2021年9月1日(水)JリーグYBCルヴァンカップ 準々決勝第1戦 北海道コンサドーレ札幌vsFC東京 ~10ヶ月の固執~
1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
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スターティングメンバー&試合結果 |
- FC東京はブラジリアン3トップがベンチスタートで、森重は帯同しているらしいですがメンバー外。右SBには、8月のリーグ戦ではまだ信頼を得ている途上っぽかった鈴木がスタメンに昇格しています。
- 札幌は、チャナティップが試合直前に内転筋?の負傷で離脱(さすがに何度目だ…)、ジェイが急遽スタメンに入ったとのこと。
2.試合展開(前半)
ゲームプランの推察:
- 互いの指向性、そして札幌ホームの1st legというシチュエーションからいって、基本的には札幌のボール保持、FC東京のボール非保持、ここを見ていけばだいたい展開は押さえられるかなと思います(水曜なのでそれで勘弁して下さい)。
- メンバーから考えても、FC東京は後半にまだ「変身」を残しており、札幌にはそうしたプランらしいものはなかったようなので、見かけ上は札幌が好きなプレー、やりたいプレーを序盤から繰り出していたと思います。
- ただ、ルーカスを先発起用、そしてジェイもチャナティップ負傷に伴ってスタートから入った時点で、序盤から飛ばしてリードを奪っていこう、みたいな考えがあったのかもしれません。この裏付けをピッチ上の現象から探すと、とにかく札幌はボールを持ったら右のルーカスフェルナンデスへロングフィード、そしてルーカスの仕掛けからのクロスボール。ひたすらこれを繰り返していて、結局これが一番確度が高い、いやクロスボールからのヘディングシュートは実は確度はそんなに高くない攻撃なんですが、ルーカスとジェイという2人の能力への信頼を考えると、札幌的にはこれが一番やりたいプレーだったのでしょう。それを、罠を張っておいて勝負所で繰り出すというより、ひたすら繰り返していたのは、ポジティブに見ればこの試合に懸ける思いの表れだし、とにかく先行したい、というゲームプランだったでしょうか。
- しかしながらし、14分に東京が左サイドからのFKで、三田のクロスに渡辺が完璧なヘディングシュートで先制し、このプランというか思惑は早々と瓦解することになります。
180分のスタート:
- こうした互いの思惑を踏まえて形を見ていきましょう。
- FC東京は立ち上がりは1-4-4-2でセット。あまり前線から追いかけるつもりはなく、またSHは前に出て2トップの脇を守るというより、札幌のSB(田中と福森)をマンマークっぽく見ている。
- ですので、福森は初期状態だとあまりフリーにならなそう(三田が監視している)のですが、序盤からよく見られた現象が以下▼で、
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東京の2トップ脇から持ち出す |
- 札幌のSBは高い位置をとる。これは普段からミシャが田中駿汰に要求しているそうで、前にも言いましたが「相手がマンマークなら対面の選手を押し込める」から。ただし世の中にはマンマーク以外の守り方もある、ということを皆さんは押さえておきましょう。これが東京の守り方だと、三田と田川を押し込むことに効果ありでした。
- そして田川が下がったスペースに頻繁に、中央から流れた宮澤がドリブルで運んだり、何らかルーカスにボールを届けようとします。田中がこの時、宮澤と被らない位置に移動したりするので、田中と宮澤が流れの中で頻繁に入れ替わっていたのはこれが理由の一つです。
- FC東京の対応はいつもと同じで、たとえ中央にジェイがいようと、スペースを消しておけば供給できるクロスボールの質も限定されるし、それは長身のGK波多野がキャッチできるから、引いて構えてマークさえ決まっていればとりあえずはOK。なので、ルーカスにはボールは届けられて、そこから小川が対処、という形だったと思います。
- そしてFC東京は、左の田川と、右の三田は時価経過と共にタスクの違いが確認できるのですが、三田は田川よりもMF的な役割の性質が強めで、福森が引いたり自由に動き回ったりしたときはついていかず、青木や安部がスライドしたり前に出た時には、三田が絞ってカバー、というタスクが確認できる。
- ですので福森が、主に低い位置でイレギュラーなポジションをとると、FC東京としては、「そこからなら流石になにもできないでしょ」(いや、ドームではやられたけど)みたいな感じで、福森がルーカスにサイドチェンジを蹴っ飛ばすのはOK、という対応でした。
- 札幌はこの左→右のルーカス、の展開がバレバレだとしても、とにかくメインキャストにボールが渡ればOK、みたいなチームカラーなので、この点ではお互いのハレーションはまだ起こっていなかったと思います。
