2024年8月21日(水)天皇杯 JFA 第104回全日本サッカー選手権大会 ラウンド16 ジェフユナイテッド千葉vs北海道コンサドーレ札幌 〜誤魔化せないスカッドの歪さ〜
1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- ラウンド16に残っているチームのうち、J2のクラブは大分、愛媛、山口、甲府、長崎、そしてこのジェフの6クラブで、いずれもホームスタジアムでJ1クラブを迎え撃つ権利を有します。公式戦では2016シーズン以来の対戦。J2のリーグ戦ではジェフは6位山口と勝ち点差7の8位につけています。
- 小林慶行監督体制での初年度だった2023シーズンは、3バックも一部使っていたようですが、今シーズンは一貫して1-4-4-2。メンバーは中盤センターの田口、小林祐介といった主力はリーグ戦に備えてスタメンを外れていますが、エース小森とキャプテンマークを巻くCB佐々木はスタメンで起用してきました。システムはおそらく1-4-4-2ベースなのでしょうけど、私は1-4-1-4-1と解釈し表記します。
- 天皇杯は前回3回戦で、松木、長友、荒木らが先発したFC東京を延長戦の末にフクアリで破っています。
- 3日後に磐田での重要なリーグ戦を控えるコンサは、前節リーグ戦にスタメン出場したメンバーは髙尾を除いて全員温存。右DFは髙尾しか実質的におらず、(中盤でスタメン格の)馬場と2人で回すことをあらかじめ想定して馬場もベンチ入りさせたのでしょう。
- ジョルディやアマドゥバカヨコといった選手の加入でやや見栄えはするようになったかもしれませんが、先週土曜日にはこのメンバー中心で日大相手にトータル1-7で敗れており、ジェフにも充分付け入る隙がありそうに思えますがどうでしょうか。なおトレーニングでは田中宏武が右DFをやっていましたが、この日は本来の右WBで起用されています。
2.試合展開
キック自体は上手いけど:
- 開始から15〜20分ほどはジェフゴール付近でコンサがプレーすることが多く、ジェフは我慢の時間になります。
- といってもコンサはジェフのGK鈴木を脅かすシュートを枠内に飛ばしたわけではないので、ジェフとしてはうまく守ったと振り返ることができるかもしれませんし、コンサが押していたと言っても、セットプレーでジェフがほぼ全員撤退(たとえばCKは6人ゾーン+3人マンマークで小森だけ前に残る)するので、コンサが何か有効なプレーをしていたとは思いませんでした。
- コンサがボールを持っている時のジェフの対応は↓のような形だったと思います(8月はSPOOXに入らないので試合中の感想とメモだけでこの記事を書いてます)。
- アンカーの品田がシャドーを見ることでコンサの前に張る5人に枚数を合わせていましたが、コンサの長身FWバカヨコを右CBに入ったメンデスが主に見るため、自然と品田は左シャドーの白井の担当になることが多かったでしょうか。
- 前線は、SHがコンサのSBを意識したポジショニングをしますが、中央の選手…FWの小森と、エドゥアルド、風間は人を見るよりもスペースを埋めるポジショニング。
- ですのでコンサとしては、後方から誰かがボールを前に届けるとする時に、サイドの選手よりも中央の選手の方がこの日は割とボールを持てる状況でした。このこともあって、コンサがボールを持った時に何らか前方向にプレーすることが多かったのは、中村桐耶や田中克幸もそうですが、それ以上にGKの児玉が中央でボールを持って、左右両足で前方向にフィードをすることが多かったです。
- 児玉はキックに自信があるようで、実際見ていてそのフィードは正確なのですが(たとえばタッチライン付近の選手に蹴ってもラインを割ることは稀)、ただ中央でボールを持った状態で、前線のシャドーやWBの選手に蹴ると、中央にポジショニングして待っているジェフのDFはスライドが簡単に間に合います。
- 加えてシャドーは小林と白井なので、あまり腰から上を狙ったボールは効果的ではないですし、正面からくるボールになるので跳ね返すDFやMF品田としては、ボールをターゲットを同一視野で捉えることが容易だったと思います。
- ですのでコンサの後方からのフィードは、試合序盤にジェフのDFがクリアできずコンサがCKやスローインの機会を獲得するということはありましたが、WBに渡して仕掛けることでジェフのDFを揺さぶるような展開に持ち込めたことは、この試合は稀で、時間経過とともにジェフはコンサの単調なロングフィード頼りの攻撃に順応し始めます。
