2021年10月24日(日)明治安田生命J1リーグ第33節 北海道コンサドーレ札幌vsアビスパ福岡 ~長すぎた冬眠~
1.ゲームの戦略的論点とポイント
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スターティングメンバー&試合結果 |
- 福岡は試合前の時点で8位。恐らく札幌よりも低予算ながら、またスーパーなFWもGKもいないながら、札幌よりも先に残留を決めました。
- 札幌の予算なり選手陣容を引き合いに出して「監督もフロントもすごいんだ」とする論調を見るたびに、個人的には、GKセランテスを放出して前年までJ2で20試合以上出場したシーズンがないGK村上に懸け、その分空いた外国籍選手の起用枠も含めセンターラインに重厚な補強をしたフロント及び監督の判断、戦略的な思考面はもっと注目に値するものだと思います。
- そんな福岡に札幌は今シーズン3戦負けなしで、恒例の福森の飛び道具か、長身FW(ジェイ、ドウグラスオリヴェイラ)のパワーを活かした攻撃で得点を奪っていることは興味深いというか、マッチョサッカーを上回るマッチョサッカーが結局よりどころになっていると言えるでしょう。
- この試合は、前線にジェイが復帰するものの、負傷者(宮澤、福森、岡村?、ルーカスフェルナンデス)の影響で最終ラインに高嶺と菅が並んでおり、パワー不足は懸念されるところです。
5バックの採用とゲーム戦略:
- 試合前のインタビューで福岡・長谷部監督は「勝ち点を積むのがいい監督」、「勝ち点から逆算したサッカーをする」、「相手(札幌)との力関係を考えるとアウェイゲームでは勝ち点1で御の字とするところからスタートする」といった、きわめて現実的かつ説得力のある指針を語っていたとのこと(一部情報は実況によるコメント紹介から)。
- これを踏まえてピッチ上に目を向けると、今回は過去3試合と異なり、明らかにCB的な選手を3人、SB的な選手を2人起用する5バックの色が濃いスタメンを採用してきましたが、これが上記のコメントの裏付けというか、”指針”をピッチ上で体現する手段と言えます。
- 戦略的には、福岡には以下の狙いがあったと思います。
- ボールは札幌に渡す(自陣でのリスクを避ける)。
- ただしスペースは渡さない、よって札幌陣内でボールを保持している札幌のDFの選手に対してマンマーク気味のプレッシングを怠らない。そして札幌が福岡陣内に侵入したら素早く撤退して5バック+4人のMFで仕掛けるスペースをなくす(だから敵陣でのプレス→自陣でのブロック構築 の切り替えの速さと集中力が重要)。
- 自陣から自分たちでボールを運んで攻撃するよりも、札幌が札幌ゴール付近でボールを持っているシチュエーションでボールを奪って素早く攻撃する方が効率が良く、またリスクも小さいので、札幌陣内では常に狙っていく。カウエ(戦術理解に課題はあるが個人で打開できるパワーと技術がある)のスタメン起用はカウンターアタックを意識してのもの。
- 試合が膠着化すると、札幌はシンプルな選択(前線に早く放り込む)をとる、または交代カードを切る(長身FWを投入)ことでオープンな試合展開への移行を促してくることが予想される。5バックと3CBの採用はシンプルな放り込みへの対処(札幌のペースにさせない)として重要(過去3試合は、敵陣では4バックでプレーしていたが、4バック→5バックの切り替えよりも、常にCB3人が残っている3バック→5バックの方が安定する)。
2.試合展開(前半)
- 立ち上がりから福岡が札幌にボールを渡して、中継画面には札幌の組み立てを担う選手(高嶺、荒野、駒井)がセンターサークル付近でパス交換をする光景がしばしば映し出されます。前半においては非常に「再現性のある」シチュエーションだったと言えるでしょう。
- 福岡はこの時に、▼のように前線の選手を運用して札幌にプレッシングを行います。
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福岡のpressing |
- 札幌に対してミラー布陣(1-3-4-2-1)を採用するチームには、全部マンマークで捕まえて終わり、というやり方もよく見られますが、そうすると札幌の選手の移動についていくことでスペースができてしまう。恐らく長谷部監督はそれを良しとせず、よりスペース管理を意識した戦術を採用してきました。
- 1トップのブルーノメンデスは、札幌のCB2人(荒野はここではCBの役割なので便宜上CBとします)のチェーンを切って、攻撃の方向を決めさせます。次にシャドー(杉本と渡)が、札幌のCB→SB(図では荒野→田中)のコースを切るように立って、こうなると荒野からの展開は中央方向に誘導されます。
- ここで荒野→駒井のパスや、シャドーの小柏へのパスを福岡はまず狙っていて、ボールを狩る役割も前寛之とカウエ、場合によってはCBの前進守備でインターセプトを狙う。ここでデュエルが頻発します。
- 札幌としては、シャドーやトップのジェイがボールキープに成功すれば敵陣でのプレーに移行できる。または、荒野が逆サイドを見て長いパスを出すことでもできる。ただ、長いパスに対しては、ボールの滞空時間内に福岡はスライドすればいいので、最終的にゴール前にスペースを作って攻撃する、という観点では、これだけでは不十分というか効果的なものではない場合が多かったと思います。
