2016年10月25日火曜日

2016年10月22日(土)14:00 明治安田生命J2リーグ第37節 北海道コンサドーレ札幌vs東京ヴェルディ ~行きつく先は増川大作戦~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、増川隆洋、福森晃斗、MFマセード、前寛之、宮澤裕樹、堀米悠斗、中原彰吾、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF前貴之、永坂勇人、MF河合竜二、神田夢実、石井謙伍、FW上原慎也。マセードが9/11の31節群馬戦以来の復帰。ヘイスもジュリーニョも小野もいないトップ下は、神田or中原というところで、前節結果を出した中原がチョイスされた。
 東京ヴェルディ1969のスターティングメンバーは4-4-2、GK柴崎貴広、DF安西幸輝、田村直也、平智広、安在和樹、MF渡辺皓太、楠美圭史、高木善朗、澤井直人、FWドウグラス ヴィエイラ、高木大輔。サブメンバーはGK鈴木椋大、DFウェズレイ、MF船山祐二、二川孝広、北脇健慈、FW杉本竜士、アランピニェイロ。キャプテンの井林と中後が故障でメンバー外。渡辺は2種登録の18歳、高校3年生で、2節前の北九州戦で初スタメン出場し、3試合連続のスタメンとなる。二川は7月に加入して以来トップ下のスタメンで継続して出ていたが、おそらく守備面を考慮してベンチスタート。高木大輔が代役で、2トップの一角に入る。


0.まえがき

0.1 序盤の基本的な構図


 この日のスタメン11人中、下部組織出身の選手が9人を占めるヴェルディは、J2でも三指に入る、ボールポゼッションにこだわりのあるチーム。対する札幌は首位と好調で、得点数もリーグ上位だが、ボールポゼッションにはこだわりはなく、むしろ相手に攻めさせて隙を作らせてからのカウンターで仕留めるスタイル。対照的な両チームの対戦ということで、基本的にはヴェルディがボールを持つ時間が多くなる。

 序盤、札幌はいつも通り全選手を自陣にリトリートさせてヴェルディを待ち構える。札幌はここ数試合…2節前、厚別での水戸戦や、神田が奮闘していた前節の愛媛戦などは試合途中から3トップを中心とするハイプレスも併用していたが、あくまで基本はリトリート。この試合もまずは後方を固めて様子を見る。
 するとヴェルディとしては、自陣で持っている時は札幌によるプレッシャーがほとんどないので、ハーフウェーライン付近までは楽にボールを運ぶことができる。

0.2 開幕戦のおさらい

1)ヴェルディの3バック変形に無対策だった札幌


 両チームは2/28の今シーズン開幕戦で対戦し、札幌が0-1で敗れている。このときポイントだったのは、以下に示すヴェルディのポゼッション時のマッチアップで、札幌は前3枚でヴェルディの4バックを使ったビルドアップに対抗しようとした。
前回対戦時、想定していたマッチアップ

 しかしヴェルディが試合途中から、3バック化してサイドバックを押し上げる形でビルドアップを行うと、都倉やジュリーニョはサイドバックを受け渡す(放置する)べきか、ついていくべきか迷いが生じる。
 ここで、両選手は受け渡そうとしたくても、マッチアップ上、マセードや石井はサイドハーフについているので、自分たちがついていかないとまずいと判断したのか、上がっていくサイドバックにマンマークのようにで並走する形が頻発していた。結果、都倉やジュリーニョがまるでサイドバックのようなポジションと動きをするという残念な試合展開になってしまった。
ヴェルディの3バック化に無対策

2)ドウグラスヴィエイラを潰せない


 また札幌に脅威を与えていたのが、長身FWのドウグラスヴィエイラで、手足が長く懐を使うのがうまいので放り込めば大体ボールを収めてくれる。主に河合がマッチアップしていたが、札幌随一のファイターである河合相手でも、ものともしない長いリーチを活かして前線でポイントを作っていたので非常に厄介であった。

1.前半

1.1 徹底してウイングバックの背後を狙う


 上記を踏まえて前半の展開をみていく。
 撤退する札幌に対し、ヴェルディはハーフウェーラインまでボールを運ぶと、やはり3バックへの変形からサイドバックを押し上げる"基本形"に変形する。札幌は開幕戦と異なり、高い位置に押し上げられたサイドバックのケアは、5バック化している両ワイドのマセードと堀米が担当する。シーズン序盤は、都倉やジュリーニョがサイドバックについていく試合が多かったが、この仕事は前線の選手にとってハードであること、また展開のスピードが上がるとそもそもついていくことが難しいということで、シーズン中盤~終盤はウイングバックがサイドバックを見るために1列上がる(=最終ラインは4枚になる)という約束事が定着している。

