2018年12月9日日曜日

2018年12月1日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第34節 北海道コンサドーレ札幌vsサンフレッチェ広島 ~座して待つのみ~

0.プレビュー

0.1 スターティングメンバー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、石川直樹、MF兵藤慎剛、白井康介、FW都倉賢、宮吉拓実。駒井は扁桃炎による発熱で欠場。
 サンフレッチェ広島のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK林卓人、DF野上結貴、千葉和彦、佐々木翔、MF馬渡和彰、青山敏弘、森崎和幸、柏好文、柴崎晃誠、川辺駿、FWティーラシン。サブメンバーはGK中林洋次、DF水本裕貴、和田拓也、MF稲垣祥、東俊希、FW渡大生、パトリック。9/15の第26節鳥栖戦以降の8試合で1勝7分けと稀に見る大失速でタイトル争いから脱落し、振り向けば鹿島・札幌という状況で最終節を迎える。先日何気なくTwitterで少し古いログを漁っていると、8/19の第23節で札幌がFC東京に勝利したことを喜ぶサポーターがいた(当時はFC東京も上位だった)。3バックの採用は最終節にして今シーズン初。

0.2 数的優位と前進とは


 試合後の話題だが、北海道新聞の12/4の記事で、札幌の可変システムについて言及されていた。この会員限定の記事では可変システムについて「数的優位となり、前進が容易となる」(どっかで見たことのある文体である)とされており、また選手の言葉として、4-1-5なのか5-0-5なのか、他の陣形であるかは事前に決めているわけではないことが紹介されている。
 ここで「前進が容易となる」というが、より具体的にはどうやって前進しているのかというと、
どうやって前進するの?①

 最も主要な手段は、トップの高さのある選手の頭か、ウイングバックへのロングフィードである。一般にはパスの距離、味方に届くまでの時間が長いほど、その出し手が持っている「優位性」は矮小化される(単に「数的優位で前進しやすい」と言ってよいものか疑問である)。寧ろシーズン終盤戦になって際立っているのは、1on1ならばDFを背負った状態でも簡単に潰れないジェイのスーパーな起点能力で、これが札幌の前進の生命線となっている。

 もう一つの手段は、分断化された後方と前線を繋ぐべく、チャナティップや三好が中盤で活動しリンクマンとして機能すること。ウイングバックへのフィードは、シーズン序盤は福森や進藤から直接供給を狙うものが多かったが、中盤戦以降はチャナティップが収めて、より短い距離で右サイドに届けるパターンが非常に多く、また効果的になっている。逆説的には、これらが機能しない時、札幌の5トップ布陣は不用意に後ろの人を削っただけの代物に成り果てることは先月の浦和戦などが証明している。



1.鏡に映った背後のスペース


 話をシーズン最終節に戻す。
 いつもの形の札幌に対し、ミラー布陣を選択した側は広島。これは札幌の5トップサッカーに対して枚数不足に陥らないための措置だが、広島のボール保持時も各ポジションで同じ枚数となり、バックラインはリスクを冒しづらくなる。GKを組み入れてボール保持からの前進を試みるやり方もあるが、6連敗中のチームはよりセーフティな手段で試合に入る。
 序盤、斬り込み役は右の馬渡。高いポジションを取り、立ち上がりから対面の菅の裏を積極的に突いていく。
馬渡の突撃の背後にはスペース

 ここで、ミラー布陣状態の特徴として、各々が1on1を強く意識しているとカバーリングへの意識が相対的に弱まる。つまりポジションを上げた馬渡の背後は、野上がカバーできるかというとチャナティップと野上の1on1の関係性上、野上にできることは「かなり限られている状態」であり、馬渡はその自身の背後をいかに自らマネジメントするか、ということを念頭に置いた上で、菅と対峙するオフェンス機会での振る舞うことが求められる。まさに攻防一体とはこのことである。

 チャナティップの先制点は、この馬渡の攻撃参加が不発に終わったところからの札幌の逆襲から生まれた。長いフィードを走って追いついた馬渡だが、不利な体制でのフィニッシュとなったことで次のプレーへの関与が不可能になる。ルーズボールをCBの野上が後方からフォローするが、この野上のクロスが短くなり、深井がカット、三好に繋いだ段階で、広島の馬渡と野上のユニットが守る右サイドはがら空きになっていて、両選手のこのゲームにおける、攻防一体性に対する意識の低さが露見されている(もっとも札幌もそれをドヤ顔で指摘できるチームでもないが)。
広島が3バック化している状況を3枚残しのアタッカー陣で突く

 この隙を見逃さなかったのが、ポジトラ時の意識だけは異様に敏感な福森。長い距離を走ってサイドを突くと、鋭いクロスでゴール前の三好にボールを届ける。最後は荒野とジェイの関与からチャナティップが蹴り込み先制。同数が基調のミラー布陣では「迂闊に動くと悪手」の典型的な得点だった。

2.同じ狙い


 序盤から右の馬渡が突撃してくる広島。パトリックをベンチスタート(あまり根拠のないことは言いたくないが、ティーラシンをタイ代表対決となるこの試合で使わざるを得ない事情があるのかもしれない)とした中で、スペースに放り込んで走らせる役割は馬渡にしかできない。ジェイのスーパーゴールが決まり2-0となった後も、撤退守備が基本の広島は札幌に押し込まれる時間が続く。そこからの陣地回復は馬渡の突撃が担うことが多く、広島のボール保持後の展開は「まず右」が多くなっていた。

