2016年8月28日日曜日

2016年8月25日(木)19:00 明治安田生命J2リーグ第12節 北海道コンサドーレ札幌vsロアッソ熊本 ~FW脇を制する者は試合を制す~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MFマセード、宮澤裕樹、上里一将、堀米悠斗、ジュリーニョ、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF櫛引一紀、MF石井謙伍、河合竜二、小野伸二、前寛之、FW上原慎也。
 前節試合中に「膝の違和感」で途中交代した深井は、試合前に「右膝内側半月板損傷で全治4週間」とのリリースがあった。離脱は残念だが"最悪の展開"ではなかったかもしれない。
 ロアッソ熊本のスターティングメンバーは4-4-2、GK佐藤昭大、DF藏川洋平、小谷祐喜、薗田淳、片山奨典、MF岡本賢明、キム テヨン、上原拓郎、菅沼実、FW若杉拓哉、巻誠一郎。サブメンバーはGK金井大樹、DF園田拓也、MF黒木晃平、八久保颯、中山雄登、髙柳一誠、FW齋藤恵太。試合前の段階では、9勝6分12敗で勝ち点33、順位は16位。過密日程を乗り切るためローテーションを意識した選手起用がされているが、前節は北九州にホームで1-6とまさかの大敗を喫したこともあり、DF3人が入れ替わっていて薗田も起用されている。平繁は体調不良で欠場、エース清武は詳細がわからないがベンチ外。菅沼は8/6に契約が発表され、この試合が初出場となる。
 8/27-28、9/3に天皇杯が行われ、J2以上のカテゴリのクラブが順次登場するためJ2リーグ戦は8/21(日)~9/11(日)までが中断期間という扱いで、この間に未消化分の試合…熊本地震で延期になった熊本戦、悪天候で中止になった水戸-長崎戦がねじ込まれており、熊本はまだまだ過密日程が続く。札幌はこの試合後、中1日で8/27に天皇杯の筑波大学戦@厚別が控えている。



1.前半

1.1 サイドバックの仕事


 試合が落ち着いて両チームの形が見えてきたのは7分頃から。
 まず最初に感じたことは、熊本は攻守両面で非常によく札幌を研究してこの試合に臨んできたと思われる。J2リーグ戦も30試合近くを消化しているのでスカウティングができているのは当然と言えば当然だが、ベンチに財前恵一氏らがいて、岡本がキャプテンマークを巻いているチームなので、札幌の選手の細かい特徴なども熟知したうえで対応してきた印象を受ける。

1)前置き:現代のサイドバックの役割


 先日EURO2016の特集番組でハリルホジッチも語っていたが、現代サッカーの守備は一種の均一化が進み、両チームが基本的にどのようなシステムを採用しようと、自由にボールを持たせてもらえるゾーンがサイドの低い位置しかなくなっている(だから4バックにしてサイドバックを置きたい、3バックは基本的にない、というのがハリルの考えらしい)。
 ただこれはヨーロッパのクラブシーンやある程度のレベルの世界の話で、残念ながら日本のプロリーグ2部、J2ではサイドバックに起点になれない選手が務めていたり、そもそも守る側も前線からオーガナイズされているとは到底言えないような守備をしているケースも見受けられ、ボールを持っても寄せられたらすぐに前に蹴っ飛ばすだけ…という光景もよく見られる。
 それに比べると福森や菊地を擁する我らが札幌は相当マシなほうで、札幌の基本システムは3バックだが、攻撃の開始時に菊地や福森が低い位置でワイドに開くことでプレッシャーを受けにくい位置でボールを受け、またこの状態を有効に活用できるだけの技術や戦術センスを持っていることが非常にアドバンテージになっている。

