2021年7月4日(日)明治安田生命J1リーグ第21節 北海道コンサドーレ札幌vs徳島ヴォルティス ~見えにくい差~
1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
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スターティングメンバー&試合結果 |
- リーグ戦ここ5節で2分け3敗の徳島は、2列目のバトッキオ、渡井、最終ラインの福岡といった選手の序列が上がっており試行錯誤が続きます。
- チーム最多得点(5点)の宮代は初のベンチスタート。厚別の風もありますし、札幌は後半に人を入れ替えて急激にペースややり方を変える傾向がある(≒それまでのやり方を”捨てる”ことに抵抗がない)チーム。5月にホームで逆転負けを喫したこともあってのメンバーセレクトでしょうか。
- 札幌はアンデルソン ロペスの移籍話が具体化してからの数試合は、荒野が前線で起用されてきましたが、故障から戻った小柏が初めてアンデルソン ロペスのポジション(左FW/3トップの頂点)でスタート。深井が前節負傷交代したため、荒野は中盤センターのバックアップとしての役割も兼ねます。
- 長身FWが抜けてからルーカス フェルナンデスの出場機会が増えるなどは相変わらずチグハグ感がありますが、こちらも前線は試行錯誤が続くと思われます。
ポヤトスだからではなくて:
- 未消化試合もいくつかありますが、リーグ戦ハーフシーズンが経過しました。毎年「中間まとめ」を書こうとして、めんどくせーからやめとこ、になるのが私の夏の恒例です。
- 札幌がどんなサッカーをするか、については2020シーズン終盤から予想通りというか、特にサプライズなくここまできている。札幌が毎試合同じことをする分、相手チームの振る舞いには目が行くようになります。
- シーズン序盤から言えるのは、Jリーグには、今の札幌や、往年の反町松本山雅のような、前方向に人への意識が強めの守備をしてくるチームに対し、その守備を剥がしながらボールを運べるチームが非常に少ない。殆どないといっていいでしょう。その理由はこの記事で考察しました。大体のチームは”事故”を嫌って前線にロングフィードを放り込むところからスタートします。
- ただし、札幌と反町山雅の違いは、前者はほぼ完全に同数で守備をするので、さっさと前線に放り込んで、札幌のDF(本来DFではない選手が務めていたり、そこまで対人に強くない選手が守っている)との勝負に持ち込むことのインセンティブはより高い。後者は後方の枚数は多めで数的同数にはならず、放り込み対策をしている。そして前線の1トップ2シャドーが狂ったように走るチームでした。
- 話を厚別に戻します。
- 徳島はリーグ戦9節までと、前倒し消化の18節が甲本ヘッドコーチの指揮下、でこの間4勝2分4敗で乗り切っている。勝った相手は横浜FC、清水、仙台とセレッソ。正式にポヤトス体制となったのは10節以降で、鹿島、柏、鳥栖、そして札幌に4連敗を喫するスタートで、この試合の前までは1勝2分7敗。このため、徐々にポヤトスへの風当たりは厳しくなっているようです。
- ただ、傍目から見ていると、甲本体制で勝ったチームはセレッソ以外は下位ですし、横浜FCや序盤戦絶不調の仙台には甲本体制でなくても勝てたのでは?という気もします。対して、柏、鳥栖、札幌は長いフィードを蹴ってパワー勝負に持ち込むタイプで、鹿島は試合運びはちょっと違いますけど対人能力の高さは常にリーグでも随一の存在にある。徳島は見たところこのタイプのチームが苦手なようで、こうした日程や組み合わせも考慮する余地があるでしょう。
- 昇格同期の福岡はセンターラインを積極補強することで、前半戦は上々のフィニッシュを果たしていますが、徳島が残留するには絶対に、こうしたフィジカルパワー系のチームから勝ち点を拾うことは不可欠です。
- 特に札幌に対しては、2か月前に鳴門での対戦で、先制しながらも後半開始から札幌のライオンハート・ジェイが登場すると一気に徳島ディフェンスは右往左往します。札幌はジェイをファーに張らせて滞空時間の長いボールを蹴るだけでしたが、新加入のカカ、ドゥシャン、そしてファーサイドをジエゴがカバーする徳島の最終ラインは札幌のパワーフットボール1発で試合のバランスをひっくり返されました。