 札幌はサイドをマセード1人で見ることになるので、ヴェルディはマセードを釣り出した背後に、中央に絞ってくる澤井と入れ替わるように高木大輔が走りこめば、ほぼ確実にサイドの高い位置にボールを運ぶことができる。
 序盤は左サイド、安在和樹からこの形を多用する。これは両SBのキャラクターの差異というより、高木とドウグラスヴィエイラの差異によると思われる。
ウイングバック背後を狙うヴェルディ

 一方、ドウグラスヴィエイラは何をしていたかというと、やはり開幕戦と同じように、ロングボールのターゲットとしてふるまう。開幕戦は主に競り合う相手が河合で、この試合では増川。増川のほうが高さ、強さ共に上で、そこまで収まっていたわけではないが、後方の選手が札幌のプレッシャーを受けてイーブンな状態、落ち着かない状態になったときは、とりあえず前線中央に蹴ればドウグラスが競って、可能性のある形に持ち込めるのは大きい。

1.2 札幌のボール保持時の展開

1)ヴェルディの「後体重」守備


 札幌がボールを持っている時、ヴェルディの守備は4-4-2でセットする。
 札幌は序盤、おそらく様子見ということもあり、かなり低い位置から増川がビルドアップを開始すると、3バック+ボランチの宮澤を合わせた4枚のビルドアップ部隊に対して、ヴェルディの守備要因として用意されているのは高木大輔ひとりであることがわかる。 
 2トップを組むドウグラスヴィエイラは何をしていたかというと、基本的にピッチ中央から動かないが、これはアンカー役の前寛之を見ていて、前寛之経由でのサイドチェンジ等の展開をさせない狙いがあり、また恐らくあまり運動量が要求される仕事を与えたくないという考え方もあるだろう。

 ただ、高木大輔ひとりでできる守備というのは、非常に限られている。「右か左か」でいうと、おそらく札幌の右、菊地のビルドアップを阻害することは石井されていたように思える。菊地を見ると反対サイド、福森が空いてしまうのだが、福森は比較的放置されていた。
後ろのケアに重きを置いた守備

2)トランジションを制していたのはヴェルディ


 札幌のボール保持時の展開で最も問題だったのは、ヴェルディは前線の人数不足のため、基本的に札幌のビルドアップ部隊にプレッシャーがかからない構造になるので、都倉や内村が裏を狙い続ければヴェルディの最終ラインはどんどん下がる。
 上の図のように、2トップとMF間のスペースが空く状況が頻発していたのだが、札幌の選手でここを使う…ドリブルで持ち上がるようなプレーができていたのは宮澤くらいで、福森などは運べる状況にもかかわらず、長い距離を簡単に蹴り飛ばしてしまう。後ろから蹴り飛ばしても、前線の枚数は札幌が都倉、内村に中原の3枚で、ヴェルディは4-4ブロックで守っているので計8枚。これでは都倉がいくら強くても、セカンドボールを拾うことは難しくなる。

3)札幌は両ウイングバックに突破口を求める


 ヴェルディの中盤だったり、中盤-FW間にスペースが結構生じているにもかかわらず、札幌がそこを巧く使えないのは、恐らく、中央で局面に応じて、必ず出し手か受け手の役割を担える、ヘイスの不在も大きかっただろう。
 他にもいくつかの事情があり、中央からうまくボールを運べない状況で、札幌は徐々に右ウイングバックのマセードにボールを集める。マセードも序盤なかなかボールが入らないということで、結構低い位置まで下がってきてしまうが、ここからドリブルで運んで、アーリークロスが上げられる状況を作れることがマセードの強み。低い位置まで下がると、対面の左SB、安在和樹だけでなく、サイドハーフの澤井の射程距離内にも入ってしまうが、この日好調だったマセードは2人のマークをものともせず、独力でチャンスメイクができてしまう。
マセードが下がって受けて強引にチャンスメイク

