和は槙野がこの試合でほぼ初めてと言ってよいほどの攻撃参加を見せる。33:30頃、阿部がヘイスの脇から持ち上がり、都倉を一瞬引き付けて高い位置に張り出す槙野へ預ける。槙野の担当は本来都倉だが、都倉が一瞬遅れたのを見てマセードがヘルプに出る。
 この、マセードの動きは札幌の守備のやり方において、どの程度許容されているのかわからない。というのは、マセードが出たことで、より危険な関根がフリーになってしまい、また関根をケアするために進藤が武藤を捨ててカバーに走る…という具合に、マセードの判断から札幌の守備が芋づる式にマークズレを起こすことになる。槙野をどこまで放置し、どの位置から捕まえるか微妙なところだが、この時の都倉の動き(すぐにプレスバックを試みていた)を見ると、恐らくマセードはギリギリまで我慢して、関根をケアし続けるべきだったと思う。
マークズレからピンチを招くが宮澤のカバーで難を逃れる

 ただ、この槙野からのマセードサイドの崩しは、直後の槙野の退場により再現不可能な形となってしまった。結果論?だが札幌先制直後の槙野の攻撃参加は、多少の焦りを感じさせるトピックの一つとして捉えたほうがいいかもしれない。

2)心理戦に勝った都倉


 39分、左サイドでボールを受けた槙野がパスアンドゴーから突破を試みるが、都倉との接触時にもつれるように倒れる。この時槙野は都倉の顔を蹴るような姿勢で倒れ、一発レッドの判定。序盤から何度かやりあっていた2人だが、先制点を挙げたことで心理的にも優位だったと思われる都倉が我慢比べでも勝った。

 槙野を失った浦和は、右から森脇-遠藤-阿部-関根の4バック、柏木と駒井のWボランチの4-2-3に近い形で前半残り時間を凌ぐ。

2.後半

2.1 暴走ミシャ

1)凶器の3枚替えと那須の負傷


 後半開始。ペトロビッチ監督はまさかの3枚替え…武藤、李、森脇を下げ、宇賀神、那須、ズラタンを投入。ズラタンは最前線で興梠と2トップのように並び、宇賀神が左サイド、駒井がボランチに回る。
46分~

 しかし後半開始4分ほど、後半最初のプレーで得た札幌のCK、浦和は那須が競り合いでもも裏の筋肉を傷めてプレー続行不可能となる。まさかの11対9。残された浦和の選手は下の図のように、那須を外したそのまま2バックのような陣形でプレーする。
50分~

2.2 何故「数的優位」が感じられないのか(守備編)

1)背水の陣


 しかしここから、11対9で圧倒的優位のはずの札幌の迷走と、人数が欠けてもペトロビッチが植え付けたプレーモデルを忠実に具現化しようとする浦和の頑張りによって、試合は一気にわからなくなっていく。
 まず浦和の頑張りについて。9人の浦和は以下のようなポジションを取る。
 まず最前線にFWのズラタン、そしてサイドに大きく張り出すウイングバックの宇賀神と関根で攻撃の奥行きと横幅を確保する。これは11人の時と全く同じ考えて、追いつくためには絶対に削ってはならない人員。そして後方は、那須が欠けたので2バックを基本とせざるを得ないが、札幌は前3人の5-2-3なので、ボールを運ぶには最低限3人が欲しい。よって駒井または柏木、特に駒井が頻繁に最終ラインに落ちてくる。これで最低限の3枚が確保される。
9人の浦和の配置と11人の札幌の変わらぬマンマーク

2)無意味なマンマーク…数的優位=仕事がない選手 がいる


 一方でこの時、札幌の対応は、前半と変わらず各ポジションでマンマーク…人を基準としたディフェンスを敷く。
 この時、最終ラインは菊地がズラタン、マセードと菅が宇賀神と関根をマンマーク。この3人のポジショニングによって、札幌の5枚の最終ライン…守備対象が明確な菊地、マセード、菅だけでなく、明確な守備対象がいない福森や進藤のポジションも制約されてしまう。
 厳密には、興梠も前線にいるので、進藤は興梠を捕まえる仕事を担う機会が少なくない。しかし福森は、多くの局面で守備対象となる浦和の選手がいない。
 つまり「仕事がない状態」にしばしば陥る。にもかかわらず、5バックで守っているので福森は残りの4枚と同じ高さのポジションで、何もせずに待機していなくてはならない。これで1人分の数的優位は消失する。

 そしてもう一つ、仕事がないがゆえに数的優位性が消失していたポジションが中盤。柏木と駒井のダブルボランチから、駒井が最終ラインに落ちるので浦和の中盤は柏木1枚。対する札幌は、宮澤と兵藤の2枚がここにいると、必ず1人は余ってしまう。
 これで11対9、2人多いはずの優位性は、仕事がない選手が2人分発生したことで、あっさりと消失する。