2)熊本の両サイドバックがもたらす攻撃の幅


 前置きが長くなったが、この日の対戦相手の熊本は両サイドバックが蔵川と片山。結論から言うと、熊本は左の片山の存在が大きく、少なくともこの試合では遅攻の際にボールを持たされても困らないようになっている。
 まず後方で2CB+2ボランチでスクエアを形成し、札幌の3トップの守備を中央に集中させ、サイドへのサポートを不可能にさせる。そこからやや低い位置のサイドバック、主に片山に展開すると、札幌は3トップがサイドのサポートに出られないのでウイングバックの選手、片山には同サイドのマセードが出てきて対応する。
 ただ札幌は5バック化して5-2-3で守っているので、マセードのスタートポジションは最終ラインの低い位置で、片山とは距離がある。そのため片山はマセードが突っ込んでくる数秒間、時間を得られ(まさにハリルの言う「サイドの低いところが唯一、自由にボールを持たせてもらえる」)、ドリブルでボールを運んでくる。この時、片山が目指すゾーンはサイドではなく中央。下の図のように、札幌のボランチ脇の構造上手薄になっているエリアに向かい、スピードに乗って突っ込んでくる。これを行うだけでボールをバイタルエリア付近まで運ぶことができてしまう。
 最終的には熊本の攻撃はサイドからのクロスによるフィニッシュを志向している。恐らくこれはポジションを大きく崩すことなくシュートに持ち込みたい、また中央でのボールロストからカウンターを受けるリスクを減らしたいという思惑があるためだと考えられる。
片山がフリーで持てる状況をつくり、中央に向かって切り込ませる

 こう書くと簡単に見え、図で見ると確かに札幌のこのゾーンは空いているので当然のような話にも思えるが、J2の平均的な攻撃性能のサイドバックだとこうしたプレーができない(又はチームとしてやらせない)ものも多く、今期の札幌はこれまであまりこうした形で受ける状況が発生していない。

1.2 札幌ボランチ周辺は使い放題


 上記のパターン…サイドバックが中に切れ込むことが難しい場合は、サイドを変えて対抗する。この際も5-2-3の札幌の守備ブロックはボランチ脇が空きやすい構造になっており、またボランチ~前3人のライン間もほとんどケアされていない。そのため下の図のようにこのライン間を通すサイドチェンジもカットされるリスクが殆どない状態で通すことが可能である。サイドを変えた後は、札幌の守備がスライドしてくる前に一気に縦に運ぶことでバイタルエリア付近まで運ぶことができる。
ボランチ脇を起点にして受け、サイドチェンジを決める

 札幌のボランチ脇はやはり構造上非常に空きやすいのだが、これまたJ2のクラブとの対戦だとあまりここを突いてくるチームは少ない。特に札幌が首位をキープする時間が長くなるほど、対戦相手はリスクをとって攻めてくるよりも慎重な試合運びをするのでこうした弱点は露見しないが、しっかりとスカウティングをしてそれなりの技術の選手を並べてトレーニングしているチームならば、当然のように狙ってくるポイントかと思われる。

1.3 サイドを使わせない熊本2トップによる献身

1)「今季最悪」の要因


 札幌としてはこの試合は勝ったものの、四方田監督が「内容は今季ホームで最悪」と表現することになる試合内容であった。札幌が苦戦した最大の要因は、熊本の4-4-2での守備、特に巻と若杉の2トップによる守備が非常に効果的で、札幌のビルドアップ部隊に時間と余裕を与えなかったため。
 ここでいう札幌のビルドアップ部隊とは、通常3バックの菊地、増川、福森にボランチの1枚又は2枚を加えた4~5名で、この日は上里を加えた4名構成が多い。普通に考えれば、4-4-2で2トップのチームに対しては4人もいれば人数は4vs2で、プレッシングをかわすことは十分に可能になる。そしてサイドでプレッシャーを受けにくい菊地と福森にボールを渡し、両選手の足元の技術や精度の高いパスを使ってボールを運んでいくのが札幌のビルドアップの主要なパターン。

2)守備は明らかに平均以上


 しかしながら熊本の2トップ、巻と若杉の守備能力が"普通"を超える水準だったことが札幌の計算を狂わせる。下の図で示したが、4-4-2でセットする熊本に対して札幌は4-4-2の泣き所、赤い四角で示したFWの脇のゾーンを菊地や福森が使いたい。いつも通り、福森にボールを渡すと、熊本は近い位置のFW…図では若杉がかなりのエネルギーを使って福森に襲い掛かる。
 すると福森はこの位置で無理をすることができないので、安全第一でボールを逃がす(主に前線の内村やジュリーニョにパスする)が、これも若林からのプレッシャーを受けた状態なのでキックの精度が低下する。また内側から若林が寄せていくことで、パスを蹴れるエリアも限定される(逆サイドには蹴りにくい)のでコースが読みやすく、ジュリーニョや内村に渡るところで潰しやすくなる。
札幌は赤い四角の部分(ハリル「サイドの低いところ」)で菊地や福森が持ちたいが
熊本の2トップの守備によりそこまで運ばせない
福森はプレッシャーを受けた状態で蹴らされてしまう