ジェフのキーマン:
- コンサの序盤のラッシュを凌いで、20分過ぎ頃からはジェフが立て続けにコンサゴールを脅かす展開になります。
- 自陣でボールを持った時のジェフの配置は↓。ジェフが自陣でボールを持ってプレーする際、大半のプレー機会で右のメンデス・松田のユニットから組み立てていました。
- 松田の前方に配されている岡庭と風間がジェフのキーマンであり、この日のアップセット(というほど相手は強くないと思いますけど)の立役者と言って良いでしょう。
- ジェフは前線が3トップの配置になって、岡庭とドゥドゥはスタート位置ではサイドに開き気味でコンサのDFを広げることを意識していたように見えました。そこから岡庭は、(背後を注意深く見るというよりは身体能力で守る傾向のある)菅の背後を取ったり、わざと最初からオフサイドのポジションにいたりして視界から外れた後で、松田にボールが渡ると菅のマークを外してタッチライン付近で受け手になります。
- 岡庭に渡ると、風間はサイドでスプリントして、田中克幸のマークを振り切りつつ岡庭を追い越しコンサ陣内に侵入するか、逆に縦に走ると見せかけて中央で受けて、品田やエドゥアルドを使ってサイドチェンジの選択肢を持ちます。選手特性的にサイドで頑張ってフィジカル勝負よりは、いかに中央方向にボールを流すかを考えていたと思いますが、いずれにせよこの右サイドを使ってジェフはたびたびコンサのマンツーマンでのpressing(と呼んでいいのか知りませんが)を回避して敵陣侵入に成功します。
- 右サイドから中央寄りの品田やエドゥアルドを経由したところで、大抵コンサは宮澤が食いついているので、ジェフはこの宮澤を剥がせば前線のドゥドゥが前を向いた状態で髙尾と1v1、他コンサ陣内には中央に中村桐耶と小森、ジェフから見て右サイドに全力でスプリントする岡庭と戻ってくる菅、というかなり有利な状況になっている。
- 髙尾は今やコンサで一番信頼できるDFの1人ですが、狭いスペースでフィジカル勝負ならともかく、広大な範囲を1人で任されると全ての選択肢を消し切ることは難しくなる。特にドゥドゥが中央方向にカットインして、中央の小森か、その背後に飛び出す岡庭を狙ったスルーパスや右サイドへの展開を狙うとコンサはストップできず、立ち上がりとは違ってジェフが押し込み再三GK児玉を脅かす展開になります。
- そして45分にドゥドゥのカットインから得たFKを、25mほどの距離から品田が右隅に見事なシュートを叩き込んでジェフが先制。
- このドゥドゥの仕掛けの際はコンサが後方から繋いだプレーにミスがあって、ジェフがカウンターという場面だったと思いますが、カウンターの際は最初からコンサのDFは広がった状態なのでドゥドゥが仕掛ける上ではより障壁がない。コンサはここもGK児玉が頻繁にボールに関与するのですが、もう少し味方のポジションが整った状態を待ってからスタートしてもよかった気がします(要は児玉のスタートが早すぎる)。
バカヨコがスキャン開始:
- しっかり対策してきたジェフに対し、試合を通じて前に蹴るだけの単調なプレーを繰り返していたコンサにおいて、ゲームの構造をスキャンして次に何をすべきか考えていたように見えたのはバカヨコやわずかな選手だったと思います。
- 前半途中から、バカヨコはCBのメンデスと佐々木の間にポジショニングするようになって、かつそこから殆ど動かないのですが、これはシャドーの選手をフリーにする、もしくはジェフDFのマークを曖昧にするためで、バカヨコは何度か小林を指差してこいつがフリーだから出せ、というようなアクションをしていました。
- ただコンサの後方の選手がこれをあまり察知していないようにも見えましたし、また小林はもう少しバカヨコと離れて、ジェフのDFから浮くようなポジショニングでもよかった気もしますが、結果的にはこの試みは確かにあったけど、特に成果がないまま小林は前半でピッチを後にします。
- 左シャドーの白井は小林以上に前に張って、裏抜け…要は得意のスピード勝負に持ち込もうとしていましたが、ジェフはメンデスがうまく対処していて、白井がイメージするようなDFの背後を取る形にはなりませんでした。
元を辿ればスカッドの歪さの話に:
- 後半頭からコンサは髙尾→馬場。これは予定通りとして、同時に小林→ジョルディ サンチェス。
