2018年11月3日土曜日

2018年10月28日(日)15:00 明治安田生命J1リーグ第18節 名古屋グランパスvs北海道コンサドーレ札幌 ~後出しじゃんけん~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF駒井善成、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、MF兵藤慎剛、早坂良太、小野伸二、FW都倉賢、宮吉拓実。
 名古屋グランパスのスターティングメンバーは3-4-2-1、GKランゲラック、DF中谷進之介、丸山祐市、櫛引一紀、MF前田直輝、小林裕紀、エドゥアルド ネット、八反田康平、FWガブリエル シャビエル、玉田圭司、ジョー。サブメンバーはGK武田洋平、DF新井一耀、和泉竜司、金井貢史、MF長谷川アーリアジャスール、秋山陽介、青木亮太。2節前のFC東京戦で宮原が負傷交代、前節柏戦から3バックの布陣に変更している。

1.序盤の攻防

1.1 5-2守備の脇を突いて進藤の突撃で先制


 序盤、札幌が後方でボールを保持すると、ミシャチームのいつのも形に対して、名古屋は10人のフィールドプレイヤーを「7-3」に分割して運用する。
 特徴的なのは、前線3枚…ジョー、シャビエル、玉田は非常に高いポジションを取っていて、札幌のGKク ソンユンからボールを配給される選手にファーストディフェンスを行えるように用意していたが、アウトサイドでは右の前田、左の八反田は、菅と駒井よりも後方で守っている。
 最終ライン中央では、前で張るジェイに3バックが押し下げられ、その前方を守る小林とエドゥアルド ネットも、前よりも後ろをケアできる、ジェイや三好、チャナティップをサンドでき、ジェイが競ったセカンドボールを回収できるよう、低い位置取りをしていた。
札幌ボール保持時の人の配置

 上記の名古屋のように、選手をきれいに5人・2人・3人と並べて配することはある種、概念的な話でもあって、実際の試合ではある程度、守備側の選手はボールを中心に動くことになり、このように人が並んだ状態が続くことは稀である。しかしこの試合、序盤の名古屋は非常にこの5-2-3、特に5-2の形に人をセットする傾向が強く、中盤の「2」の脇が完全に空いており、また前線の「3」があまり守備に戻ってこない、最終ラインも札幌の5トップをマークしているので前に出て守らないため、「2」の脇は空いたままになっていた。
 それでいて、札幌のサイドのDF、福森と進藤は、(中盤の選手をリスクヘッジとすることで)攻撃参加を許容されていて、この「2」の脇に積極果敢に侵入してくる。6分、札幌のスローインから進藤が侵入すると、玉田がリトリートしない名古屋は進藤への対応が遅れる。櫛引がアフター気味に横から体を当てると、PKの判定が下った。

1.2 名古屋のカバーシャドー守備


 ジェイのPKで先制後、札幌のフィールドプレイヤーにボールが供給されると、名古屋の前3枚はカバーシャドー気味に守る。序盤は↓の図のように、アンカー荒野が余ってしまう状況があったが、
前3枚でパスコースを消して守る

 ネットもしくは小林も前に出して、人数を増やして守ると、札幌は効果的に前進ができなくなる。後方で、唯一宮澤だけはボールを運ぶ意識が感じられたが、他の選手はク ソンユンに戻してとりあえずやり直し、するとソンユンにチェイスされてソンユンが前に蹴って、札幌のボール保持は終わり、という展開が何度か続いていた。
荒野も消すことで選択肢を排除

1.3 名古屋の時間帯へ


 序盤15分ほどの、札幌がボールを握る展開を名古屋がやり過ごすと、徐々に名古屋がボールを握る時間が増えてくる。名古屋はミシャ式4-1-5のような、明確なボール保持→前進の形を作ることより、キープレイヤーに前を向かせて、ボールを集めることをより重視しているようで、そのキープレイヤー…ネットや小林は、フリーになれる位置までポジションを大きく下げることが許容されていた。
 札幌の守備は、名古屋の3バックに1トップ2シャドーが数的同数守備、落ちていくネットや小林には、特に荒野が(いつも通り)猟犬のごとく食いつく守備で対抗する(荒野の運用については、最終ライン起用の宮澤の代役というより、選手特性を考慮し、宮澤とは全く別の役割を想定して起用していると考えた方がよさそうである)。

 名古屋の前進のパターンは主に2つで、1つは右サイドに流れるシャビエルへの展開。名古屋のWBは最初、低い位置を取っていて、最終ラインの選手やネット、小林からパスを受ける、ビルドアップの出口としての性質が強い。その低めのWBの前方にはスペースが拡がっていて、シャビエルは前田の前方に流れてくる。札幌は、福森がこれを捕まえると中央で宮澤、進藤の2枚のみになってしまうことで、シャビエルはフリーで受ける機会が多くなる。
 もう1つはジョーへのフィード。宮澤とのマッチアップでは、空中戦だけでなく、スタンディングでの競り合いでもジョーに分がある。単に後方で詰まった時のリセットの手段としてだけでなく、ジョーに蹴ったほうが、札幌の数的同数守備をかいくぐるよりも速く確度も高い、とも言える状況だった。
前進の2つのパターン