3)DFW・巻誠一郎


 この日の熊本の2トップはいずれもレギュラーではない巻と若杉だが、攻撃性能は清武や平重のほうが勝ると思われるがこうした頑張りで戦術を機能させ、チームを活性化させる。特にかつて日本代表でもDFW(ディフェンシブフォワード)として鳴らした(?)巻の守備能力はやはり脅威で、かつての中山元気とダヴィのコンビなどもそうだが、185センチクラスの選手が全力で寄せてくると、DFとしてはやりにくいことは間違いなく、札幌は低い位置で攻撃の精度を低下させられるとともに、ポゼッションの時間をも奪われてしまう。
事例:18:22~ 「2トップの脇」を福森が使おうとするが
巻がスライドして厳しくプレッシャーをかけて簡単に使わせない
福森は苦し紛れに堀米(手前側)に渡すが…
岡本が堀米に寄せてくる
堀米はタッチラインを背にした状態でワンタッチプレーを強いられる
結果内村へのパスが合わない
(内村にも熊本DFが寄せていて、堀米→内村のコースは厳しくなっている)


 そしてボールを奪った後の熊本の攻撃で特筆する点は、とにかくシュートまでの時間が短い。9分に中盤で回収した上原拓郎がすぐさまハーフウェーライン付近からロングシュートを放ったのは極端な例だが、バイタルエリア付近まで運べれば確度が低いシチュエーションであっても積極的にミドルシュートを放っていく。スカパー!の集計ではこの試合の熊本のシュート本数は10本で、前半8本だが、先の9分の上原、12分の岡本、14分の若杉、30分の岡本…と4本がゴール前まで持ち込まれない形、ミドル~ロングレンジであった。なんとなく、かつて"人間力"山本昌邦氏が掲げていた「奪って15秒でシュートを撃つサッカー」というフレーズを想起してしまった。

1.4 翼を広げて

1)4-4-2ゾーンの弱点


 札幌が熊本の守備戦術に対応し、対策を打ち始めたのは前半15分頃。要するに熊本の守備はベーシックな4-4-2ゾーンディフェンスなので、サイドに誘導し、ボールサイドの密度を高めて守るので、逆サイドは放置されている。そこで札幌はサイドから対角にロングレンジのサイドチェンジを蹴ることができる福森にボールを集め、熊本の守備を福森サイド(札幌から見て左)に寄せた後、熊本の若杉や岡本が福森に寄せ切らないうちに、対角で張るマセードへサイドチェンジのパスを飛ばす。
一度熊本をサイドに寄せて、対角へ大きくサイドチェンジ
菊地よりも福森のほうが良いロングキックを持っている

 すると左サイドに寄せている熊本は右サイドにスライドし、最も近いサイドハーフかサイドバックの選手がマセードに寄せていくが、一度左サイドに寄せてからのスライドなのでマセードに寄せ切ることは難しい。
タッチライン付近で張るマセードに対し
菅沼や片山のポジションはセンターサークル付近

2)サイドの専門家


 そしてマセードは余裕をもってトラップ、ルックアップでき、またスライド直後の熊本の守備ブロックは隙ができているのでドリブルで仕掛けるスペースが潤沢にある。前半だけでこの福森→マセードのサイドチェンジが数回(16分、22分…マセードの仕掛けは失敗、など)決まっており、明らかに意図して狙っていたことが分かる。
 四方田監督は6月以降、故障者もあり中盤の組み合わせを試合ごとに変えながら戦ってきたが、マセードは故障以外ではほぼスタメンで起用されてきた。しかし守備面の懸念等から試合途中で下げられる試合もあり、また前節の京都戦は故障以外で初めてスタメンを外れた。それでもこうしたサイドに張って仕掛ける役割をウイングバックに求めるならば、ドリブルでの突破力もクロスの精度も荒野や石井、上原とは別格なので、右はマセードで決まり。
サイドチェンジでスライドさせれば選手間距離が空き、ウイングバックが仕掛けるスペースができる