- この試合は、個人的にはなんで今更ドゥシャンなんだ?と観ていましたが、後に同じパターンでパトリック擁するガンバ相手にもやられていることから、福岡(盟主ではなくて将太)だと、どうしてもサイズ不足が気になるのでしょう。
- 徳島としては、厚別の札幌にはアンデルソンロペス、ジェイはいないものの一応は微笑みの戦士・ドウグラスオリヴェイラがおり、加えて誰が起用されても選手交代も駆使ししてパワーで強引にねじ伏せようとしてくる。ディフェンスは5バックでスペースを埋めてくる。先行されると非常に苦しくなるのは見えている。
- ですのでこの試合は、とにかく先行されないように時計の針を進め、勝負どころで宮代を投入するなどして前回以上に慎重に試合を進めたいと考えていたはずです。
- 結果、手段としては垣田への積極的なロングフィードで札幌の同数守備を回避する鵜ところからスタート。札幌陣営(というか、私)としてはまたかよ、って感じですが、これはポヤトスでなくてもJ1の監督…いちおう今の日本で最高峰の戦術家たちが集う場だと思いますが、どの監督もそうしている。
- 日本のチームでマンマーク気味のプレッシングを剥がせるチームはないと証明されているので、「ポヤトスがトライしなくて残念です」と感想を述べるのは結構ですが、どうすれば勝ち点を持ち帰りやすいか?を考えた末の選択としては個人的には理解できます。
2.試合展開(前半)
力関係の把握:
- といっても、もうあまり書くことがないんですけども。お互いに長いフィードを蹴り合う展開で、まずは互いのFWとDFのマッチアップの力関係を観察するくらいしか仕事がないのが実情です。
- 徳島は、垣田は公称187cmとサイズは十分でパワフルな体つきにも見える。前を向いた走った時には、意外にもスピードがあるところも見せてくれますが、まずは宮澤に背中を向けての競り合いが仕事になります。
- 対する宮澤については、以前「DFじゃない」と書いたのですが、それでもゲームに出続けることで徐々に要求水準に近づいていくところは流石クラブ史上最多出場選手といったところ。この2人のマッチアップは五分五分に近い水準だったでしょう。
- 均衡状態から、徳島のGK上福元が蹴ったフィードのうち、そこそこのボールは垣田のすぐ下や周辺に落ちます。徳島は2列目に右からバトッキオ、渡井、杉森。この中だと杉森が一番スピードがあって、高い位置取りをする札幌DFの背後を強襲できる(それでも縦のドリブルだけならリーグ屈指のクオリティがある金子拓郎や、小柏と比較すると違いを生み出すには物足りないですが)。
- なので、左の杉森周辺のスペースにボールを送って、可能なら手数をかけずに勝負、という意図が見えました。
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杉森のサイドを使いたい徳島 |
- サッカー星人・青木のスーパークリアで札幌が難を逃れた場面(37分)も確かこのような展開からで、言うまでもなく決まっていれば展開は変わっていた、得点と同じくらいの青木のビッグプレーでした。
- バトッキオは本来イタリアにおけるTrequartistaだと思うのですが、前節に続いて右サイドで起用されているのは、攻守TOTALで見たときにポヤトスの求めるクオリティの選手がいないからでしょうか。いずれにせよ、独力で札幌陣内で突っ込む役割というよりは、その前で関与したり、最後にシャドー的にゴール前に出ていく意識がだったかと思います。
やがてなくなる椅子:
- スタッツ的にも、この試合のボール支配率は仲良く50%程度。札幌は、そうする理由が特にないので、徳島ほどボールを捨てる意識はなかったと思いますが、結果的には徳島と同じような振る舞いになっていたと思います。
- 時間をかけてポジションをセットできるゴールキックの際は、札幌はここ数試合と同様に高嶺が左後方に下がってスタート。左利きの選手がここにいることのアドバンテージ、もしくはいない場合のボトルネックと比較すると非常に重要になります。
- 問題は、オープンプレー、例えば徳島のボール保持からのトランジションからの展開だと、高嶺は中盤で渡井をマークしているところからスタートするので、後方に下がるのが遅れたりします。
