1.スターティングメンバー
- 徳島は首位水戸と勝ち点差6、3位ジェフと勝ち点差3の4位。29試合で29得点ながら17失点は依然としてダントツに少なく、プレーオフ3位だとかなり期待を抱けるかもしれません。
- 一方でここまで先発15試合で8ゴールと意外と実力派だった暴れん坊・ルーカスバルセロスが26節に右ハムストリング肉離れで離脱し。直近2節は残留争い中の秋田と熊本から計勝ち点1にとどまっており踏ん張りどころでもあります。
- その大事なゲームにバルセロスはベンチスタートで復帰。スタメンは渡をトップに戻して、CBの山田と青木が欠場。おそらく前節はバルセロスの役割というかスコアを動かすために渡を温存していたのかと思います。またシステムはボール非保持の際は明確に1-5-3-2になる形に変えてきました。
- こちらも暴れん坊・荒野と、ついでにマリオ セルジオ、バカヨコ、宮澤を欠くコンサ。左シャドーに青木、中盤センターに木戸(特に怪我でもなんでもなく新監督になって外れていたようです)、右に近藤が復帰しトップは白井に託してきました。
2.試合展開
決め打ちvsオプショナル:
- 序盤はお互いに相手の前線守備を嫌ってか、相手がそこまでセンターラインが強靭ではないと見ているか、様々な理由があったと思いますがGKやDFが前に長いボールを蹴って拾う展開を選択します。
- お互いにボールが流れてGKがキャッチしたりラインを割ったりすると、選手の配置を整えたり変えたりする時間を作れるのでこの際に互いにの考え方や特徴が現れます。
- コンサはマイボールになると最初からWBを高い位置に置いていました。柴田監督体制ではWBは左右のCBからの斜めのパスコースを作る仕事もありますので、おそらくコンサは全部前に放り込むと決めていたのでしょう。
- 徳島はこの時1-5-3-2気味の陣形でセットします。セカンドボールを徳島が拾ったら、前線の渡が引いてポストプレーか、坪井が右に走ったり杉本が左に走ったりで、WBが高い位置にいてサイドにスペースがあるコンサを構造を突いて前進を試みていました。
- 徳島が拾えなかった時は、坪井は自陣の右サイドに戻ってブロックに加わり、徳島は1-5-4-1のようなブロックを作って自陣ペナルティエリア付近のスペースを消す。このブロックに対してコンサにそこまで有効打がないこともわかっていたような、基本的にはスペースを消して待ち構える対応をしていました。
- 最初からロングボールを使うと決め打ちで入ったコンサに対し、徳島はそれ以外の選択肢も持っており、徳島ボールの際には↓のような構図が発生します。
- この配置も徳島が普段からやっているものですが、右FWの坪井がワイドに開くか、この試合のように中央寄りに立つかは2通りある印象です。今回は西野にあえてぶつけてきたとも言えるし、渡と近い位置にして相互作用を生み出そうとした(ロングボールが多くFW1人で対処するのはタフなので2人でグループにする)とも見れるし、自陣にすぐに帰れるようにしていたと見れるかもしれません。
- コンサは徳島のCB3人を前線3人でマンツーマン、ワイドも1v1の関係を意識しており、数的不利になる中央は木戸が前に出て永木をみる、高嶺は後ろに残って浦上と2人で渡を挟んで守る意識だったかと思います(浦上のコメントを見る感じでは彼は能力のあるFWに1人で対応できないので、MFに対してそうしたサポートを特に求めているのでしょう)。
白井と近藤の異なる圧力:
- 15分で最初に徳島が放り込むのをやめて、ほぼ同じ、というかその直後のプレーでコンサも放り込むのをやめる展開。
- ↑の構図を見ると徳島はGKとインサイドハーフが浮きそうですが、GK田中に対してコンサのFW白井の寄せが非常に早く、この時徳島は井上が浮くことになったと思いますが、GK田中がうまく白井に対処できずボールを前に蹴るだけでコンサが回収しており、うまく徳島の狙いを封じた格好でした。
- 徳島は福岡から8月に加入して出場3試合目となるCB中央の井上が、コンサでいうと家泉タイプというかあまり前にボールを運ぶやり方を知らなそうで、20分前後から永木がCBの間に下がってきてボールを引き取ってなんとかしようとします。
- 25分にようやくその永木が後ろでボールに触る形から(コンサはマンツーマンで捕まえるか迷って様子見でした)、徳島は浮いているインサイドハーフのところを使って前進に成功。
- ただ徳島のこの前進にあまり再現性がなかったのは、井上に対して白井が毎回寄せることを怠らずルックアップして状況把握することを妨げていたのと、この対応をされると井上の能力(ボールの持ち方、置き方、ポジショニング)がボトルネックとして顕在化されていたからでしょう。
- 対するコンサがボールを持った時に、徳島は依然としてWBが下がって5バックになった状態でセットしてからスタートするので、徳島の2トップの左右、中盤3人の左右のところはそれぞれWBが前に出られず、中央の選手がスライドして対処する必要があります。
