2017年9月20日水曜日

2017年9月16日(土)19:00 明治安田生命J1リーグ第26節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌 ~3歩進んで2歩下がる~

スターティングメンバー

0.プレビュー

0.1 スターティングメンバー


 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF横山知伸、河合竜二、福森晃斗、MF早坂良太、兵藤慎剛、宮澤裕樹、石川直樹、FWヘイス、都倉賢、チャナティップ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF菊地直哉、MF稲本潤一、マセード、小野伸二、FW菅大輝、ジェイ。スタメンは前節磐田戦と同じ。先月8/19の川崎戦前後から実践復帰していた稲本がベンチ入り。マセードと菊地は進藤と荒野に代わってベンチ入り(荒野は負傷によりTV中継で解説を務めた)。
 ヴィッセル神戸のスターティングメンバーは4-4-2、GKキム スンギュ、DF藤谷壮、岩波拓也、渡部博文、三原雅俊、MF小川慶治朗、藤田直之、高橋秀人、田中順也、FW渡邉千真、ルーカス ポドルスキ。サブメンバーはGK徳重健太、DF橋本和、伊野波雅彦、MF大森晃太郎、中坂勇哉、FW大槻周平、ハーフナー マイク。左MFに田中順也を起用したこと以外は前節と同じスタメンで臨む。

0.2 その他(監督交代)


 前回対戦6/4の第14節はアウェイの神戸が逆転勝ち。しかしその後15~22節は2勝6敗と再び失速、第19節大宮戦からポドルスキの合流もあったが状態は上向かず、22節終了後にネルシーニョ前監督は契約解除でクラブと合意した。吉田孝行新監督就任後の戦績はルヴァンカップを含めて5試合で1勝2分け2敗。前節リーグ戦のガンバ大阪戦で初勝利を挙げたが、ポドルスキの組み込みを初め、取り組むべき課題は少なくない。

※9/19に前半のみの内容で公開、9/20夜に追記・更新しました。

1.前半

1.1 無力の撤退守備

1)原則が通じないためとりあえず撤退


 リーグ戦ホームで2連勝中の札幌。この2試合の相手、仙台と磐田はいずれも3-4-2-1のシステムで、端的に言えば札幌は「対面の選手を見ていればそう大きくは破綻しない」という状況だった(詳しくは仙台戦の記事を参照して下さい)。システムが噛み合っており、各選手の守備対象が整理しやすい。札幌3トップが相手の3バックを捕まえ、相手がWBに展開したところで対面でマッチアップする札幌の両WB、石川と早坂が厳しく当たり、ボールを回収してのショートカウンター発動。シンプルだが、悪くない守備から攻撃へと移行することができていた。

 しかしながら、この日の対戦相手の神戸は4-4-2。各ポジションでマッチアップが合っていないので、ここ2試合で採られた「対面の選手を見る」原則が成立しない。
 キックオフ直後、4バックがワイドに広がって攻撃を組み立てる神戸に対し、札幌の対応は、5-2-3の3ラインを組んで自陣に撤退することだった。神戸の4バックがボールを保持しても、前節前々節と異なり、都倉・ヘイス・チャナティップはボールに殆どアタックせずステイ。併せて後方の5-2ブロックも低い位置に最終ラインを徹底し、まずは中央のスペースを埋めて様子を見る。
対面の選手がはっきりしないので札幌はとりあえず撤退

 日本列島に台風18号が接近し、雨と強風の中でのキックオフということもあり、前半の多くの時間を風下で過ごすことになる札幌としては、前半は耐えて後半勝負というゲームプランが頭にあったと思う。しかし先述のように、人を捕まえることは難しいので、闇雲に捕まえに行くよりも、守備に転じるとひとまず枚数を集めて籠城し、ブロックを築いて対抗しようとの共通認識があったように見える。

2)Wボランチに求められるバランス感覚


 そんな札幌の期待は3分ほどで打ち砕かれる。神戸のゴールキックから始まった、先制点に至る一連のプレーにおいて、現状の札幌の諸問題が露見されており、詳しく見ていく。

 ゴールキックをセンターサークル付近で札幌が跳ね返し、ボールが神戸陣内に押し戻されるが、ここで札幌は1トップ2シャドーに加え、競り合った兵藤と、宮澤もポジションを押し上げていくが、神戸の渡部が背走してこれをクリアすると(写真03:00)、
渡部がクリアしたところ

