2016年5月5日木曜日

2016年5月3日(火)13:00 明治安田生命J2リーグ第11節 ツエーゲン金沢vs北海道コンサドーレ札幌 ~暫定首位は本物か~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、河合、福森、MFマセード、宮澤、深井、堀米、ジュリーニョ、FW都倉、内村。
 ツエーゲン金沢のスタメンは5-3-2、GK原田、DF辻尾、阿渡、廣井、メンデス、小柳、MF安東、太田、山藤、FW水永、金子。
 札幌は試合開始前の段階で2位。熊本地震の影響により複数チームの消化が少ない状況だが、この試合に勝てば勝ち点差1で追う町田をかわし、暫定首位の可能性もある。
 一方の金沢は開幕から未勝利で最下位に沈む。森下仁之監督はスーツで指揮を執る。この試合では通常CBを務めることが多い太田をアンカーで起用しているなど、前節の清水戦で4失点した守備のテコ入れ、立て直しを意識していると考えられる。


1.前半の展開

◆マッチアップ


 金沢は序盤から積極的にボールを保持しようとせず、札幌にボールを持たせる展開となる。
 金沢は守備の要の太田をアンカーに起用する手堅い布陣で、特に両ウイングバックの辻尾、小柳のスタート位置を完全に最終ラインと同化させた、純粋な5-3-2と言ってよい陣形を敷き、2トップの水永と金子は自陣側のセンターサークル手前近くまで撤退する。対する札幌はいつも通りの3-4-1-2で、両者がマッチアップすると以下のような構図となる。

札幌の攻撃時のマッチアップ
白い円の部分が金沢の人を配していない部分。

 最終ラインは前節の徳島戦と同様の、札幌DFと金沢FWにおける3+1vs2。札幌の+1の部分は深井と宮澤のいずれかで固定されていない。図では便宜上アンカータイプの深井を後ろに置いたが、深井が前に出ていき、宮澤がアンカーとして残る場面もあった。また河合はセンターサークル外(図よりも後方)にいることが多いが、これも便宜上図中に収めている。
 徳島戦との相違点は、内村が積極的に降りてきて金沢の3センターの横に位置して受けようとする点である。

◆外を捨てる金沢


 中央を固める金沢の5-3-2に対し、札幌はブロックの外に選手を配すことで序盤はポゼッションを握る。
 金沢が2人のFWで中央を切ると、札幌のCB河合はサイドのDFに展開する。下の図のように福森が持つと、金沢の2トップはボールサイドにスライドするが、福森や進藤が持っている段階では積極的にボールを奪いに来ない。金沢は札幌の最終ラインだけでなく、アンカー(図では宮澤)も空けているため、序盤は札幌は福森→宮澤→マセードのサイドチェンジで金沢のブロックを横に動かすことができる。

①内村、②ジュリーニョ、③ボランチの片方、が
金沢のブロック間、ブロック外にポジショニング
河合から福森に展開したところ
深井がボランチの位置から前線に進出
ライン間にジュリーニョ、内村が降りてきている
福森から宮澤へ
宮澤にプレッシャーをかけないので簡単にサイドチェンジできる

◆4vs2のビルドアップ


 このように、徳島同様、金沢は2トップの守備のみでは札幌のDF+ボランチに対抗できないので、ボールサイド側のMF(安東、山藤)が前に出て対応する。ただ、この対応により今度はMFの脇が手薄になり、ジュリーニョや内村がこのスペースを活用する。この動きをCBが前に出て潰せないと、金沢は後手に回ることとなる。

前に出たインサイドハーフの背後を使うジュリーニョ
トラップが少し流れたため阿渡のタックルが届きボールを奪われるが
簡単にターン成功

◆インサイドハーフの守備(山藤と安東の対応):①左の山藤


 先述の通り、2トップだけでは金沢は札幌のビルドアップを阻害できないため、右MFの安東や左MFの山藤が2トップと同じラインまで出て進藤や福森に対応するようになる。この時、山藤は積極的に進藤に対応するが、安東の対応は曖昧で、2トップがスライドして当たるのか、安東が前に出て当たるのかがはっきりしない。
 左の山藤は、前半途中から進藤のビルドアップを警戒し、本来MF3人で構成するラインよりも高い位置、進藤やスペースに進出する宮澤、落ちてくる内村などに対応できるポジションをとる。
安東と山藤のポジションの比較