 ただ熊本もこのパターンを一度見た後は、極限までスライドを早くして左右の揺さぶりに対抗する。サイドチェンジ自体は決まっていたが、マセードに渡った後のケアを徹底することでサイド突破から簡単に決定機を作らせない。また前半は特にマセードのクロスのフィーリングが悪く(短いボールになってしまう)、中央で待ち構えるFWに届かず、シュートを撃てない局面が多かった。

1.5 熊本2トップの疲弊と形勢逆転


 試合開始直後からハードワークを続けてきた熊本の2トップ、巻と若杉の負担は大きく、30分頃から札幌のビルドアップ部隊に対してプレッシングに行くことができない局面が徐々にみられるようになる。すると札幌の福森や菊地がフリーでボールを持つことができるようになり、途端に札幌のビルドアップ時における形勢は逆転する。
 下の写真のように、福森をフリーにし熊本陣内に侵入させてしまえば、高精度の左足から一発でチャンスを創出するパスを繰り出してくるので、熊本はまずラインを交代させて最前線で裏を狙う都倉をケアしなくてはならない。するとDFラインが下がるということは、熊本はDF-MFのライン間が空きやすくなり、この時は上里への間受けのパスが成功(上里がファウルを得た)している。
 このように熊本のFW脇のエリアにおける攻防で優位性を持つことは、札幌・熊本の両者にとって試合の主導権を握ることに直結していると言える。
27:27 2トップがFW脇の福森を捕まえきれない
ビルドアップから解放された上里が前線に飛び出していく
都倉が熊本最終ラインを下げさせライン間を広げ
福森→上里の間受けが成功する

 熊本の2トップの仕事量や質が落ちてくると、札幌はサイドに張るウイングバックにボールを届ける手段として第二の矢…中央の上里→堀米というラインも徐々に確立されてくる。この点については、熊本が疲れたとはいえ下の写真のような距離感、寄せ具合でも小さいモーションからサイドに中距離パスを散らすことができる上里のスキルは流石だと思うが、この"矢"が確立されたもう一つの要因は、札幌のウイングバック、堀米とマセードがキックオフ直後から一貫して、サイドの同じ位置に張り続けているため。パスの出し手としては受け手の位置把握が容易になり、キックまでの判断やモーションを短くすることができる。
常に同じポジションにいる堀米とマセードを把握している

1.6 ジュリーニョ行方不明の背景


 30分頃、この試合のスカパー!中継で解説を務めた我らがご意見番・平川弘氏と実況アナウンサーとのやりとりで、「ジュリーニョのボールタッチが少ない」「頭の上をボールが行き来している展開だからかな」というやり取りがされていたが、個人的にはこの点だけでは説明不足かと思う(この辺を我々素人に明快に説明してくれない辺りが平川節といったところか)。
 前半30分までの時間帯でジュリーニョが行方不明になったもう一つの(&より大きな)理由は、熊本が4-4-2で中央を封鎖し、特に札幌の最終ラインやボランチからの縦パスを通さないように2トップが中央を塞ぐ形で守備を機能させているため。縦パスが入らなければトップ下の選手は当然ボールに触ることができないし、またジュリーニョはヘイスに比べると通常フリーダムに動き回る(サイドに流れたり低い位置まで下がってくる)が、この試合はほぼ一貫して熊本のDF-MFのライン間から最前線にポジショニングしている。恐らくこれは他の選手(サイドのマセード等)とポジションを被らせないように、「中央にいろ(縦パスの受け手になれ)」と監督から指示されていたのだと考えられる。
中央(ライン間)で待ち、縦パスを受けたり都倉や内村と近い位置でプレーするのが仕事

 そのため結果的にボールに触る機会が少なくても、そのポジショニングには意味があり、またチームタスクの遂行という観点からはむしろこれまでの試合よりも改善されていたと感じる。
好ましくない例:8/14山形戦より
ブロックの外(ゴールに遠い位置)で受け、確度の低いシュートを撃つ

 前半は序盤から熊本のオーガナイズされた守備が効いていたが、逆に熊本は奪った後にボールの収まりどころとなる選手がおらず攻撃の時間は短い(そのため手数をかけずにシュートまで持っていく)。両チームともにブロックを崩すことは難しく、トランジションからブロックを作る前に攻めることや、自陣でのミスから決定的なチャンスが2度ずつあった。札幌は14分の堀米の左クロスに内村が合わせた形と、26分にスローインからの隙をついて内村がペナルティエリア内で角度のないところまで侵入したプレー。熊本は26分、右クロスをマセードがクリアミスしたところを岡本がペナルティエリア内から狙ったものと、アディショナルタイムに左サイドのFKに若杉が頭で合わせたものだが、わずかに枠を外れている。

