1.ゲームの戦略的論点とポイント
2025年着工、2028年開業 まで待ちきれず:
- 山形の2025年1月期単独決算は26億円、2023年のデータではトップチーム人件費が8.3億円。おそらく今も同程度と考えると、渡邉晋監督が2シーズン連続で掲げるJ2優勝という目標はなかなか高めです。直近3シーズンで6位→5位→4位と推移しており、長崎へ移籍したGK後藤以外はほぼ主力を残すことに成功したので”勝負の年”ではあるのでしょうけど、クラブ規模との釣り合いで言うとややアンバランスではあります(こうした目標は内在的に湧き上がってくるというよりは、内外の関係者から言わされている部分もありそうですが)
- 2014年からアビーム社が経営に参画し会社設立、当時の事業規模が15億円前後だったようですが、コンサが2013→2019年で10億円→35億円に伸長したことと比較すると、ホームタウンの経済規模もあるのでしょうけどやはりスタジアム問題をなんとかできれば…という議論になるのでしょう。この点では利用料が高いみたいな指摘もあるでしょうけど、なんだかんだコンサはこの点でも恵まれています。
- 水戸や秋田、甲府といったJ2の”持たざるクラブ”が公設を念頭に置いた動きをしている中で、150億円規模(おそらくもっと膨らむのでしょうけど)で民設を目指すとする山形の取り組みが成就すれば周辺のクラブにとって大いに参考となるでしょう。10年前にガンバのスタジアムができた際に「今後のモデルケース」と一部で言われましたが、その割には設計面で京都、資金調達スキームで広島が近いかなという程度で思ったほど広がらなかった印象です。あくまでガンバだからできるモデルであり、より規模の小さいクラブに適用するのはまた別の話かなと思います。
スターティングメンバー:
- 前節から中3日、次節も中2日ということで山形は前線のディサロ、左ウイングの國分、中盤センターの高江といった選手がターンオーバーでベンチスタートと思われます。堀金は関東学院大学から新卒加入で初先発。
- 一方で前節、富山相手にいつもの1-4-2-3-1から1-3-4-2-1に変えて戦っていたようで、トップ下の土居はこの影響か前節はベンチスタートで休ませる格好ともなっていました。GKトーマスは開幕戦以来のスタメン出場。
- ここまで3バック(5バック)と4バックを使い分けているコンサですが、ここ数試合は4バックが定着しており、左SBの選手が2人離脱していながらも岩政監督が「主力に4バックの方が合っている選手が多い」と語っていたりで、山形の視点ではコンサが4バックの1-4-4-2でくることはそれなりに確度の高い予想だったのではないかと思います。
- このコンサの1-4-4-2に対して、山形が3バック系ののシステムの典型的なメカニズムというか配置で人を並べると、やはり山形がボールを持っている時にポジショニングによって優位性というかフリーでボールを持ちやすい選手を複数作ることができます。
- 加えて(ゾーンディフェンスということになぜかなっているけど)基本的にマンツーマンベースのコンサはミスマッチがある状況でうまく守れていないことは、直近ではvs甲府だったり(変則システムでしたが)vs大宮だったりでも示されているので、山形のスタッフがこの辺りの試合を見ていれば、渡邉晋監督が3バック系のシステムを採用する決断を後押しする要素は割と多めだったのではないでしょうか。
- コンサは前線で初めてバカヨコとキムゴンヒがスタートから2トップ。いまいち信頼がなさそうな中村桐耶を左SBに置いて、高嶺が中央。青木は再び左に戻っています。
2.試合展開
外を切るコンサの前線守備:
- 山形は前半だけで2度システムを変えていたと思います。試合開始時点では3バックで、中村をアンカーとする1-3-1-4-2に近い形に見えました。ボールを持っている時は、3バックで+アンカーの配置で1-4-4-2で守るコンサに対しミスマッチを作ることを心がけていたと思います。
