1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 外国籍選手のオセフン、デュークも含め、今や国際Aマッチデーウィークの影響を最も受けるクラブになった町田。9月1週の日本代表招集にもGK谷、DF中山と望月ヘンリーを送り出し、この1年で「クラブステータス」(by四方田監督)が爆上げされた印象です。
- リーグ戦では直近5試合で2勝2分1敗と、7連勝で勝ち点が並んだ広島に比べるとペースは劣りますが依然として首位を維持。こちらも持ち直しているとはいえ降格圏のコンサは軽く叩いて、次節のアウェイでの広島との直接対決をいかに戦うか、少なからず意識はしているかもしれません。
- 気づけばここ1年で獲得した選手が各ポジションにほぼ2人控えるスカッドですが、メンバーは右SBに望月、CBに昌子と夏加入の中山、左SBも夏加入の杉岡。中盤から前も相馬と白崎の加入がありましたが、平河が去ったワイドは相馬よりも藤本とエリキ、ナサンホの起用が増えており、前線のオセフンと藤尾の好調が全体にポジティブに波及していると言えそうです。
- 前節は中山と昌子が負傷交代しましたが、歯を折ったという昌子はこの試合に間に合わせてきました。前線では中島がカップ戦に続いてスタメン起用されているのは、ややパフォーマンスを落とし気味の藤尾に刺激を与える狙いもあるでしょうか。
- 前節ヴェルディに力の差を見せつけられたコンサ。最終盤に湘南と柏との直接対決になりそうなゲームを控えますが、ここから町田、京都、ガンバ、名古屋と続く正念場。前節はジョルディとバカヨコをお供に添えて岡村FWでのパワープレーという仰天采配を見せましたが今節はどうなるでしょうか。
- メンバーは、前節負傷の髙尾の右DFに馬場を回して、大﨑と荒野が出場停止の中央には宮澤。最終ラインは町田のサイズを警戒してか、中村桐耶をリーグ戦5試合ぶりにスタメン起用。ベンチには深井が入りましたが、この日のベンチでは唯一の、純粋な後ろの選手ということでいきなり重要な役割を担いそうです。
- システムは、ボールを持っていない時は青木が左ワイドの1-4-4-2。これについては試合展開の項で詳しく見ていきます。
2.試合展開
徹底して左サイドからスタートする町田:
- 町田はボールを保持すると、ほぼ全ての機会で前線の選手に長いフィードを選択します。
- コンサとしては町田のこうしたスタンスはわかりきっていたはずですが、5分に藤本が胸でのコントロールから馬場と入れ替わってドリブル→左クロスが中島にわずかに合わず…というプレーを皮切りに、町田がコンサ陣内でプレーする機会が序盤は多く、町田のロングフィードやロングスローを使うやり方はまずまず効いていた印象でした。
- ↑で言及したプレーでは藤本がターゲットというか受け手でしたが、町田はほぼ全てのプレーで左FWのオセフンを受け手とすることを徹底しており、彼が左サイドのタッチライン付近にまで流れるところから全てが始まります。
- 徹底したロングフィード戦法は、右サイドにいるナサンホというタレントを無視する、もしくは、ピッチを上下動する仕事が大半である労働者と化する状況でしたが、オセフン及び彼へのロングフィードはそれだけの価値があります。単にフィードを競ってマイボールにするだけではなく、マークしているDFを引きずったり、入れ変わって縦突破を仕掛けフィニッシュに持ち込むことができるので、町田の攻撃は大半が左サイド(コンサの右)の突破を試みるものでした。
崩そうとする気持ちはわかるが、先に崩れている:
- 町田に対し、コンサはいつも通りマンツーマンで、オセフンには岡村、中島には中村桐耶、ナサンホにはパクミンギュ、藤本には馬場…とマーク関係自体ははっきりしています。
- しかしオセフンを担当する岡村の奮闘がありながら、町田のロングフィード連打で前半押し込まれる展開となったのは、町田のパフォーマンスというよりコンサの側に要因があったと感じます。
- コンサがボールを持っている時は↓の配置になります。この試合は、宮澤が岡村の隣に下がってくることは稀で後方は常に3枚。ボール保持の形は珍しくオーソドックスな1-3-1-4-2というか、WBも極端に高い位置を取ることはなくいつもと異なる形でした。
- 図示したようにコンサは左SBのパクミンギュがコンサボールになると左サイドで長い距離を走ってWB化し、右SBの馬場は最終ラインに残る、変則的というか左右非対称の形でした。