 ボールは宮澤の背後、渡邉に渡る(写真03:03)。ここが1つ目の問題点。
 宮澤が押し上げた背後は円で示したように空いているが、直前のプレーで1トップ2シャドーとWボランチが押し上げたとき、札幌の最終ラインは全く連動していないことがわかる。これは、①押し上げた宮澤、②押し上げられなかった最終ライン、どちらが原因で意思疎通ができていないのかわからないが、基本的にハイラインで勝負するコンセプトを持っていない札幌の最終ラインの性質を考慮すると、兵藤と共に宮澤が直前のプレーで押し上げたのはバランスを欠いた判断だったと思う。
ボランチが押し上げるがDFは押し上げていないので間延び

 仙台戦でも同じような場面が見られ、たまたま目についたので記事に示したところだが、3-1-4-2(3-5-2)と異なり、3-4-2-1ではこうしたボランチのポジショニングが局面を左右することも少なくない。宮澤と兵藤は札幌で最もバランス間隔のある選手だが、相方が深井や前寛之ではなく兵藤となると、宮澤はより守備的に振る舞う必要もあるかと思う。

3)百戦錬磨の証明


 渡邉が拾ったボールをドリブルで運ぶと、札幌は5枚残っていた最終ラインから福森が前に出て渡邉をストップ。渡辺は右サイドから中央方向にドリブルし、藤田へパス(03:06)。この写真の瞬間は、キックオフから間もない時間帯で、ゴールキックの攻防直後ということもあって、4-4-2の神戸と5-2-3で守る札幌の選手配置が非常にわかりやすくなっているとともに、札幌の2つ目の問題点が露見されている。
 具体的には、白円で示したが、札幌は5-2-3でリトリートし、オリジナルポジションに戻ると、どうしてもボランチの脇の位置が空いてしまう。この時は福森がポジションを崩してボールにアタックしているが、それでもボランチ脇が空いている。対する神戸は、(4-4-2で)元々バランスよく選手が配されているので、各選手がポジションをそのまま上げただけで、中央にも再度にも人を送り込むことができる。
 写真奥で、この白円のスペースに移動する神戸の選手が他ならぬ、ポルディことルーカス ポドルスキ。
どうしてもボランチ脇が空いてしまう

4)枚数は揃っていても効果的にアタックできない札幌


 更に3秒後、神戸の藤田からスペースに流れてきたポドルスキに渡る。藤田についている選手は、渡邉→藤田と二度追いした福森。
 直後、中継カメラがポドルスキのアップに切り替わるので、画面のスクショだけでは状況が伝わりにくいが、この時、ポドルスキに向かって動いていた早坂が兵藤の方を見て指さし、何かコミュニケーションをとっており、早坂は足を止める。そして兵藤が白円内のポドルスキにアタックする(03:09)。
ポルディへの対応は早坂から兵藤にスイッチ

 兵藤と対峙したポドルスキは、利き足の左足で切り返してカットイン、兵藤を置き去りにして右足一閃。恐らくDFがブラインドになった札幌のGKク ソンユンが正面に弾いたところを田中順也が押し込んで先制点、という流れだった。
 そしてこの局面が札幌の最大の問題点。兵藤がかわされた時、札幌はゴール前に枚数こそ揃っているが、ボールに対してチャレンジ&カバーの関係が全く成立していない。兵藤がアタックしたら、隣り合うポジションを守っている選手はその背後をカバーしなくてはいけないが、札幌は宮澤や横山がカバーリングポジションをとれていないので、兵藤が1発で飛び込んでかわされてジ・エンド。
飛び込んだ兵藤がかわされる

 この局面では、ヴェンゲルもスーパーだと認めるポドルスキの左を警戒した、兵藤の寄せがあまりにも軽すぎ、迂闊に飛び込んでポドルスキに切り返し1発でかわされた、”個”の問題も大きかった。