- しかしコンサはこの日、2トップが中央を閉じ、サイドハーフが山形の3バックの左右を務める安部と川井に対して出ていくこと自体はこれまでとほぼ同じながら、山形の左右のDF→WBへのパスコースを切るように必ず外側から寄せることを、右の近藤と左の青木(途中からは中村桐耶)が徹底していました。
- そしてアンカーの中村には2トップと、中盤センターの高嶺と荒野でケアするようにしており、山形は3バックの中央の西村のところにはコンサはボールを取りにこないのでボールを持てるけど、そこから先への展開は容易ではない状況でした。
- コンサはサイドハーフの寄せ方やコースの切り方がこれまでの試合と比べると格段に丁寧になっていましたし、また2トップの役割も、これまでは特定の選手をマンツーマン気味に対応するので相手が幅をとったり数的不利になると管理しきれないことがありましたが、ゴニとバカヨコの対応は山形にサイドを決めさせたら2人で中央を切って、山形のDFがサイドを意識した時にコンサのサイドハーフが出てくる…という具合に整理されていました。
- この際、山形のGKトーマスがよりバックパスに積極的に関与するスタイルだと、ゴニとバカヨコのところで混乱を招いたかもしれませんが、そうしたタイプではないことも幸いしたと思います。
打開を図る山形と中村桐耶の対応:
- 一方、山形は前線でWBの右:イサカゼインと左:坂本が高い位置をとり、2トップが中央のポジションを取ると、コンサは後方を4バック+高嶺か荒野のうち1人で見ることになり、中央とタッチライン付近のポジションをとってくる山形に対してマンツーマンで広がって対応するか、中央に密集して最初はワイドを捨てるかのどちらかになります。
- コンサの選択は後者で、ワイドは最初は捨てて構えていました。
- この状況から山形は右利きの選手が多いこともあって、右方向の選手に浮き球や”1人飛ばすパス”で状況打開を図ります。前半、1度、FWの高橋にボールが入って数的同数で速攻のチャンスになることがありましたが、それ以後は右WBのイサカゼインになんらか浮き玉等で展開することが増えます。
- イサカに対しては絞っていたコンサの左SB中村桐耶が遅れ気味に対応します。この際、スペースのある状態でのイサカと中村のマッチアップはコンサにはかなり危険で、特に中村は飛び込んでも間に合わないような状況でも安易に飛び込むので、ペナルティエリア付近やその内側でファウルを取られてしまいそうで見ていてハラハラでした。
- 序盤はなんとか凌ぎましたが、前半の途中でコンサは中村を前に出して、高嶺を左SBとする布陣に変更します。
過密日程が家泉を助ける?:
- コンサがボールを持っているときの山形の対応は、スタート時点では1-5-3-2に近い形だったと思います。
- これは考え方としては、コンサのCB2人:家泉と西野に2トップの堀金と高橋が同数で対応して、コンサのSBや中央の高嶺と荒野には中盤センターの3人:左から土居、中村、加藤で都度対応するイメージだったと思います。
- この時、コンサにとって助かったのは、山形がそこまでコンサのボールホルダー(特に家泉)に対して距離を詰めてボールロストの恐怖を煽るような対応はせず、中央にステイしていたことでした。
- ですのでこれまでボトルネックになりがちだった家泉も落ち着いて状況を確認してボールを預けられる味方を探すことができましたし、そもそも慌てて預けなくても良い時は必要以上にボールをリリースして味方に負荷をかけることにもならなかったと思います。過密日程を考慮して守備の開始位置を下げたのかもしれませんが、山形のこの対応は非常にラッキーでした。
- 家泉よりもこのあたりのスキルや個人戦術が優れる西野はこの点においてより質の高いプレーを見せていました。