- 札幌は結構飛ばしていたというか、セットされたボール保持よりもトランジションからチャンスをつかんでいました。10分にマンマークから高萩のところで高嶺がインターセプト、そのまま勢いよく持ち上がってミドルシュート(右ポスト直撃)。
- そして21分にゴールキックの競り合いから高嶺が拾って金子へスルーパス。金子が倒されたFKを福森が直接狙い、波多野がはじいたボールをルーカスがクロス、田中のヘッドで同点。いずれも高嶺が起点になりましたが、彼がマークしていたFC東京の高萩がそこまで動きが無くて、高嶺としては得意のボール狩りを狙うにあたってやりやすかったのはあったでしょうか。
- 田中の同点ゴールの時の、札幌の選手のガッツポーズや喜び方は結構なもので、ミシャはかなり闘魂を注入したんだろうなと思いました(タイトルのチャンスは人生で何回かしかないぞ、みたいな?)。
前線守備の変化:
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田川が前に出てきて2トップっぽい形で前線守備 |
- 田川が前に出て、永井・高萩と並ぶようなポジショニング。どうやら宮澤を牽制していたようで、中盤は田川が抜けてそのまま3枚で守っていました。
- 札幌が右サイドに出したら、ルーカスだろうと田中駿汰だろうとSBの小川がスライド。ただ、この時の全体の寄せと田川のプレスバックは迅速で、出された時のリスクヘッジはできていたと思います。
- これが効果あったかというと、札幌は詰まると躊躇なくジェイへのロングボールで回避。もしくは、左の福森のサイドには田川ほど守備を頑張る選手がいないのもあって、結局福森からルーカスへのサイドチェンジはまだ有効でした。
- 東京としては、ここで圧力を高めてカウンターを狙っていたと思いますが、そこは思惑通りにはならず、札幌はうまくやり過ごせて後半に突入します。
3.試合展開(後半)
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- 互いにメンバー変更はなし。東京は後半頭から、再び1-4-4-2に守備を戻しています。
- ここで東京の攻撃に関して言うと、基本的には引いてボールを回収したら、高萩にまず預けてキープ。この時、高萩は札幌ゴールに背を向け、永井は裏にスタートしているのですが、高萩が反転して永井に出すのは、札幌の高嶺を背負っているので難しく、東京は2列目以降のサポートが欲しいところです。
- それは主に田川が担っていて、高萩に当てて田川が後ろから出てくる、という展開が多く、田川は永井と2人で完結する攻撃を意識して、大外から中に入るようなコース取りをしていたと思います(これも田中駿汰が中央寄りになる要因の一つ)。
- 札幌は後半あまりルーカスにボールが入らず、そうなるとだいたい福森が前線に放り込んでプレーが切れます。
- ちょうど先日のリーグ戦、FC東京戦のこれ▼を再現を狙ってるわけではないと思いますが、あとボールの質は違う(こういう低くて速いキックではなくて頭を狙っているような)んですけど、同じような位置から同じような位置に蹴っていて、それをチームとして容認しているのは、福森なら100本に1回くらいはこういうのをかっ飛ばしてくれるという劇薬が染みわたっているのでしょうか。
- カウンターを狙うチームのFWが永井と田川。こののどかな環境(スピードはありますが破壊的なアタッカーではないという意味で)は58分で終焉し、レアンドロ、東、そしてディエゴオリヴェイラが、それぞれトップ下、右サイド、FWに入ります。
東京の圧力:
- 東京の3枚替え以降はやや東京ペースというか、それまでと違って東京がボールを持つ展開が増えていきます(彼らは非保持が強いチームですが、ボール保持でも何かしらできる選手が本来は揃っているので東京ペースと言っていいでしょう。札幌には都合が悪い展開ですし)。
- この要因をいくつか挙げると、①前線に強い選手が入って、シンプルにボールを預けた時に札幌(そんなに強いDFがいない)は簡単に奪うことができない。前半に挙げた高嶺が高萩からインターセプトしてシュートまで、みたいなのは、相手がレアンドロだと成立しずらいし、ディエゴオリヴェイラと宮澤のマッチアップも一緒です。
- FWが簡単に負けない、となると、札幌は下がっての対応が多くなって全体が押し下げられ、②セカンドボールも東京が拾うようになっていきます。
- そして③フレッシュな選手は前線で走り回れるので、GK菅野がボールを持ったときに追いかけ回す守備も熱心になる。
- 札幌は蹴るだけの数分が続いて、東京の3枚替えから7分後、65分に菅→ドウグラスオリヴェイラ。ドドちゃんに熱心にミシャ&2人の通訳で指示を送っていましたが、恐らく押し込まれているのでキープするとか簡単にボールを失わないでくれ、みたいな指示があったのではないでしょうか。
- そしてこの交代で金子が左のWBに回って、寧ろこっちがゲーム中で最大のトピックだったかもしれませんが、それは少し後で説明します。
