2025年5月25日日曜日

2025年5月25日(日) 明治安田J2リーグ第17節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 〜競争と無謀のあいだ〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

田舎者の長い旅:

  • 2012シーズンから13シーズン守り抜いたJ1の椅子を手放した鳥栖。末期は川井健太前監督に対する風当たりが強すぎて正直なところ困惑していましたが、13シーズンも守り抜いてきたと考えるとどうしても成績でクローズアップされてしまうのは仕方ないのかもしれません。
  • ただコンサも鳥栖もパブリックイメージではお金がないチームということで括られていますけど、鳥栖は2015-18シーズンはCygamesの支援などもあり一時期はスポンサー収入だけで年間20億円以上を確保しており、豊田以外にもイバルボ、吉田、キムミヌ、権田といった選手をキープしていましたし、13シーズンの旅は景気の波があったことになります。監督が資金的にかなりのサポートを受けていたと言える時期と、監督の仕事としてはかなり厳しくなった時期とが混在していたのが現実でしょう。
  • コンサもミシャはコンサ史上群を抜いて手厚いサポートを受けた監督ではありましたが、鳥栖から数年遅れでコンサもある種、分不相応に選手をキープしていた時期を経てその後の縮小期を迎えるという似たサイクルを辿っています。コンサは縮小期に入ってすぐに降格してしまいましたが、鳥栖は大卒の若手選手の台頭などもあって数年粘ることができており、良くも悪くも監督も含め人材の流動性が高いのは鳥栖のカルチャーなのかなと思います。

  • あとはアカデミーへの投資も特筆すべき事項で、ちょうど2010年代というとポストユースの育成を大学にアウトソーシングする流れがかなり明確になってきて、2010年代の覇権クラブである川崎がその代表かつ成功例なのが大きいのか、またコスパ的にはアカデミーへの投資って本当に効率が良いのか?と疑問視する考えが広がったか、コンサもこの時期アカデミーにあまり投資していなかったと思いますが、気付けば鳥栖の環境(ピッチ、寮と食事、遠征機会、業務提携…)はコンサのような投資が滞っているクラブを余裕で追い越しています。
  • この手の施策は投資から成果が出るまで少なくとも5年〜10年くらいはかかるので、まだ評価は時期尚早でしょうけど、2種以下のライバルが多い激戦の北部九州に立地しているがゆえの必然の判断だったのかもしれません。

スターティングメンバー:



  • 鳥栖は当初システム1-4-4-2を採用しましたが開幕3連敗と出遅れ、3節では昇格組の今治相手にシステムのミスマッチを利用されたことも大きかったのか、小菊監督は4節からシステムを1-3-4-2-1へ変更。以降13試合は7勝4分2敗で勝ち点25の8位につけ、この期間だけなら自動昇格を争うチームに近いペースになっています。
  • 結果的には、開幕3試合が仙台、磐田、今治と現時点で上位にいるチームで新監督体制ではイージーではなかったかと思いますが、そこから修正して持ち直してきた手腕は流石といったところでしょうか。
  • メンバーは3バック中央にここ4試合で3度目となる今津を起用。あまり器用ではないかもしれませんが、パワーに期待といったところでしょうか。前線はスリヴカが軸で、西川、西澤、堀米、山田寛人、高校3年生の新川といった選手を組み合わせています。ワイドは左が新井、右はよりバランスを取る役割かもしれません。

  • コンサは前節試合中に負傷した中村桐耶が、左膝後十字靭帯部分断裂の重傷で左利きのDFが3人ともいなくなってしまいました。その中村に代わって入ったもののin-outとなった田中宏武の出来が、今後の鍵を握ることになるでしょうか。

2025年5月18日日曜日

2025年5月17日(土) 明治安田J2リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vsカターレ富山 〜ボクシングムーブメントと持久性〜

 1.ゲームの戦略的論点とポイント

ユナイトから18年:

  • 2025年現在、Jリーグに「ユナイテッド」を名乗るチームは福島(2006年にFCペラーダ福島とユンカースがユナイト)、鹿児島(2014年にヴォルカとFC鹿児島)、高知(2016年にアイゴッソ高知と高知Uトラスター)、そして老舗のジェフの4クラブですが、ジェフは母体は古河電工なのでサッカーチーム的にはユナイトしているとは言えません。
  • ジェフ的な大企業の合弁によるクラブは、Jリーグ黎明期にはフリューゲルス(全日空と佐藤工業、6対4)、セレッソ(ヤンマーと日本ハムがほぼ同じ、他株主も)といった事例がみられ、イメージとしてはアメスポの共同オーナーみたいなものだったのかもしれませんが、オーナーシップの形態としてはやはり口を出す権利と機会の確保が面倒になってしまう印象です。鹿島や磐田が同様の運営体制だったとするなら黎明期にスタートダッシュを決めることができたでしょうか?アビスパのようにより分散的なクラブの運営が更に難しくなるのは言うまでもありません。

  • 冒頭のユナイテッドの話に戻ると、ユナイトしているけどユナイテッドを名乗らなかった(2007年)のが富山。このユナイテッド勢に関して言えるのは、合併するとリソースや資金力が単純に2クラブ分になるとはいかず、企業側が関与を縮小したいが故の手段とされることが日本では多いのでしょう。2015年からJ3で10シーズンを過ごし、今回2014シーズンぶりのJ2参戦となりましたが、合併発足時の期待感と比べるとかなり苦労してきた印象です。
  • なお合併時に公募していて「ユナイテッド」も候補だったと記憶している、クラブ名に関しては、この時期(07年)はまだシンプルなFCとかSCよりも、愛称があった方が良しとされる時代とその次の時代の境目だったように思えます。これより後発だとFC今治とか、東京ユナイテッドとか、FC大阪とか割とシンプルな名称が増えてきた印象があります。


スターティングメンバー:



  • 富山は前節右SBの濱が左SBに回って右に西矢。中盤センターに植田→竹中、左SHに吉平→伊藤、2トップは武と松田から2人替えてきました。全体的にコンディションを意識した選手起用の傾向を感じます。
  • コンサは左にスパチョークを入れて青木を中央に。

2025年5月11日日曜日

2025年5月11日(日) 明治安田J2リーグ第15節 いわきFCvs北海道コンサドーレ札幌 〜自由だが期待はするな〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

既にスタンダードを変えつつある:

  • 所謂コロナ後の5シーズン(2020-2024)でJ3からJ2への昇格を果たしたチームは順に、秋田・相模原(20)、熊本・盛岡(21)、いわき・藤枝(22)、愛媛・鹿児島(23)、大宮・今治・富山(24)、となっていて、このうち相模原、盛岡、鹿児島は1シーズンでJ3に逆戻り、J2経験がなく純粋にカテゴリを上がってきたクラブである秋田、藤枝といわきは今のところカテゴリを守り抜いています。
  • かつて熊本がロッソ熊本と名乗ってKyuリーグを戦っていた頃、年間予算が3億円くらいで元Jリーガーを複数擁し「九州のビッグクラブ」みたいに地域リーグファンから言われていましたが、いわきはその現代版というか(下のカテゴリ基準での)資金力だけでなく運営体制もしっかりしているので、簡単に下のカテゴリに戻ってしまう危険をはらんでいるクラブとはちょっと違うなというところを見せつけています。
  • 2023シーズンの予算規模は約10億円で水戸や栃木、山口と同等。2024シーズンの決算はそろそろ発表されるのでしょうけど、14億円程度の予算規模であるとのことで、また先日は小名浜へのスタジアム整備計画も公表され既にそうした経営面でのフィジカルスタンダードを変えてくれる存在となりつつあります。