 ただ横山のポジションを見ると、人を見ているのか、スペースを守っているのか、結果的によくわからないポジションでボールウォッチャーになっているだけ。
 前の03:09で早坂が兵藤にスイッチした場面もそうだが、マッチアップがはっきりしていない状態での札幌は、守備基準が曖昧な(誰がつくのかわからない)相手選手が出現すると、各選手とも「持ち場を守る」意識が強すぎて、ボールに効果的にアタックできない、かつカバーリング関係も成立していない状況が非常によく見られる。四方田監督の考える守備原則としては、まず人をゴール前で捕まえる、次いでスペースを埋めていく、というゾーンとマンマークの併用で考えているのだと思うが、結果的にどちらも中途半端になってしまうことが少なくない。
 ポドルスキのシュート、ソンユンのミス、に言及する人は多いようだが、こうしたグループとしての守りの課題が集約された失点だったと思う。

1.2 まだ期待を感じさせた立ち上がり


 今日こそはアウェイで勝ち点3を、と意気込んでいた札幌サポーターにとっても、ズコーとなってしまうような開始早々の失点だったが、失点後前半15分までの時間帯で札幌は何度か神戸ボックス内への侵入に成功する。札幌が攻撃機会を作ることができていた、いくつかの要素を考えていく。

1)最悪の嚙み合わせ


 神戸の4-4-2と札幌の3-4-2-1(守備時5-2-3)。札幌視点では、マッチアップが噛み合わず守備の基準点がはっきりしないことで諸々の問題点が露見されることは先に書いた通り。
 一方で、マッチアップが噛み合わないのは神戸も同じ。この問題に対し、神戸は札幌に比べると考え方が整理されているというか、基本的には4-4-2のゾーンで守るため、人ではなくスペースを見るという考え方になる。

 札幌がボールを保持すると、神戸の1列目、渡邉とポドルスキが中央を閉め、その脇のスペースはSHの小川と田中の前進でケア。特に福森のところで簡単に持たせないよう、小川はこの対応を徹底する。
 対する札幌は、ビルドアップが詰まると前線へのロングボールで回避することにためらいがない。特に強風下のこの試合はその傾向が顕著で、神戸のCB、岩波と渡部は常にこのロングボールを警戒することを強いられる。主なターゲットは都倉だが、札幌の2シャドーのヘイスはトップに近い位置にいたり、ライン間を動いたりとフラフラする。ヘイスもターゲットとなりえるので、この2枚に対しては、岩波と渡部がマンマーク気味の対応が必要になる。
神戸の守備セット状態

2)ワイドが活きてくる札幌


 岩波と渡部が都倉(とヘイス)を意識しすぎて、スペースを守るのではなく人に引っ張られるようになると、神戸は最終ラインが押し上げられなくなり、必然と前線~最終ライン間が間延びする。
 陣形が前後分断気味になると、神戸のWボランチ・藤田と高橋は前と後ろ、どちらにより注意を払わなくてはならないかというと、リスクヘッジの観点から当然後者。前線は”捨てる”ことになる。
 となれば1列目は2トップ+SHで守る神戸に対し、3バック+Wボランチでボールを運ぶ札幌、という構図。札幌がこの位置である程度、ボールを保持し、展開できるようになる。特に、藤田と高橋が後方のサポートに追われるようになると、神戸はポドルスキや渡邉があまりプレスバックしないため、札幌のボランチのところ…宮澤へのケアが甘くなる。
間延びするとWボランチは前線を捨てるので札幌は後ろで持てるようになる

 後方でやや余裕ができた札幌は、中央密集で守る神戸がオープンにしているサイドにボールを展開。両翼で張っている早坂と石川にボールが渡るようになると、サイドが活きてくる。

3)捕まらないチャナティップ


アウトサイドにボールが届くようになると、横幅を「4」で守る神戸に対する札幌の相対的な優位性が現れてくる。下の08:14は札幌が中央から右の早坂に展開するところ。この時、札幌は前線で1トップ2シャドーが中央にポジショニングしているため、神戸の4バックは中央密集で対抗する。するとサイドは手薄になるので、早坂の前方には余裕を持ってボールコントロールできるだけのスペースがある。
 上記は4-4-2に対する3-4-2-1の優位性として一般的な話になるが、神戸にとって更に対応を難しくしていたのが、札幌の2シャドー、ヘイスとチャナティップの選手特性。先にも書いたように、この試合、シャドーであるはずのヘイスは局面によっては2トップの一角のように振る舞うので、渡部はしばしばこのヘイスのポジショニングと動きによってピン止めされる。
 そして都倉とヘイスによって両CBがピン止めされ、CBが前方(MF-DFのライン間)のケアが難しくなった状態で、間受け職人・チャナティップがライン間で動き回ると、神戸はチャナティップを捕まえるのが非常に難しくなる。
早坂に展開 1トップ2シャドーに対抗するため神戸は中央密集