1.3 高木大輔の先制ゴールと絶好調マセード封じ

1)先制点はヴェルディに:やはりウイングバックの背後から


 30分頃までの展開は、ロングボールの放り込みからのトランジションが多く、どちらが優勢というわけでもない展開だったように思えるが、両チームとも外国人選手、ドウグラスヴィエイラとマセードがアクセントになっていて、中でもラストパス(アーリークロス)を何本か放っていたマセードを擁する札幌のほうがゴールに近いような空気であったかもしれない。

 しかし30分、ヴェルディは一瞬の隙を突いて先制点を挙げる。前線でオフサイドによる間接フリーキックから、右サイドハーフウェーライン付近で受けた高木善朗が、都倉のプレスバックを受ける前に裏に放り込むと、弟の高木大輔が福森の背後を取り抜け出す。やや角度のないところから、ク ソンユンとの1vs1を冷静に制して先制点。間接FKでのリスタートということで、流れの中のプレーとはやや異なるシチュエーションだったが、均衡が破られたのはやはりウイングバックの背後だった。

2)マセード対策の変則5バック:ゴール前に常時4枚を確保


 この直後、スカパー!中継では「ヴェルディの冨樫監督はゴールを見ておらず、安在和樹に細かく指示出しをしていた」という状況だったことが紹介されている。この指示の内容は、試合後のコメント等からも考えると、マセードの突破→クロス、というこの試合の札幌の数少ない攻撃パターンへの対応を明確にするものだったと思われる。
 具体的には、マセードに対してはSBの安在和樹ではなく澤井を当てる。守備時に、澤井のスタートポジションを安在和樹の隣にすることで、常にマセードを視野に入れるようにし、安在和樹を含めた4バックは中央に絞る。中央を4枚で守ることで、札幌の2トップ+中原、更には機を見て飛び出してくる宮澤を含めた最大4枚の札幌のターゲットに対して対応を明確化させている。
 ヴェルディは二川が加入して以来、従前トップ下で主に起用されていた高木善朗が左、澤井が右という起用法が主になっていたが、この試合は高木善朗が右、澤井が左。このことから、おそらく澤井を最終ラインに下げての5バックは、首位・札幌への対策として、もともと準備していたと考えられる。
5バック化してマセードに澤井を当てる

3)中盤にはまだまだ隙あり


 結果的にはこの策は、マセード封じという点では澤井では不十分で、マセードは相変わらず1vs1を制してクロスを送り続けたが、ゴール前を強固にするという点では奏功していた。
 ただ、ディティールを見ると、やはり5バックは急造との印象がぬぐえない面もある。主に問題となっているのは、3センター脇で札幌の堀米や、後方から上がってきた福森がボールを持った時に、MFとSBのいずれが見るのか、やり方としては両方ありうるが連携や共通認識が不十分な印象を受ける。MFがサイドに寄せるならば、下の高木善朗はもっとボールサイドに絞らなくてはならないが、絞りが甘かったために前寛之の突破を許している。
 むしろ、右サイドはマセードがひたすら単騎で突っ込んでくるワンパターンな攻撃に終始していたので、複数の選手が絡み始めた左サイドのほうが可能性が感じられる状況でもあった。
3センター脇の管理をどうするか

2.後半

2.1 ヴェルディのサイド封鎖に攻めあぐねる札幌


 ヴェルディは後半開始からも5バックの5-3-2を継続、というよりは前半以上に明確な規律を備えたシステムとして運用する。札幌としては、ヘイスもジュリーニョも(更には小野も)いない中で、中央でなかなかボールが収まらないということで、頼みの綱はやはり両サイド。しかしマセードに対しては、澤井が密着マークで思うように仕掛ける局面を作らせず、また中盤の選手(主に渡辺)のサイドへの寄せを徹底し、縦を切られたときに中央に切り込むマセードの得意技も封じる。
右サイドを封鎖される

 なかなかボールが循環せず、クロスも上がらない札幌は、前線で待ち構えていた宮澤や都倉が下がってボールに触り始める。この時、上の図のように右サイドでボールが詰まると、左サイドが空いていることは感覚的にはわかるので、都倉や宮澤によって展開され、また3センター脇に福森が攻撃参加してくるのだが、福森がクロスを上げたとしても、今度はゴール前から宮澤や都倉が去ったことで、競るのは内村と中原。勝ち目がないとは言わないが、効率の良い攻撃だとは言い難い。