 ただ、山藤のこうした積極的な守備は、「持ち場」である中盤を離れることと表裏一体でもある。そして金沢は山藤が空けたスペースを太田と安東がスライドして守るのか、CBのメンデスが飛び出して守るのかが整理されていない印象を受けた。
 例えば下の写真、27:50~の局面は山藤が持ち場を離れて進藤にチェックに行く。進藤は落ちてきた内村に縦パス、内村はワンタッチで宮澤に落とす(27:52)。
山藤が進藤に出る
内村のポストプレーにメンデスが対応

 この後、宮澤から右のマセードに展開すると、27:57の局面では、マセードがボールを保持し、内村もサイドに流れている。金澤は本来マセード番がSBの小柳だが、山藤もつり出されている。そして山藤~アンカーの太田の間にスペースが空き、ここに気づいた深井がポジショニングしている。
 この山藤~太田の間を太田がスライドするのか、そもそも山藤がステイするのかが曖昧で、深井が気になるメンデスが一瞬前に出たところで、内村がメンデスの裏を取り、マセードからスルーパスを受けてクロスを上げている。
本来山藤の担当するエリアで深井が空いている
メンデスが深井に気づき出ようとすると、内村がメンデスの裏を取る
深井に気を取られたメンデスが裏を空ける

◆インサイドハーフの守備(山藤と安東の対応):②右の安東


 一方、右の安東は福森がボールを持っても山藤のように積極的に前に出ず、隣の太田との距離を意識して3センターのラインを崩さずに守る。福森への対応はFWに任せ、FWがカバーできない範囲は自分で対応するが、ある程度は持たれてもよいとの対応である。
安東は福森に出ず、FWに任せる

 ただ福森に自由に蹴らせると、一発で局面を変える高精度のキックを持っているので、下の写真(33:11)程度の寄せでは不十分である。
画面外のボランチ宮澤から福森にパスが出た直後
安東は全力で福森に寄せるのではなく、後ろを確認してパスコースを切る対応
この程度の寄せなら福森はピンポイントでパスを出せる
内村が余裕をもってトラップ

◆金沢のビルドアップ


 金沢のポゼッション時のビルドアップはDF3人で行う。単純に3人で行うと、札幌の3トップと数的同数になってしまうが、金沢の工夫は、中盤の3センターを札幌の3トップの両端(主に都倉と内村)の守備範囲外に寄せることで対応をずらしていくもの。
 下の写真、4:57~の局面は、金沢の右CB阿渡に渡ったところで都倉が中央を切りつつ阿渡に寄せようとするが、金沢の右MF安東がサイドに流れている。この時、札幌左サイドは画面外で堀米が裏を狙う辻尾に対応しているので、都倉が阿渡に突っ込むと安東が空く。そのため都倉がサイドをケアすると、ジュリーニョと都倉の間で太田が空く。
右CB阿渡に突っ込む都倉、安東がサイドでフリー
都倉が気づいてステイする。外を都倉自身が切るので中の太田をチェックしろと指示

 そこへボランチの深井が出てきてケアするが、深井の背後でFWの水永が受けられるポジショニングをとると、福森が出て対応する。最終的には福森が出たスペースに飛び出したFWの金子へのロングフィードを選択する。
安東と太田いずれかがフリーになる。札幌の対応を1枚ずつずらして最後は福森の背後へ

◆金沢の攻め筋:辻尾の"個"


 戦力で劣る金沢の狙いは、外を捨てて中を固め、札幌が中をこじ開けようとしてきたところでの人数をかけて奪ってのカウンター。札幌が中にパスを入れようとしたところで引っ掛けて、ストロングポイントである右サイドの辻尾を走らせて手数をかけずに攻撃を成立させる。
 下の写真は10:12に福森からパスを受けた堀米が逆足のダイレクトで制度の低いパスを出したところ、アンカーの太田がインターセプトする局面で、太田から安東、金子と繋ぎ、金子がドリブルで時間をつくっているうちに大外を辻尾が駆け抜ける。金子に福森がスライディングで突っ込むが、福森の足が届く直前に上がってきた辻尾へスルーパス。 30メートルほど駆け上がってきた辻尾はあと一歩のところで届かずスローインとなった。
 金沢としては、走力と高精度の右足クロスを兼ね備える辻尾がストロングポイントで、フィニッシュの部分で辻尾を活かしたい。ただ辻尾は5バックのSBとして守備に参加するので、最後方から上がっていくための時間が必要になる。この局面のような右サイドからのカウンターでは、中盤で溜めをつくることで上がる時間を確保している。逆に左サイドで奪った後のカウンターでは、サイドチェンジする間に上がる時間を確保することもでききる。
右足のダイレクトで出さされる堀米
辻尾は堀米の対面から最前線までスプリント
赤字が奪った後の金沢の展開。辻尾の個で勝負からの逆算

