2016年8月13日土曜日

2016年8月11日(木)18:00 明治安田生命J2リーグ第28節 横浜FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~10番の仕事~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GK金山隼樹、DF櫛引一紀、増川隆洋、福森晃斗、MFマセード、深井一希、堀米悠斗、石井謙伍、宮澤裕樹、FW荒野拓馬、都倉賢。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF上原慎也、MF菊地直哉、神田夢実、小野伸二、上里一将、FW内村圭宏。ヘイスは恐らく前節の試合中の負傷交代による欠場だが、ジュリーニョの欠場理由はよくわからない。菊地は後日の情報によると、連戦の疲労を考慮したとのこと。駒不足の前線は久々に宮澤がトップ下、好調の荒野が都倉と2トップを組む。
 なおこの試合が行われた8/11の午前に、リオ五輪では韓国代表が決勝トーナメント進出、ク ソンユンの復帰は最短でも8/21の京都サンガF.C.戦以降となる。
 横浜FCのスターティングメンバーは4-4-2、GK南雄太、DF藤井悠太、大崎玲央、西河翔吾、田所諒、MF佐藤謙介、中里崇宏、野崎陽介 野村直輝、FW大久保哲哉、イバ。サブメンバーはGK高丘陽平、DF永田拓也、楠元秀真、MF内田智也、ロク シュトラウス、ナ ソンス、松下年宏。札幌にとっては函館で大勝した相手だが、横浜はここ5試合負けなしと好調。前節はキングカズのゴールもあり、アウェイでセレッソ大阪相手に2点差をひっくり返して逆転勝利を収めている。


1.前半

1.1 変わったような、変わっていないような

1)4-4-2ゾーン風マンマーク?


 前回対戦…約一ヶ月前に函館で開催された札幌のホームゲームは5-2と札幌が一蹴。危ない場面や横浜が攻勢の時間帯もあったが、ほぼ完勝と言ってよい内容だった。函館での横浜はアンカーを落とした3バック化や、右サイドバックの市村を起点とした楔のパスによるビルドアップを行っていて、比較的ボールを大切にするチームだなという印象を受けたが、この試合の横浜は序盤は慎重な、ロングボールを多用する試合への入り方をしている。試合が落ち着き、両チームの形が見えてきたのは9分頃から。
 前回対戦を踏まえて札幌を警戒し、やり方を変えてきているな…と感じたが、札幌のセットオフェンスに対する横浜の守備対応を見ると、やはり前回同様の"4-4-2ゾーン風マンマーク"であった。要するに守備ブロック内や周辺を横断・移動する札幌の選手に対して、一度マーク対象と認識したら受け渡さずにそのままずっと着いてくるので、バランスが良い陣形を組んでいるはずの4-4のブロックは滅茶苦茶な形になる。

2)人に引っ張られる横浜ディフェンス


 例えば下の写真、12:17~における札幌右サイドからの展開を見ていくと、この右サイドに展開された時点で、横浜はまず①ボールサイドにおいて人に対して付く傾向…野村がマセードを意識したポジションをとっている(赤矢印)。本来ゾーンディフェンスのセオリーならば、野村はボールホルダーの堀米に対応すべきだが、野村がマセードに引っ張られているため、堀米に対してはボランチの中里がサイドにおびき出される形で対応している。野村が適切な対応ができていれば、中里は野村の斜め後方…白丸で示した、ちょうど宮澤が走り込んでいるゾーンが担当になる。
 そしてもう一つ、注目したいのが、より中央のエリアで後方から走り込む宮澤に対し、②佐藤が宮澤を意識した、マンマーク気味に捕まえる動き…宮澤の動きに付いて行き、ポジションを後方に下げる。
野村がマセードにマンマーク気味に付くことで、ボールホルダーの堀米には中里が付いている
サイドに2人が引っ張り出されるので中央がスカスカになる
中央では佐藤も宮澤をマンマーク気味に捕まえると…

 すると、この時堀米から都倉がパスを受けてターン、中央方向を向いたときに、佐藤は宮澤のマークを捨てて都倉の侵入するコースを止めに行くが、佐藤は直前のプレーで後方にポジションを下げているので、都倉への対応が一瞬遅れてしまう。
 またサイドに野村と中里が出ているということは、実質中央は2人(佐藤と野崎)で守っているようなもの。そのうえで佐藤がトレーラーゾーンに走る宮澤に付いていけば、中央を見れるのは野崎しかいない。野崎も右サイドからここまで絞って対応しろというのは無理があるので、
佐藤はポジションを下げてから再び出ていくので、都倉への対応が一瞬遅れる