- そして2トップの山形に対し、コンサは高嶺が左もしくは中央に落ちて家泉・西野と3人並ぶ配置になることが前半途中から多くなります。
- これによって山形の1列目によるコンサのDFへのプレッシャーはよりルーズになったというか、元々そこまで前に出てくる気もないし、山形の2トップに対しコンサは3枚で数的優位ということもあって、後ろでボールを持っている時に危ない場面になることは稀でした。
スペースを気にする山形と前に急がないコンサ:
- 山形はインサイドハーフが前に出てコンサのDFをケアしようとすることもありましたが、そうすると背後のスペースが空いてしまう。おそらくはこれを嫌って、あまり前線に人を割きすぎないように自重していましたし、
- また撤退時は1-5-4-1気味で土居と高橋が下がって中村と加藤の隣のスペースを消すようにしていました。
- ただこの日はコンサもあまり縦に急がないことは徹底しており、わざわざ山形の消しているスペースに縦パスを入れて安直にロストしてカウンターを食らうような選択はあまり見られず、この日も前半は自重して後半勝負という意識が見られました。
- コンサが山形陣内でボールを持った時に、前線にバカヨコとゴニが2トップであることの強みはこのシチュエーションではそれなりに効力を発揮していたと思います。
- 山形はCB中央の西村は187cmとサイズがありますが、右の川井と左の安部はそこまで大きくなく、またCB3人に対して2トップという関係性もあってこの2人がそれぞれゴニ、バカヨコとマッチアップする形を作ることは割と簡単で、前線でコンサは西村を横切るボールを放り込めばゴニとバカヨコが頭で折り返すなどして、山形をより自陣ゴールに釘付けにすることができていたと思います。
⚪︎億円?は高くない:
- 30分過ぎ頃から、山形は1-5-4-1自陣でスペースを消す対応から、ボール非保持の際は最初から坂本を左SB、土居を左SBとする1-4-4-2気味の形に変更します。ここからボール保持の際は、坂本が高い位置をとり土居が中央に移動する1-3-1-4-2気味の形なのは変わりませんでした。
- システム変更をして、坂本は低い位置でのタスクが加わった格好になりますが、1-4-4-2の2列目となったイサカは前残りできる役割のため、コンサにとっては依然としてこの試合で最も脅威となる選手でした。
- それもあって、コンサも30分頃から高嶺を左SB、中村桐耶を左SH、青木を中盤センターとする形へ変更。まず高嶺はイサカと1v1の対応というよりは、イサカにボールが入ってファーストタッチが完璧に決まらないようなシチュエーションで寄せる判断が抜群で、うまいというよりは馬力で勝負するタイプのイサカは徐々に特徴を発揮できなくなります。
- 青木は元々中央や下り目でのプレーを好むのと、山形がボールを持っている時も自分だけでなく味方を動かして守れる選手なのでコンサはこの戦術変更は非常にしっくりきていました。
- 中村桐耶はコンサがボールを持っている時に、なぜか青木の左SHのようにワイドから中央に入っていくような、本人の選手特性と考えるとアンマッチなことにもなっていましたが、前線で川井からイサカへのパスコースを切る仕事はしっかりやっていたので、最後までピッチに立たせる判断になったのかと思います。
どこに(どこから)注力すべきか:
- 山形は後半頭から高橋・堀金→ディサロ・藤本。交代自体はある程度予定通りだったと推察します。
- 仕組み的にはそこまで変わらず、1-4-4-2で守る関係から、イサカが右で高い位置をとりやすく、左は坂本がより下がり目の役割になるのは変わらず。
- そしてコンサも山形のDFにボールを持たせて、外切りで寄せて…と変わらず対応していた中で、55分に近藤が安部にアプローチして奪って、バカヨコがショートカウンターから先制。岩政監督が開幕から取り組んできた前線からのpressingがようやく結実しました。
#アマドゥバカヨコ の決勝ゴール!
