2025年4月13日日曜日

2025年4月12日(土) 明治安田J2リーグ第9節 水戸ホーリーホックvs北海道コンサドーレ札幌 〜届かぬ足先が指す黄信号〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

結局GMって何すんの?:

  • コンサで現役を引退した西村卓朗氏が2016年から強化部長、2019年からGMを務める水戸。コンサの三上元GM(現サポーター)を見ていると、そもそもGMって何をする役割なのか?がよく見えなかったので、個人的には今回のGM退任劇には一定の理解があるのですが、水戸では西村氏がフットボールに関する戦略全般をグリップしているようで、これだけ明快に語ってくれるとGMってこういう役割なのね、と理解できます。

  • ↑上記の動画でも激戦の関東に立地する小規模クラブにとって、選手の発掘と育成がキーということで、戦略的でもあるしある意味では逆張り的な動きで差別化するとも考えられるかもしれません。例えば近年は他クラブが大学生に即戦力を求めるようになりましたが、以前はどちらかというと有望な選手を高卒時点で囲っていた際に、水戸は大学生に目をつけ塩谷や(在学中でしたが)パク・チュホのようなインターナショナルに活躍する選手の輩出に成功しています。
  • その後今のように国内の上位クラブがポストユースでの育成に消極的になると水戸のポジションはそちらに必然と移り、高卒選手を直接リクルートするのもあれば、コンサで言えば中島だったり、現在岡山で活躍する鈴木喜丈のような高卒3〜4年目くらいの選手に対してもかなり戦略的に動いているな、との印象を受けます。
  • 恒例の23シーズンの営業収入は約12億円。コンサの1/3〜1/4といったところですが過去最高額を更新しているとのこと。10億円を割るとリーグ最低水準で、そこよりは少し上のラインといったところでしょうか。
https://www.mito-hollyhock.net/news/p=35441/
https://aboutj.jleague.jp/corporate/assets/pdf/club_info/j_kessan-2023.pdf
  • となるとやはり行政の費用負担を念頭においた専用スタジアム建設に期待したいところですが経過は思わしくないようでかなりの長期戦となりそうな雰囲気です。ある意味では、ホームスタジアムの確保についてあまり計画的ではないまま参入したということで、Jリーグの発足から拡張期における象徴的なクラブなのかもしれません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E6%88%B8%E5%B8%82%E7%AB%8B%E7%AB%B6%E6%8A%80%E5%A0%B4

スターティングメンバー:


  • 水戸のシステムは1-4-4-2またはワイドの役割やプレースタイルを考えると1-4-2-2-2。GKは松原に代わり3試合連続で西川。CBは東京国際大学から新卒加入の板倉がここまでは最多出場で、鷹啄トラビスはJリーグ初先発という水戸らしい若いユニット。中央は大崎がキャンプ中の負傷から復帰し初スタメン。両ワイドは津久井が左でスタート。
  • コンサは高嶺が前節に続いて左SBの1-4-4-2。スタメン発表では1-3-4-2-1のような並びになっていて偽装っぽくはありました。前節は木戸がスタートで後半から田中克幸でしたが、この日は克幸をスタメン起用。また最終ラインは家泉がベンチスタートで、中村桐耶と西野が初めてユニットを組みます(追記:家泉が体調不良で直前に中村のスタメン起用になったとのこと)。


2.試合展開

3バックとか4バックとか以前の…:

  • 先週水戸の印象は?と聞かれましたが、何試合か見た感じだとまずケーズスタのピッチコンディションが一番気になるな、という印象でした。

  • 当該地域の気候には詳しくないのですが毎試合風の影響がある印象で、また芝もあまり整備されている感がないため、このスタジアムはロングボールが多くなるのでしょう(MLBのパークファクターみたいな指標をどっかの大学の研究室で作れないでしょうか)。
  • 一応、コンサが4バックかなと思って水戸と4バックのチームとの試合も見たのですが(↓プロのアナリストの方もやっぱり似たようなアプローチをするんだなと思いました)、正直なところケーズスタだとあまり水戸の相手が3バックとか4バックとかは参考にならないなと思ってしまいました。システム以前に気候の方がよほど影響力があるスタジアムです。


誤用が広まりつつあるが:

  • コンサは風上を選択してエンドを入れ替え先制パンチを浴びせたかったところですが、水戸が4分にスローインから奥田の逆風をものともしない強烈なシュートで先制します。

 