 深井からオーバーラップしてきた福森にパスが渡った時は、シュートでも撃ってくださいと言わんばかりの大平原が福森の眼前に開けている(ミドルシュートはGK南がセーブ)。
反対サイドは誰も見ることができない

 このように横浜の守備はそれこそキックオフ段階では4-4-2ゾーンディフェンスのような雰囲気を醸し出しているが、実際の運用はポジショニングから対応の仕方までマンマーク。札幌の選手が多少、ポジションや動き方を変えれば、セットした4-4ブロックは簡単に崩すことができる。

1.2 マーカーを決めさせる


 上記に示した横浜の守備の特徴を踏まえると、札幌としてはまず横浜に「マーカーを固定」させたうえで、ポジションチェンジやゾーン内の移動を行い、横浜の選手を動かすことが有効である。そのうえで、4-4-2フォーメーションの泣き所である①FWの脇、②ペナルティエリア角、を活用したオフェンスを展開していく。
 特に前回対戦同様、横浜はFW脇のエリアが対応が曖昧なままになっている。このエリア周囲の選手…札幌は右CBが菊地から(足元の技術が劣る)櫛引、横浜はFWがキングカズから(より動けると思われる)イバに代わっているが、このエリアにおける札幌の優位性は変わらず、起点とすることができる。

 例えば、下の図は12:53頃~の展開で、札幌は櫛引が横浜の守備に積極的ではないFW脇を持ち上がり、右寄りのポジションをとる荒野にパス。この時、大外のマセードは野村、荒野は田所と「マーカーが固定」される。荒野はダイレクトでマセードに落とし、マセードはサイドを走る荒野に戻すと、田所が荒野に着いてくるので横浜のペナルティエリア角が空く。ここに起点の縦パスを出した櫛引が走り込み、荒野からの折り返しを受ける(横浜がクリアしてコーナーキックに)。
 前回対戦からそうだが、横浜はサイドバックが釣りだされた際のペナルティエリア角の対応が不明瞭。センターバック2枚は中央でマークをずらしたくないので、サイドバックが釣りだされてもスライドせずに中央のFWをずっと見ている。となると中盤の選手のタスクになるが、この時は中里がFW脇をケアするためにまず前に出てから、非常に長い距離を上下動してペナルティエリア角に走り込む櫛引に着いていくが、ここまでいくと完全にタスクオーバーで厳しいものがある。
荒野やマセードがマーカーを固定させたうえで
FW脇、ペナルティエリア角を起点にする

1.3 荒野の間受けと応用


 また4-4-2のチームを攻略するうえで有効なのは、ブロックを構成する選手間で受ける"間受け"。特に、この試合で形式上は2トップの一角として起用された荒野は、札幌で間受けができる数少ない選手(他はヘイスや宮澤)で、中央で起用された試合ではその才覚をこれまでもたびたび見せている。
選手の間で受けられると、誰がマークするのか不明瞭になる

 ただ横浜は先述のように、ゾーンというよりマンマーク気味に選手を捕まえてくるので、半端なポジショニングの荒野に対しては、「2トップの一角の選手」とみなし、CBの西河が半端なポジションであっても着いてくる。そこで札幌は荒野の間受けを活用するのではなく、荒野に着いてくる選手が空けたポジションを後方の選手が走り込むことで狙っていく。
 下の写真、17:05は典型例で、荒野が下がったところに横浜のCB西河が着いてくると、西河が本来管理すべきゾーンが空く。ここに宮澤や堀米が、荒野と入れ替わるように縦に走り込む。また後方ではボール保持者の増川に対し、横浜は2トップが効果的なプレッシャーを与えられていない。
荒野が下がることで西河を動かし、後方の宮澤や堀米が走り込む
増川はフリー

 スペースに走り込んだ宮澤に増川からのフィードが届けられると、横浜は4バックのうちCB西河が動かされた状態で中央に起点を作られてしまう。
西河が空けたスペースで宮澤が増川からのフィードを受ける

 札幌はヘイスとジュリーニョを欠いたが、起用された宮澤と荒野が、中央で収められ起点になれるが運動量の少ないヘイスや、足元でもらいたがるジュリーニョとは別のスタイルで横浜の守備を振り回し、攻撃においてはまずまず良い形を作れていたとの印象を受ける。