2.後半

2.1 空き始めたFWの背後


 「前半の展開」で書いた通り、この試合のポイントは明確で、熊本のFW周辺、特にFW脇のゾーンを使いたい札幌と使わせない熊本、またボールサイドに寄せてくる熊本の4-4ブロックを動かすことにある。前半30分頃から札幌が何度か攻め込むようになった要因も熊本としては当然、把握していて、ハーフタイム明けからは体力も多少回復し、改めて前線の2トップをスイッチにしたプレッシングを仕掛けてくる。
 一方、札幌としてはあくまでコンセプトや狙いは変わらず2トップの脇が基本。但し傾向としては、熊本の2トップが再び元気になって前にどんどん出てくるようになったことを利用し、FW-MF間のスペースを使うことが多くなったように思える。
FW-MF間をジュリーニョや宮澤が使う
FW背後のスペースが空く

 このFW-MF間を使うということは熊本の2トップの守備を剥がし、4-4のブロックしか残っていない状況を作ったことと同義だが、この状態から札幌は何度かブロック内で待ち構える都倉や内村への縦パスを狙う。これが通ればビッグチャンスになるが、ボックス内に供給されるパスに対しては熊本はタイトに対応し、都倉や内村は起点になれない。2トップを剥がしても、4-4のブロックの間隔を拡げられていない状況では縦パス→間受けの成立は難しい。

2.2 左偏重が招いた自業自得の膠着化


 後半開始から数分は前半開始時のように落ち着かない展開になるが、56分に宮澤がゴール正面やや遠い位置でファウル→熊本のフリーキックから札幌のカウンター、内村を上原拓郎が止めて警告、という展開の前後くらいから、再びゆったりと落ち着いた展開、別の言葉で言えば膠着化し、ゴールと勝ち点3が欲しい札幌としては思うようにボールを運べない展開になる。
 これもいくつか要因があるが、一つ思うことは、前半途中から福森の展開力…ドリブルからの縦パスや中~長距離のサイドチェンジに頼ったビルドアップを行っており、ロングキック以外は福森と同等かそれ以上の展開力を持つ菊池がほとんど使われなくなってしまった。熊本のブロックを動かすという点ではサイドチェンジは継続的に行われているが、それとは別に2トップを走らせる…ビルドアップ部隊(札幌のCBとボランチ)で4vs2また5vs2という数的優位を活かし、プレッシングを空転させることも重要だが、ずっと左サイドで福森や上里がボールに触る状況が多いので、なかなか巻や若杉を撒くことができない。下の写真のように、菊地がサイドに大きく開いても使われない局面が多く見られた。
菊地が手前で張っているのに一向に使われない
→横にボールが動かないので巻と若杉で守り切れる
→縦に供給されないので内村とジュリーニョが下がってしまう

 ビルドアップ部隊が熊本のフォアチェックに捕まり、前線にボールが供給されなくなると、それまで我慢して前で張っていた内村やジュリーニョがボールを貰いに下がってしまい、一番使いたいゾーン…DF-MF間に誰もいないという悪循環が生じてしまっている。60分頃~はピッチ上でも札幌の選手達は混乱していたようで、64分にプレーが止まった際に、「中からいくのか、外からいくのか確認した」とのことである(スカパー!中継リポーターの永井ハム彦アナウンサーのリポートより)。

2.3 ともかく先制


 65分にも永井ハム彦アナウンサーのリポートは続き、小野投入の準備が伝えられる。しかしその直後の66分、札幌の左コーナーキックを熊本が跳ね返しカウンターを仕掛けるもピッチ中央付近でファウルを取られ札幌ボールに。菊地とマセードが素早いリスタートで、熊本の選手数名がカウンターアタックから意識を切り替えないうちに再び攻めようとする。中央やや右で宮澤がボールを受け、ドリブルで運んでからアーリークロス、ゴール前には都倉や増川、コーナーキックを蹴った福森も残っていたが、飛び込んだ都倉には合わず大外の福森へ。福森の「ミスキック」と語った折り返しがGK佐藤に当たりゴールに吸い込まれる。宮澤のクロスもGK~DF間を狙った精度の高いボールだったが、ゴールを呼び込んだのはホイッスルが鳴った後、素早くボールを回収してリスタートに繋げた菊地だったと言えるかもしれない。ラッキーなオウンゴールだったがともかく札幌が先制する。