- コンサはこの構図が頭に入っていた印象でした。特に高嶺とスイッチして西野が高い位置を取ることで、西野を見ていることが多かった坪井がその仕事に専念できない状況を作り、常に(コンサから見て)ピッチ左側で西野か高嶺が浮いている状況を作って、徳島がそちらに寄ってきたら反対サイドに動かしてそのスペースを使うことで、徳島の1列目〜2列目の対応を空転させ、ペナルティエリア付近で待つだけでは難しい状況を作っていました。
- 徳島がその”脇”(↑の図の赤円)を気にしだすと中央で木戸がアンカーとして前を向けるようになります。ここのコンサの役割分担も準備されていましたし明快でした。
- そして徳島のWBやDFラインが前掛かりになると近藤の前に放り込んで牽制。これがあるので徳島は迂闊に前に出られず我慢を強いられます。
- 前半シュートは6本(ほぼセットプレー絡み。徳島は1本)とそこまで多くはないコンサ。コンサが敵陣でボールを失ってもあまりきつそうでなはなかったのは、徳島のWBを常に押し込んでいる状態であり、かつ徳島の前線には少人数でアタックできるアタッカーもいないため。どうやってスコアを動かすかは別問題ですが陣地を奪い合うという観点ではコンサが優勢ではあったと思います。
- 40分に、それまで我慢していた徳島のWB高木の対応ミスをついて近藤が右サイドを突破してボックスへ。一度折り返しがブロックされたところを自ら頭で押し込みますがGK田中が左手1本でセーブ。両チームを通じて前半最大のビッグチャンスでした。
セットプレーから均衡が崩れる:
- 後半頭からコンサは長谷川・西野→田中克幸・家泉。西野は大事をとって交代ということです。
- 特に展開や試合の構図は大きくは変わらず。徳島としては、引き続きインサイドハーフや浮いている選手にボールを入れられるかというところでしたが、コンサの前線のキャストが田中克幸に変わっても徳島はここを改善できませんでした。
- 52分にコンサがセットプレーから素早いリスタート。浦上がドリブルで運んだことで、徳島の右DF山越が引き出されて、それによっておそらく徳島のDF井上が中央で白井のマークを外して右に動いてしまい白井がドフリーに。高嶺の高速アーリークロスをうまく頭で合わせてコンサが先制します。
- やはり白井はシュートを狙って打つよりも勢いをそのまま維持した方が入りそうな印象ですが、徳島の井上のポジショニングと受け渡しのミス(渡された側の柳澤は「何してんねん」みたいなリアクションでした)が明暗を分けた格好でした。
- 得点前後でややコンサの前線守備の圧力が弱まった感があって、徳島はWBを押し上げる形でそれまでよりも全体を前に押し出したところからスタートできていたと思います。
- それまではCBの井上か柳澤から、アンカーの永木を経由するなどして、受け手となるインサイドハーフかトップの渡に縦パスを入れるのが最初のミッションだったとして、そこをコンサが集中してケアしていたのと出し手の問題とでなかなかうまくいかなかった徳島。全体が押し上げられまたCBの左右の選手が圧力をそれまでほど感じなくなったことで、そのCBから背後に走るFWへのパスが出てくることになりようやく前方向にプレーできるようになります。
確かに判定は辛かったが:
- 61分に徳島は渡・坪井→トニーアンデルソン・宮崎。
- しかし66分にコンサがGK高木から始まるプレー。↓のような構図で、徳島はインサイドハーフがコンサのSBにスライドする形でプレッシングを仕掛けますが、永木が木戸を潰すために出たところで刈り取れず、髙尾がリカバリーしたところからコンサが徳島陣内に侵入し、最後は青木がマンツーマンを剥がすワンツーで抜け出し近藤が押し込み0-2。
— AB (@british_yakan) September 22, 2025
- 永木のアタックが決まっていれば決まっていれば徳島のショートカウンターのチャンスだったので紙一重だったと思います。
- ただこの試合、徳島は(近藤がWBを釘付けにしているのもあり)全体的に押し上げられない、圧縮できないやり方で守っているため、こうしたハイプレスの際にも広いスペースを個人個人が1人で守らなければならない。この場面も広いスペースで、1人でボールを奪うことの難しさが表れているという意味で、この試合のターニングポイントでもあり象徴的な構図だったかもしれません。
- コンサは高木の最初のパス(家泉を飛ばして極力関与させなかった)と、髙尾の中央方向に方向転換したドリブルが流石この2人という選択でした。
- 以前「高木のパスミスが気になる」と言う意見があり、↓のように(確かにミスはよくないけど)コンサの場合CBがチャレンジできないとか質が悪いとするなら、GKがチャレンジすることで成功すれば味方を助けることになる、と回答しましたが、まさにこの得点の場面は高木のパスが家泉の負荷や仕事を減らした形だったかと思います。