 この時の展開は早坂がドリブルで持ち上がり、ボールサイドに寄ってきた中央のチャナティップへパス。神戸はヘイスと都倉に両CBが引っ張られているので、チャナティップが浮きかけるが、高橋がプレスバックで捕まえようとする。
 高橋のプレスバックは間に合ったように見えるが(この時もカメラワークの関係でよく確認できなかった)、俊敏なチャナティップが一歩前に出て受け、裏へダイレクトパス。パスは兵藤を狙ったものだったが、こぼれ球を拾ったヘイスの決定機に繋がった。
CBが2枚に引っ張られたうえでチャナティップに動き回られる

1.3 変則5-3-2

1)チャナティップシステム?


 そして12分頃から見られたのが、札幌の変則的な5-3-2気味の形で守備をセットする形だった。この狙いは中盤を2枚から3枚にすることで、ボランチ脇にできていたスペースを狭めようとの考えがあったのだと思う。恐らく準備をしていたが、試合開始直後は様子見で封印し、神戸が降りてくるポドルスキを中心にボランチ脇を狙ってくるところを見て発動させた形だったのだろう(様子見の最中にいきなり失点してしまったのは痛恨だったが)。
 最前線は都倉とヘイスの2枚で、CBからボランチへのパスコースを切る。ただこの2名は同じ高さで並列に並んでいるというよりは、やはり都倉が中央、ヘイス少し下がり目かつ右目でもあった。守備の基準点は、都倉が岩波。ヘイスは主に渡部だが、SBの三原に対して出ていったりとある程度”幅”がある。このヘイスの一定しない動きは、神戸としては、札幌の守備の形がわかりにくくなっていたとも考えられるし、見切られた後は隙を生むことにもなっている。
5-3-2気味に守る札幌

 神戸のビルドアップのキープレイヤーは右CBの岩波。都倉が岩波からボランチへのパスコースを切ると、岩波は都倉の脇からドリブルで持ち出しを試みるが、ここで都倉は中央を切りながら寄せていく。この都倉のポジショニングと寄せ方からも、準備の程がうかがえる(中断期間前、大宮戦等のアンカーがら空き5-3-2と比較すると歴然の差である)。岩波はバイタルエリアへの縦パスかSB藤谷への展開を選択するが、藤谷に出たところで寄せていくのはチャナティップ。
 チャナティップの守備対象は、この守り方では基本的に相手SB。神戸はSHが中に絞るので、藤谷の前方、サイドのレーンは空けているが、ボランチが最終ラインに落ちない(3バック化しない)こともあり、あまり藤谷はリスクを負った攻撃参加はしない。ただ、オーバーラップしたときはチャナティップが、時にペナルティエリア付近までついていく。

2)戸惑った神戸


 前半25分頃までに、神戸が2,3度ほど最終ラインのボール回しから札幌にボールを奪われ、カウンターを受ける局面があった。原因はシンプルな技術的ミスもあったが、恐らくもう一つの要因は、札幌のイレギュラーな守備の形を見切れなかったこともあったと思う。
 具体的にどこがイレギュラーかというと、札幌はヘイスのポジションがトップなのか、シャドー(2列目)なのか、5-2-3(シャドーが下がって5-4-1)と5-3-2のどっちつかずのようなセットをしていて、ピッチ上の選手の視点では5-3-2気味になっていることが分かりにくかったと思われる。
 そして5-2-3ならば、ヘイスにはある程度、サイドのゾーンをカバーする役割が与えられるのが通常なので、神戸の選手はチャナティップが藤谷を見ているように、ヘイスの守備基準は三原だと考えたのだと思う。しかしヘイスの正体は2トップの一角で、守備基準は渡部。三原は殆どケアせず、渡部及び、岩波→渡部の横パスをヘイスは監視していて、岩波からイージーな横パスが渡部に出され、狙えると判断すると圧力をかけていく。
 強さはあるが、足元の貢献はあまりない渡部は、寄せられるとボロが出る。また岩波も、(1トップのはずの)都倉が自分に寄せてくれば渡部は”安全地帯”だと判断してパスを出していたのか、ヘイスが狙っているという認識は持っていなかったと思われる。
ヘイスは渡部を監視(三原は放置されがち)

