1.ゲームの戦略的論点とポイント
地理的な優位性?:
- 2014シーズンにJ3オリジナルメンバーとして参入し、2023シーズンよりJ2を戦う藤枝。ここまで降格を経験せず、昨シーズンでいうとJ2の13位にまでクラブステータスを高めてきたのはなかなか健闘している印象です。
- 2023シーズンの売上は約8億円と、秋田、金沢、群馬と共に10億円に満たなかったクラブの一つでしたが予算以上の成績をここ2シーズンは維持し、2025シーズンもここまで3勝3分け3敗で13位とまずまずのスタートでしょうか。
- クラブの内部事情はあまりよく知りませんが、地理的には藤枝もとい静岡県中部には多少の土地勘があります。住む分にはそんなに便利な地域ではないかもしれませんが、サッカー的には近隣に数クラブあるというのは、例えば移籍加入する選手が家族の住環境を変えずにプレーできるとか、練習試合を組みやすいとかでプラスに働き、予算以上にクラブの強化になる面が大きいのかもしれません。いろいろな地方自治体が企業誘致等で必ず「地理的な優位性」みたいな文言を入れるのはちょっと笑っちゃいますが、サッカーにおける藤枝は割とガチで優位なのか?と思うことがあります。
スターティングメンバー:
- 藤枝は須藤大輔監督体制ではほぼ一貫して3バック(5バック)の1-3-4-2-1。コンサからは23シーズン後半に田中宏武、24シーズン前半に中島が期限付き移籍で加入しましたがそれぞれ右ワイドとセンターFWで定位置を掴むには至っていません。尖った選手というかストロングポイントもウィークポイントも目立つ選手よりは、割とマルチな能力を持っている選手の方がより評価される印象はあります。
- 20年前にヴァンフォーレ甲府でプレーし、札幌ドームでクラブの命運を左右するゴールを決めたことで有名ですが監督としては予想以上にバランスの良いチームづくりをする、今後2〜3年くらいのキャリアが楽しみな監督でもあります。
- メンバーは、千葉がベンチスタートでシャドーに金子。他はいつものメンバー。
- コンサは前節退場処分を受けた馬場が出場停止(2試合)。加えて試合前にその馬場と岡田の負傷離脱がリリースされた状況で、青木を中盤センター、左にスパチョーク、前線に田中克幸。特にシャドーまたはルーズFW的なスパチョークと田中克幸の併用はかなり意外でしたが、そこをカバーするために青木の隣に西野を置いたのかもしれません。
- そして最終ラインは中村桐耶が期待を裏切る格好となった左CBに高嶺、左SBには復活が切望されるパクミンギュ。
2.試合展開
コンサの藤枝対策:
- 藤枝のボール保持はほぼ毎回同じ形から始まります。WBが最初から高い位置を取り、CBが左右いずれかにずれて非対称の形を作る。
- 左サイドは空いており、ここは杉田やシマブクが落ちてくることがありましたが、本来シマブクは相手の右SBやWBと対面で圧力を与えていく役割だと考えると、このように人が落ちてくる必要がない右サイドの方が前進しやすかったかもしれません。
- そこから藤枝としては、コンサの1列目を外して前を向いて、最終的には前線5人の誰かが背後に抜け出すような形を作りたかったと思います。
- 対するコンサは、この日もハイプレス気味に前線高い位置から当たっていくやり方を採用します。
- 克幸のコメントで「守備のやり方を整理した」みたいな言及がありましたが、具体的には藤枝の右の森にはスパチョークがマンツーマン気味に対応。森が右サイドに出てくる時は、スパチョークはそのままついていき自陣まで下がる対応を見せます。
- 左CBの中川には近藤が対応。藤枝の初期配置の関係性上、2人のDFをマークするバカヨコと近藤が並んで2トップのように見える局面もあります。
- 克幸は下がり目で藤枝のアンカー世瀬を意識したポジショニング。この世瀬のところというか中央のパスコースは、克幸のほかバカヨコと、西野よりはやや高めのポジショニングの青木の3人で見ており、藤枝のシャドーに当ててくる縦パスを警戒していたようでした。
- バカヨコは楠本が中央にいる時は必ず楠本から見て右側から寄せるようにしていて、右サイドに2人いる藤枝の配置を考えて誘導する意図はあったかもしれません。
- 藤枝は練習場で番記者に飴を配っていた監督ほどではないですが、ポジショニングからどうしても前後分断気味になるところがあり、コンサが中央に絞って、特に世瀬と杉田のところを警戒していれば、中央にそれ以上の選手が浮いてくることもそう多くはなく、前線に縦パスを当てることは用意ではなかったと思います。
- 35分に右ハーフスペースで金子が抜け出した(中央にマイナスに折り返すも合わず)とプレーがありましたがそれくらいで、なかなか藤枝はスペースを見つけることに苦労していた印象でした。
- そして藤枝のサイドの選手に渡ると
- そんなに極端じゃないにせよ、特定のマークにとらわれずボールサイドに寄せて圧縮というかスペースを消していく意識はこれまでよりは感じられました。特にワイドのスパチョークや近藤が反対サイドまで絞っていくのは整理してきた感じがします。