- 東京の選手交代後の話をします。三田と東ではまた選手特性が違うのですが、全体バランスとしては東京は、左に長い距離を走れる田川を残しているのは共通している。東は三田よりもよりバランスを意識した働きができることと、右利きの東が右に張ることで、福森の周辺のスペースを使いたいとの意図があったのでしょう。東がサイドからスタートする形から東京はたびたび前進を図っていました。
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東のサイドから前進 |
- ボール非保持に関しても、東が入ってさらに非対称性というか役割の違いが強まっていて、田川は中央の2人と連携して前で守る(田中駿汰だけでなくて、宮澤にもプレッシングに行く場面があったり)。東は寧ろ安部と青木とのチェーンを意識していて、また福森がランダムに動く傾向がこの試合は強かったですが(好きなところに動いて自分の判断で砲台としてフィードを蹴る感じ)、東は福森を監視していたと思います。
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東は福森を監視 |
10ヶ月間の意味:
- 札幌の得点は80分、この数分前からまたルーカスの右サイドでのサイドアタックの場面が増えていて、この時はスローインから、ルーカスが引いたところに田中駿汰がオーバーラップ、田中の(かなりの)マイナスな折り返しを福森→ジェイのポストプレー→荒野が走り込んでシュート、というもの。
- またルーカスの右サイドが活発になった要因の一つとして、金子を左に移したことがあると思っています。左利きの金子を右で使うと、必ずカットインを意識したボールの持ち方になり、また彼はシャドーや2トップの一角であっても、(ルーカスがいる)右サイドにわざわざ移動してきます。
- 当然ながらボールは1つしかありません。ドリブルで最終的に勝負するとしたら、ルーカスと金子が同じサイドにいても1人はあまり意味のないものになり、また選手が2人いれば通常相手選手も2人に増える。これはドリブラーが暴れるスペースがなくなることを意味します。
- 結局「5レーン」とかはこういうシチュエーション…自由に動き回ることで味方のチャンスをつぶしかねないときに交通整理をするために簡略化された(誰でもわかりやすい)ルールづけの一つで、5レーン自体は戦術でも何でもないのですが、金子もそうですし、岩崎悠人のような自由に動きたい選手を制御してチームに機能性を持たせるための手段の一つです。ただ金子の場合は、シャドーというほぼ5レーンに近い言葉で役割を指示してもルーカスのプレーエリアに入ってきてしまうので、今回のように左に移してしまうのが最善なのかもしれません。
- もう一つは、左利きのウイングバックを右で使うと、右足が得意でない選手なら基本的にプレーのフィニッシュが左足に置いてのクロスボールなりシュートしかない。
- 金子の場合は、たまに切り返して縦突破からの右足クロス、もありますが、それは得点に結びつく見込みが非常に低そうなもので(実際彼は2シーズンでアシストゼロ)、とにかくファーストチョイスがカットイン、中央に入っていくプレーなので、攻撃の横幅が非常に狭くなる。ピッチの特定のエリアしか使っていないので相手は守りやすくなります。
- ジェイも中央を固められているとボックス内で背負ったプレーなどは難しいですが、この時は田中のオーバーラップ、金子が左で張っているので札幌にしては非常にワイドな攻撃ができていて、東京の堅い守備の中央を割ることに成功した一因だったと思います。
4.雑感
- 昨年11月の「等々力大勝利」以来、ミシャはルーカスを左で使ってでも金子の右ウイングバックでの起用に固執してきましたが、等々力ではvs川崎を意識したゲームプランもあって非常にはまったこの戦術は、それ以外…結局ルーカスを左で、金子を右にして何がしたいのかよくわからないこともあって殆ど機能していないまま数ヶ月が過ぎました。
- 金子が左に入ったのはかなり久々なのですが、シャドーなり3トップのウイングなり、前線にスペースがあってカットインできるシチュエーションならともかく、ミシャのチームのようにスペーシングに難があるサッカーなら彼は左で使うしかないでしょう。
- カップ戦については、2戦目は東京がメンバーを替えてくる(ブラジリアン3トップをスタメン)と予想されますが、カウンター主体のチームに対してリードした状態で2戦目が始まるということを意識して、落ち着いてやるしかないと思います。その意味でも、金子のようなボールを持ったらとにかく突っ込む選手(彼はプレーが不規則なので図や文章で説明が難しいです)は、できれば制御しやすい位置に置くのがいいので、また左サイドで使ってほしいとは思うのですが。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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