2.4 小野と齋藤の投入


 札幌は67分に内村→小野に交代。小野はここ数試合は概ね75~80分頃に投入され、10~15分程度のプレイタイムを与えられていたが、膠着した展開を見て四方田監督も流石に早めの投入を決断したと思われる。この試合のサブメンバーは荒野もいないので、パワープレー要員の上原を除けば"点を取りに行く交代"のカードが実質小野しかないのは厳しいところだった。結果的に投入直前にスコアが動いたが、予定通り小野は投入されている。

 そしてこの札幌が先制したプレーを境に、熊本は再び2トップの運動量が目に見えて低下する。元々後半開始から厳しい状況で、先制されたことで精神的にも落ちてしまったということもあるかもしれない。これに対するベンチの動きは迅速で、71分に巻→齋藤に交代。ただ本来ならば抜群のスピードが武器の齋藤は、スペースが生じやすい同点の状況で投入したかったことだろう。
71分~ 小野と齋藤の投入

2.5 20分残してクローズへ


 小野を投入した札幌だが、ボールを保持すると人数をかけて無理に攻めることはせず、今シーズン幾度か目の「ウノゼロゲーム」に目標を設定し試合をクローズにかかる。熊本が高い位置からプレッシングを仕掛けてきた際は無理に繋がず、裏に走る都倉に長いボールを蹴ることでリスクを回避し、その間に全員を自陣に引かせた5-2-3で熊本を迎撃する。
 この試合、序盤の数分間以外は札幌のセット守備の時間帯は殆どなく、ラスト10分になって久々に明確な守りの時間帯が発生したことになるが、80分にまずい守備から危うい局面を迎えている。発端は最前線で都倉が守備の基準を明確にできず、ボールの出所に対しアプローチすることができない。するCBの小谷からサイドに流れた若杉の頭へ浮き球でパスが出されるが、この時福森が八久保(岡本と交代で投入された)に食いついているため、増川も若杉に対応すると中央は菊地とマセードしか残らない。更に福森は八久保に食いついただけでなく、簡単に裏を取られてマークを外してしまう。サイドの深い位置に走った八久保の折り返しが齋藤に合っていればあわやという局面だった。
福森と増川が釣りだされ、中央には菊地マセードしか残っていない

 また84分にはCKの流れから、左クロスにペナルティエリア内で都倉が齋藤を倒したがノーファウルという局面もあった。直後に札幌はジュリーニョ→上原で2枚目の交代カードを使うが、ここは前寛之を投入して5-3-2、3センターがベターだったのではないか。上記の80分の局面を見ても、最前線で札幌の3トップの守備は熊本の2CB+2ボランチでのビルドアップに対してはまっていない。それなら中盤を増やして拾える&カバーリングの枚数を確保した方が得策である。

北海道コンサドーレ札幌 1-0 ロアッソ熊本
・67' オウンゴール

マッチデータ


3.雑感


 「今シーズンのホームゲームで一番ひどい」かはともかく内容的に乏しかったのは確か(シーズン序盤…菊地がいない時期の試合の方がもっと悪い試合はあったように思えるが)。サイドに展開して熊本のブロックを動かしながら攻めるという狙いは見てとれた。結果は異なるが、4-4-2の相手を崩すことがテーマという意味では第6節の町田戦を思い出した。あの時は稲本-深井のボランチコンビでサイドチェンジを有効に繰り出すことがほとんどできなかったが、今回は福森に加えて上里もピッチ上にいたことが大きい。
 そして相変わらず中央の崩しは貧弱という印象で、ヘイスがいないここ4試合…横浜、山形、京都、熊本戦は4試合で4得点だが、得点もセットプレーからだったりカウンターからで(カウンターがダメとは全く思わないが)、攻撃力が明らかに落ちていることを考えると2勝1分け1敗で乗り切ったことは上出来である。
 この試合を見終わっての最大の謎は、熊本はなぜ北九州に6点も取られたのか、という点(記事投稿後に確認予定…)。この守備が継続してできれば、もっと上の順位だと思うのだが、メンバーを固定できない事情等もあり外野が思っている以上に難しい状況なのだと思う。

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