  • コンサのディフェンスについて地元記者などが「ミシャ時代のマンツーマンからゾーンディフェンスに切り替え…」と言及するたびに「いやこれゾーンディフェンスじゃないでしょ…」と心の中で突っ込むことを最近ようやくやめたのですが(なんというか「雰囲気」を「ふいんき」と言うのが誤用ではないと広まるように、ゾーンディフェンスの定義や何を指すのかも本来誤用のものが広まりつつあるように思えます)、この時のボールサイドでのコンサDFの対応はかなりゾーンディフェンスっぽく見えます。
  • すなわち突破を図る水戸の右MF山本に対し、中村桐耶が正面に立ち、田中克幸が内側から寄せる。そして奥田を見ていた高嶺が奥田を捨てて、中村桐耶を突破しようとしたところでそのコースに入るかどうか…ぐらいの対応に切り替えたのはマンツーマン…人を決めてゴール前でフリーの人を作らない対応というよりも、相手選手が侵入してくるところに2人、3人で囲い込んでボール周辺を手厚くする対応なので、岩政監督体制下でこれまで見せてきたプレーは全然ゾーンディフェンス的じゃないけどこの高嶺の対応が正しいなら確かにそういう原則がコンサにはあるのかもしれません。

  • ただ、そうしたゾーンディフェンスがベースのやり方であっても、一般にはゴール前は相手選手を捕まえるマンツーマン気味の対応が優先かと思いますし、高嶺の体の向きだと奥田を完全に捨てて見れなくなっている。まずこの点が気になったのと、高嶺はボールに行くなら行くでもっと寄せ切るべきだったのが中途半端になってしまった感はあります。

水戸が誇るドリブラーに水を与えるコンサの対応:

  • そして先制点の場面でいきなり水戸の山本の見事なドリブル突破が炸裂したわけですが、試合全体を通じてコンサは水戸のこうした特徴をわかっていない…わけではないと思いますが、山本と津久井という相手のストロングポイントを自由にさせすぎな印象を受けました。
  • それはそれで一つの戦略や戦術だとしても、やっぱり負けてしまったこともあって、こうしたところで依然としてJ2なめてる感というか、私がちょろっと事前に3試合くらい見て「あ〜相手のストロングポイントはこれやな〜」と思った展開でやられるケースがちょっと多いな、と思わざるをえません。

  • 水戸はボール保持の際に、左右どちらかのSBがずれて3バック気味になる陣形からスタートする形を持っていますが、より重要なのは水戸は左右のMF、津久井と山本にとにかくなんでもいいからボールが入って、彼らの(時に強引な)ドリブル突破からチャンスになるパターンが大半
  • 相手をドリブルで突破して抜き去るというプレーが全ての選手に標準的に備わっているならそれに越したことはないですが、一般には限られた選手に備わっている能力であり、その能力を活かすためのに、ピッチ上どこでもドリブルというよりは、例えばサイドの高い位置にドリブラーを置いて前を向いてDFとの1v1を仕掛けやすい形をある程度決めておくことが多いかなと思います。
  • 水戸の場合はここがユニークで、ドリブラーの選手にボールをクリーンに届けるというよりは、時には雑に蹴って競り合って拾ったりして、なんでもいいから、ピッチ上のどこでもいいから津久井や山本にとにかく渡す。ボールが渡ったら、彼らは割と自由が与えられていて、ボールを持っていない選手が彼らに合わせるようにプレーしているように感じます。
  • もしくは自由というか不定形に見えるのですけど、ポジショニングやプレーのベクトルとしては、彼らはサイドアタッカーというよりもより中央方向でスタートしてからゴールに向かっていくプレーが多めで、タッチライン付近を縦突破してクロスボール、よりは中央でのプレーを警戒しなくてはならないのは一目瞭然、といったところでした。

  • 一方でコンサは、水戸がボールを持った時にサイドハーフの青木と近藤がかなり早い段階で前に出て人を捕まえる対応を決めていたようですが、

  • この2人が最初から高い位置を取ったりあまり戻ってこない状態が続くと、↓のようにコンサの中盤センター2人、馬場と田中克幸の脇が常に開いた状態になって、これは単にスペースが空いた状態というだけではなく水戸のキーマン2人が仕事をするにあたって最も都合のよい状況になっていたと思います。
  • しかもコンサは全体的に守備が得意に見えない田中克幸をスタメンで起用している。ただでさえ克幸の周辺では慎重な対応が求められるのは1点目の対応を見てもおそらく事実なのでしょうし、あまりスピードがなく広い範囲をカバーしたりもできなさそうな選手に与える仕事としてはカバーする範囲が広すぎる。簡単にいうと岩政監督は「広く守る」を実践していますけど、広く守るには選手のフィジカル能力の欠如を感じるところです。