1.4 兵藤の言葉

1)CKから2点目~仕掛けがバレてサイドから運び放題へ


 22分、神戸の追加点はポドルスキが獲得した左CKから。藤田のキックに、中央で都倉のマークを外した渡部が飛び込み頭で叩き込んで2-0。
 この失点後、2-0となったこともあり、25分頃からの時間帯は神戸が落ち着きを取り戻す。札幌の守備の形の仕掛け…実は5-3-2で、しかもヘイスの守備は気まぐれなので、SB(特に三原)の持ち出すドリブルが非常に効果的で、楔のパスを使わなくとも札幌陣内に容易に侵入できるということに気付いたのも、この時間帯以降だったと思う。
 SBから神戸が運ぶと、札幌はそれぞれチャナティップと早坂がついていくが、基本的にSBに圧力がかかりにくい構造になっているため、ズルズルと下がるしかなく、押し込まれてしまう。
SBの持ち出すドリブル

2)兵藤の言葉


 押し込まれ気味の札幌は陣地回復を試みたい。札幌にとって一番手っ取り早い陣地回復手段は、ロングボールの放り込みや相手のバックパスのタイミングで陣形を押し上げること。
 縦に急ぐ必要がなくなった神戸は、ピッチを広く使ってボールを動かすようになる。札幌は前線の前線の選手、都倉らがバックパスの機会を狙って陣形を押し上げようと、圧力をかけていく。しかし下の37:27もそうだが、札幌の連動していないアタックは難なく神戸に剥がされてしまう。この時は神戸のCBとGKまでは追えており、落ちていくアンカーの高橋に対しても兵藤がついていくが、両SBはオープンなまま。また神戸はGKのキム スンギュまで戻すと、無理に繋がずロングボールで”リセット”することも併用し、札幌のチェイスを無力化させる。
前から追うが連動しきれていない

 これに関し、兵藤の試合後コメント(2つ目)を見ると、ファーストディフェンスが決まらないので連動できない、という旨の指摘をしている。ファーストディフェンスが決まらないのは、一つは先述のヘイス-SB三原の関係のように、仕組みが整理しきれていないため。もう一つは都倉とヘイスによく見られる関係だが、守備のスイッチを入れる判断、基準に選手間で不統一な部分があり、連動した動きができないため。
 上の37:27の写真も、最終ラインの選手としてはスイッチを入れるタイミングだと考えていないため、早坂や石川は相手SBを捕まえていない。兵藤のコメントには色々なニュアンスが含まれていると思うが、単にラインを上げられない、ボールにアタックできないといった個々の事象が課題というよりも、チーム全体として守備の設計を見直す必要があるように思える。

--後半にシステムを変更したが、距離感などは修正できたか?
今日は全体をとおして自分たちの距離感で守備もばっちりハマった時間がなかった。相手が[4-4-2]のときに、出入りして相手は裏を取ってこようとする。間、間に入ってくるのをウイングバックとボランチの受け渡しだったりとか、それに対して限定できないままボールを持たれるとボランチの周りに人が多過ぎて、なかなかボールの取りどころがない。自分ら(ボランチ)も前に掛けれないので、ズルズル持ってこられたのがある。守備のハメ方がフィットしなかった。
--立ち上がりの失点は大きかった?
前は点を取りたい、後ろは風もあるので裏が怖いのもある。ファーストディフェンスが決まらないと後ろも(ラインを)上げれない。どうコンパクトにやるのかは今日の一番の課題だったと思います。

2.後半

2.1 停滞打破へジェイ投入

1)ボールに触りたいんだじぇい


 後半開始から札幌は都倉→ジェイに交代。ピッチコンディションも考慮し、より確実にボールを収められるジェイを投入することで攻撃機会を作りたい、との考えだったと思う。

 1トップ2シャドーの頂点として投入されたジェイだが、札幌がボールを保持している局面で頻繁に低い位置に下りてくる。都倉との交代で投入されたこともあり、恐らくチームとしてジェイに期待している役割は高い位置で基点を作ることだったと思う。一方でこれはジェイ個人のスタイルによると思うが、基本的にボールに触ることが好きなようで、時に最終ラインに近い位置まで落ちてボールに触ろうとする。
 落ちてくるジェイに対して、神戸は捕まえたり、捕まえなかったりという対応になる。低い位置でジェイが持っても、特段脅威はないということで、基本的に放置が多かった。
ボールに触りたいジェイ