- 藤枝に対してはこのくらいでも割と十分というか、藤枝が前線の選手に渡る前にコンサの選手を剥がしてギャップを作ることができていたのは前半は稀で、そうなると前線でスペースに飛び出すディアマンカへの長めのパスなどが増えていくのですが、5分に藤枝のDF森がやや遠目からミドルシュート(青木に当たってCK)。ここからの連続した2本目のCKで藤枝のDF楠本がリバウンドを押し込んで先制。
- 見たところコンサはCK守備をゾーン気味に変えていて、ゴール前にバカヨコ、家泉、西野、髙尾、ニアに青木と並べ、その前にパクと克幸。高嶺と近藤が、藤枝でサイズのある楠本と森をそれぞれマークしていたようでした。
- 藤枝はシマブクの鋭く曲がり落ちるキックが、ニアで飛んだディアマンカを超えて金子に落ちる絶妙のボール。金子もブラインドになって合わせるのが難しかったと思いますが上手く合わせました。コンサはゴール前には大きくて跳ね返せそうな選手を4人並べていましたが、その前の克幸のところは明らかに手薄に見えました。
青木のガチャピンロール:
- コンサのスタメンは、高嶺のCB起用は左利きでボールを前に運べそうな選手を置きたいということでしょう。
- 加えて青木を中盤センターとしましたが、能力的には青木は前も真ん中もできるんじゃないか?というのはこれまでも試合途中で似たような起用があったり、WBでも1v1で対応したりスペースをカバーリングしたりと多彩な能力を見せていたのであまりネガティブなイメージはありません。
- ポジティブな部分というか監督の期待としては、コンサはここまで前にボールを運んだり何らか攻撃の形を作ることに苦労しているので、往年のガンバ大阪や日本代表の遠藤ヤットみたいな役割というか、前方向にパスコースを見つけるのが上手い選手にとにかく預けて、そこからボールを持った時にチームとして縦に行くのか、一旦整えるのかの判断を青木の選択によってチームに行き渡らせようとしていたのかと推察します。
- 岩政監督のお気に入りの?克幸もここまではそうした期待があったように思えますが、克幸よりも青木の方がリスキーな選択をせずボールを失うことが少ない、中央でフィルターにもなれるということで、チームづくりとしてこれでいいのかは知りませんが、人選としては適任かと思います。
- 青木がこの役割でくることは、藤枝としてはおそらく予想外だったのでしょうけど(もしかすると、前泊してホテルで「コンアシ」を見ていた可能性はありますが)、青木に対しては上手く対応していた印象でした。ピッチ上で青木がキープレイヤーだと理解して対応したというよりは、普段からゾーンディフェンスベースで中央の選手を消すという基本的なことをトレーニングしているのではないかと思います。
- 噛み合わせ的にはコンサのCBに対し、ハイプレスの際は金子とディアマンカが際は対応し、浅倉は右に出てパクミンギュを見ているのですが、浅倉は同時に青木も見る、もしくは中央方向のパスコースを切るようになっていて、パクミンギュをあまり深追いするよりは背後で青木がどう動いているかを注意深く見ていた印象です。
- 全体的にあまり藤枝は人に食い付かずスペースを消していたこともあり、青木が中央〜やや左で動いてもなかなか周囲にスペースがある状態で縦パスを待つことができず、結果、コンサはボールを持たせたくないであろう家泉がボールを持つ時間が増える展開になり、これまでの試合同様に前進に苦労していたと思います。
高嶺のCB起用:
- 30分に克幸のFKでコンサが追いつきます。
#田中克幸 の見事なフリーキック👏
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) April 20, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第10節
🆚 札幌vs藤枝
🔢 1-1
⌚️ 30分
⚽️ 田中 克幸(札幌)#Jリーグ pic.twitter.com/7KlVcxK7O0
- 克幸なら十分いける位置でしたし、壁の配置もその期待感を煽るものでした。藤枝としてはGKから見て壁の一番右のシマブクを飛ばせないで、そっちに飛んだらGKが処理する設計だったと思いますが、十分届いていた北村が弾き出せないミスもありコンサとしてはラッキーでした。
- このセットプレーに至るまでの前半の20分過ぎ以降くらいは、コンサは相変わらずボール保持からの前進に苦労していましたが、高嶺の左足で近藤の前、シマブクの背後を狙ったフィードで何度か敵陣侵入、CKやスローインを獲得します。これにより藤枝を自陣ゴール前でプレーさせる状態が徐々に増え、それは藤枝にとって一定の圧力になっていたのは、近藤がゴール前でFKを獲得したプレーにも表れていたと思います。
- 藤枝はWBが高い位置を取って前ではめたい意識が強いが故か、サイドへのフィードに対しサイドのCB(中川)が出ていくことも少なくなく、かつその際にハーフスペース付近のスペースを消すためのプレスバックもそこまで迅速ではなかったと思います。
- コンサはこの試合、前線にスパチョークや田中克幸といったこのスペースでプレーしたい選手を並べており、今のコンサだとスペーシングに課題があったりで彼らの得意とするプレーができるか微妙かなと思っていましたが、2人ともこのパターン(ロングフィードで裏をとってから走り込む)で割とゴール前に顔を出すこと自体はできていたと思います。