  • 一方で迎えた25シーズンは開幕9試合で3分6敗、5節からは藤枝、今治、水戸、甲府、山形に5連敗で最下位に沈むなど苦しみます。4/20のvs富山で初勝利を挙げると、長崎、大宮に連勝、ここ2試合は秋田と愛媛に引き分けと好調を維持したまま連休後のこの試合を迎えています。
  • 編成においては例年出入りが多く期限付き移籍も積極的に活用しているのですが、24-25シーズンでの動きは10ゴールの有馬が大分へ、中盤センターでの起用が多かった西川潤がセレッソへ復帰(→鳥栖へ)、3バックの右、照山の夏移籍以降は中央を務めた大森がFC東京に復帰、GK立川が今治へ。照山も含めるとスタメンが5人入れ替わっており、GK早坂やエース谷村以外は色々な選手を試してきた序盤戦だったと思います。

スターティングメンバー:




  • いわきは前節と同じスタメン。GK早坂と3バック、右の五十嵐、前線の3人は12節から変わらず、これらの選手に加えて中盤センターの山下もほぼ不動の主力選手。コンサがボールを持っている時は谷村と熊田を2トップとする1-4-4-2でセットして、撤退時とボールを持った時は1-3-4-2-1に近い形でプレーします。ベンチ入りは1人少ない8人でした。
  • コンサはGKを4節のスタメンとなる菅野。西野が中盤センター、高嶺をCBとする形を10節以来に採用し、前線はこの週のトレーニングでも複数のセットを試していましたが、前節得点したジョルディと田中克幸のユニットを選択してきました。

2025年5月6日火曜日

2025年5月6日(火) 明治安田J2リーグ第14節 北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田 〜走る・戦う・規律を守る〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

エレベーターは悪なのか:

  • 磐田の2024シーズンの売上は48.5億円で過去最高を記録。規模的にコンサとほぼ同等ですが、コンサはシーズン途中に選手補強のためスポンサー企業から臨時的な支援があった上での金額で、それを差し引くと磐田の方がやや上かもしれませんが、磐田もJ2だった2023シーズンは42億円程度の経営規模なので、まぁほぼ同等くらいと見ていいでしょう。
  • 近年の磐田は19年-24年までの6シーズンでコロナ禍の20年(J2で6位)以外は毎年カテゴリを上下させており、よくエレベーターと揶揄されますがこれぐらいの動向なら経営規模としては一定は維持できるのが今のシステムなのかもしれません。これが例えば3年続けて下のカテゴリになると経営上の諸々の数値に響いてくるでしょう。
  • 23シーズンはオフの補強禁止処分の逆風を乗り越えてJ1復帰、24シーズンに臨むにあたりGK川島、FWペイショット、シーズン途中にクルークスと割とコストがかかりそうな選手を獲得して、そのスカッドをJ2に持ち込みつつ25シーズン前にはDF江崎、FW佐藤凌我とこのカテゴリを意識した働き盛りの選手を集めている印象です。
  • 一方で新監督がジョンハッチンソンということで、ここまでの戦いを見ると、やはりJ1から持ち込んだスカッドがそのまま適用できるかというとスカッド整理をしないと難しそうに見えます。この辺もコンサと似ていますが、江崎やGK阿部、期限付き移籍で倍井といった選手を確保する余地があったのはまだマシな方かもしれません。

スターティングメンバー:


  • 磐田は7節で好調ジェフに初黒星をつけるなど開幕7試合を5勝2敗の好スタート。しかし8節以降はここまで6試合を3分3敗とブレーキがかかっています。リカルドグラッサの離脱もありましたが10節以降、彼が戻っても勝ちに見放されている状況で、上位に踏ん張れるか重要な試合との位置付けになります。
  • それまでは割と固定メンバー気味でしたが、前節は前線を入れ替えており、トップに初先発となった渡邉りょう、DF登録の川崎が左ワイドで先発し1得点、ペイショットと倍井はベンチスタートでした。ターンオーバーの側面もあったかもしれませんが倍井がスタメン復帰、渡邉りょうは2試合連続の先発です。GKは開幕時は川島→5節から阿部→前節から三浦でこちらも2試合連続。