3)無秩序・無抵抗の札幌最前線


 じゃあ札幌から見て最前線はどうなっていたかというと、枚数的には札幌の3枚に対し、浦和も3枚で数的同数。ということは、3人でしっかりと守備対象の選手を決めて対応すれば簡単には破綻しないはず。
 しかし後半55分ほどの段階で、札幌の前3枚の守備は既に機能していなかった。これは個人の問題…前3枚の対人守備の問題もあれば、結果的に75分で体力の限界を訴えて交代することになる都倉をはじめ、ヘイス、チャナティップ共に消耗が激しかったこともある。
 ただ2016シーズンの時点で、札幌の5-2-3による最前線の守備は非常に怪しいもので、3枚でただ単にピッチ中央を何となく切っているだけ、簡単にサイドからボールを運ばれたり、3枚の間を空けられて縦パスを簡単に入れられる…という状態がJ2でも散見されていた。
 J2のチームとは別次元の推進力を持つ浦和ビルドアップ部隊であれば、こうしたルーズな守備網を突破するのはたやすく、また浦和の選手は9人になった段階で「1人で3人分走ろう」と声を掛け合っていたとのことで、こうした個々の頑張りもあり、サイドに張る宇賀神や関根にボールを届ける。
前線は無抵抗 ボランチ脇まで容易に侵入を許す

 ここまで届けられれば、中央にターゲット2枚を確保できるので、9人になった直後の54分にズラタンのヘッドがポストを叩いたように、サイドからのクロスで決定機を作ることができる。続けて得たCKでは、遠藤のヘディングシュート。ここはク ソンユンの正面で札幌は難を逃れる。

4)何をしていいかわからなくなる札幌


 浦和の攻勢が続き、菊地やソンユンが吠えた58分頃。札幌の選手たちもこのままではまずい、という雰囲気があったのだと思われるが、結果、突如として守備の開始位置を高めるという行動に出る。攻め込まれている状況で、守備の開始位置を高くすることで、全体の陣形が下がりすぎない、受け身になってボールにプレッシャーがかけられないといった問題を回避するためだと思われるが、前線の選手は高い位置から守備をしても、後方の5バックはラインを上げて守ることができないので、必然と前後分断化する。
後ろが連動しないと…

 下の写真では、前4人だけでバラバラに守備をしたことで各個撃破され、浮き球のパスで4人がおいていかれると、ボール周辺では数的同数になってしまっている。
各個撃破され肝心なところで数的同数に

<追記>57:30前後の局面から読み取れること


 特に混乱を感じさせた60分前後の局面から、57:30前後の局面をピックアップして見る。
 写真1枚目、57:26は後方で浦和がボールを落ち着かせて組み立てようとしているところ。この時、札幌の選手のうち何人かは守備対象となる選手についていく。特にWボランチとして振る舞う駒井と柏木に、宮澤と兵藤がぴったりと着いているところ等はマンマークの関係性をうかがわせ、11vs9の人数であっても、それまで通りにマンマークを継続していることがわかる。
中盤はマンマークで対応できているが最前線は状況把握ができていない

 この1枚で示されている問題点は以下の2点。
 ①ヘイスの守備強度が下がっているとともに、タスク(マンマーク)を遂行する意思があるのかわからなくなっている
 ②守備対象がわからない選手が、どう動いていいかわからなくなっている(都倉、チャナティップ)

 まず前提として、2人多いので、最悪2人がサボってもマンマークでの守備は成立する。ただヘイスがこの位置で、サボっているのか、守備対象を見つけて(浦和のCB2枚…遠藤か阿部のいずれか)守備をする意思があるのかわからない。浦和が最終ライン2枚に対し、札幌は最前線がヘイス、都倉、チャナティップの3枚だが、ヘイスが対応しないなら、この2枚は都倉とチャナティップが見なくてはならない。逆にヘイスが対応するなら、都倉とチャナティップのいずれかはカバーに回る。
 守備開始位置を考えると、この位置でヘイスが相手CBに強烈に寄せる必要はないが、少なくともヘイス・都倉・チャナティップ間でコミュニケーションをとることが難しい以上、ヘイスは何らかのメッセージを送っても良かったと思う。
 都倉はこの時、浦和の陣形を確認しつつ、守備対象を探すため何度も首を振っている。何度目かの首振りの後の57:26、従前の都倉の守備範囲(マンマークなので、槙野がよくいた位置)に興梠が落ちてきているのがわかる。興梠は元々都倉の守備対象ではないので、放置でいい(進藤に任せればいい)が、この時都倉は仕事(守備対象)を見つけられていないので、迷っている様子もうかがわせる。