- これは札幌ドームでの4節と全く同じ↓で、この時はパクミンギュの位置に菅、近藤のところに田中宏武が起用されましたが、この試合では、左サイドに菅が移動するのに時間がかかるので、右サイドで最初から高い位置にポジショニングしやすい田中宏武にボールがよく集まるという現象が生じていました。
2024年3月16日(土)明治安田J1リーグ第4節 北海道コンサドーレ札幌vsFC町田ゼルビア 〜選んでいただく立場〜https://t.co/Z1NNUrbvz7
— AB (@british_yakan) March 16, 2024
- おそらくこの日の変則的なシステムも札幌ドームでの対戦時のものをオマージュというか改良したものでしょう(別に、そこまであのやり方がうまくいっていたわけではないですが…)。
- この試合は、右の近藤がそこまで仕掛けられたわけではない(むしろ前回の宏武の方が仕掛けの回数は多かったのでは?)ですが、基本的にはコンサはパクミンギュが移動してくるまで時間がかかる左サイドよりも、右サイドをより見ていたと思います。
- コンサが右サイドから展開することを念頭において考えます。近藤に渡った時には杉岡が出てきて、可能なら藤本と挟んでの対応を試みます。鳥栖や磐田のように近藤を無警戒でイージーなゲームになることはさすがにありません。
- このシチュエーションで馬場が頻繁に高い位置をとるのですが、そうするとコンサは最終ラインに2枚しか残らないことになる。特に馬場の背後は、先述の、オセフンが毎回決まって流れてくる場所であり、馬場が持ち場を離れるならそれなりのリターンが欲しいところですが、この試合はそれなりどころかほぼ何もなかったと言って良いでしょう。
- この状況でボールを持っているコンサが有効なプレーができず町田ボールになると、恒例の左サイドへのフィードからの攻撃が始まりますが、「ボールを持って町田陣内でプレー」から「自陣に戻って(マンツーマンで対応しつつ)町田の放り込んでくる攻撃を跳ね返す」に状況がトランジションされます。
- この際に問題となるのが、コンサは高い位置をとっている左SBのパクミンギュが、町田の速い攻撃に間に合うよう戻りきるのは物理的に無理であるのと、馬場だけでなく青木や宮澤、駒井が(相手を崩そうとして)ポジションを動かすというか、人によっては流動的に動くとかアイディアを発揮するとか言うのかもしれませんけど、ともかく自由に動きすぎるとこれらの選手も、トランジションが発生した際に担当する選手をマークすることが困難になります。
- ですのでこうしたトランジションからの展開において、コンサはマークズレや受け渡しが生じやすい構造になっていて、まず全力で戻ってゴール前から人を捕まえられているかを確認する負荷が生じますし、ゴール前に入ってくる町田の選手にはなんとか枚数確保しても、そこから遅れて入ってくる2列目の選手にはどうしてもルーズになったり、町田の選手が先にボールに触れる傾向がありました(本来そこを見る宮澤や駒井も動きすぎていたり、彼らがパクミンギュやズレている選手のカバーリング、受け渡しをしているので)。
- また先に宮澤etcがパクミンギュのカバーに入って、後からパクミンギュが合流してくるのですが、人が足りた後も先にDFとして下がって対応していた宮澤etcはポジションを上げて対応することが難しく、結果的にコンサは自陣ゴール前に人が多くなって、町田がセカンドボールを拾いやすい構図になっていたと思います。
得られたわずかなリターン:
- こうしてコンサがボール保持の際に普段と形を変え、主にトランジションの際にそのツケというかマイナス面が現れていたということですが、何らかリターンは得られたでしょうか。結論としては、前半に1度か2度あったチャンスがリターンに該当するでしょう。
- 前半コンサが町田ゴールを脅かしたのは、25分の青木のミドルシュートと28分の近藤の縦突破のみ。近藤の突破に関しては、↓のように馬場の縦パス→宮澤のワンタッチでのスルーパスという場面。ここは1-3-1-4-2のシステムを採用したことによる配置的なミスマッチをうまく使えた場面でした(この試合ほぼ唯一でした)。
- 町田の2トップに対してコンサが3バックなら2トップを回避して運びやすくアンカー(宮澤)もフリーになりやすい。馬場に藤本が出てきて、馬場・近藤と藤本・杉岡で2v2の同数関係を作り、宮澤がこの時は白崎を背負っていましたが、うまくワンタッチで杉岡が近藤に食いついた背後にパスを通しました。この際、コンサは2トップ(武蔵とこの時は駒井)が町田のCB、ドレシェヴィッチと昌子を中央でピン留め(固定)しているので、近藤へのカバーに動けずGK谷が出るしかない状況でした。
