2022年7月6日(水)明治安田生命J1リーグ第20節 FC東京vs北海道コンサドーレ札幌 〜君なしじゃいられない〜
1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
|
スターティングメンバー&試合結果 |
- FC東京は、青木、安部、中村帆高、エンリケトレヴィザンといった選手を負傷で欠き、小川が移籍した左に入っていた長友を右に回し、左にはバングーナガンデ佳史扶(以下、カシフ)。中盤3枚の右にはリーグ戦初先発の梶浦。前線は前節から永井、ディエゴがベンチスタートで、左にアダイウトン、トップにレアンドロ。
- 札幌は、中3日の日程も考慮して興梠はベンチスタートでしょうか。ここ数試合、前線を牽引する駒井がトップで、青木をトップ下としています。
2.試合展開
- スコア経過は、33分に長友のパスを受けた紺野が得意の位置から巻いてファーを狙うシュート。これを札幌の菅が後ろで手を組みながら寄せますが、最後に崩してしまった手にシュートが当たってPK。ATにはレアンドロのFKを、壁に入っていた興梠が手に当ててしまってPK。PK2本で東京が先制します。
- 手を組むまでは冷静だったので、最後にハンドを取られてしまったのは残念ではあるのですが、この試合、札幌はあらゆる局面で菅の個人能力に依存した試合をしており、ネガティブな意味で個人にフォーカスされるのはアンフェアなように思えます。この点を踏まえて振り返りましょう。
falso 9:
- FC東京は、レアンドロがトップに入るのは今シーズン1度だけあったようですが、基本的にはあまりない形。東京の3トップは、このレアンドロも含めて札幌の守備をよく意識した設計になっていました。
- 札幌の守備の中心となっているのが、3バック中央の岡村。相手の”9番”をマークするのが得意で、1対1での対応がベースのチームにおける生命線といえます。逆に、福森の守備はサポート必須な水準で、チームの明確なアキレス腱となっている。
- そうでなくとも(相手が福森じゃなくとも)、最終ラインを純粋に3枚で守るのは今の時代かなり珍しくなっている。それは言うまでもなく、3人だとピッチ横幅64メートルをカバーするには足りないため。
- ですので東京は定石通り、ピッチ横幅目一杯にポジションを取る選手を用意します。それが右では紺野で、左では攻撃参加した時のSBカシフでした。
- そして、中央ではレアンドロが頻繁に、東の周辺くらいまで下がってボールを受けたり、反転から前を向いたりします。これはレアンドロが前を向くというか、いわゆる偽のFWの要領で、マンマークでついてくることが多い岡村を定位置から動かすことが狙いだったのでしょう。
|
偽の9番レアンドロ |
- 札幌は岡村が中央からいなくなると、ディフェンスがガタガタになりますが、東京はレアンドロが一時的に退いても有効な攻撃ができる。それはスペースに爆速で飛び出すアダイウトンがいるからです。
- アダイウトン以外だと、今やリーグで最も走る選手となった松木も頻繁にスペースに飛び出してくる。その度に荒野が後ろに下がっての対応を要求されますが、飛び出す相手についていくのはいわば応急処置であって、ボールを奪う攻撃的な守備とは言えない。
- 札幌はこの2022シーズンずっとそうですが、前線の選手が、相手のボールホルダーに制限をかけてボールを誘導することを諦めていて、pressingのpもないような対応をしている。
- マンマークで人を守ることでボールを奪うには、相手のパスを誘導して受け手よりも先にボールにアタックする必要があるのですが、誘導していないので相手選手についていくだけの対応になっている。
- これは個人攻撃ではないですがシャビエルがあまり使われていなかったのはこの部分なんでしょうけど、他に選手がいないのもあって、この点は解決されないままシャビエルはこの日もピッチに立っています(15分で負傷交代)。
- とにかく、アルベル監督も会見で指摘していますが、レアンドロが偽の9番として動けば絶対にスペースができるし、そのスペースを守る能力が今の札幌にはない。この時点でかなり難しいゲームだったと思います。
- 1点目のPKに繋がる攻撃も、レアンドロが引いてセンターサークル付近でボールを受けて前を向いたところからスタート。岡村は最初ついていくのですが、途中で迷ってしまって一度レアンドロを離します。これで距離ができてスピードに乗ったfalso 9が岡村をかわし、要を失った札幌DFは慌ててリトリートしますが、最後まで整った状態にはなっていなかったと思います。
君なしじゃいられない その1:
- 東京は元々、ブラジルユニットを活かした速攻が得意なチーム。速攻に弱い(というかカウンターを受けることをあまり想定してない)札幌相手には当然この点もキーになります。
- 東京は1-4-3-3で守備をセットしますが、あまり前線に守備強度はない。3人とも突っ立っているだけのことも多く、その1列目を、札幌が落ちてくる青木や駒井経由で突破しても、アダイウトンはあまり下がらずに前に残っている。紺野は割と下がって対応していたでしょうか。
|
札幌DFの攻撃参加を誘発する東京の守備 |
- 札幌は、サイドのDFに攻撃が得意な選手を置いていて、前節の田中駿汰の活躍もそうですが、中央であまり突破口を持たないチームにとって非常に重要な役割を持っています。特に福森を経由する攻撃は非常に多く、その信頼が窺えます。