2.2 早めの上原投入の是非

1)高さでは札幌有利だが、簡単に崩れないヴェルディ最終ライン


 55分に札幌は中原→上原。上原はFWに入り、内村がトップ下に下がったかのように見える。
 ご存知の通り、上原は大学時代に沖縄のアンリと例えられたスプリント能力と、打点の高いヘディングから何度も相手を沈めてきた空中戦の強さが持ち味である一方、狭いスペースでプレーできる能力はない。
 残り35分というかなり早めの時間で中原を諦め、対照的なキャラクターである上原を2トップに入れるというのは、素直に考えれば、四方田監督としては「ゴール前にクロスは上がる、あとは仕留める選手が必要」と認識していたことになる。また中原ではなく内村を残したのは、やはり内村の決定力に期待したのだろう。
55分~ 中原→上原

 前半から見ていて思ったのは、札幌のマセードを中心とするクロス攻勢をヴェルディはタイトに跳ね返しているが、ヴェルディの最終ラインは、本職はボランチまたはサイドバックである田村を筆頭に、そこまで高さがない。14年前、札幌の監督に就任したイバンチェビッチが、(No Ideaとお手上げになる前に)北海道新聞で「札幌は高さがないので、低いラインでは守れない、ハイラインでの守備を浸透させたい」と語っていたが、この日のヴェルディ最終ラインの高さは、当時の札幌と同じくらいか、それよりも低いかもしれない。中盤~前線を含めても身長が高い選手はドウグラスヴィエイラくらいで、確かに空中戦がポイントになる(=上原ならば完全に制空権をとれる)という考え方は理解できる。

2)慎也が輝く前提条件は満たされていたか


 ただ、前半途中にヴェルディが5バック化して、マセードと堀米への対応をはっきりさせたあたりから、札幌はクロスの本数と精度ともに陰りが見えいたように思える。
 また札幌のサイドアタックがどんどん単調になっていった要因として、特に右サイドでマセードへのサポートが薄く、孤立してしまったことが挙げられる。というのは、左サイドでは堀米の背後から、福森が機を見てどんどん攻撃参加することで、福森と堀米の2つの"砲台"が確保され、ほぼ必ずどちらかが空く。一方、右サイドは菊地の攻撃参加があまりなく、サイドでマセードに渡った時の選択肢は、単騎で仕掛けるかバックパスという単調なものに終始してしまう。

 菊地が福森のように攻撃参加できなかった理由は、恐らく、この試合途中から左サイド(札幌から見て右)寄りのポジションを取ることが多かったドウグラスヴィエイラを警戒していたため。序盤右サイドにいて、福森とマッチアップすることが多かったドウグラスヴィエイラだが、いつの間にか、大半の時間を左サイドで過ごすようになっていて、菊地とのマッチアップが多くなっている。
ドウグラスヴィエイラの存在が菊地の攻撃参加を躊躇させる

3)ミスが重なり痛恨の追加点


 そして攻めあぐねる札幌は60分に痛恨の追加点を献上してしまう。センターサークル付近でドフリーの前寛之がボールコントロールを誤りターンオーバーとなると、右サイドで受けた高木善朗が、柔らかいタッチでアーリークロス。ファーサイドで菊地とドウグラスヴィエイラが競るが、菊地は目測を誤って、(手は上げていないが)野球でいうバンザイのような形でボールが菊地の頭を超えてしまうとともに、ドウグラスヴィエイラを離してしまう。この絶好機を見逃してくれず、ドウグラスヴィエイラが難なくゴールに叩き込む。軽率なミスが重なっての悔やまれる失点だった。

 得点直後、61分にヴェルディは足を攣った楠美に代えて二川。交代当初は二川は左のインサイドハーフに入り、高木善朗がアンカーに回る。その後、65分頃にヴェルディの守備陣形を確認すると、高木大輔が中盤右サイドに回った5-4-1のような陣形であることが確認できる。2点のリードを得たことで、大半のエネルギーを守備に割き、逃げ切りを図る。
61分~ 楠美→二川

2.3 札幌が盛り返した理由:やはり難しい5-4-1

1)1トップ脇からの前進が容易に


 しかしながら、FWを削って中盤やDFに回せば守りは固くなる、という簡単な図式が成立しないのがサッカーの面白いところで、ヴェルディが5-4-1に変更したことで、札幌にとっては無風のドームにかすかな、しかし確実な追い風が吹き始めることとなる。
 ヴェルディはドウグラスヴィエイラの1トップとなったことで、前線の守備は殆どなくなったも同然で、またドウグラスヴィエイラ1枚しか残っていないならば、仮にボールが収まったところで、ドウグラスだけではスピードのあるカウンターを繰り出すまでには至らないということで、増川と前寛之を残しておけばそう大きな脅威はなく対処できる。
 これにより、福森と菊地が守備から解放され、ドウグラスヴィエイラの脇から好き放題にドリブルで持ち上がる。この時、ヴェルディの5-4ブロックはゴール前にドン引きで、持ち上がる福森や菊池へのケアの意識が薄い。となれば札幌はバイタルで構える内村への縦パスも通せるようになり、また縦を見せておけば、それまで以上にサイドが空きやすくなる。