対4バックはeasy modeだが…:
- 2021シーズンのJリーグは4バックのチームが多くて、札幌は相手が4バック、単純な枚数関係だと前線でミスマッチができるというか、実際はそこからかつての福岡のように枚数を増やして変則5バックにしたりすることも多いのですが、基本は4バックを相手とすることが多くなっています。
- 札幌は敵陣で、とにかくウイングバック(右のルーカスフェルナンデスor金子)にボールを預けてからアクションを開始することが多いのですが、相手が4バックだと、このタッチラインに張るウイングバックに対してSBのスライドが遅くなる。その分、金子やルーカスが前を向いて仕掛ける体制を作りやすくなります。
- この試合は福岡が5バックで守ると、サイドの金子にボールが入っても、対面の志知がすぐに寄せてくるので、ボールを持った時に考える時間や仕掛ける間合いを作る時間がない。必然とウインガーのパフォーマンスは低下します。
- DFの枚数が多いと、その分、他のところが手薄になるので、なんでもかんでもウイングバックにボールをつけるだけではなくてスペースがある選手から仕掛けられるといいのですが、恐らくあまりそうしたトレーニングをしていないので、札幌は5バックのチーム(先日の広島)相手だと、途端に攻め手を失う傾向があると言えるでしょう。
長すぎた冬眠:
- ただ福岡も万全盤石だったわけではなくて、ボールを相手に渡す選択にも本来リスクはあります。あまり相手に渡す構図が固まると、選手としてはボール回収の負荷がないことなどは、やっていて楽に感じると言えるかもしれません。
- 札幌の選手が一定の時間経過で「楽」と感じた根拠?の一つが、 ボールを持った時のCB荒野や高嶺のパフォーマンス。高嶺は先日の横浜での試合ではとにかくすぐにボールをリリースして前に送るので、これだけで札幌のボール保持の時間は短くなり、慌ただしい試合展開になっていましたが、この試合は対面のFWブルーノメンデスが、誘導はするもののボールを狩りにはそこまで出てこないと見抜いて、ぎりぎりまで自分でボールを保持して次の展開を探っていたと思います。
- 荒野も同様で、時間経過と共にブルーノメンデスの脇を抜けるような、普段はあまり見せないドリブル(conducción)を試みるようになる。福岡は基本的にパスのインターセプトを狙っていることもあり、conducciónに対しては、やや対応が遅れます。カウエか前が出て対処するものの、出てきた荒野と受け手の駒井、シャドーのすべてを2人だけで管理することは難しくなります。
- もう一つ、チャナティップ周辺の現象にも触れておきます。ここ2年で稼働率も低下して、すっかり影が薄くなった?チャナですが、スタメン復帰2戦目にして、この試合はいい意味で既視感のあるチャナティップのプレーが久々に見られたと思います。
- 札幌はアンカー(この日は駒井)が最終ラインにが下がるなどして、ピッチ中央にスペースを作ったり後方の人を増やすやり方を好みますが、これは2019シーズンあたりのチャナティップ(中央のスペースに登場して前を向いて、最終ラインと前線をlinkさせる)とジェイ、鈴木武蔵(2人でゴール前で脅威を与えられるfinisher)といった選手とセットだと私は思っていて、チャナ不在で中央での仕事を代替する選手がいない中で駒井が後ろに下がっても、単にケツが重くなって中盤レスなフットボールになるだけだったのですが、久々にチャナが中央で受ける→そのまま前を向いて敵陣に突進して相手DFを引きつける、というプレーがこの試合では発現します。
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久々のチャナティップロール |
- 福岡はマッチアップ的には奈良がチャナティップ番になりますが、チャナティップは殆どボランチみたいな位置まで下がるので、CBの奈良がそこまで出ていくのは現実的ではない。だから奈良はカウエか前寛之に任せたいのですが、この2人は他にも役割があるので、前半途中に奈良とカウエが言い合いをしていましたが、多分チャナティップが動き回るとどっちが捕まえる?という議論をしていたのでしょう。
- ただようやく切れが戻ったチャナティップを止められそうな選手は福岡にはいなくて、そのドリブル突破から2枚の警告を受けるなど、福岡DFは手を焼いていたと思います。
ゴールからの逆算:
- チャナティップの存在(中央で相手を引き付けたうえでパスを出せる)によって、ようやく札幌は福岡のゴール前でスペースができそうな雰囲気が出てきます。といっても、福岡のような整備されたチームが与えてくれるスペースというのは一瞬で、その時に出し手と受け手の意図が一致する必要がある。
- 前線2人のうち、ジェイはこのスペースを狙うというか、対面のDFグローリとのマッチアップに集中していたと思います。この役割自体は重要で、1on1の性質が強くなるここでジェイが勝てれば簡単に敵陣侵入できますし、グローリを引き付けることで福岡のCB3人のカバーリング関係を寸断しやすくなる。