- またこの2人を並べるとポケットや背後に抜け出す選手が前線で足りなくなるのも懸念点ですが、同点となったフリーキックの場面は近藤のそうしたプレーからでした。
- 個人的には近藤の、中央でのプレーにはあまり魅力を感じないというか、あまり流動的にするよりも得意なエリアにもう少し配置することを考えた方が良いのでは?と思っていますが、前線で動き出しが少なくなると近藤が中央にいる意味合いは幾分かは増してくるかもしれません。
ダイレクトな展開で五分五分だったが:
- 後半頭から藤枝は世瀬→梶川。
- 特に後半立ち上がりの構図はそこまで前半と変わらなかったかと思います。前に蹴って拾う展開から藤枝は金子がミドルシュートも枠外。
- コンサも似たように前に蹴る展開から敵陣に入り、克幸のインターセプトからCKを得て52分にバカヨコが勝ち越しのヘッド。直前にゴニとの交代を準備していたようですが1プレー待ったことが吉と出ました。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) April 20, 2025
🏆 明治安田J2リーグ 第10節
🆚 札幌vs藤枝
🔢 2-1
⌚️ 54分
⚽️ アマドゥ バカヨコ(札幌)#Jリーグ pic.twitter.com/IWSA3zWh6g
- 59分に藤枝は浅倉→千葉、杉田→松下で中央の選手を計3人入れ替えることになります。
- 試合展開は以前としてダイレクトな状況が続きます。60分にはコンサの右からのスローインを受けた青木に千葉が寄せて梶川が拾ってカウンター。金子が運んで、シマブクの鋭い左クロスはディアマンカの目の前で高嶺がクリアでCKに。65分にも青木のところに金子が寄せてカウンターになりかけますが千葉のコントロールミスでコンサは難を逃れます。
- 互いに放り込む展開になって、ポジショニングや配置があまり決まっていないコンサの方がやや崩れた状況になることが増えていきます。
- 67分にコンサはバカヨコ・克幸→白井・荒野で前線2人を交代。
- 75分に藤枝は金子・森→閑田・中川。中川はここまでで既にATに2得点しているとのことで、そのイメージもあったのかもしれません。
- 82分にコンサはパクミンギュ・近藤・スパチョーク→深井・ゴニ・長谷川。80分にパクがディアマンカに蹴り飛ばされる格好で痛んだため、西野をDFに移動させます。また青木が前、荒野が後ろの位置関係に変わります。
- その後コンサは西野が足を攣ったため前線に移動させ、深井がCB、青木を再び中央に移しますが、実質マイナス1人ということもあって前に出ていくエネルギーが不足しますが、ディアマンカへの放り込みに対処して何とか逃げ切りました。
雑感
- 岩政監督的には「4バックの方が合っている選手が多い」。個人的には右SBが髙尾しかいない編成でそれを言われてもふ〜んと思ってしまいましたが、ともかく懸案の左CBに高嶺、中央に青木といった緊急措置的な対応で勝ち点3を拾うことができました。主力選手とは具体的に誰を指すのかどこかのメディアで深掘ってほしいところです。
https://www.jleague.jp/match/j2/2025/042011/live/#coach
- 試合については、まず藤枝が青木をうまく消していた印象です。ぶんちゃんはバカヨコへのアシストを挙げていますが、これはセットプレーであり中盤センターでの起用と関係ない話なので…。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1150664/
- 試合を通じて、青木が前方向にパスが成功した場面はほとんどなかったですし、青木が消されたことでボールを持つこととなった家泉がうまく前方向に運べたということもない。ただ記事に書いたように、高嶺のフィードは耐える時間帯のチームを助けていたと思います。
- その後はダイレクトで半オープンな展開になって、決まった形で守って前3人を中心に速攻に出ていく藤枝の方が特に後半、脅威となるプレーをしていた印象でした。
- ただ藤枝は最後のところで、シュートがアーリークロスからか又はミドルシュートが多く、ゴール前で崩すところまで到達していたかというとそうでもなかったと思います。
- そして高嶺をCBで使ってこのまま波に乗れるか?というのも不透明です。
- そもそも左SBが安定しないと彼をCBに回すこともできないので、まず左SBのパクミンギュの復活が欠かせない。もしかすると速い選手が得意なのもしれませんが、この日は川上には自信を持っていたように見えました。が、試合後の報道では負傷離脱が濃厚となっており、SBかCBで中村桐耶を使うか、どちらかに代わりとなる選手をまた見つけるか。
- 一旦躓くまではこの試合の組み合わせで継続するのも悪くはないかと思いましたが、負傷者によりそれも叶わぬ状況となってしまいました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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