「広く守る」も届かぬ足先:

  • 前半立ち上がりから、特に風上を有効に使えたわけでもないコンサですが、23分に克幸のCKから水戸のGK西川のミスを誘って追いつきます。
  • しかし直後の25分に、水戸の前田に対する馬場のスライディングに対しレッドカードが提示され退場処分。
  • 前田が馬場の方向で視界確保していて直前に足を抜いていたので、コンサベンチは「前田にそんな強く当たってないじゃん!」という意図で(恒例となった?)一丸での猛抗議を見せますが、判定については足裏を見せての両足での危険なタックルに変わりはないので、痛がるかどうかは関係なくレッドカード相当でも仕方ないように思えます。むしろ前田がしっかり回避してくれてよかったでしょう。

  • そしてこのプレーも単純に馬場の判断ミスでもありますけど、「広く守りたいけど、広く守るためには選手のフィジカルが足りない」結果でもあるかもしれません。
  • 風上ということもあってシンプルに前にボールを蹴って、前に出て相手にプレッシャーをかけて、奪ったらすぐ前に走る…というダイレクトなプレーを心がけていたのはあると思いますが、それは近藤や白井のような選手には向いているとして、馬場や田中克幸のように足の速さやクイックネスがそこまでない選手にはあまりフィットしないスタイルかなと思います。
  • 馬場については「なんかこの人スライディング多いな…」と以前から感じていた方も少なくないかもしれませんが、アジリティやクイックネスといった俗にスピードという言葉で括られる要素が不足する時にスライディングで対処しようとする傾向があるので、繰り返しですが個人の判断ミスということを除くと、戦術的にあまり広く守らないとかダイレクトにしすぎないようなやり方にして、スピードがない選手に不得意なプレーを要求されるシチュエーションを減らすような準備があれば、こうしたプレーはある程度、回避できるのではないでしょうか。

前半のうちに勝負に出た理由は:

  • 1人少なくなったコンサは青木を中盤センター、白井を左サイドにする1-4-4-1。一旦様子を見て、岩政監督は33分にエキサイトするバカヨコをパクミンギュと交代。パクが左SBに入り高嶺が中央に入る1-4-4-1とします。

  • スコア1-1で残り60分以上を数的不利で戦うというのは、00年代くらいのサッカーだとまだどっちが勝つかわからんね〜という状況でしたが、現代サッカーでは「数的優位の状況下でどうプレーするか」は全世界に基礎知識として広まっているので、かなりコンサは難しい状況におかれます。
  • ですのでコンサはまず自陣に引いて水戸にボールを渡し、スペースを消して時間をやり過ごす…かと思いきや、そうではなく数的不利ながらも、それまでのように前に出て水戸に対してpressingを仕掛けるアグレッシブなスタイルを変えない選択でした。

  • やり方としては、水戸がボールを持った時に、1トップの白井がCBの間で横パスを制限して、中盤センターの克幸か高嶺がボールを持っているCBに対して出ていく。
  • ↓のように右で克幸が出る場合は、克幸と白井、近藤で制限をかけながらパスコースを切る。これもこれまで岩政監督下で見てきた中では割とゾーンディフェンスっぽい対応ではありました。
  • ただ水戸としてはここで無理に狭いところを通さなくても前線への放り込み等で回避できますし、SBに対してはコンサはせいぜい1v1対応、近藤や青木が中央のCBもSBも見なくてはならないので水戸のSBにはあまり圧力がかからない構造ではありました。
  • 加えて、40分前後くらいからはコンサは青木が左サイドの大外に下がって5バックのような対応が増えます。1-4-4-1でセットして中央の高嶺や克幸が出て、他の選手は中央に絞って…だと必然とワイドは捨て気味ですが、完全に捨てられるほどの圧力がコンサの前線にはないので水戸が何らかワイドのスペース、特に右の飯田のところにボールが渡ると、青木も放置できないので撤退しての対応を余儀なくされます。