- しかし繰り返しますが、こうした狙いを出せたのはこの試合ほぼ唯一でした。町田はコンサの1-3-1-4-2の配置をおそらく無警戒で、前半20分くらいからはコンサのボール保持の際にフリーズしてしまうというかどう対応すべきか明らかに迷っていたのですが、単に人の配置だけでうまくプレーできるほど甘くはありません。
- 町田の選手を引き付けてスペースやフリーの選手を作るということをコンサの選手が常にできていたわけではないので、多くの時間帯でコンサの選手がボールを持った時に、中央に町田のブロックを崩せていない状態でしたし、そこにとりあえず放り込んでみる(が、何も起こらない)みたいな選択も多く見られました。
町田のハイプレスでボールを失うコンサ:
- 後半から町田は中島→藤尾。コンサは同じメンバーでしたが、宮澤が51分に傷んで深井と交代します。
- エリキ、藤尾、相馬といった選手が町田のジョーカーであるのは容易に想像できるとして、起用法は相馬がサイドアタッカー(1v1で仕掛けて打開)。エリキはFWもサイドも両方考えられるとしてフィニッシャーでしょう。
- 藤尾はターゲット、フィニッシュ、前線守備と色々こなすことができる。中島を下げることは想定内だとすると、藤尾を右FWに入れてから右のナサンホを使うようになる(例えばポストプレーで右でキープしてナサンホに展開しやすくするとか)のか?と予想していましたが、藤尾と中島はそこまで役割が異なるようには見えませんでした。要するに町田は後半も左に流れるオセフンを使うところから始まっていたと思います。
- 後半の相違点としては、コンサのボール保持時に町田がマンツーマン気味にハイプレスを仕掛けてくるようになったことです(ロングボール攻撃で弱っていたのもあるかもしれませんが)。
- マンツーマンで来られるとコンサは普段以上にボールを運べない、武蔵へのロングボールは昌子とドレシェヴィッチが跳ね返す、ということで、コンサが守勢に回るというか、簡単に跳ね返されるのであまり高い位置を取れないようになります。
- コンサはここでもいつもの後ろ4枚ではなく3枚で、菅野を右CBのように置いてから開始する形を徹底します。対する町田の対応は、藤尾がアンカーを見ながらGKにも追いかけていく役割。
- ですので藤尾がGK菅野を追いかけてきた時には深井がフリーになるので、そこに何らかボールを配球できればハイプレスを逆手にとってプレーできたかもしれませんが、コンサにはそこまでの練度やクオリティはなく前に蹴って逃げるだけになりがちで、町田のハイプレスは成功と呼べる局面が多かったでしょうか。
6バック籠城からの武蔵のカウンター:
- そして町田がボールを持っている時に、コンサは4バックがペナルティエリア幅くらいで、そこにSHの青木と近藤も下がってきて6バックの1-6-2-2のような陣形になることが多くなります。
- ここから青木や近藤が前線でプレーするには誰かがボールをキープしてくれる必要があるのですが、このメンバーだと武蔵しかいません。その武蔵は、どちらかというとキープよりも単独突破からの速攻で町田ゴールに迫ります。
- 62分にはコンサゴール前で町田の攻撃をやり過ごし、駒井が拾ってドリブルから武蔵へのスルーパス。切り返してボックスに入ったところで杉岡のファウルを誘ったかに見えましたがノーファウルの判定でした。
- この武蔵の1人で突っ込むドリブルでの持ち運びとキープは後半のコンサでほぼ唯一の突破口でしたが、あまりスピードがないスパチョークだとどうしても武蔵の単独突破になってしまいます。
- 私はスパチョーク→ジョルディで、武蔵のサポート役にもう1人走れる選手を前線に入れると面白いかと思っていましたが、ミシャの選択は77分に武蔵→ジョルディ、馬場→菅。
- 前線で体を張れてカウンターもできる武蔵は簡単に外せないのでギリギリまで引っ張って、武蔵と交代で最低限走れるジョルディを入れるという、この時点で守りに入るというかリスクヘッジを考えた交代策でした。
3億円対決:
- 本文での言及の順番が前後しますが、町田は67分にオセフン→デューク、藤本→相馬。前線のキーマンの2人を比較的早めにフレッシュな選手に入れ替えます。また藤尾とナサンホはどこかのタイミングで入れ替わって、ナサンホが前線に入るようになりますが、それでも町田は左サイドをメインで使うということは変わりませんでした。