 下の写真、14:32~の局面は、左サイドで受けた宮澤を囲んでボールを奪った金沢が時間をつくり、やはり最後は辻尾と堀米の1vs1を狙っている。
宮澤が奪われる
ドリブルで運びながらキープ、時間をつくる
長い距離をあがってきた大外の辻尾へ

◆金沢を上回る攻⇒守のトランジション①


 この試合、前半の札幌が優れていたのは攻撃から守備に転換する際の切り替えで、恐らく四方田監督も金沢のカウンターは非常に警戒していたと考えられる。
 下の写真、5:21の局面では宮澤の縦パス、内村のポストプレーからジュリーニョが前を向いて仕掛けたところで金沢が囲い込む。ジュリーニョが4人に囲まれてボールを奪われると、金沢は一気にカウンターに出る。中央やや左サイドで奪った金沢は一気にスピードを上げ、手薄な右サイドの辻尾に展開するが、堀米が辻尾の進路を塞ぎ攻撃を遅らせると、横パスを深井がインターセプトし、札幌は敵陣でのボール回収に成功する。
宮澤から内村に縦パス
内村のポストプレーでジュリーニョが前を向いて中央で仕掛ける
金沢はFWがプレスバック
囲まれたジュリーニョがボールを失う
辻尾に素早く堀米が寄せる、辻尾の横パスを狙っていた深井がカット

◆金沢を上回る攻⇒守のトランジション②


 下の写真は先述の12:42、間受けからターンしたジュリーニョが阿渡にタックルで奪われた直後の展開だが、金沢がFWの金子に当てたところで進藤が出ていき、前を向かせない。この攻撃的な守備で金子はDFのメンデスに戻さざるを得ず、金沢は速攻のチャンスを逃す。また進藤の守備でスイッチが入り、都倉がメンデスにチェックするとメンデスのドリブルが大きくなったところを進藤がカット、2次攻撃に繋げている。
 進藤の前に出て奪う能力の高さに加え、奪った後の金沢のFWが前線でキープしたり、オープンスペースに全力で飛び出すといったアクションが弱いこともあり、この局面でも札幌のトランジションが上回っている。
進藤が出て金子に前を向かせない
バックパスさせたところを都倉が連動してプレッシング

2.後半の展開

◆インサイドハーフの守備(山藤と安東の対応):③山藤と安東の入れ替えと両突撃


 後半、金沢は山藤を右、安東を左に入れ替える。前半は左にいた山藤が進藤に積極的に出ていたが、後半は安東がこの役割を担っており、進藤を狙った意図的な対応だったことがわかる。ただ、リードを許す展開となったこともあり、55分ごろからは右に移動した山藤も高い位置を取って福森を追いかける局面も見られるようになる。
後半は山藤と安東が入れ替わる
両インサイドハーフともストッパーを迎撃態勢に

◆走る距離と機会が増える


 これにより、進藤や福森、両WBのところでボールを保持する時間がなくなり、前半に比べると札幌は安易にダイレクトで蹴らされる場面が徐々に増えていく。ロングボールが増えると、前線のFWと両ボランチがボールに合わせて上下動する局面が増え始める。
 小野投入の65分頃までは宮澤や深井はまだ動けていたし、都倉もディフェンスやオープンスペースへの飛び出しの走力が陰っていなかったように思える。
 ただ、前半は中盤の選手か2トップの一角が必ず金沢の3センター脇に顔を出してボールを受けるポイントを作っていたが、下の図のようなインターセプトされた場面はボールホルダーへのサポートが前半に比べて不十分で、出しどころがなく追い込まれ、最後は前に蹴るしかないといった局面が徐々に散見される。
60:50頃の局面
マセードがプレッシャーを受け左足ダイレクトで蹴らされる
そもそも進藤が持った時点で選択肢が少ない