 ジョーに蹴って前進、は札幌も似た手段…ジェイへの放り込みを持っている。5バック・3トップで中盤に2枚しか置かない両チームのマッチアップは、両者とも前線に確度の高いターゲットを擁していることもあり、ダイレクトな展開が増えていく。

2.時間はどちらにとって有効なリソースだったか


 前半を半分が過ぎてからも試合の構図は大きくは変わらない。川崎に0-7を食らって以来、5-0-5気味の運用が多くなり(福森と進藤はアウトサイドに配されて)、ビルドアップに最大3枚(この試合では宮澤、深井、荒野)しか割かない傾向が強くなった札幌はク ソンユンに戻しての放り込みが多くなる。これが、25分頃になるとジェイが中央で丸山をピン止めしつつ競り、三好とチャナティップ、時に駒井は、明らかにスペースが生じている名古屋のアンカー(図では小林)の脇でボールを拾うように待機することが多くなる。
 ジェイが競って回収したボールは、裏を狙うジェイと、左で残っている菅を走らせての攻撃が多くなっていた。
選択肢がなくなるとジェイに当てる

 名古屋のボール保持時の展開は、札幌のそれと比べると幾分かの変化があった。ビルドアップの段階では、ネットは完全に3バックに加わっていて後ろで4on3の関係をつくる。序盤からネットを追いかけまくっていた荒野は時間経過と共に中盤の選手として振る舞うようになって、4on3では対応が難しくなった札幌の前線守備は空転することが多くなる。
 名古屋の前進手段は、ジョーのポストプレーがより重要性を増してくる。ネット、ジョー、シャビエルは基本的にボールに寄ってきて、日本人選手(特に前田)が裏を狙うが、フィニッシュにおいても重要な役割を担うジョー、シャビエルが下がってくると、前線の選手だけで攻撃を完結させることは難しくなる(この点は、ジェイとチャナティップだけでシュートまでいける、いい意味で前後分断でも攻撃が成り立っていた札幌と対照的である)。
下がって受けるジョーに当てる

 よって名古屋はフィニッシュに持ち込むため、組み立てに関与したジョーがゴール前に入っていく時間が必要になる。ジェイは1つのプレーで足を止めてしまうが、より動けるジョーは連続的にプレーに関与できるため、こうした展開が成り立っている。
 一方で、よく「厚みのある攻撃」というが、言い換えれば時間と人数をかけないと攻撃が完結しなくなっている。その時間は名古屋にとってはジョーや、ネットが攻撃参加するための時間でもあり、札幌が5バックと2MFをゴール前に配備する時間でもある。どちらかというと、守るために枚数確保が大前提の札幌に、この時間は有効に作用していたと思う。
 名古屋はゴール前でジョーにボールを当てる役割をシャビエルが担うと、中央での枚数不足に陥りがちになる。ネットや小林のアップダウンによって補われていたが、ジェイ並みにプレーが途切れがちなネットでどこまでそれが続くかは微妙なところだった(この点では、札幌はWBをワイドストライカーとして運用する形を持っていて、札幌の方がより練度が高いように思える)。
フィニッシュの構築もジョーに依存しており、ジョーが絡む時間が必要になる

 前半終了間際に大きなトピックが2つ生じる。1つはチャナティップのアシストから生まれたジェイの勝ち越し点で、ランゲラックを破ったシュートも見事だったが、それまでの展開を見ると、5-2ないし5-1守備状態が恒常化し、バイタルエリアに大きなスペースを放置したままだった名古屋、チャナティップが前で仕事できる環境が整っていた札幌(シャビエルのように、ゴール前から離れてのプレーを強いられなかった)という試合展開がスコアに反映された印象である。
 もう1つは八反田が立て続けに警告2枚で退場。厳しい判定のように感じたが、後半45分、名古屋は10人での戦いを強いられる。

3.ミシャの後出しじゃんけん(1)

3.1 先に動くしかない名古屋


 名古屋は後半開始から、玉田を下げて金井を投入し、3-4-2に変更する。
46分~

 後半立ち上がりは1人多い札幌がボールを握り、名古屋は5-2-2で撤退して様子を見る展開に。名古屋は「2-2」の中央はとりあえず固めているが、川崎に0-7を食らって以降の札幌は猶更中央を使わないビルドアップに切り替えていることもあって、中央は完全に空洞化され、誰も使わなくなっていることが多い。
5-2-2で守る名古屋だが中央を捨てている札幌には分が悪い

 札幌がサイドから迂回して前進を試みると、名古屋はサイドではWBを前に出してケア。また、それでも中盤は枚数が足りないので、シャビエルが頻繁にプレスバックするようになる。
シャビエルの負担が大きくなる