 ジェイの問題点は、ここから再び最前線に出ていくまでのセカンドアクションが遅い、もしくは途絶えがちなこと。一度ボールにタッチすると、よほど気乗りがしている局面を除けば、攻撃への関与はそこで終わり。ジョギングでポジションを修正するだけ。このような調子なので、一度低い位置に下りてくると、そのまま前線に顔を出すことはなく、結果的に前線にヘイスとチャナティップしかおらず、崩しの局面で枚数が足りなくなることが少なくない。

2)スイッチを押すのは誰?


 そして守備面に目を向けると、札幌の守備を5-3-2と解釈するならば最前線はジェイとヘイス。始動役だった都倉を下げたことで、兵藤も言及していた、ハメられない、限定できないという問題はさらに顕著になる。
 ↓の57:56は神戸が左サイドでボールを持ったところ。兵藤がボールホルダーの田中に出ていき、早坂はインナーラップする三原についていく。神戸がサイドから展開したところに寄せていったので、田中をタッチライン付近に追い詰めてプレーエリアを限定させているが、札幌は兵藤の寄せに連動する動きが甘く、高橋(黄色い円)がフリー。ここまで田中を追い込んでいれば、ヘイスが高橋に寄せれば田中の選択肢は更に狭められるのだが。ここで田中はこの高橋を視野に捉えており、高橋へのパスで回避する。
サイドに追い詰めているのにパスコースを残している

 高橋にパスが出ると、宮澤が寄せるが、ここでもヘイスは連動していない。田中から最終ラインの渡部にバックパスで逃げる。
田中→高橋→田中

 渡部に渡ると、ここでようやくヘイスがアクションを開始。渡部に寄せていくが、写真だとわかりにくいが緩やかなジョグ程度なので渡部には全く圧力がかからない。渡部は白円に向かってドリブルで運び、白円に落ちてきた藤田を経由して逆サイドへ展開に成功。
ヘイスの緩すぎる圧力

 全体的に、ヘイスの守備はコースを切る意識はあるが、味方の動きに連動して圧力をかけて奪いに行くアクションが非常に物足りない。

3)スイッチがなければ連動しない


 加えて、兵藤や宮澤とヘイスの意識が統一されておらず、兵藤や宮澤がボールにアタックするポイント(中盤サイド)と、ヘイスのそれ(CBへのバックパス)は明らかにずれている。
 札幌は前半同様に、2トップが相手CB2枚に守備の基準を置いて対抗しているが、都倉が退いた後は、都倉が担っていたCBへの圧力を与える役割をヘイスに担わせようとしても難しい。かといってジェイでは、ヘイス以上に計算できないため、この2トップにすると、ボールを保持している時はともかく、相手ボールになると効果的な守備を行うことが更に難しくなる。
 そして前で守備がハマらないと、兵藤のコメントにあったように、後ろは連動してアタックすることができなくなる。この時も神戸右サイドへの展開後、小川→藤谷→小川と渡ったところで、石川が藤谷に出ていくが圧力は不十分。小川はフリーで、藤谷は小川を利用したワンツーで簡単に抜け出すことに成功。
藤谷が抜け出す

2.2 小野投入


 65分、札幌は宮澤に変えて小野。同点~ビハインドの展開で定番となりつつある”ファイヤーフォーメーション”、もしくは”誰が守備するんだシステム”に切り替わる。
 2点ビハインドなので、細かい計算はあまりしていなかったのかもしれないが、小野の投入に論理性を見出すとしたら、後半の神戸の守備の問題…2トップとMF間がルーズになっていたところを何らか利用したかったのかと思う。
65分~