- 推定3億円とされる金額で町田に加入した相馬。ただリーグ戦では今のところアウトサイドの絶対的存在ではないようで、藤本の方がフィットしているのはこの試合を見ていてよくわかりました。
- 相馬は右でも左でも1stチョイスが一瞬の速さを活かした縦突破ですが、縦突破でサイド深くまで侵入するとクロスボールの選択肢が限定されます。
- GKとDFの間に速いボールをラストパスとしたいならサイド深くに侵入する必要があるのですが、町田の場合は前線に空中戦に強い選手がいて、かつそれらのターゲットが毎回必ず早めにゴール前に入ってくれます。
- ですので相馬の得意な間合いから縦突破して時間がかかるよりも、ターゲットが準備ができたら(かつ、相手DFの準備が万全でないならbetter)早めのタイミングでクロスボールを入れる方がチームに合っているし、かつそのためにアウトサイドの選手は自分の間合いでプレーするよりは、常に顔を上げてゴール前の様子を見ながらプレーできる方が良さそうに思えます。
- 対する(推定3億円で3人くらいを補強したとされる)コンサ。馬場のところに近藤を入れるのではなく、菅をそのまま入れたのは驚きでした。
- 繰り返される町田の左サイドでの仕掛けに対し、最後のところで踏ん張っていたのは菅というよりも、この日キャリアハイではないかと思わせるパフォーマンスだった岡村の頑張りが大きかったでしょうか。
- 町田は82分にナサンホ→エリキ、87分に下田→仙頭。最後に望月を入れて右サイドで仕掛けるのか?と思っていましたが、前線にアタッカーを次々と入れたことで、最後のカードはそれらの選手を使えそうな仙頭になりました。
- ただこの試合最大のビッグチャンスは、81分に町田の右サイドから生じていて、GK谷のキャッチからのカウンターで林が前線に出ていきます(唯一の機会でした)。右サイドでナサンホのパスに白崎が抜け出して、フリーの林を見てマイナスクロスが渡りますがシュートは枠の上。町田の選手もそこは決めろよ!というリアクションでしたがミスに救われたコンサでした。
- コンサは87分に菅野が負傷してGKを交代。空中戦が多い町田に対して児玉はどうか…と思っていましたが、最低限の役割は果たしてくれたかなと思います。
- 9分と言いつつもっと長いATの最後には相馬の左CKから杉岡のヘッドがポストを直撃。ATはほぼ町田の攻撃機会でしたがコンサとしては耐え切った格好でした。
雑感
- 普段と配置を変えてきたコンサですが、配置だけで崩せるほど甘くはないのがサッカーであり、天空の城野津田、といったところでしょうか。本当に1回か2回だけそうしたミスマッチを使った攻撃がありましたが、初期配置から何をしたら効果的なのか、また相手はそれに対応できているか?といった相手との対話のような要素は1日2日で身につくものではないな…ということを改めて感じさせられました。
- あとは本当に雑感ですが、町田は左SBの杉岡(必ず左サイドでSHの外側を走りたがる)が藤本、相馬ともいまいち合わなかったことに助けれました。
- 相馬は縦突破が多いという話をしましたが、杉岡もほぼ毎回大外を回ってくるプレーしかしないので、たとえば藤本がサイドに張っていてスペースがない窮屈な状態でも杉岡はその窮屈、かつ藤本が視認しづらいところから攻撃参加しようとしますし、トップスピードで走ってきてそのままクロス、といった選択だとフィニッシュの精度が担保できなくなる。
- 町田の左・コンサの右は近藤の対応(後ろからくる選手を捕まえるのは怪しい時がある)もあって常にコンサは後手に回っていましたが、このあたりの合わなさに助けられた感はします。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
Jリーグ - J1 第31節 FC町田ゼルビア vs. 北海道コンサドーレ札幌 - 試合経過 - スポーツナビ https://t.co/bTIqgOt7zI
— AB (@british_yakan) September 22, 2024
【FC町田ゼルビア×北海道コンサドーレ札幌|ハイライト】2024明治安田J1リーグ第31節|2024シーズン|Jリーグ https://t.co/wvX2WCji0v @YouTubeより
— AB (@british_yakan) September 22, 2024
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