  • コンサはスタメン、サブ共に2試合連続で同じ。配置は前節の前半途中からの、高嶺が左SB、青木が中盤センターの配置を継続しています。

2025年5月4日日曜日

2025年5月3日(土) 明治安田J2リーグ第13節 モンテディオ山形vs北海道コンサドーレ札幌 〜日程が味方に?〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

2025年着工、2028年開業 まで待ちきれず:

  • 山形の2025年1月期単独決算は26億円、2023年のデータではトップチーム人件費が8.3億円。おそらく今も同程度と考えると、渡邉晋監督が2シーズン連続で掲げるJ2優勝という目標はなかなか高めです。直近3シーズンで6位→5位→4位と推移しており、長崎へ移籍したGK後藤以外はほぼ主力を残すことに成功したので”勝負の年”ではあるのでしょうけど、クラブ規模との釣り合いで言うとややアンバランスではあります(こうした目標は内在的に湧き上がってくるというよりは、内外の関係者から言わされている部分もありそうですが)
  • 2014年からアビーム社が経営に参画し会社設立、当時の事業規模が15億円前後だったようですが、コンサが2013→2019年で10億円→35億円に伸長したことと比較すると、ホームタウンの経済規模もあるのでしょうけどやはりスタジアム問題をなんとかできれば…という議論になるのでしょう。この点では利用料が高いみたいな指摘もあるでしょうけど、なんだかんだコンサはこの点でも恵まれています。
  • 水戸や秋田、甲府といったJ2の”持たざるクラブ”が公設を念頭に置いた動きをしている中で、150億円規模(おそらくもっと膨らむのでしょうけど)で民設を目指すとする山形の取り組みが成就すれば周辺のクラブにとって大いに参考となるでしょう。10年前にガンバのスタジアムができた際に「今後のモデルケース」と一部で言われましたが、その割には設計面で京都、資金調達スキームで広島が近いかなという程度で思ったほど広がらなかった印象です。あくまでガンバだからできるモデルであり、より規模の小さいクラブに適用するのはまた別の話かなと思います。

スターティングメンバー:


  • 前節から中3日、次節も中2日ということで山形は前線のディサロ、左ウイングの國分、中盤センターの高江といった選手がターンオーバーでベンチスタートと思われます。堀金は関東学院大学から新卒加入で初先発。
  • 一方で前節、富山相手にいつもの1-4-2-3-1から1-3-4-2-1に変えて戦っていたようで、トップ下の土居はこの影響か前節はベンチスタートで休ませる格好ともなっていました。GKトーマスは開幕戦以来のスタメン出場。

  • ここまで3バック(5バック)と4バックを使い分けているコンサですが、ここ数試合は4バックが定着しており、左SBの選手が2人離脱していながらも岩政監督が「主力に4バックの方が合っている選手が多い」と語っていたりで、山形の視点ではコンサが4バックの1-4-4-2でくることはそれなりに確度の高い予想だったのではないかと思います。
  • このコンサの1-4-4-2に対して、山形が3バック系ののシステムの典型的なメカニズムというか配置で人を並べると、やはり山形がボールを持っている時にポジショニングによって優位性というかフリーでボールを持ちやすい選手を複数作ることができます。
  • 加えて(ゾーンディフェンスということになぜかなっているけど)基本的にマンツーマンベースのコンサはミスマッチがある状況でうまく守れていないことは、直近ではvs甲府だったり(変則システムでしたが)vs大宮だったりでも示されているので、山形のスタッフがこの辺りの試合を見ていれば、渡邉晋監督が3バック系のシステムを採用する決断を後押しする要素は割と多めだったのではないでしょうか。

  • コンサは前線で初めてバカヨコとキムゴンヒがスタートから2トップ。いまいち信頼がなさそうな中村桐耶を左SBに置いて、高嶺が中央。青木は再び左に戻っています。