 ただ本来の狙いは左サイドのアイソレーションにあったのかもしれない。広島右サイドの役割分担は、馬渡が大外で菅を引っ張り、シャドーの柴崎(川辺と頻繁に入れ替わる)が引いて福森を釣り出す。菅と福森が大きく動かされると、札幌左サイドには宮澤と菅とのチャネルが大きく空くため、宮澤と進藤はサイドにスライドして守ることを余儀なくされる。
 この時、柏は反対サイドで張っており、早坂は柏とのマンマーク関係こそ維持しているものの、両者が正対した状況では縦にも内側にも攻撃側が使える潤沢なスペースが与えられている。特に右利きの柏は、カットイン、もしくは切り返して右足でクロスを供給するために内側のスペースを必要とする。
無理が効く馬渡で右を揺さぶり、柏が仕掛ける余地を作る

 序盤はこの形から徐々に早坂のサイドを揺さぶり、前半35分過ぎころからは、札幌のペースが落ちたところを見て柏がより仕掛けるようになっていく。
 39分の馬渡の得点も、柏の仕掛けからファーサイド、菅と福森のところを狙ったクロス。この数分前にも似た形があり、城福監督が拍手をしていた…とのリポートがあったが、馬渡の突撃は見せ玉で、真の狙いは柏からのファーサイドを狙った攻撃だったと思われる。結果的には後半立ち上がりの、広島の同点ゴールも同じようなインスイングのアーリークロスからだった(そして思い返せば、開幕戦のティーラシンの得点も同じ形)。

3.キャストを整え、爆発を待つのみ


 スコアがイーブンとなってから、札幌は7分後の58分に三好→都倉に交代。ベンチ入りしている選手の中では都倉がファーストチョイスであることは間違いないだろう。ただミラー状態のゲームで、佐々木相手ならばやってくれそうな気配のあった三好を下げることも勇気がいる。数分間、様子を見たうえでの都倉投入だった。
 「9番」が2人並ぶ構成となったことで、やはり札幌のボール保持局面は変化する。都倉はジェイと並んで最前線で張り、裏に飛び出すという典型的な9番の挙動を繰り返すので、それまで三好が落ちてきていた札幌右サイド、森崎の脇のスペースは誰も使うことなく、また機を見て中央に進出していた早坂もサイドに張るだけになる。早坂はミシャが求める、遅攻で局面を打開できるウインガーではない。早坂の売りは競り合いの強さや、裏に飛び出すアクションであるが、都倉が入ったことでそれらの動きはかなり制限されてしまう。右サイドは進藤がアーリークロスを放り込むだけの単調な展開に陥ってしまった。
三好→都倉の交代は右サイドが死んでしまう

 ならばチャナティップのいる左サイドを使いたいところ。しかしそのチャナティップは青山が監視することで間で受けることはできなくなる。ここもサイドの菅と福森から放り込むしかなく、広島はゴール前を固めていればほぼ札幌の脅威は感じなくなっていった。

4.主役と心中


 都倉投入後の時間帯は広島ペースが続く。DAZN中継では解説の吉原宏太氏が「札幌は足が止まってきた」と言っていたが、前線は都倉、チャナティップ、ジェイの構成で、途中投入の都倉はフレッシュ、チャナティップもこの程度の時間で疲労を感じる選手ではない。やはりジェイが守備で動けなくなり、マークが曖昧になると、そこから縦パスを通されるようになる。
 そして1列目の守備がルーズになると、荒野が広島の、最終ラインに落ちる中盤の選手(森崎か青山、主に森崎)を捕まえようとして常時前に出ていることが仇となる。中盤は宮澤(深井が下がった後、ポジションを上げた)1枚しかおらず、縦パス1本で簡単に侵入を許すようになり、完全に1on1基調の数的同数守備は破綻している状況だった。
ジェイの燃料切れで簡単に中央を割られる

 ラスト20分はフェルナンド トーレスの言うところの、「特に試合後半では攻撃をする人と守備をする人に分かれ、中盤に誰もいないことがある」という表現がそのまま当てはまるような試合展開。本当に2位と4位の試合か?と思うほどだが、広島はボールを失った後はしっかり撤退して5-4ブロックを作るだけまだマシであって、札幌は完全に個人(特にジェイ。前線にいるだけでポイントを作れるので下げる選択肢はない)で何とかするしかない状況だった。

5.雑感


 今や前線の2枚看板であるチャナティップとジェイの個人能力は随所に光ったが、ゲーム全体のクオリティとしては繰り返しになるが上位対決とは思えないようなオープンな殴り合いが繰り広げられた。
 34試合のシーズントータルで見ると、ジェイにせよ荒野にせよ諸々の課題を織り込み済みで、それでも現状の札幌は彼らの個人能力に頼らざるを得ないし、そしてこれまで多くのポイントをもたらしてくれたジェイは多少のことでは簡単に下げられない。そう考えると、中位~下位からポイントを稼ぎ、トップ5のチームには勝ちなし、得失点差±0という結果は非常に妥当性があったと思う。

4 件のコメント:

  1. 33節も待ってます!

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    1. 遅くなりました。いつもありがとうございます!

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  2. 1年間お疲れ様でした(*- -)(*_ _)ペコリ
    毎回、フムフム言いながら楽しく読ませてもらいました。
    後は総括のようなものがあるとありがたいんですが、きっとありますよねwww。
    総括と来年度のブログも期待し、マッタリと待ってますね。
    んでわ、またのー。

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    1. 遅くなりました。去年とは違いますが何らか書きます!

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