1.4 横浜のビルドアップ:札幌の「3」を動かす


 横浜のボールを前進させる形を整理すると、パターンは主に2つ。1つは下の図の水色実線で示したやり方で、まず①サイドバックに付けて札幌の前線3枚をスライドさせる、②CBに戻す、③スライドが間に合わない逆サイドのサイドバックへロングフィード。特に右CBの大崎から左の田所を狙った展開が多く、田所が高い位置でマセードとの1vs1という局面を作りたい狙いがわかる。これに対し、札幌は前線3人でピッチの横幅をカバーすることは不可能なので、大崎→田所のロングフィードが正確に蹴れる限りはこの形は非常に有効である。
 ただ、大崎への札幌の寄せが速い場合など、これが難しい時は横浜が誇るツインタワー、ジャンボ大久保とイバのいずれかにシンプルに当て、中に絞っているサイドハーフの野村と野崎が拾うという形も多い。
ビルドアップのパターン:①サイドバックに付けて札幌の前線3枚をスライドさせる、
②CBに戻す、③対角のサイドバックへロングフィード
もしくは前線のツインタワーに当ててセカンドを拾う

この対角へのロングフィードを使うパターンは、前回対戦時の横浜がやってこなかった形で、前回は下の写真のようにCB⇒SBへの展開時で攻撃のサイドを決めていたので、札幌としては守りやすい状況であった。
CBから右SB(市村)に渡ると、ドリブルで運んだり縦パスを狙ったりと
縦方向、同一サイドでのみ展開するので守りやすい

 若しくは対角に振らなくても、サイドバックをタッチライン際に張らせた状態で一度ボールを付けることで札幌の前3枚の守備を動かせれば、スライドが甘いので下の写真のように中央が空いたりもする。

サイドバックに付けることで、札幌の前3枚の守備…都倉と宮澤をサイドに振る
(この後もう一度同じようなプレーを繰り返し、都倉を完全にサイドに寄せる)
中央に戻されたとき、宮澤がボールホルダーに寄せるが
宮澤-荒野間が大きく空いており縦パスを通させてしまう

 この札幌の守備対応に関して言うと、スライドが甘いのは元からというか、3人で左右にスライドしながら横幅を守るのは不可能なので、致し方ない面もある。
 ただ気になる点を挙げるとすると、これまでの試合ではサイドに展開されたとき、FW3枚のうちサイドにいる選手が相手のサイドバックを追い込み、プレー方向を限定させていたが、この写真の局面では都倉(札幌のFW陣の中で最も優秀なDFでもある)の追い込みが甘く、サイドから中央へボールを逃がしてしまう。この、FWがサイドまで寄せていって追い込むプレー自体がなかなかのハードな仕事で、これまで都倉をはじめとするFW陣がこの仕事を勤勉にこなしてきたことが札幌のリーグ最少失点の要因の一つであり、小野がスタメンで出られない要因でもあったが、このFW3人による守備が緩くなる、できなくなると途端に札幌の守備は後方の5-2ブロックで守るだけのザル守備と化してしまう。
 一方横浜は、上記のようにボールを動かし、前進させる段階においては前回対戦よりも狙いが感じられるが、札幌陣内に入ってからフィニッシュまで持っていく段階でパターンがあまり仕込めていないのか、イージーなミスが散見される。となると札幌の前残りのFW…都倉らカウンターの機会を与えることになってしまう。

1.5 ツインタワーvs札幌山脈


 横浜はクロス成功率がJ2トップ(スカパー!中継のデータによる)という明確なストロングポイントがあるため、サイドから2トップにクロスが上がる状況を作りたいところ。ただ札幌も5バックで、中央に増川が待ち構えているため簡単な放り込みでは崩せない。逆に言えば、横浜としては、札幌のCB3枚のうち2枚を動かす状況を作れれば得点の期待が高まる。
 下の写真、14:44頃~の局面は、札幌の櫛引がイバへの迎撃からポジションを離れ、横浜がサイドへの素早い展開からクロスを上げたところだが、札幌はCBの1枚(櫛引)がいなくなっても5バックの残りの選手で3人による砦を作ることができる。この時はクロスの先には大久保が待ち構えていたが、増川がヘディングでクリアしている。
イバが札幌ボランチ脇で受けようとする
櫛引が迎撃の構え
櫛引がイバを倒すもアドバンテージ、横浜はサイドへ展開
札幌は最終ラインから櫛引が飛び出した状態
クロスが上がるが、増川-福森-石井で砦が築かれており跳ね返す