 神戸の守備のやり方自体は前半と同じで、2トップ+SHで札幌の3バックを見る。しかし後半、神戸は2トップの守備開始位置が定まらず、渡邉とポドルスキの2枚だけで札幌DFを見て、後方のMFは距離が離れているため連動できないという状況が散見されるようになる。
 都倉が下がった後半、札幌のロングボール裏1発に対する脅威は神戸DFにとって薄れており、押し上げが難しいという状況はさほど起こっていない。となると渡邉とポドルスキの守備開始位置がやや高かった、と考えるのが妥当だと思う。
 そして渡邉とポドルスキの1列目は、札幌に突破(兵藤や宮澤など中盤の選手へのパス)を許すとプレスバックしないので、神戸は4-4の2ラインで守ることが常態化し、札幌は神戸のFW-MF間で時間と空間を得る。小野の投入は、この時間と空間を最大限に利用するという考えもあったかと思う。
勝手に神戸のFW-MF間が空いてきた

 神戸は72分、渡邉に変えて大槻を投入。大槻はポドルスキと縦関係で、4-4-1-1のような形で守ることになる。FW-MF間のスペースにフレッシュな大槻を入れることで、エリア全てをカバーすることは不可能だが、その運動量によって一定の解決を図る。
大槻をFW-MF間に置く

2.3 終盤の展開


 79分、神戸は田中順也→伊野波。渡部を中央に配した5バックにシフトし逃げ切り体制。札幌は同じタイミングで河合→菅。菅は中央で3トップ気味の一角、後方は4バック、というか早坂も福森も後ろを殆ど考慮せずに上がってくるので2バック状態。
79分~

 神戸は5-4-1、ポドルスキの1トップで最前線はほぼ札幌に明け渡し、後方を9枚ブロックで固めてクローズさせる。 
 札幌はどのように点を取りに行くのか、筆者にはよくわからなかったが、確認できたことは小野と兵藤が中盤底におりゴール前にはほとんど登場しない。サイドでは早坂のアップダウンと福森のクロスが時折顔を出す。菅はゴール前に陣取って左足を振りぬくタイミングをひたすら狙っている。ジェイは相変わらず低い位置に下りたり、サイドに流れてゴール前にはあまりいなかった。

3.雑感


 ホームで2連勝して迎えた試合だが、冒頭に書いた通り、2連勝の最大の要因は「対面の選手を捕まえていればなんとかなる相手」だったから。札幌は特に何も変わっていないため、予想通りというか、やはりマッチアップが噛み合わない4-4-2相手だと現状では兵藤の言う通り、守備が機能することは残念ながら期待できそうにない。攻撃ではそのミスマッチを活かしていくつかの決定機を迎えたが、このサッカーを続ける限り、コレクティブさとは無縁の不確実な戦いが続くだろう。
 次節は最下位に沈む(呂比須政権初陣の札幌戦後、リーグ戦14試合勝ちなし!)新潟相手だが、新潟もおそらく4バック(4-4-2か4-2-3-1)。ホームゲームということで札幌は攻撃的に行くと思われるが、今節鹿島相手に一時2点を先行した新潟の出方次第では、ミスマッチを突かれて思わぬ展開に…という可能性もある。

4 件のコメント:

  1. 残り試合はほとんど4バック相手ですね。
    増川と稲本が帰ってきましたが、2人は何かをもたらしますか?

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    1. 増川は名古屋でもそうでしたが、ローラインでスペースを消してなるべくゴール前を離れないのが特徴的ですね。守備だけを考えるなら横山より安定感があると思います。今どのようなコンディションかわからないですが、終盤の守備固めでも頼りになりそうです。
      稲本は深井がいないので、荒野に代わるボランチの3番手でしょうか。新潟戦で早速起用されましたが、途中からの起用ならスペースを見ながら人を見れる分、荒野よりもゲームをコントロールできると思います。

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  2. ジェイの諸刃の剣ぶりは最初ジェイが下がったスペースに入れ替わる形で選手が出て行かないという攻撃面で目立っていたように思いましたが、むしろ守備面でスイッチが入らないデメリットがより大きくなってしまったということなんでしょうね。ヘイスも守備を頑張るタイプではありませんし…。

    都倉がいない状況下での組織の整理がどこまでできるのか。DFラインが下がるようだとかなり危ないことになりそう。四方田監督がどう修正してくるのかは終盤戦においてかなり重要なファクターになりそうですね。

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    1. >フラッ太さん
      平川氏も書いていましたが、ジェイが下がってくるのも凄く問題だったと思います。
      現状、2016シーズンのように5-2-3のリトリートしか選択肢がないと思いますが、ボールを運べるジュリーニョの不在が悩ましいですね。

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