- こうなると駒井が左後方に下がってきたり、イレギュラーな形、ひいてはチームとしてディシプリンに欠ける、雑な振る舞いになっていく。そうした雑さはボールを保持するだけの時間やスペースを奪っていき、最後は菅野に戻したところで、垣田や渡井のプレッシャーを受けてリリース、がよくある展開でした。
- ボールのリリースの仕方は本意ではないとして、札幌は、前線に長身の選手がいないため、小柏がDF背後に飛び出してボールを収めるプレーは意識していたと思います。徳島は右SBの岸本が役割上、高めの位置取りからスタートする。ジエゴはそうでもないのですが、恐らくルーカスへの意識が強いのでその背後は狙いやすかったと思います。ロングボール主体の展開でも、徳島の高めのライン設定もあって思ったほどここは問題になりませんでした。
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小柏がサイドに流れないと前進できない |
- この展開で目についた点を挙げると、まず徳島のディフェンスはそこそこ機能していたと思います。それは小柏の裏抜けはあったにせよいつもの空中戦の使い方はできず、また厚別の風もあってロングフィードがそこまで効果的に使えない札幌は、まず足元へのパスコースを見ることになる。
- 1-4-4-2でボールサイドに寄せて守れば、札幌は徳島の選手の間で受けることは難しく、そうなると個人で突破するしかないですが、それができる金子や小柏はDFに背を向けた状態からスタートすることが多い。ルーカスは前方に視野を確保しやすいですが、ファウル覚悟(というか退場になってもおかしくなかった)なジエゴのマークもあって、スピードに乗りきることはできない。
- なので徳島のディフェンスがハマりそうな場面は結構ありました。ただ、例えば、渡井は宮澤や田中をサイドのスペースに追い込んだ、有利な局面からのデュエルで前半だけで3回くらい負けていて、この時は宮澤はコースがなくて強引に渡井の足元をボールを通して突破を図ったのですが、渡井は食い止めきれずボール奪取に失敗しています。
- ここで奪えないと誰かが死んでしまうとかそんなことにはならないですが、徳島は全般にボールを回収できる能力のある選手がいないので、そもそも攻撃機会の確保に苦労する印象がある。札幌が無謀なパスでロストしたり、前線へのフィードを回収したりとか、そうした展開がなければ、徳島のディフェンスは悪くないけど、奪えそうで奪えない、な展開に見えました。
- 某バスケ漫画じゃないですが、ボールを奪える能力があればあるほど攻撃機会も増えます。徳島のこの問題は、1on1で勝てる金子拓郎みたいなウインガーがいないとか、前線にスーパーなFWがいないとかよりも深刻な、かつスカッドのほぼ全員に言える問題で、この辺はピッチ上の選手やスタッフは見ている我々以上に両者の差として感じていたのではないでしょうか。
- 渡井は起用が難しい選手だと見えます。前線で体を張ってゲームを作るでもなくて、ディフェンスで効くでもなくて、恐らく無条件で敵陣に押し込める展開ならいいですが、それは今のJ1だと手倉森仙台あたりが死んだふり作戦でもしてこない限りはない。
- この試合のようなトータルの能力が問われるゲームだと、渡井はルーズFWでしかなくて、そうなるとちょっと光るプレーをする、とかでは許容されず、年間10点くらいは仕事をしてほしいよな、と感じます。
3.試合展開(後半)
仕掛けるタイミングまで我慢:
- HT明けに徳島はカードトラブルのジエゴを下げて凱旋の藤田征也。荒っぽさはありますが、最終ライン唯一の左利きの選手を下げざるをえない展開は若干の軌道修正を余儀なくされたと思います。彼はCBとSBの中間ポジションでボールの逃がしどころを担いますが、岸本にはその役割は難しいので、左サイドを経由する機会は一層減ることになります。
- 風下の後半立ち上がりもまだ、徳島は仕掛ける時間帯までは我慢を続けます。依然として垣田が宮澤を背負い続ける展開。
- 対する札幌は風上を得ましたが、こちらもまだ様子見といったところ。
- ただ、往年のイングランドスタイルが典型ですが、一般に放り込んで中盤の選手がアップダウンしながらボールをマネジメントするサッカーは、同じペースでゲームが90分進むことは殆どない。
- 少しずつDF-MF間に両チームともスペースができてくるとしたら、それは元々マンマークでスペース管理をあまり考えていない札幌の守備よりも、よりオーソドックスな対応をしていた徳島側のほころびの方が目立つようになり、55~60分くらいからそのスペースが小柏が活動できるようになります。