1.6 次第に手詰まりに


 しかし札幌が横浜の守備を動かし、優位に試合を進められたのは30分頃までで、前半のラスト10~15分程度は互いに攻め手を欠き膠着状態といった様相を呈する。
 札幌の視点でこの膠着化した要因を考えると、いくつか考えられるが、列挙してみると、
 ①横浜の守備対応の修正・整備…宮澤や荒野、都倉のゾーンを横断する動きに引っかからなくなった
 ②個人能力の問題…上里や菊地などボールを動かせる選手がピッチにおらず、代役の櫛引や堀米の所でボールの循環が悪くなる
 ③役割が整理できていない…宮澤や都倉も下がって受けようとするので前線で収まる、起点になる選手(ヘイスがしていた仕事)が不在
 などが考えられる。

 象徴的なワンシーンを切りだしてみると、41:13、札幌は左サイドで得たフリーキックから堀米がリスタート、深井とのパス交換から堀米が中央の増川に振る。この時はリスタートなのでセットオフェンスとは状況が異なるが、中盤3人…宮澤、深井、堀米のポジションに注目したい。
左サイドからのリスタート
堀米が中央の増川へ

 数秒後、増川に渡った時、両ボランチの堀米と深井は最終ラインに落ちていて、また横浜のボランチの前にいた宮澤がさらに下がってボールサイドに寄ってくる。そして都倉もボールを受けに落ちてくる。増川の選択は最前線の荒野へのフィード。
 この時、本来、宮澤はトップ下なので横浜の4-4のライン間で受けたいところだが、堀米と深井が中盤にいないため宮澤が下がってきてしまう。すると本来求められている仕事…恐らくヘイスのような、中央で基点になる仕事を期待して宮澤が起用されているが、(そうでなければ荒野トップ下で内村をスタメンなど、他の選択肢もあった)低い位置にいては相手の脅威となれない。そして宮澤に任せたい、ライン間で受ける役割は都倉が担おうとし、最前線で荒野が張っているが、これは選手特性を考えると逆の役割が適任。実際、増川のフィードを最前線で荒野が納めることができず、ボールが一度横浜に転がる(その後、宮澤と堀米ですぐに奪い返す)。
 また先の写真も併せて、横浜の陣形を確認すると、試合序盤の写真と比べてもわかる通り、落ちてくる宮澤や都倉にあまり食いつかないので陣形が大きく崩れていない。
増川が持った時に両ボランチが最終ラインに下がっているので
中盤は宮澤しかおらず、下がって受けざるを得ない
増川の選択は宮澤と都倉を飛ばしての荒野へのフィード

1.7 役割が整理されていない札幌と、次第に整備される横浜


 上記の局面から、奪い返した後の二次攻撃も同様の問題が生じている。41:42の写真は宮澤からサイドのマセードに一度展開、マセードが櫛引、深井とボールが戻されたところで、ここでも札幌は堀米が前線に進出(マセードからのパスを狙っていた)、宮澤と縦関係が入れ替わっている。深井が持った時、深井は宮澤への縦パスを狙うが横浜のイバが察知して宮澤へのコースを切る。
深井が宮澤への縦パスを狙うがイバがコースを切る

 深井は宮澤へのパスをキャンセルして、戻ってきた堀米に縦パスを通すが、堀米がこの位置でDFを背負った状態で何かを起こせるかというとそういう選手ではない。結果、この時は相手ゴールと反対側(横浜のブロックの外側)にドリブルしてからバックパス。
深井から堀米に縦パスが渡るが、DFを背負った状態で何かができるわけではない
相手ゴールと逆方向にドリブルで逃げるだけ

 上記の局面を見てわかる通り、徐々に守備が整理されていく横浜に対し、札幌の攻撃は横浜のブロック内、特にライン間で起点になるべき、なってほしい宮澤がライン間にそもそもポジショニングする状況を作れていない。すると前で張る荒野と都倉をリンクさせる選手がおらず、高い位置でボールも収まらない…という状況になり、都倉が下がってきたりもする。
 この試合、全体的に堀米のポジションが、前後だけでなく横方向のベクトルにおいても非常に自由な動きが目立ったが、役割を考えると堀米はフリーダムに動くのではなく、攻撃の部分でクオリティを出せる宮澤や荒野が、仕事がしやすい状況を作ることのはず。
 横浜に関して言うと、4-4守備ブロックを構成する各個人の動きが妥当になってきた(おかしな動きをする選手・機会が減少した)ことで、前半途中から守備組織としての完成度が格段に向上している。41:42のイバのプレスバックなどもそうだが、ある選手が妥当な動きをするようになると、それに連動する選手もボールの奪いどころや管理するスペースが明確になり、守備組織として機能するようになる。