2)マセードを囮に使う


 また、サイドの攻防に関していうと、ヴェルディの左SBに入っている澤井は殆どマセードへのマンマークのような対応で、マセードに対しては厳しく当たるが、サイドに流れてきたほかの選手への警戒は薄い。マセードは途中からこのことに気付いて、サイドに張るだけでなく中央にもポジショングするようになる。この時、菊地がサイドの高い位置でマセードとポジションチェンジをして受けたならば、澤井はマセードにくっついているので菊地はフリーでクロスを上げることができる。
FW脇からの前進が容易に
マセードが中に絞り、サイドを菊地に使わせようとする


 この失敗(ボールにプレッシャーがかからず単なるゴール前ドン引きになってしまう)は、J2で5-4ブロックで守るチームに特に多いもので、正直なところ、ヴェルディもその類ではないかと期待していたが、期待通りの出来具合だった。ともかくヴェルディが守りに入ってくれたことで、札幌は後方の脅威が薄れ、攻撃に厚みが出てくるようになる。
 特に68:45頃の、菊地のクロスからゴール前に都倉、上原、宮澤、内村と枚数を確保していた中で、マークの外れた内村が右足ボレーで合わせたシュートはこの試合最大の決定機と言ってよかったが、内村のシュートは安在和樹によってライン上でクリアされてしまった。

2.4 神田の使い方の是非

1)神田ボランチにより宮澤の攻撃参加が消滅


 73分に札幌は前寛之→神田。神田はそのまま前寛之の位置…ボランチに入るが、前寛之と宮澤のコンビでは、前寛之がアンカー、宮澤がbox to boxの役割で積極的に攻撃参加していたが、神田投入後は宮澤がアンカーとして振る舞うようになっている。アンカーにも色々なタイプがあるが、基本的にはカバーリングだったり、周囲の選手を使うコーチングだったり、気が利く選手が望ましいということ、またそれ以前に神田は本来トップ下で、崩しの局面で関与させたいということで、この役割分担になったと思われる。

 ただ交代直後の宮澤-神田のコンビは、互いの役割分担…特に神田の使い方がはっきりせず、二人ともセンターサークル付近にとどまることで、中盤高い位置でプレーする選手がいなくなっていしまう。
 また神田が攻撃参加した場合も、宮澤が行っていたような役割…中盤でボールに触り、ポゼッションをコントロールしながら、機を見て前線に飛び出してターゲットになる、とはやや異なる、スペースへのランニング意識は高いが、ボールにあまり触らないスタイルであり、ヴェルディが1トップにして明け渡したスペースを札幌はうまく使えなくなってしまう。
中盤高い位置でバランスを取っていた宮澤がいなくなる

2)福森の飛び道具炸裂で1点差に


 そうしたチグハグさを感じながら見ていたところの75分、中央に絞っていたマセードが切り返しから巧みにファウルを誘い、ゴール正面約25mの位置で札幌がフリーキックを得る。やや距離があるが、福森にとっては絶好の位置で、ドームに期待感が充満する中、福森の低い弾道のシュートはゴール左隅に吸い込まれ、札幌が1点を返してスコアは1-2に。

2.5 札幌が増川大作戦に至るまで

1)無言で菊地の前進阻止を試みる二川


 ヴェルディは79分にドウグラスヴィエイラ→アラン ピニェイロ。アランはドウグラスに比べるとより突破力があるタイプで、足が止まる時間帯の突破は札幌守備陣にとって脅威となる。
 また、フレッシュなアランが投入され、前線で幾分かの守備が可能になったことで、二川がアランと連携した守備…札幌のビルドアップ時、5-4のブロックから前方にポジションをとり、菊地のドリブルでの持ち上がりをケアしようとする。この動きは、ヴェルディが5-4-1に変形してから見られなかったもので、1トップがフレッシュなアランに変わったタイミングで、すかさず動いた二川の戦術眼が光る。
 最前線で目を光らせるアラン ピニェイロと、二川の守備によって右サイド、菊地からの前進をストップされた札幌は攻撃の始点を左サイドにシフトさせる。ただ、ここでも福森はアランを警戒しなくてはならず、ボールに触るのは左に流れてきた神田が多くなる。
二川の守備で札幌の攻撃は左から