 写真2枚目、57:34はカメラが引きで撮ってくれたので全体の配置がわかる。
 先ほどの写真からの8秒後、結局ヘイスの認識は手前のCB遠藤が守備対象だったことがこの時点でようやくわかる。すると奥側のCB阿部の担当は都倉だが、ヘイスが認識を明確にしなかった8秒間、都倉は待機していたため、この時点で阿部への対応が遅れている。チャナティップは完全に仕事がなくなる。
 最終ラインを見ると、同様に守備対象がいない福森の仕事がないことがわかる。ただこここは5バックで守っているコンセプト上、仕方がない話でもあって、中央のカバー要員と考えても問題はないと思う。ただ、5トップだった浦和が3トップ気味になると、従前は5枚を残して5on5の数的同数を作っていたことにも一定の意義があるが、3トップのポジション(もしくはズラタンのポジション)だけで、マンマークで守る札幌の5枚がピン留めされてしまっている(結果、CBの迎撃が難しく一層中盤を使われやすくなる)のは厳しいところではある。
8秒後 ヘイスの認識が判明する

 後出しじゃんけんだが(またベンチからピッチ内に指示できるタイミングが確保できたか難しい…特に交代枠を1枚使っているので)、この時札幌はどうすればよかったかというと、2人余ることに対し、「誰が」「どこで」2人余るのかを明確にすべきだったと思う。
 まず浦和のビルドアップは2~3枚なので、札幌は最低3枚いれば最低限、人に付くことはできる。この時、横に3枚を並べて対応し、浦和が2枚であれば3枚のうち中央の選手はカバーと考えればよい(チャナティップをトップ下にするようなイメージか)。
 中盤は浦和が柏木1枚か、柏木と駒井の2枚なので、札幌も2枚を維持。仮に駒井が落ちた場合、前の3枚に任せて宮澤と兵藤は中盤を守り続け、1人は余る。
前3枚と中盤2枚の役割を再整理

2.3 何故「数的優位」が感じられないのか(攻撃編)

1)気持ちプレスで対抗する浦和


 浦和の攻撃失敗等で札幌ボールになると、すぐさまボールを奪い返す姿勢を見せる浦和。ここでも「1人で3人分走る」という言葉が嘘ではなかったかのような態度をピッチ上の全員が見せる。
 ただそれでも2人多い状況というのは圧倒的不利には変わらない。札幌がボールを持っている時のマッチアップは下のように、ズラタンと興梠の2枚で札幌の3バックに当たらざるを得ない。サイドはそれぞれ1on1の関係となると、後方は阿部と遠藤の2バック状態、札幌の3トップをどうしても捕まえきることができなくなる。
2人多いので必ず誰かが空くはず

2)続いたベンチの迷走


 …の、はずが、必ず味方の2人がフリーになっているはずの札幌は思うようにボールを前に運ぶことができない。ピッチ上の札幌の選手は、当然2人空くのはわかっているが、誰が空いているのかを把握できていないようで、ズラタンや興梠がボールに突っ込んでくるところで福森や菊池はセーフティにボールを手放してしまう。
誰が空いているのか察知できず、気持ち前プレを回避できずあっさり手放す

 もっともこのボール放棄すらも、2人多い局面ではセカンドボールの奪取からの二次攻撃に繋げられる見込みはある。ただ浦和は興梠とズラタンが必死に前で追うが、他の選手が連動して守備をすることはどうしても難しい。となればせいぜい2人のチェイスをやり過ごせればよいので、3バックでそれが無理ならば、宮澤か兵藤のいずれかを使って4枚で回避を試みるなどして、ポゼッションで時間を使い、体力の回復を図れるとよいのだが、札幌の選手及びベンチにはそうした判断、選択はなく、数的優位を殆ど活かすことなく、一本調子のオフェンスに終始する。

2.4 フリーマンが増えた

1)ジェイの投入


 63分に札幌はチャナティップ⇒ジェイに交代。この60分過ぎの時間帯は、先述の、札幌が守備開始位置を高くした時間帯。ピッチ上では、先に述べたように主に守備面での混乱が起こっており、修正が必要に思える状況だったが、通常こうした場合、指示出しのタイミングが測れない場合、交代選手を使ってベンチから指示を伝えるやり方もある。
 しかしここでのチョイスは、日本語での指示伝達が恐らく不可能なジェイ。四方田監督としては、バランスを修正して立て直すよりも、とどめの2点目をさっさと奪ってしまいたい、という意図だったのだと思う。それはジェイのプレーを見ても明らかで、ボールをキープしてゲームを落ち着かせる、時間を作るといったプレーよりも、ダイレクトにゴールに迫るようなプレーを繰り出していく。
63分~