2.後半

2.1 10番の仕事


 後半開始早々に札幌が2,3度、悪くない攻撃の形を作る。2つ切りだして見てみると、46:11は増川が立ち上がりで"眠っている"横浜守備の隙をついてドリブルで持ち上がると、ゴール前で宮澤がフリックして裏に抜けた荒野へ(横浜にクリアされる)。また直後のプレーではスローインから宮澤が背負ってキープしたところで、後方から上がってきた櫛引がアーリークロス(荒野の頭にはわずかに合わなかった)。いずれも宮澤がフィニッシュの直前に絡んでおり、何人もドリブルで抜いたりと派手なプレーをしているのではないが、的確なタイミングでボールに触り、シュートの1つ前、2つ前となるパスを味方に確実に供給している。やはりヘイスとジュリーニョ不在のこの試合、札幌が攻撃の形を作るには、トップ下の宮澤が高い位置でプレーすることが重要なことがわかる。
増川のドリブルから宮澤のフリックに荒野が飛び出す
スローインをキープして櫛引へ落とす

2.2 不発の左サイドと内村投入


 しかしながら50~60分頃の展開は再び、札幌は再び中央で基点を作れない時間帯となる。ハーフタイムにどのような指示があったのかわからないが、サイドで石井やマセードが持つとそのまま勝負→クロスという局面が多くなるが、単調なクロス攻撃では、CB西河を中心とする横浜の守備陣に跳ね返されてしまう。

 62分、札幌は石井→内村。石井を下げてナチュラルな左利きの堀米を左に出したことは、クロスの精度を向上させたいという狙いがあったのかもしれない。またイマイチ機能しなかったトップ下の宮澤をボランチへ。
62分~

 ただこの交代を以ってしても、中央で受ける選手不在という問題点は解決されない。内村は(スピードがあり1.5列目的なポジションで使われることもあったので)なんとなく器用な選手、下がって受けて…といったプレーが巧そうなイメージだが、実際は前に張って裏抜けが第一オプションのストライカーで、都倉との2トップで起用すると2人とも前に張り付いてしまい、攻撃の深みをつくれないこともすくなくない。
 下の写真、65:03は札幌のカウンターから、右サイドで一旦スローダウンさせて中央に展開したところで、深井が持った時には横浜もまだ守備を切り替えられておらず、バイタルエリアに大きなスペースが開けている。ここへ都倉か内村(荒野は右サイドにスプリントした直後)が引いて受けたいところだが、両者とも前に張っていて、深井としては出しどころがない。
速攻をスローダウンさせて中央からやり直すところ
スペースで受ける選手がいないので深井は出しどころがない

 直後、スペースに侵入してきたのは後方からオーバーラップしてきた福森で、やはり都倉と内村は前に張ったまま。結果この時は福森は使われず、裏に抜ける都倉へのスルーパスを深井が選択するが、都倉はサイドに追い出され、クロスを上げるしかなく、またそのクロスも直接ゴールラインを割っている。
都倉も内村も引いてこないまま、中央のスペースを有効に使えない