2)崩しのイメージ皆無の3人


福森が後方を気にしてしまうため、札幌は神田が主に左からボールを運ぶが、既にヴェルディの中盤は殆ど足が止まっており、神田に対するプレッシャーはほぼゼロ。ボールにプレッシャーがかからず、下の写真のようにラインを下げて対応するしかないので、MF-DF間に大きくスペースが空くことになるが、この時、神田がボールを運び、宮澤がアンカーとして後方で待機すると、中央の攻略に投入できる選手は都倉、内村、上原の3人。タイプこそ違うものの、基本的に3人とも前線に張り付いて仕事をする選手なので、MF-DF間を使って神田と絡み、崩しを成立させられる選手は皆無。結果、神田は前線に放り込むしか選択肢がない。 
DF-MF間を使えない

3)増川大作戦も不発で1年ぶりのホーム黒星


 結果、攻め手と残り時間を失った札幌は、ロスタイムを含めたラスト7分ほどを、(永坂を最終ラインに入れ、)増川を前線に上げてのパワープレーに費やす。ターゲットは十分で、クロッサーもピッチに複数残していたが、ヴェルディのディフェンスをこじ開けることはできず、1-2でヴェルディが勝利。

北海道コンサドーレ札幌 1-2 東京ヴェルディ
30' 高木 大輔 
60' ドウグラス ヴィエイラ
77' 福森 晃斗



3.雑感


 Twitterでも書いたが、崩しへの関与が期待できない上原を早い段階で入れ、中原を下げたのは采配ミスだったと思う。中央でボールの出し入れがあるからこそサイドも活きてくる以上、やはりトップ下として振る舞える選手…中原か神田のいずれかを残しておくべきだった。ヴェルディには、試合の90分間を支配する力は明らかになかっただけに、痛い敗戦となってしまった。

2 件のコメント:

  1. |´・ω・)ノこんばんは~ 帰宅後に発見して読みますたー。
    ホーム戦オンリーのにゃんむるは、もちろん今季初の敗戦生観戦だけど何故かあまり悔しくないです。そろそろ負けそうな感じあったからかな。
    最近は、毎試合各チームにあの手この手でウィングバックの裏狙われて、対応できずに苦しんでるよね。チームとしてどうにか克服して頑張ってほしいです。
    後半ブログ主と同じように上原を中原に替えたの見て、「それ違うんじゃね?」的な感じになったんだけど案の定上手くいかなかったですね。
    最後は自分的に一番見たくないパワープレイ見せられて、もっと何かできたよなーとか色々と考えながら帰宅しました。
    残念な敗戦だったけど得点機会なかったわけでもないし、次戦は切り替えて勝って欲しいですね。
    そんな感じ。 (´・ω・`)ん?そういえばヴェルディの両サイドバックは安在と安西ですぞ。
    あと二川さんはきっと「ぐふふ」とか言ってるはず。無言じゃないぞ。これは大切な事。
    昔から二川さん大好きなにゃんむるでした。次回も期待してます。

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    1. >にゃんむるさん
      いつもコメントありがとうございます。
      「あんざい」は兄弟とかではなかったんですね、ご指摘ありがとうございます。後ほど修正します。

      基本的に四方田監督は、攻撃はキャスティング重視で、戦術的な構築はあまり感じられないですね。
      その辺の足りなさは、これまでジュリーニョとヘイスのクオリティが補っていたのですが、
      都倉とか上原を並べて行ってこい、ではさすがに厳しいですよね。

      WBの裏は、記事であまり詳しく書けなかったのですが、要は序盤はサイドを2人(FWとWB)で見る形にしていたのが
      それだとFWの負担が大きいということで、シーズンの途中からWB一人で見させる形に変えた結果、
      WBが釣り出されて裏を取られやすくなっている、これは今の戦術ならある程度、仕方ないと思うのですが、
      根本的には3トップなら、やはり本来はもう少し高い位置で守備すべきかなと思います。
      低い位置にセットした7人ブロックなんか、もう少し相手のクオリティが上がると余裕で崩されると思いますので…

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