2022年4月13日(水)JリーグYBCルヴァンカップ グループステージ第3節 京都サンガF.C.vs北海道コンサドーレ札幌 〜うまい話はない〜
1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
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スターティングメンバー&試合結果 |
- 曹貴裁監督が新型コロナウィルスの陽性判定で、杉山コーチが代理監督を務める京都は、中盤センターの福岡と金子以外は、リーグ戦でここ最近出場機会がないメンバーが中心のようです。
- リーグ戦では1-4-2-1-3の布陣ですが、この日は前線には大前がトップ下。これは特に札幌対策という感じはしなくて、選手のやりくり上そうなったのだと思います。
- 札幌はまぁ順当にというか、リーグ戦で出場機会がないメンバーが主体。後述しますが西と荒野の役割は、西が常に真ん中で、荒野が最終ラインと中盤を行き来する役割でした。
2.試合展開
狭い京都と広い札幌の対峙:
- お互いのスタイルを端的にいうと、京都は狭くて速い攻撃を志向していて、札幌は速いのか遅いのかはよくわからないですが広く攻めることを(本来は)志向しています。
- リーグ戦での京都は、御年38歳のスーパーエース・ピーター ウタカを中心に据えたチームづくりをしていて、ウタカは中央で多彩な得点パターンを持っているけども、ディフェンスやネガティブトランジションに難があるため、ウタカの周辺に人を排するような、中央密集の陣形を作って、攻守の切り替えで後手に回らないような試合運びをしてると感じます。
- 1-4-2-1-3というと、「3」のウイングはタッチライン付近に開いてプレーするチームが多い。京都はウイングというよりシャドーを2枚置いていて、このシャドーがトップ(ウタカ)にボールが入ると後ろでサポートしたり、DFの背後に飛び出したりとトップと近い位置でプレーします。
- そしてこの中央で詰まってスペースがなくなると、後方からSBが攻撃参加して横幅を確保するとともに、中央に密集している数枚のターゲットを使ったクロスボールによる攻撃などを仕掛けてくる。
- イスマイラが先発したこの試合も、設計というかやり方はおそらくは一緒で、となると京都としては前線の3〜4枚が近い位置に立っている状態でプレーしたい。後方も陣形をコンパクトにして押し上げ、間延びすることを避けたかったと思います。
- これを踏まえて、この試合の平均的なマッチアップを確認します。
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マッチアップ |
- 京都とは対照的に、札幌は広く攻撃したい。ウイングバックがタッチライン目一杯に立って、そこに福森や金子から長いフィードを蹴って配球し、ドリブルでの仕掛けが始まるパターンはリーグ戦でのお約束です。
- となると札幌の得意とする攻撃を受け続ける展開になると、京都としては間伸びさせられた状態でプレーすることになるので好ましくない。
- 広く守って、攻撃するときは狭くプレーする、というやり方もありますが、攻守で陣形を変えるには、その間に時間を作る必要があって、それはボールポゼッションによってもたらされる。が、札幌はマンマークでプレスをしてくるので、京都はボールを持てない展開が予想されますし、実際そうだったと思います。
- 逆に、札幌も広く攻撃するのはいいとして、京都の狭くて速い攻撃をどう守るか?という課題があります。
- これが守備負担の小さい前線の選手は、攻守でそこまでポジションが変わることはないですが、例えば最終ラインのDF…両サイドの井川と中村は、ボールを持っているときは開いてプレーするけど、ボールを失ったらすぐに中央に絞らなくてはいけない。切り替わるとまた同じことする…これが何度も続きます。
- 試合の大半の時間やリソースをこうした”移動”に費やすことになると必然とプレーの量も質も低下します。だから「単にボールを前に蹴るだけじゃなくて、試合展開をコントロールすることが重要」で、そのために自分たちでボールを動かして、相手のプレーに制限をかけるシチュエーションを作ることが必要なのですが、札幌もそれはできない。
- こんな感じのチームが対峙すると、展開は予測が難しいものになります。
ドドちゃんから試合が動く:
- 「予測不可能」としましたが、先行したのは札幌。序盤は左シャドー/2トップの左を務める、ドドちゃんことドウグラスオリヴェイラがキーになって試合が動きます。
- 京都は攻守で陣形を変えずに1-4-2-1-3でセット。札幌のDFがボールを持つと、イスマイラの脇を固める田中や豊川がプレッシングを仕掛けるイメージだったのでしょうけど、札幌はGKがフィードに自信のある中野。岡村に持たせるよりはよほど計算できる中野はDFを飛ばしてフィードを狙います。
- この時、中野が左利きなのもあれば、荒野と岡村だと前者の方がボールを運べるとか、そういう背景もあってか、まずドドちゃんの左に、京都の中盤をすっ飛ばす形でボールが集まります。
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ドドちゃんでハメられないと京都は広く守る羽目に |
- このシチュエーションで、京都はボールサイドにスライドして人を捕まえて守るので、アピアタウィアとドドちゃんのマッチアップが頻発するのですが、アピは正面のボールを頭で弾き返すのは得意そうではあるものの、寄せ方だったり視野を変えられた時の対応にまだ難がありそうなんですよね。