- 東京の対応は、まず札幌のサイドチェンジは常に警戒しており、SBは全力で札幌のSBに寄せることになっている。高嶺や福森が、金子を狙って長いボールを蹴り、金子の仕掛けが成功するのが札幌の狙っている形(それより先はあまり作りこんでない)です。
- この得意の形をカシフは90分間常に警戒しており、金子に渡ると一気に寄せて、トラップが乱れたら奪おうとし、無理ならスピードに乗せないように対応しながら松木のサポートを待ちます。
- サイドチェンジがなくても札幌のDFは頻繁に攻撃に関与します。
- 例えば、青木や駒井は前線でボールを収めることが難しいので、ポストプレーというかは簡単にワンタッチで叩いて、別の味方に預けてまた前にいく…なプレー選択が多いですが、要するにこういう「ボールタッチが多いけどあまり前にボールや人が進んでいない」プレー選択しかできない(≒ボールの前進手段がない)と、ボールを前に進めるためにたくさんの選手を関与させる必要があります。だから札幌はDFのボールタッチや攻撃での関与度合いが高いのでしょう。
- それもあるし、単に本人の選手特性もあるのでしょうけど、一つのタスクを遂行した後に福森はよくポジションを上げて次のプレーに関与しようとする。それでシュートまで持ち込めればいいのですが、ボールを失えばオリジナルポジションには誰もいない状態で、東京は3トップが前方向にスペースのある状態で高めの位置に残っている。
- 東京があまり積極的にpressingを仕掛けてこなかった(守備の開始位置を下げていた)のは、おそらくこうして札幌のDFに前に出てもらってスペースを作るためでしょう。明らかにこのシチュエーションだと、東京に分があります。
要介護5:
- 25分前後に飲水タイムが設けられましたが、札幌は高嶺と福森にミシャが指示をしていたようで、以降、高嶺が左、福森が高嶺の右へとシャッフルしてプレーすることが何度か見られます。
- どうやら、流れの中で左が空いた時は、高嶺は中央ではなくて左のスペースを埋めるように調整していたのでしょう。この高嶺と菅が頻繁に(いつも通り)戻ってくることで、福森の周囲から危険を取り除く。
- ただ、構図的には、紺野1人に対して福森、高嶺、菅を投じている、非常に効率性の悪い状態で、結局黄金の左足は45分でピッチを後にし、宮澤を中央に投入して高嶺を左に回す対応がとられます。
君なしじゃいられない その2:
- 最終のスタッツだと、札幌は枠内シュート2、うち1本は終了間際に青木がカウンターから放ったもので、残り1本はなんでしたっけ?スウォビィクを脅かすものはほとんどなかったと記憶しているのですが、そんな感じなのであまり攻撃では書くことがありません。
- 東京のような中央に一定のクオリティのあるDFがいて、かつスペースを十分に与えてくれないと、ゴール正面(中央)を札幌のようなチームが攻略するのはかなり難しくなります。
- 加えて札幌は、ボールを動かしてスペースを作ってビルドアップしたり敵陣に侵入する、ということをあまりしない。
- 例えば、先の東京の、「岡村を動かしたスペースにアダイウトンや松木を突っ込ませる」とするやり方は、タイミングが合えば、選手がボールに何回もタッチしたりパスを繋がなくてもシンプルに敵陣に侵入できます。札幌はそうした形に乏しいので、選手が何回もボールタッチして何回目かで誰かが前を向いたら個人技発動、などとすることが多い。
|
WBがかなり前で振る舞わないと攻撃の形がない |
- この「何回もボールタッチする」ために、よく行われているのが前線の選手が下がってきて、受けたボールをDFに戻すということ。バックパス自体は別に悪くないのですが、何回もこれをやってると前線に人がいなくなって、さらに貧弱になります。
- 結局この点を解決するのが、ウイングバックが相手のSBの背後をとること。森重が中央を守っていても、サイドまではカバーできないこともあって、WBの飛び出しは一定は効果的ではある。ただ札幌の場合「これしかない」ので負荷は大きくなります。
- そしてウイングバックがゴールに近いところでの仕事が多くなると、アウトサイドから中央付近でプレーすることが多くなる。この時はDF(田中や福森)はウイングバックがいた位置に上がることが多いですが、これもまたDFの背後を全くケアしていないシチュエーションの一つで、東京からするとこれも「札幌のDFは勝手に上がってくるので、そこを待って背後を突こう」とシンプル処理できる狙いどころになっていたでしょう。
- ウイングバックのオーバーラップのような、長い距離を走ってかつ、あまりコントロールの時間を与えられないプレーは、順足で走力のある選手を必要とします。いうまでもなく、菅しか札幌にはそうした選手がいない。今や非常に大きなものを背負わされている存在になっていると言えます。
雑感
- 東京はしっかりスカウティングしていたというか、札幌にはプランBもないしゲーム中に修正も難しいので、大変イージーなゲームだったでしょう。
- 序盤、田中駿汰がアダイウトンの背後でプレーしたそうにしていましたが、札幌は駿汰以外にそれに気づいてそうな選手がいなくて、使ってもらえなかったのが残念なところです(そもそもアダイウトンがあんな感じなのはいつものことなので、それこそスカウティングからのMTGで、なんらかやりようもあったはず)。東京はまだ順位は中位ってところですが、本来は能力のある選手が揃っていて、そうしたチーム相手には緻密にプレーしないと厳しいのは見えてますよね。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。もうすぐ鹿島ですね。
0 件のコメント:
コメントを投稿