- 前半のコンサは前に張る5人に後ろから蹴るだけの単調さが問題だったので、普通に考えれば前線で唯一MF的なプレーができる小林は残した方が良さそうですし、ジョルディを入れるのは早いように思えますが、このスカッドやベンチメンバーだとカードを切るならジョルティになるのは、プレー面というよりパワーバランスのような観点になるのでしょう。
- 要はFWを抱えすぎてるのでFWを入れなくてもいいところで入れざるをえないし、それによってピッチに立つ11人の構成も前線過多になるということ。コンサは後ろから前に単調に蹴るだけ、という点については特に何も手を打たずに後半の時間を消費します。
- 結局、コンサの枠内シュートは60分頃?に原がカットインから放ったミドルシュートのみで、リーグ戦同様、ペナルティエリアで待つFWにボールを届けられないという問題はこの日も健在でした。
- というわけで後半も特に構図は変わらず、ジェフが立て続けにコンサゴールを脅かして追加点を狙います。
- コンサは64分に負傷の宮澤→家泉、原→フランシス カン。カンは先日の日大とのトレーニングマッチでもワイドではなく中央で使われており、ワイドだとシンプルに言えばパワー不足という評価になるのでしょう。またカンが入って、コンサは2トップなのかカンとジョルディまたはバカヨコがシャドーの1トップになるのかがはっきりせず、ジョルディとバカヨコは試合中にかなり相談していてシンプルにやりづらそうでした。結局はバカヨコが最終的に左シャドーっぽいポジショニングから、ATには左クロスに決定機を迎えますがヘッドは枠外でした。
- ジェフは71分に小森、風間、ドゥドゥという前線のキーマンやエース級の選手を一気に下げます。監督としては「これくらい守りきれないとどうせ次も勝てないし、リーグ戦も乗り切れないよ」くらいのスタンスなのかもしれませんが、特に風間が下がったのが大きかったのか、ジェフはこの交代で目に見えてクオリティが低下します。
- ここからのジェフは、新明と呉屋の2トップが前で頑張って走ってコンサDFに直接プレッシャーをかけていく、剥がされた全員で撤退して跳ね返すという戦いかたにシフトします。
- 82分にはコンサが田中宏武→出間。終盤はこの出間の中央への飛び出しは2度ほどシュート機会になっており、ATには左クロスに飛び込んで決定機がありました。
- ジェフは83分に足を攣った矢口→椿。終始放り込み主体のコンサに対し、最終ラインではジョルディ、バカヨコとやり合いつつも集中を切らさなかったメンデスの頑張りが目立ちました。
雑感
- ボールを持っている時/持っていない時ともジェフはどうプレーするかが明快かつ個々のプレーに集中力を感じました。対するコンサは、いつも通りですが人を並べて放り込む/マンマークでとりあえずついていく、という最下位を爆走しているチームのやり方のままで、選手の能力でいうとやはりJ1とJ2という感じはしますが(主にフィジカル面)、戦術的な部分を見ると1-0というスコアは妥当だったでしょう。ジェフは記事中に書いた通り、風間、岡庭、ドゥドゥ、メンデスといった選手の頑張りが光りました。
- コンサは前線にFWタイプの選手や、前に突っ込む以外のアクションに乏しいサイドアタッカーを並べ、DFにもボールが運べない選手を置くと、田中克幸のような特定の選手に負担が増大します。大﨑が加入直後に大黒柱になったり、(本来WBタイプではない)青木がWBやシャドーでフリーマン的に動くことでチームを助けているのは、こうしたチームとしてボールを運ぶプレーの著しいクオリティの低さの裏返しでもあるのでしょう。結局は歴代監督はbuild-upのやり方を知っているというかは、福森のような傑出した選手がボールを蹴ることで何とかそれっぽい形になっていたのだということが、またしても匂わされるゲームだったと思います。
- というわけで、後ろから前に放り込むだけのお粗末な構造に引き込まれた選手たちにジャッジを下すのはまだ早計かなと思っています。特にバカヨコは、武蔵にはない”9番”としての戦術センスがあり、青木や浅野、スパチョークといったシャドーと組むと違った顔が見えるかもしれません。それでも勝ち点差10は大きいですし、「カップ戦では優勝を意識する!」と宣言したフロントはあまりに無邪気すぎる気もしますが。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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