いや見直したけど昨日のシュートはめっちゃきついと思いますけどね。
— AB (@british_yakan) August 24, 2025
コース良すぎて菅野でも無理じゃないすか。菅野もっとリーチ短いし。
それこそドンナルンマくらいの化け物だと触れるかもしれませんが。
私…
(残り676字)#querie_british_yakanhttps://t.co/RoyzHwsfWE
:
- 0-2となった直後、徳島は67分に高木→ルーカスバルセロス。キックオフ直後のプレーで、トニーアンデルソンが浦上の背後を取ってボックス内侵入から折り返し→バルセロスが決めて1-2。徳島の前線の特徴が変わって浦上が肉弾戦を強いられ、コンサとしては隙を突かれた格好でした。
- 徳島はボール非保持は1-4-4-2として、ボール保持の際は3センターは維持。ただゴール前は見た感じウインガーがおらず、縦に急いだ時に中央が渋滞気味でした。72分には児玉が浮き玉に飛び出しネットを揺らしますがオフサイドの判定。この時も中央でバルセロスとアンデルソンがおもくそ被っていてむしろやりづらそうに見えました。
- 77分にコンサは青木・木戸→スパチョーク・大﨑。80分に徳島は杉本・エウシーニョ→重廣・山口。徳島は最後は前線の枚数を増やして早めに放り込んだり縦パスを入れてきますが、シュートの精度がイマイチなのもありコンサが逃げ切りました。
雑感
- Jリーグは大体どのチームにも自己主張が強いというか、チームとして同じ絵を描くことが難しそうというか、平たくいうと戦術理解に難があるとか監督としては使いづらい選手が数人は混じっていることが多いですが、この試合は互いに監督の意図するゲームプランを遂行しようとの意識がほぼ全選手にあり、結果として極めて戦術的に陣地を奪い合う好ゲームだったと思います。
- 指摘するとしたら、徳島はCB井上のところに本来スタメンの選手がいれば展開は変わったかもしれません。ミスマッチのインサイドハーフのところにボールが入るかどうかが徳島側のポイントでしたが、あまりうまくいかなかった理由はまず出し手の側に問題があったように思えます。
- 一方でかつてトルシエ氏は「8人の明神と3人のクレイジーの11人が理想のスタメン」と語っていましたが、ゲームプランを粛々と遂行することを前提として、1v1に勝ったり相手の意表をつくなど予想を上回ることができる選手が必ず必要になるとして、まずこの試合では右に張っていた近藤の名前が挙げられます。
- 近藤を警戒して徳島のWBおよび5バックが低い位置に釘付けになったことで、徳島としては終始、我慢の展開を強いられましたし、相手が前に枚数をかけることが難しかったことはコンサの後方の選手を大いに助けることとなりました。
- 岩政前監督は「選手を躍動させる」と言っていましたが、コンサの場合編成がそもそも…であることも要因ですが、ある程度、選手がエゴを捨てて”駒”になりきらないとコレクティブにプレーすることは難しいかなと思います。
- どちらかというと、柴田監督は選手はあくまで全体最適のための駒だと捉えている印象で、新監督になって幾分か選手の序列も変わっていますが、いい意味で駒としてプレーできるかが一つの判断材料なのか、少なくともこの試合では前の監督の体制で戦術的な縛りが少なかった近藤のような選手が、駒として縛られつつも相手に圧力を与える存在として戦術的には効いていたのが印象的でした。
- 西野の攻撃参加だったり、岩政前監督が創造したものをいくつか残している柴田監督ですが、ここまで見た感じでは両者の決定的な違いは、前監督は選手の”クレイジー”さ(野々村氏の言う”クオリティ”もほぼ同義)を引き出すことが起点であり、柴田監督はそれはチームとしてのディシプリンがある前提での上積み、というところでしょう。
- もっともその前監督が解任される自体となり、また浦上のようなリーダー(またはリーダーの補佐役)が加わって、また何人かの出場停止などがあって、ようやく選手が駒に徹することができチームとして機能してきたのも事実ではありますし、あとは岩政前監督のアプローチは、いわばトルシエの言うところの”クレイジー”の能力をより引き出そうとするタイプのアプローチでもあり、一概に正しいとか間違っているとかも難しい話ではあると思います(いずれにせよコンサの場合CBのアップデートが絶対必要だったとは感じますが)。監督の順序が逆だったら西野がこれだけ戦術的なキーマンとして成長することも難しかったかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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