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 3, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第13節
🆚 山形vs札幌
🔢 0-1
⌚️ 55分
⚽️ アマドゥ バカヨコ(札幌)#Jリーグ pic.twitter.com/HTQYmkuXrL
- 山形の視点では、左は坂本がワイドを1人で対応するということで、低い位置で安部のサポート(ワイドにパスコースを作る)のと、前線でウイングの仕事を両立するのがなかなか大変そうな印象でした。
- この場面でも、安部としては近藤が寄せるよりも先に坂本がパスコースを作って欲しかったでしょうし、それには低い位置に下がってかつタッチライン際に開いてというアクションを迅速に行う必要がありましたが、1人でやり切るのはややタスクオーバー気味だったでしょうか。
- 山形は66分にイサカ→吉尾、土居→國分。國分は左ウイング/サイドハーフですが土居の役割…インサイドハーフもしくはシャドーに近い動きをします。
- コンサは69分にバカヨコ・ゴニ→克幸・ジョルディで2トップを交代。
とくせい はりきり(こうげきが **だが はずれやすい):
- ここから試合はややオープンになって、終盤は山形がコンサゴールを何度か脅かします。
- コンサはバカヨコとゴニはいずれも前線で潰れ役というか、後方から縦に入ったボールに対して自分が前を向くとか抜け出すというよりは、DFの前に体を入れて簡単にクリアさせないとか相手ボールにさせないみたいなプレーができるのですが、久々登場のジョルディはどちらかというと”1発を狙っている”感があり、自分が潰れるというよりは一か八かでも前に抜け出そうとします。
- それが不発に終わると山形がボールを回収して、コンサがやや崩れた局面から前方向にプレーすることができる。コンサは何度もこれが続くと身体的だけでなく心理的にも疲れてくるかもしれません。
- 75分に山形は中村→高江。84分にコンサは近藤→原。コンサはクローザーとして大﨑あたりを入れてもいいんじゃないかと思いましたが、それまでが順調というか近藤の頑張り、中村桐耶もまぁ頑張ってはいたのであえて動かなかったのでしょう。
- ATにようやく荒野・青木→大﨑・木戸で5バックに変更。終盤の坂本のカットインからのシュートはJ1だったら枠に飛ばしてきたかもしれません。このほか國分のボレーは、ACLで川崎の伊藤達哉が決めた美しいゴールに似ていましたがクロスバー直撃で救われました。
雑感
- 冒頭に書いたようにコンサは前線守備が岩政体制では過去一で整理され、この点では今後に大いに期待が持てるところです。
- 一方でその他の感想・要素としては、一つは毎年恒例の連休の過密日程で、山形の方がターンオーバーしてコンディションは良さそうな気がしましたが、両チームともDFはスタメンの選手に頼っているところがあり、山形としては安部のミスから痛恨の失点でしたがそうした疲労の影響はあったのかもしれません。
- またこれも冒頭に書きましたが、試合運びも両チームともかなりゆったりとしていて、前に出て奪うというよりはDFには一定は持たせてパスコースを消して…という対応でした。コンサの方がこれはうまくできていたと思いますが、そもそもこうした展開になってコンサのDFに(これまでの試合よりも)ボールを持った時に負荷がかからなかったことはかなり助かる展開でした。
- もう一つは、双方を見ていて13節ということで情報がかなり蓄積されてきた感があります。これからより相手の良さを消すような戦い方が増えてくると思いますが、コンサの方もそうした点を含めて仕上がりのスピードを上げていく必要があるでしょう。
- 選手に関しては、高嶺が左ではCBでもSBでも中盤でも一番手ということで、払ったお金(いくらか知らんけど)はコンサにしてはかなりいいお金の使い方だったという感想です。藤枝、大宮といったチーム相手でも感じていましたが、”特定のところに誘導すればボールを奪える”という状況はやはりかなりの武器になりますし、ちょっと中村桐耶に関してはDFとしてはもう…なのでしょうか。とても悲しいですが。
- またジョルディほどではないけど、近藤もボールを持った時は”1発を狙っている感”が強く、近藤は相手の脅威となれる足の速さがあるのは確かですが、大外での仕事はかなり髙尾が担う部分が大きかった印象です。立ち上がり早々に髙尾の右クロスからゴニの惜しいヘッドがありましたが、それ以外にも近藤が絞って髙尾の滑走路を作って、髙尾が長い距離を走って…という場面を見ていると、さすがにそれは近藤の仕事じゃないかな…と思うところはありました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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