2.3 先制点献上と横浜ツインタワーの優位性


 そして内村投入から3分後の70分、横浜は左コーナーキックから早いクロスを送り、金山が中途半端に弾いたところを大久保がボレーで押し込み先制。難しいボールだったが直接的には金山の技術的なミス。ただ、直前のCKを与えることになったプレーを見ても、疲労により札幌の守備からはタイトさが失われ、"いつもの5-2ブロック"での軽い対応から簡単にゴール前にボールを入れられてしまった。
 そしてこのゴールで横浜は残り時間のプレーモデル…攻め急がずに時間を使う、がはっきりする。横浜にとってこの時間帯大きいのは、前線の2トップ、イバと大久保が中央で体を張り、札幌とは対照的に中央でボールをキープする仕事ができていたこと。札幌はこの時間帯、下の図のように3トップが守備をしなくなっているので、横浜のサイドバックに対してウイングバックが早めに出て対応する形が基本になっているが、すると最終ラインは残りの4人がそれぞれボールサイドにスライドし、4バックに近い形を作る。
 この時に下の図のように、「ボールサイドのCB」、図中では櫛引が特段マーカーも管理するスペースもなく余ってしまう局面が多く、その一方で中央では増川と福森が大久保&イバと1vs1で体を張り続ける。本来5バックで数的優位、積極的にチャレンジできるはずの札幌のDF陣は中央で数的同数になっており、また横浜の2トップはいずれもDFを背負ってプレーすることを苦にしないので、札幌としては2トップにボールが入ることが分かっていても、なかなか潰せない展開となる。
 ただゴールキックの際の競り合いを見ても、櫛引と大久保&イバでは競り合いにおいて明らかに横浜に分があるのは明らかであり、こうして190センチクラスの選手を2人並べるチームというのはJ2でも横浜だけだが、いずれにせよ札幌としては対処が難しい相手であったことは変わりないといえるかもしれない。
スライド対応すると櫛引が余り、中央で1vs1の構図が2つできる

2.4 天才小野 vs 庶民の兵法 5バック

 75分、札幌は堀米→小野。とにかく中央で仕事ができる選手がいないので納得の交代で、むしろあと15分早くてもよかったかなという印象さえある。小野投入から間もない77分、横浜は野崎→永田。横浜は5バック気味のシステムにシフトする。3CB+3ボランチを配して中央を固め、またバイタルから札幌の選手を完全に締め出す格好になる。
 79分には結果的に札幌のこの試合、最大の決定機が訪れる。都倉が右サイドで得たフリーキック、小野のクロスにファーサイドで都倉がヘディングで合わせるも横浜DFが頭でクリアし、ゴールには至らない。
77分~ 小野投入と5バック気味の布陣へ
3センターで中央を封鎖、札幌の攻撃を外に押し出す

 横浜はラスト10分、下の写真のように徹底して中央を封鎖、札幌のサイドへの展開に対しては5バック化したことで横スライドを早めて対抗する。結果的に、小野のボールタッチは出場20分(アディショナルタイム含む)で数えるほどだった。
3人のMFで中央の小野を徹底ケア
5-3-2にしたことで3センター脇が空くが、大外のマセードには5バックのSBがスライド対応

 札幌は終了間際、櫛引に代えて上原を投入しパワープレーを敢行するが実らず、横浜が1点のリードを守り切り1-0で試合終了。

横浜FC 0-1 北海道コンサドーレ札幌
・70' 大久保 哲哉

マッチデータ


3.雑感


 函館での前回対戦でも、大きかったのはジュリーニョ&ヘイスの個人能力で2点を先行したことなので、両選手、特に中央で仕事ができるヘイスが使えなければ苦戦するのは、三浦俊哉氏風に言えば"妥当な結果"とも言える。加えて横浜の守備が前半途中から目に見えて整備されていったことで、ある程度のアイディアと精度がなければ崩すことは難しかった。
 全く関係ない話だが、野球選手のアンドリュー・ジョーンズが楽天でプレーしていた際に「自分の仕事は長打を打ってランナーを返すことなので、追い込まれても単打狙いはせず、読みが外れれば見逃し三振で構わないので常に長打を狙う」というような趣旨の発言をしていて、なるほどと思ったことがある。まさにヘイスやジュリーニョと、この日起用された宮澤のトップ下の違いはこの考え方で、宮澤は"10番"ポジションの仕事以外もやろうとしてしまって、一番大事な仕事を遂行できなかったという印象である。
 個人的には、そもそも3-4-1-2自体トップ下を使いたい(=小野を先発で使うならトップ下しかない)のが採用理由なので、小野もヘイスもジュリーニョも先発のトップ下で使えない状況ならば"プランB"で戦ってもよいと思うのだが、恐らくチームとしてそうした準備はされていない。次節ホームでの山形戦も簡単にはいかないだろう。

1 件のコメント:

  1. にゃんむる2016年8月13日 10:48

    読みましたー(・∀・)ノ
    つなぎの形ができてなくて、試合になってなかった感じのゲームでしたね。小野投入がもっと早くても良かったというのは、思いっきり同意。荒野トップ下、宮沢ボランチで良かったと思うんだけど、そこは監督なりの考えが何かあったんでしょうと思ってはいるけれど、自分的には不満。中原こんな時に休んでるなよー(´・ω・`)

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