◆中盤の運動量低下が招く負のサイクル


 65分、札幌は内村に代えて小野を投入。小野はトップ下、都倉・ジュリーニョの2トップとなるが、70分前後くらいから札幌は運動量が落ち始める。
 72分、金沢は山藤⇒古田、水永⇒熊谷アンドリューの2枚替えを敢行する。これにより前線からより積極的に追いかける態勢が整う。
 一方、小野投入による札幌の変化は、ジュリーニョ・内村・都倉のトリオではポジションや役割を入れ替えながら行っていたのが、小野はほぼトップ下に専任で、前線でターゲットやオープンスペースに走る仕事が都倉とジュリーニョ(特に都倉)に集中する。
 またロングボールが互いに増える展開で両ボランチが疲弊し、最終ラインの河合やサイドの選手がボールを保持した時にサポートが薄くなり、出しどころがなく更にロングボールが増え、競り合う都倉の負担が増すという"負のサイクル"が急速に回り始める。
 更に、金沢のビルドアップにおいて、札幌のFWの背後で受けるアンカーの太田やFWの熊谷を深井や宮澤が飛び出してケアすることが難しくなる。これによってFW3枚のラインを突破され、前を向いてボールを持たれる形が頻発する。
前線の守備強度が落ちるて簡単に「3」を割られる
加えて、ボランチがカバーしきれなくなる

◆疑問の残るベンチワーク


 小野については、スカパー!!の実況では「キープ力を発揮してポゼッションを高めたいのでは?」とコメントしていたが、むしろ小野は相手からのプレッシャーを受けるとワンタッチパスでかわすことが多い。この試合のようにリードしており相手がアグレッシブに攻めてくる状況では、あまりマッチしないプレースタイルで、流れは更に金沢に傾いていく。前節の徳島戦もそうだが、中盤や前線に運動量のある選手を入れるべき局面だった。
小野から深井をスペースに走らせてのワンタッチパス

 上記の点については81分のジュリーニョ⇒ヘイスの交代も同様で、確かに疲れ切っているジュリーニョよりはヘイスの方が動くことができる。但しヘイスの仕事場は前線で、セカンドボールを奪い合う中盤の攻防にはほとんど寄与しない。
 金沢は3センター+下がってくる熊谷の4人に対し、札幌は宮澤と深井、たまに小野が参加するといった状況で、更にフレッシュな熊谷と古田、大槻(&金沢はホームで負けられない)となると必然とセカンドボールは金沢が拾うようになる。
明らかに分の悪いセカンドボール争奪戦

 ただ、金沢もセカンドボールは拾うものの、フィニッシュの精度やゴール前の迫力に乏しいこともあり、札幌がリードを守り切り1-0で逃げ切り勝利した。

ツエーゲン金沢 0-1 北海道コンサドーレ札幌
・17分:ジュリーニョ


【雑感】


 町田が引き分けたことで暫定首位に浮上したが、内容は前節同様に後半途中からの大失速で、薄氷の勝利だった。
 札幌は攻守両面で両ボランチの仕事量が非常に多い。この試合でいえば宮澤、深井ともに体力のある前半は、3バック+両ボランチを中心とする後方での展開が非常に効果的だったが、深井と宮澤の運動量が落ちた後半途中からはポゼッションができず、またセカンドボールを拾うことが難しくなり、完全に後手に回る試合展開となった。
 "暫定首位"の原動力は、前線のジュリーニョや都倉、センターラインの深井、宮澤、増川といった選手の"クオリティ"(野々村社長の言葉で、曖昧な概念であるが)である。特にこの日前線で先発した3選手(ジュリーニョ、都倉、内村)は、都倉のパワーやジュリーニョの技術など、(J2レベルでは)個人でも脅威となるうえ、相互にFWとMFの役割ができる。
 ただ前線3人には守備時に3トップに変形して守備貢献を求め、中盤を2人でカバーする布陣を採用していることで、チーム全体としてクオリティを維持できるのは70分程度であることが明らかになってきている。70分までは暫定首位でもおかしくないクオリティかもしれないが、これを過ぎるとかなり怪しいのが現状である。
 またFWの選手がサイドに開いて守備をすることでサイドの薄さをカバーしているため、4バックでSBで起点を作れる選手がいるチームとは相性がよくない。

0 件のコメント:

コメントを投稿