- ドドちゃんがシャドーで機能するのはあまり見たことがないのですが、京都はドドちゃんに入ったところで潰せなくて、そこから札幌の攻撃が何度か繰り出されます。
- もっともドドちゃんがフリーだと、そこからスーパークオリティが発揮される、って話でもないのですが、京都はボールサイドに人が集まってくるので反対サイド、つまり、左SBの本多が絞った背後で、もっとクオリティのあるルーカスフェルナンデスがオープンになる。ドドちゃんに入ったところで潰せないと、札幌は荒野や西を経由してルーカスにサイドチェンジして、京都は広く守る羽目になります。
- そんな感じの構図が開始早々に見られ、ドドちゃんのシュートのリバウンドをルーカスが詰めて札幌が先制します。
- そして20分にはルーカスのCKに、京都のDF同士が接触してドフリーの岡村が合わせて2点目。ラッキーでしたが岡村はしっかりいいコースに飛ばして、GKウッドは対応不可能でした。
優雅なるミッドウィーク:
- しかし24分に京都が得意の、狭くて速い攻撃で1点を返します。
- この時は確かGKからFWイスマイラへのフィードから。イスマイラと岡村が競り、セカンドボールを京都の田中?が回収して右の豊川→オーバーラップするSB長井がクロス、クロスは札幌の中村が頭で跳ね返しますが、こぼれ球を福岡が強烈なシュートでGK中野をニアを破る、というもの。
- 札幌で気になったのは、イスマイラが落としたセカンドボールの処理で、札幌はアンカーの西がイスマイラと岡村の前のスペースを守っているのですが、セカンドボールを予測できていないし、拾った京都の選手に全然ついていけてなくて、自由に展開させてしまいました。
- 札幌は荒野が中盤で何度も京都の選手に襲いかかりますが、西が試合を通じてそうした仕事をしていたのはほとんど記憶になくて、スペースは守っているんだけどボールに全然アタックできてないのが気になりました。
- チームとしてスペースを守るスタイルならいいのですが、ミシャは個人で人を捕まえてボールにアタックするのが最低限の要求水準というか、高嶺や荒野が重用されているのもそうしたスタイルによるもので、西はチームのスタイルにこの点では合っていない。じゃあ中盤じゃなくて前線で使うか?というと、それならシャビエルでいいじゃん、となるので、ここまでリーグ戦で出番が少ないのも頷けるところではありました。
- そして28分に、負傷の影響で京都の田中→19歳の中野。この中野がトップ下に入って、イスマイラの近くでプレーするようになると、彼の鋭い動き出しを西が消すのは大変困難で、後半に、結果的には同点ゴールも中野によって生まれますが、札幌にとって悩ましい問題の一つになっていました。
5バックに変更:
- 後半から京都は大前→飯田、福岡→武田で2枚を変えます。後者は疲労考慮だとして、大前はリーグ戦でそんなに使われていないので戦術的交代でしょう。
- 京都は飯田が右SBで、長井が2列目左に移動します。そして最終ラインでは、メンデスと本多が位置を入れ替える。これでどうしたかったのかというと、札幌が横幅を作って攻撃してきた時に、長井が下がって5バックで守る。本多が5枚のDFの中央になるので、トゥチッチとのマッチアップはサイズ的にミスマッチになりますが、カバーリングや地上戦を考えるとメンデスやアピよりも信頼できるのでしょう。
- 長井が常に最終ラインにいるわけではないので、札幌の右サイドには依然としてスペースがあるのですが、攻撃が詰まるとそのスペースはいずれ消されるので、前半ほどルーカスも好きにやれなくなっていきます。
ハンドルも燃料もトラブル:
- カップ戦ということもあって両チーム66分のタイミングで計5人が交代します。京都は金子→より前目の選手である山田。そして右ウイングに豊川→マルティノス。中盤底を1枚にしてより前がかりにします。
- 札幌はトゥチッチ→中島、ルーカス→檀崎、青木→シャビエル。西も運動量を見ているときついかな?と思ったのですが交代はありませんでした。試合の「責任」はみんなにあるとしても、ピッチ中央に燃料不足であまり動けない選手がいると結構厳しい印象でした。
- 京都の2得点に関与したのはマルティノス。71分、独特のボールタッチから左足で持って、抜き切らない状態でのクロスを大外で中野が合わせます。
- 札幌の若い2人のDF…マルちゃんと対峙した中村は、マルちゃんは大半が左足だとわかっていたと思うので、そこの対応はもう少し頑張れた印象があります。
- そして大外を守っていた井川。直前に檀崎がサイドで対応していたり、京都の選手がポジションチェンジでマークがシャッフルされて混乱したと思いますが、最後マルちゃんのラストパスの段階ではボールウォッチャーになってしまいました。見た感じ、1回か2回は首を振って周囲を確認する時間はあったので、京都の中野がファーに流れる動きを察知するのは不可能ではなかったはずですし、首振りと体の向きによってクリアできたと思います。
3.雑感
- いつも通りオープンでした。その中で、荒野や岡村は余裕で対応できる強度があるのですが、やっぱりリーグ戦に出てない選手だとオープンな展開は強度不足できついな、と思いました。それでも何人か、特に若手選手は光るところを見せてもいたと思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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