  • という感じでリスクを冒してでも勝負に出る意図は見えたコンサですが、45+3分に水戸が縦パス1本で背後をとって渡邉のゴールで勝ち越し。
  • パクミンギュと中村がバラバラに見えますが、パクはスペースで足元で受けようとボールを要求していた山本へのインターセプトを意識していたようです。ただコンサの中央のスカスカ具合を見ると、仮に山本にパスが入ってもどっちみち無理なように思えます。
  • 中村桐耶は最後、風の影響もあってクリアできませんでしたが、まず状況的にマーク対象が渡邉しかいないので、身体の向きが渡邉を意識しておくべきだったのと、そのために視界確保して状況をよく見ておくのは少し足りなかったかもしれません。

  • 前半のうちに勝負に出た理由は、やはり風上で、後半この風が逆向きになるとかなり難しくなる、という判断だったのかと思います。

風を気にしすぎ?:

  • 一方で確かに風も重要ではありますが、数的不利でただでさえ1人当たりの走行距離というかカバーしなくてはならないスペースが広くなる、というのも、もう少し考えても良かったように思えます。
  • 特に数的不利だと少数の選手でのカウンターや速攻がより重要になるので、走れる選手の起用法がポイントになるはずでした。その点では、前半のうちにコンサは近藤や白井を消耗させてしまったかもしれません。

  • 後半開始からコンサは中村桐耶→長谷川、田中克幸→木戸。長谷川を右、高嶺をDF左とする1-3-4-2。


  • 考え方としては、水戸に対して↓のように前線は同数関係でpressingができる。DFが晒されたら根性でスライドとプレスバック、というところでしょう。

  • コンサがボールを持っている時は3バックとワイドがミスマッチになりやすく、そこからボールを運んで…という方向性は見える選手交代とシステム変更ではありました。

  • しかしマンツーマンで前線から人を捕まえるには一定の走力と、それぞれがサボらないというか連動することが求められます。
  • かつ1人少ない中で、剥がされたら後方で数的不利の状況から始まることに対する覚悟なのか勇気みたいなのも必要な中で、コンサはリスク覚悟で前からはめていくような振る舞いにはなりませんでした。気持ち的な問題、戦術的な問題、体力的な問題、技術的な問題と色々とあるでしょう。
  • おそらく体力的な問題を解決しようとして、コンサは59分に近藤・白井→中島・スパチョーク。
  • ただ前線で中島はともかく、スパチョークが水戸の左CBのトラビスを捕まえる部分がいまいちなのもあって数的不利のコンサの対応はかなり曖昧になります。そうした中で66分に齋藤のドリブルから3点目が生まれますが、こうなると前から頑張ってはめるというコンセプトも決壊しているので対処できることがかなり限られていたと思います。

雑感

  • 改めて整理すると、
  1. ピッチコンディションもあってクリーンにビルドアップというよりは放り込みや雑な展開になりがち
  2. フィジカル的な能力が問われる他、いつ走るかが重要
  3. 相手には前を向いた時に脅威になるドリブラーがいる
  4. コンサは近藤や白井以外はそこまで走力がある選手はいない、むしろ中盤には不足
  • ということで、アウェイで水戸相手にハイプレスというか広く守るスタイルをやる必要性は薄かったと思いますし、またここまでコンサは3勝していますが別にハイプレスで勝ち点を拾ったわけではない。
  • それでもやるのだから、岩政監督の中で「圧倒するサッカー」ということで相手からボールを取り上げることは重要なのでしょう。ただ相手がボールを捨ててくるなら別にハイプレスしなくても勝手に蹴ってくれるので、1試合の戦略としてはあまりいい選択ではなかったように思えます。

  • となると何かを決断するとしたら、「圧倒するサッカー」の構成要素としてそれなりに大きそうな要素であるハイプレスがうまくいくかどうか、の見極めでしょうか。今後、どれだけ日程消化しても今のように効果的なpressingができないとするなら、何かに見切りをつける理由にはなると思います。
  • もっとも、そうしたテクニカルな基準を見極めるべきは一般にGMとかTDとかなのでしょうけど、現状コンサはそのポストが空席なのですが…。

  • 選手に関してはパクミンギュの不調は大誤算でしょう。大﨑とともに前のシーズン後半戦での巻き返しの立役者が、ここまでフィットせず4バック採用でもベンチスタートとなることは誰が想像したでしょうか。この日のパフォーマンスを見た感じだと、監督の好みの問題以上の何かがありそうです。単にシンプルにマンツーマンで守って、というサッカーに極めて親和性が高かったのかもしれませんが。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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