2024年9月5日木曜日

2024年9月4日(水)JリーグYBCルヴァンカップ プライムラウンド 準々決勝第1戦 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 〜 #日本一ディティールにこだわらないクラブ 〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • 週末のリーグ戦が台風でスキップされたF・マリノスは、直近の公式戦が10日前という状況。そのゲームに出場した選手からはGKの飯倉、畠中、喜田がスタメンに名を連ねていますが、アンデルソンロペス、ヤンマテウス、エウベルはメンバー外でターンオーバーと言っていいでしょう。ジャンクルードはトーゴ代表に招集中。
  • 例年カップ戦のベスト8くらいからメンバーを変えてくるコンサ。3日前のリーグ戦のメンバーからは髙尾、パクミンギュ、駒井、菅が中2日でスタメン起用で、岡村もベンチ入り。こちらもターンオーバーですが、後ろの対人に強い選手を主に、リーグ戦と同じ選手を一部送り込んできたという感じでしょうか。
  • なお他会場では見たところ、新潟ー町田、名古屋ー広島が両チームともリーグ戦に出ている選手が多め、川崎ー甲府はターンオーバー気味で、対戦相手同士で(示し合わせたかのように)メンバーの傾向が似通う傾向にありました。

2.試合展開

日本一諦めの悪いクラブ 序盤の健闘の理由:

  • 今月はスカパーにお金を落としたくないのでスタジアムで試合を見た1回限りの印象で書いています。
  • 30分にF・マリノスが植中のゴールで先制しますが、それまではコンサがいくつか得点チャンスを迎えましたし、構造的にマリノスがコンサを攻略していたわけでもありませんでした。いくつかこの理由を考えていきます。


  • まずF・マリノスはいわゆる「ビルドアップの出口」が、マンツーマンのコンサに対してはっきりしませんでした。
  • F・マリノスは特に形を変えず4バック+中盤センター2人の形からスタート。それぞれマンツーマンで難なくコンサは捕まえることができていましたし、特に小林とバカヨコの2トップが非常にいい入り方をしたというか、彼らはCBをマークするというかは中央を封鎖する役割を担っていて、単に真ん中に立つだけではなくてF・マリノスがSBにボールを動かすと、スライドして山根と喜田を消すタスクを頑張っていました。

  • そしてF・マリノスはウイングが井上と宮市で、中央のスペースを使うよりも縦にスピードでぶっちぎるタイプ。この2人が序盤は前に張って、喜田と山根があまり顔を出せない、SBも中央に入ってこない、だと、F・マリノスの受け手はフリーマン気味の天野と、植中がトップから下がってくる場合に限定されます。

  • ハッチンソン政権でどういうスタイルを指向しているのかまだわからないですが、8月に日産スタジアムで対戦した時はエウベルとヤン マテウスの逆足配置のウイングが、サイドに張るよりも内側に入ってボールを受けて、トップのアンデルソンロペスも含めて中央を使って敵陣でプレーする際に起点や突破の役割を担っていました。↓

  • それと比べると、宮市と井上だとアクションがワンパターンで、マンツーマンのコンサとしてはかなり守りやすいセットだったと思います。
  • となるとフリーマンの天野に期待が集まりますが、彼もスタートではトップのすぐ裏というか高い位置にいるので、時間をかけて低い位置まで移動しなくてはならず、F・マリノスはCBの次にボールを預けられる選手を探すことに非常に苦労していた印象でした。

  • さらにもう一つ言えるのは、GK飯倉なのに不思議だったのは、F・マリノスのDFはGKまでバックパスをほとんどせずに、一度センターサークル付近までボールを運ぶとやり直しをせずコンサ陣内のハーフコートで何らかプレーを完結させようとする傾向がありました。

  • コンサのディフェンスはマンツーマンで人についてくるので、たとえば一度バックパスをしてCBも下がれば小林とバカヨコはそれについてきて、コンサは全体が間延びしてスペースができてプレーしやすくなるのに、そうしたスペースを作る意識はF・マリノスから感じられませんでした。

  • 特に、F・マリノスのSBに対してコンサはWBの菅と田中宏武が担当で、この2人はSBのマークとともにコンサの3バックの側面のカバーリングというマルチな役割を持っており、宏武と菅をコンサの3バックの側面からどかしてプレーすることはF・マリノスがコンサのDFを攻略する上で重要だと思うのですが、F・マリノスのSBがサイドで高い位置をとる傾向にあったので、それに伴って菅や宏武も最終ラインの近くで5バック気味のポジショニングからスタートすることが多かったです。
  • 結果、フィジカル的に強靭である程度サイドで1v1を任せられる菅が井上とマッチアップすることも多く、かつ菅とパクミンギュが同じサイドの狭いエリアにいる状態になって、井上としてはスペースがない状態でのプレーを強いられます。


連続逸機小説 あまちゃん:

  • そんな感じで、F・マリノスがスペースがない状態でも何らか攻撃を完結させようとして前線にボールを送り込んできますが、マンツーマンのコンサが難なく対処しボールを回収するところから、序盤のコンサの攻撃は始まっていたと思います。
  • 開始直後の小林のボックス外からの1stシュート(飯倉が弾いて、バカヨコが詰めてネットを揺らしますがオフサイド判定)を皮切りに、コンサのチャンスは右サイドから小林や田中宏武が関与するものが多かったですが、これはF・マリノスが右から運んで、F・マリノスの右サイド(コンサの左)に選手が寄ってコンサの右にスペースがある状態でトランジションが発生し、そこから低い位置まで戻っていた宏武が頑張って前線に長い距離を走ることで生じていたと思います。


  • F・マリノスはコンサ陣内では基本的にマンツーマン気味にpressingを仕掛けます。しかし自陣に撤退してゴール前を守る際はよりスペースを守るやり方に切り替えます。
  • この際、F・マリノスDFが最初にポジショニングの基準となるゴール前にコンサはバカヨコがいて、彼はマリノスのCB2人の間に収まるように常にポジショニングする。この関係性は、マリノスはバカヨコを2人で守っている状態でもあるし、バカヨコがF・マリノスのDF2人を引きつけている状態でもあります。マリノスはファーサイドのSBもCBの背後を守るので、見方によってはバカヨコがF・マリノスのDF2〜4人を引きつけている状態でもあります。

  • マンツーマン的に考えると、コンサの小林のマークは畠中、菅のマークは小池。これらの選手が中央のバカヨコに引きつけられれば、サイドやDFーMFの間で必然とフリーになります。
  • 25分頃までで、バカヨコの決定機は覚えている限りでは2回あって、田中宏武のグラウンダークロスを右足でシュートミスと、頭を狙った絶好のクロスをヘッドで飯倉の正面に当ててしまいました。
  • 試合前の、ポストからのシュート練習ではいつも決まった位置から決まったコースにクールに流し込むシュートをGKが届かない位置にほぼノーミスで決めている(少なくとも武蔵やジョルディよりは明らかに上手く見える)バカヨコですが、試合になってしまうと緊張するのか?あまりプレースピードが上がると精度が落ちてしまうのか?少なくとも練習での期待値からすると決めてほしいシチュエーションではあったと思います。

諦めは悪いが、練習はしない:

  • スコアが動いたのは30分。

  • コンサがF・マリノス陣内でロストというかF・マリノスが回収して、お互いに整っていない状態から宮市が縦に突っ込んだところからでした。宮澤が被って馬場としては難しい状況でしたが、トップのDFならこういう時にミスが少ないので、別の選択(馬場はゴール反対に蹴ろうとして腕に当たっているが確実にクリアでも良かった)もあったかもしれません。


  • 36分にまたも宮市の仕掛けから植中。

  • この時はコンサが左サイドでのロストからでしたが、コンサは直前のプレーで駒井、荒野、馬場といった中央でバランスをとる役割の選手がみんな前がかりになってしまって、「あ、真ん中誰もいない…」と思ったところで、中央で植中が難なくポストプレーに成功、からの宮市の仕掛け発動でした。

  • この辺は(田中駿汰なんかを見ていてもそうですが)ミシャ体制でとにかくバランス取るというより前に出て枚数を増やすことを7年間推奨してきたので、諦めるしかないのでしょう。

  • そして問題のシーン…2点目直後のリスタートでのミスから荒野が退場します。

  • これは一言でいうとCB2人+アンカー(+GK)で、相手の2トップのプレスをいかに回避して前の運ぶか、という、現代サッカーにおいて毎試合10〜20回くらいは生じる極めて再現性?反復性?が高いシチュエーション
  • いわば絶対テストに出る問題なのですが、コンサは見たところ、DFを配置してボールを運んだりする練習はほとんどやってないみたいなので毎回このシチュエーションでまともにボールを運べていないのでしょう(ミシャ体制7年目にして大﨑の加入でちょっと、たまにマシになりましたが)。

  • プレーを切り取ると、荒野がまずF・マリノス2トップの背後、馬場からパスを受けるとターンして2人置き去りにできるところに(多分たまたまだけど)いて、馬場はそこにずれずにパスを届けている。
  • だから荒野のコントロールミスというか、体の向きがもう少し前方向向きで、コントロールしながら体幹と背中を使って相手からボールを隠すようにできればよかったのですけど、結局その辺のディティールは日頃のトレーニングからこだわってやっているかどうかだと思うので、コンサでしばらくこうしたプレーが成功したのを見たためしがない(そもそもアンカーが真ん中でプレーする状態が大﨑加入までほぼなかった)のはトレーニングを見ていれば必然かなと思います。


付け焼き刃での自傷を繰り返す:

  • 荒野の退場後、コンサは小林を下げて1-3-1-4-1のような形に変えます。
  • 前半は交代なしでしたが、後半頭から髙尾→中村桐耶。
  • 髙尾の重要性に最近気づいたということで温存はおそらく想定内なのでしょうけど、1人少ないシチュエーションは予想外として左利きの中村を入れるのは意外でした。おそらく岡村を入れて、宮澤を上げるとかも考えていたのでしょうけど、中村桐耶としたのは、ボールを持った時に1v2でも突破できて数的不利でもなんとかしてくれるギャンブル性みたいなのに期待したのでしょうか。
  • この中村桐耶が宮澤と中央に並ぶ1-4-4-1が後半のコンサの基本陣形になります。

  • F・マリノスは後半開始時に、飯倉が怪我(打撲)でGKを寺門と交代、右SBを小池→加藤蓮とします。
  • また、だいたい後半開始5分くらいの様子を見て、54分にコンサはバカヨコ→ジョルディ。



  • HTコメントを見るとミシャの頭の中では、なんとか失点を回避して点差を詰めてホームでの第2戦を有利な状態にしたいということだったのでしょう(0-2でよし、とする選択もあったと思いますけど、中村桐耶の投入などを考えればそうではないと思います)。
  • そのためにはまずボールを奪う必要があるのですけど、コンサの考え方としては↓のような感じで、トップのところが数的不利なのでバカヨコよりも動けるジョルディに、2度追い、場合によっては3度追いしてなんとかF・マリノスのDFが困る状況を作って蹴らせて後方のマンツーマンで回収、というところ。


  • 謎なのは、中村桐耶が天野にマンツーマンではなくて最初から4バックで宮澤と並んでいたことですが、ミシャはマリノスの3トップに対して4バックという選択を過去に繰り返していて(このブログに毎回書いていますのでどうぞ)、人を見るだけではなくてサイドを突破された時にカバーリングできるように枚数を増やしたい、という考えだったのかもしれません。

  • ただ後半のF・マリノスは、↓のように山根がアンカー、喜田と天野がインサイドハーフで並ぶ1-4-1-2-3に形を変えていました。

  • これでジョルディのところでどれだけ頑張っても1人ではかなり難しい状況で、何らかサポートが必要なのですがコンサは誰かがジョルディを助けに行くのか、我慢して引くのかがわからないまま時間経過します。
  • F・マリノスは簡単にジョルディを剥がして山根が運ぶと、今度は中盤で山根・天野・喜田の3人に対してコンサは小林と駒井の2人。枚数で不利というだけではなくて、馬場か宮澤みたいなある程度フィルターになれる選手がいたら変わったかもしれませんが、ちょっと小林で凌ぐのは厳しいシチュエーションになってきます。

  • 前半はあまり数的有利でもうまくプレーできなかったF・マリノスが徐々に順応し、59分と63分に左クロスから立て続けに得点が決まります。

  • F・マリノスの3点目を見ると、やはりコンサはCBがサイドをカバーするというイメージで、ウイングの井上(水沼投入で左に回っていた)に宮澤がついて行ったのだと思います。しかしこの対応も中途半端というか、マンツーマンなら置き去りにされた宮澤の責任になるでしょう(井上と宮澤の勝負だとスピード的に絶対無理なのですが)。


  • 逆に4点目は宮澤がついていくのをやめて田中宏武に任せたところ、CBーSB間のスペースにうまく加藤聖が浮き玉でパスして井上は難なく2人を置き去りに成功。
  • 宮澤のこの対応自体は悪くないと思いますが、最後駒井が天野についていたのに人を捨ててスペースを守ることに切り替えたのが裏目に出ましたし、井上も余裕がありましたがよく見ていたなという印象です。 


  • 結局この辺の駒井の対応も、数的不利とはいえ、サイド深い位置からのクロスボールというシーズンで見ると頻発するシチュエーションなので、どこを優先的に守るか(どこは捨てて仕方ないとするか)は日々のトレーニングで本来明確にしておくものかなと思いますが、コンサはそういうチームではないと思いますので…ともかく日本一諦めの悪いクラブとして諦めずにやっていくしかないのかなと思います。

雑感

  • 序盤はF・マリノスの方が不安定で、確かにバカヨコ(加入時は自信満々なコメントでしたが意外とナイーブなんでしょうか?カンもそうですがアフリカンはとりあえずハッタリをかますのが大事なんでしょうか?)が決めてれば違った展開ではあったかな思います。
  • 一方で、次第にコンサも駒井や荒野が中央から行方不明になって、いつものオープンサッカーになり、あとは失点や退場シーンはいつものコンサだな、という印象で、 #日本一諦めの悪いクラブ というスローガンでは日々のクオリティや積み重ねの足りなさは誤魔化せないよねという当たり前のことを露呈しただけでした。

  • あとは、荒野の退場に関しては…7年前にノースロンドン出身のとある選手がコンサに加入した際「ボーイを大人にする役割を担いたい」と語り、彼はプレーと態度でチームを引っ張りました。世の中色々なタイプのボーイがいますが(その彼…ライオンハート自身もボーイ疑惑がありますが)、このチームも大﨑のようなボーイを大人にする役割の選手がいないとこんなものなのでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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