 しかし、磐田方面からの噂の通り守備に熱心でないジェイの投入はまさに、前線にフリーマンが1人増えたようなもの。ヘイスも既にかなり体力を消費しているので、前線はどうやっても効果的な守備ができなくなる。
 そしてゴールを貪欲に狙うジェイの存在は、周囲の選手の攻撃参加を促進させる。言い換えれば、シュートまでもって行けなかった場合に札幌の選手が帰陣する距離と回数が増大する。ジェイ自身は熱心に守備をしないのに、アグレッシブなプレーを求めるジェイの投入によって、一部の札幌の選手は攻守ともに明らかに前がかりになっていく。

2)小野の投入


 75分に札幌の3枚目の交代カードは都倉⇒小野。都倉は足が限界のようで、自ら交代を申し出た。小野をジェイと同様にフリーマン扱いするのは失礼だが、小野も守備時にはブロックに入っている(5-3ブロックに近い形になっていた)ものの、その強度や練度は緊迫した展開の中であまり計算が立たないもので、結局は小野も2点目を取るための投入だったのだと思う。これも小野のプレー…積極的にボールを追い越す動き等を見ていれば何となく察するが、時間を使う、試合を殺すための投入ではなかった。
 となると状況は、8人で守備をして、フリーマン状態のジェイ、守備は計算できない小野、完全にばてているヘイスの計11人で戦う札幌と、1人で3人分走る9人の浦和という構図。数的優位で戦っているという感覚はほとんど感じられなくなる。

2.5 唯一の存在理由


 88分、浦和の足も止まったところで、札幌はようやく2人多いことを再確認できるような展開から、右から小野のクロスをジェイが頭で合わせて追加点。この様子だと、ジェイは毎試合点を取ってくれないと割に合わないな…と思っていたところで、試合を決める得点だった。

3.雑感


 2人多い状態になってからの試合運びを丁寧に言えば、「過剰なまでに慎重」とでも言えるかもしれない。ただその慎重さによって、死にかけの浦和に勇気を与えることになっていたのは明らかで、11対9になった時点でイージーだったはずの試合を自ら難しくした。
 恐らく、早い段階でとどめを刺すことは監督の頭の中にあったと思う。ただ、その手段として、チームとしての戦い方を整理していない状況でのジェイの投入は更にバランスを悪化させた(しかもジェイは日本語で意思疎通できないので、ベンチからの戦術的な改善を伝えたりするのも難しかった)。
 結局は小野も含め、選手の個人能力に丸投げで解決(なんとかとどめを刺せたが、「ギャンブルサッカー」と言われても仕方がないものだった)という印象は否めない。いつも通りのソンユンのビッグセーブと、急遽最終ライン中央に入った菊地ら個々の頑張りあっての勝ち点3だった。

5 件のコメント:

  1. チャナティップはあの強行日程の中でもかなり走れていたのが驚きました。
    もし90分タスクをこなせるなら大助かりです。
    チャナティップが先発で行けるなら右ウイングバックに荒野を使えるのでマセドの枠が空いてキムミンテを使えるようになるのがでかいですね。

    返信削除
    返信
    1. チャナティップはさすがにこの体格で生き残ってトップ選手になれるだけの、基礎的な部分は問題ないですね。
      3-4-2-1だとやはり荒野がWBでしょうか…深井が離脱して中盤センターがやばいとの通説でしたが、サイドはもっと不安なんですよね。

      削除
  2. ドーム参戦してきました。
    とにかく浦和の前の5人には1on1でボールが入ったらとにかく潰す(ただし、前に釣られすぎようにという条件付き)という感じでしたね。マセードに関根を相手させるのはさすがに無茶しすぎでしたが…。
    3-4-2-1のシステムは浦和戦対策だったとしても機能していたとは言い難いですね。前の3人の守備があやふやで、時折宮澤がそこまで出ていって大丈夫か?ってくらいにチェックに行くし後半はチャナ以外はガス欠でボラの2人は入ってくる選手を捕まえるのに手一杯な感じ。
    後半は福森が少し前に出て変則4-3-2-1のようにも見えましたが、それとて浦和の人数が少なくなったから可能になった面が大きいわけで都倉とヘイスorジェイの前線は外せないとするなら5-3-2に戻した方がまだ守備は安定しそうな気がします。前線からの守備でコースを限定させるのは大事だねというのを再認識した試合でした。

    返信削除
    返信
    1. >フラッ太さん
      札幌戦の前まで浦和はカウンターでやられまくってたので、その辺のバランスを相当気にしていた前半だったと思います。札幌はマンマークだと言いつつ、一応人数は合わせたぞ、というようなレベルで全然人に付けてないところもあったので、本当に槙野の退場が助かりました。
      後半はいろいろありますが、根本的にやはり完全マンマークってサッカーではかなり難しいんだな、という印象です。仰る通り5-3-2でゾーンに切り替えれば楽勝だったように思えるのですが…

      削除
  3. 1-0で勝っている状況だったので、ギャンブルというほどではないと思いますよ。

    返信削除