- となると、フィニッシャーはかつての武蔵の役割…右シャドーの小柏。前半、青木のスルーパスに抜け出してGKと1on1になる決定機が1度ありました(しかしかわしたところで滑ってしまってシュートミス)。が、チャンスはそれくらいだったのと、また小柏がチャナティップと同様に下がってくると前線でフィニッシャーがいなくなるのがこの形の問題点で、これは武蔵がいたころからずっとそうでした。
- その意味では、小柏、ジェイを含めた前線のバランスは、まだ組み合わせとして最適化されていないないし、チームとしても誰にどう点を取らせるか逆算している感じもしないので、チャナの復活があったとしても札幌はゴールまでは遠い印象でした。
3.試合展開(後半)
予定通り、やや早め:
- 福岡は後半からカウエ→中村、杉本→山岸。おそらく前線の3人はどこかでフレッシュな選手と替えることはゲームプラン通りで、杉本の特徴が活きそうな展開にならないのもあって早めに山岸だったのだと思います。カウエについては期待が高かったものの、やはりチャナティップ周辺のケアを考えての早めの交代だったでしょうか。
- やはりピッチ中央の、カウエ→中村(前が右に回って、中村が左)の交代はピッチ内の雲行きを変化させます。中村はカウエほどのパワーはないですが、チャナティップの進路を塞ぐように立つことで、ボールは回収できなくともスピードアップを阻害しながら札幌のミスを誘います。50分、中盤でボール回収からの渡の裏抜けで菅野と1on1の決定機がありましたが、スルーパスは中村からでした。
- 62分にはブルーノメンデス→ファンマ。渡→金森で前線3人の入れ替えが完了します。
- 同じタイミングで札幌は小柏→柳。後半、福岡が中村投入で、撤退時に安定感が出たというか、スペースを消した時の対応がより安定してきたので、札幌は長いボールを放り込むことが徐々に多くなります。
- これは、あまり小柏が活きない展開でもあるし、金子も普段のように敵陣高い位置で仕掛けることができない。ウイングバックは、移動してからボールを受ける必要がありますが、5バックの福岡の金子への寄せが早いため、金子は高い位置で仕掛ける準備ができた状態で受けることが殆どない。低い位置からのアーリークロスを放り込む存在に成り下がっていました。この辺りを勘案し、小柏と金子どちらの席を残すか?の検討の末の判断だったのでしょう。
- その後は戦術的にはそんなに特筆点がない展開でした。形が強固なのは、ひたすらターゲットに蹴って拾って、を繰り返す福岡の方で、高嶺CBの札幌はどうしても後手に回り、そこからの逆襲も時折チャナティップや金子がしかけるものの、終始、散発的だったと思います。
4.雑感
- シュート本数は札幌5に対して福岡13。前半は小柏の1本のみでした。スペースを作って攻撃する意識が希薄なチームなので、5バックでスペースを消されると「つまらない試合」になるのは、ホーム広島戦と同じだったかなと思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
最近コンサドーレが好きになり試合を観戦しています。
返信削除鋭い戦術眼、分析に大変感服しております。
質問ですが、アジアンベコム様のような戦術眼を身につける方法、参考書などありましたら
教えてください。よろしくお願いします。
恐縮ですが、自分ではこのようなフレームワークを持っています。
削除https://1996sapporo.blogspot.com/2020/03/2020.framework1.html
ここに至るまでは、いろんな本を読んだり人の記事を読んだり、後は定期的に、どこぞのチームでプレーしながら、ひたすら記事を書く(アウトプット)のは6年続けています。
本についてはこのあたりをいくつか見て、「ふーんこんなこと考えているんだ、こういう考え方もあるんだ」ぐらいに軽く捉えていただいて、後は継続的にサッカーに興味を持ちつつあれば、自分のスタイルが見えてくるかもしれません。
人の言ってることを完コピや鵜呑みにはしなくていいと思います。
アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます
https://www.amazon.co.jp/dp/B07SMP23G1/ref=dp_kinw_strp_1/358-5128108-2457836
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▼実は読んでないけど興味はある
FOOTBALL INTELLIGENCE フットボール・インテリジェンス 相手を見てサッカーをする
https://www.amazon.co.jp/dp/B07RWH3JH1/ref=dp_kinw_strp_1
「サッカー」とは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論
https://www.amazon.co.jp/dp/B08F1X7XTN/ref=dp_kinw_strp_1
丁寧に教えて頂きありがとうございます!
削除私も学習をして自分なりの戦術眼を身につけたいと思います。