 そして「5on5」の数的同数で守っているエリアのうち、札幌のシャドーにボールが入ると両サイドのCBがアタックしてボール狩りを敢行する。
 奪った後は地上戦でも強いジョーを走らせる。後半立ち上がり、ジョーが左サイドでキープし、中央に駆け上がったシャビエルへのクロスという決定機があったが、リーチの長いジョーサイドで懐を使ってボールをキープされると、宮澤にとっては中央で応対する以上にある意味で厄介で、この強烈な質的優位性が発揮される局面が増えると、11対10の数的優位性が徐々に薄れていく。
シャドーにボールが入ったところを狙う

3.2 後出しじゃんけん開始(右シャドーを安定化)


 そこで札幌は57分に三好→早坂に交代。三好よりもプレーエリアが低く、かつボールを簡単に晒さない駒井をシャドーに移す。これにより、名古屋が5バックの最終ラインで札幌のシャドーを捕まえることが難しくなる。
57分~

4.ミシャの後出しじゃんけん(2)

4.1 重心を前に移す名古屋


 札幌の動きを見て、名古屋は67分に櫛引→和泉に交代。最終ラインを4枚にする。
67分~

 この試合、名古屋はボールを保持している局面では、札幌はジェイの1トップなので、(2シャドーを含めて前3枚として見ても)数的優位が作れる4バックの方が基本的に都合がいい。中央は中谷と丸山で解決するとして、右に入った和泉がプレーメーカーとして振る舞う。そして左では、後半から入った金井がフリーロール気味に振る舞い、レーンを大胆に横移動してバイタルエリアにも侵入していく。

 名古屋は金井のほか、ジョー、前田にボールを供給したいが、札幌の5バックが中央を固めて、人を捕まえている状況では、サイドを変えることでDFの視線を操ってから崩しに入りたい。この時は、金井が定位置にいないことがデメリットになってしまう。小林や、本来ゴール前で運用したい(しかも、できれば右サイドがいい)シャビエルが、金井が本来いるべきポジションに落ちてボールを循環させなくてはならず、あまり効率的だとは見られなかった。
ダイレクトな展開が封じられると金井のポジション取りはデメリットが目立つ

4.2 再び5トップvs最終ラインの勝負に持ち込む札幌


 名古屋が4バックにして最終ラインを削ると、札幌は再び前線の5トップを名古屋の最終ラインに対してぶつけていく。73分、深井に変えて都倉を投入する。深井の膝のリミットも勿論考慮されていたと思うが、「シャドー・都倉」はCBが1枚少なくなった名古屋の最終ライン中央に対して圧力を与える狙いがあったと思われる。
 この試合、右シャドーを務めた3選手(三好→駒井→都倉)のうち、都倉は最もFW的なプレースタイル(というか、れっきとしたFWである)で、前線に張ったり裏に抜ける、ゴール前に飛び出す動きを得意とするので、名古屋は都倉をマークする役割は必然と中盤ではなく最終ラインの選手になる。都倉の起用と同時に、ジェイが中央で名古屋のCB2枚をピン止めするので、名古屋の左SB金井は都倉をケアできるように、中央寄りのポジションを取らなくてはならない。
 すると横幅4枚でただでさえサイドに手が回らない名古屋は、早坂へのケアが更にお粗末になる。リードしており無理に勝負する必要がない札幌は、オープンな早坂を使ってボールを循環させればよい。
都倉で中央にDFを寄せてWBをオープンに

5.雑感


 半年ぶりの対戦となった名古屋は、随分とジョーのクオリティを前面に押し出すチームに変貌していて、前半はジェイとジョーが主役のダイレクトな展開となった。言うまでもなく八反田の退場が大きかったが、相手の痛いところを突く臨機応変なベンチワークは(札幌には珍しく?)的確だった。

2 件のコメント:

  1. こんばんわー。
     今回の内容。分かりやすくて良かったし、面白かったです。グッドです('ω')ノ
     やっぱり、早い時間帯に退場者が出ると、その相手は(今回はコンサ)後出しじゃんけん状態で良くなるから、かなり有利になるんだよねー。まあ状況考えずにイエロー1枚もらってる選手が2枚目もらう方が悪いんだけど。
     さて進藤。開幕から考えるといつの間にか形になってきた感じ。まだまだ「んー・・・」って事もあるけど、ポカもなくなってきたし、何よりも90分のペース配分ができるようになったなーと言うのが一番の感想。昨年とか、今シーズン開始当初は75分位で顔が真っ赤になって「もう限界」状態だったけど、今はイイ感じで力抜けてて、やっぱり試合に出続けるのは選手にとって重要なんだなーと感じさせられる。余裕が出てきて少しずつプレーの幅も広がってきて、なんか先が楽しみになって来ました。
     宮澤は、もう何も言うことないです。(現在仙台戦の数時間後、よくやった。)そのままDFで行っちゃって下さい。
    そんな感じ。次回も楽しみにしてマターリ待ってます。にゃんむるでした。

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    1. コメント返し遅くなりました。
      今や一番信頼できるDFが進藤という状況ですね(宮澤はMF換算で)。4年目でここまでやれるのは大したものです。確かにペース配分、いい意味で余裕を感じられるのはありますね。

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