- ただ、小柏は9番のポジションで出るときはアグエロみたいなイメージでやる、と言っていましたが、(クラブチームの)アグエロほどゴール前の仕事に集中できていたかというとそうではなく、まず裏やサイドに走ってスペースを作らないと札幌は前進できない。
- そこからゴール前にポジションを取り直してフィニッシュに絡むので、59分の右クロスに合わせたヘディングシュートなんかもそうですが、仕留められる準備が整った状態でのシュートはそう多くはありませんでした。
どこまでリスクを冒せるか:
- 59分に徳島は渡井→西谷。そして杉森が痛んだため65分に浜下を投入。意図としては、両ワイドに勝負できる選手を置いて、札幌の陣形を広げつつ勝負できる局面では仕掛けさせるイメージだったでしょうか。札幌は3バックで徳島の3トップを守るので、ウイングへの配球で拡げること自体はできると踏んでいたはずです(ただし時間をかけると5バックになる)。
- ベンチワークとしては、(アクシデントはあるにせよ)この2人の投入が合図で、ピッチ上でも少しずつボールを大事にする本来のサッカーに切り替えていったと思います。リスタートから岩尾が下がってsalida lavolpianaの形を初めてとったのも、このくらいの時間帯だったでしょうか。
- その上でシャドーの宮代をバトッキオに変えて投入。同時に藤田(ジョエル)も投入されますが、リスク管理をしつつ攻撃のカードを切る最大限の対応になったはずです。
- 札幌は宮代投入を見て、78分に田中駿汰を1列上げて最終ラインに岡村。金子が右サイドに移動し、チャナティップが1列上がり、高嶺に代えて荒野、青木に代えて菅。ずっと、相手が2トップ気味だと宮澤+高嶺ではミスマッチだと感じていましたが、ここでは適切な手を打ったと思います。
- 決勝点は88分、上福元のフィードが強風で押し戻されたところを宮澤がカットしたところから。中央の選手を入れ替える采配はここで活きたでしょうか。そして厚別の風は、久々に見参した徳島陣営がどこまでゲームプランに組み入れていたかは不明ですが、決定的な仕事をしたといって過言ではないでしょう。
- フィニッシュは菅のGK-DF間へのクロス。札幌のクロスボールといえば、これまでは前線が駒井・荒野・チャナティップだろうとひたすら頭に放り込むのが定番でしたが、この日は前半から小柏も金子もこのタイプのラストパスを出していたので、何らか共通理解があったのでしょう(たぶん)。今後に期待したいところです。
雑感
- ポヤトスと徳島の未来がどうなるかはわからないですが、風も含めて厚別のアウェイゲームは見ている以上に難しいはずで、慎重な入りをするのは当然だったと思います。
- 前半の青木のクリアの場面など、どちらに転ぶかわからない場面もあって、このゲームに関して言うと妥当なプランじゃないかと思っています。以前「札幌はジェイと福森抜きでどうやって点を取るんでしょうか?」と匿名の質問者から喧嘩腰に言われたのですが、寧ろジェイと福森を起用して1試合で何点取りたいんですか?もしくは取れるんですか?と聞きたいです。試合に勝つために本来4点も5点も必要はないはずで、この試合の青木のビッグプレー同様に1点を防ぐことは1点を挙げることと同じ価値を持ちます。誰をピッチに立たせるかは、最終的にそれでトータルスコアがどうなるか?この点のみで決まります。
- 札幌は、最後に書きましたが、ようやくクロスボールの質を変えてきたのは光明ですね。それだけでボカスカ点が取れるほど甘くはないですが、ジェイも使えないならこのやり方の方がスカッドに明らかに合っています。なおルーカスは人に合わせるというよりも、相手DFの重心の逆をとるラストパスを常に狙っていると感じます。
- それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
興梠にオファーってことは来季もミシャ体制っぽいですね。
返信削除それならスタッフてこ入れで徳島の甲本コーチが道産子なので来て欲しいです。現体制はこれ以上なさそう。
ミシャだから興梠ってわけでもないと思いますよ。もっとも興梠とは別にミシャに対する信頼は変わらなさそうですけどね。
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