2021年6月14日月曜日

2021年6月13日(日)YBCルヴァンカップ プレーオフステージ第2戦 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~日ごろの行い~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • ポステコグルーが正式にセルティックへの栄転が決まり、松永英機アカデミーダイレクターが暫定監督に就いた、マリノスは、第1戦との違いは、右SBの小池→松原。のはずが、ティーラトンがキックオフ直前に体調不良で小池が左に入ります。そしてオナイウがA代表に追加召集された前線は、天野が入り、マルコス ジュニオールがトップにスライド(だったと思います)。
  • これまで●●年の人生で様々な暫定監督による指揮を見てきましたが、"9番"としてレオ セアラが起用できる状況下での、この采配はかなり尖ったものだなという印象があります。なかなか全てを把握していない状況下で思い切った采配は難しいと思うからです。という旨?の質問が試合中、実況アナウンサーから清水秀彦解説員に投げられた際は、なぜか不機嫌おじさんが爆発していましたが。
  • 札幌は、第1戦で負傷交代した深井、小柏がやはり欠場で、まず駒井を中盤センターにスライド。そして第1戦では両アウトサイドを務めていた青木と金子を前線に配置し、3日前に天皇杯に出場していたルーカスと菅をスタートから起用でやり繰りします。

90分間の後半戦:

  • アウェイゴールという特殊なルールはありますが、これは180分のゲームのうちの90分間の後半戦です。サッカーはミスが前提の競技なので、かならずどこかで1点が入る、は根拠のない言いきりですが、必ずどこかでミスやアクシデントは起こりうるため、特にこの2チームのマッチアップであれば、0-0のスコアでアウェイゴールが試合を決める、ということはまずは想定しなくていいからです。
  • もっともこの試合に限った話ではないですが、最終的にサッカーは1点多く相手よりもスコアを獲得していればそれでいい。ゴールは「いいプレーをしていればどこかでついてくる」と考えると、まずはいいプレー…マリノスをゼロで抑えてチャンスを待つのが基本線だったでしょう。
  • このことを考えると、札幌のこのゲーム最大の焦点は、深井抜きでどうやってプレスをかけてボールを回収するか。その答えが、荒野が下がり目で岩田をマークし、金子と青木は前線で2トップ気味に配置することだったと思います。

  • 対するマリノスは、普通に考えれば、このスタメンだと、天野とマルコスジュニオールでスペースを作って、そのスペースを活用するのは仲川。後半、同じタイミングでレオ セアラと、クロスマシンの水沼が投入されますが、この2人を使ったフィニッシュよりも、仲川のスピードで勝負した方が札幌相手には刺さる(かつ、マリノスの視点では0-0で推移していい)、との判断だったのでしょう。

2.試合展開(前半)

一瞬の判断:

  • 7分にいきなりゲームの前提が覆る…菅のクロスを畠中が触ったオウンゴールで札幌が先制し、マリノスはゴールが必要になります。もっとも前提は覆っても、構造はそんなに変わらないということで序盤からの状況を追っていきます。
  • 札幌は、この前線だと問題になるのが、トップの選手にボールを当てて時間を作ったり、その時間を使って前進するということが難しい。荒野はこの日はFWというか、タスク上はMFのような振る舞いが多くなりがちで、青木か金子にFW的な仕事を期待したいところ。
  • ただ、金子はいつも通り、ボールが入ったらとにかく前を向いて突っ込むしかない(菅よりもよっぽど金子の方が突貫小僧なんですよね)。そんな中で、サッカー星人・青木がリーグ最高のDFの一人であるチアゴマルチンスに対して、体を預けてボールを隠したりしながら、やれることを探っていました。それでも限界があるので、札幌がボール保持から、FWを経由する形で何かを起こすのは難しそうな空気が漂っていました。FWを経由と言いますが、経由しないと攻め手は非常に乏しくなるのがサッカーです。
  • ただ、札幌の先制点は菅野から福森へのフィードが成功し、あまりFWが経由しない形から生じています。
  • 菅野のフィードを、福森が左サイドで仲川を追い越す位置で受け、得意の左足インフロントで体の右側に速いパス。中央の金子や、右のルーカスを経由して、最後は駒井の浮き球パスに菅が裏を取って大仕事を成し遂げますが、福森のパスがクリアされずに中央でマリノスが処理できなかったことに注目しましょう。
  • マリノスは、後方の4-2の配置で札幌の前線5人を監視し、前の4枚は札幌の4人+駒井にプレスのため前進守備で構える。高いラインを維持して押し込んでいこうとの意思が感じされます。実際、小柏がいない札幌の前線は「奥行き」がないので、徐々にマリノスが押し込む展開になる。
  • 一方、引いたときに、岩田と渡辺の脇にあまり仲川やエウベルが戻ってこない(そこまで勤勉には戻れない)設計になっていて、この先制点の際は、菅野の仲川を飛ばすフィード、福森の速い判断でのパスが刺さった格好でした。
マリノスの想定するマッチアップ

ドリブル三銃士:

  • 序盤、札幌に「いい形」がこの先制点以外にもあったとしたら、それは前線のドリブル三銃士…金子、ルーカス、青木が何らか前を向く形から。
  • 本来は金子のようなドリブラーに前を向いて、1試合のうちで得意な形を何回作れるか?という点が設計の根幹になるのですが、特にこの試合はターゲットがいないこともあって、ボールを丁寧に運ぶというより、普段以上にカオスな形から散発的にこの3人にボールが渡って仕掛けが始まることが多い。それでも、前を向くと、特に右のルーカスの仕掛けがマリノスを苦しめていたと思います。
  • ”カオス”はどこから発生したか。正直、図を作るほどの話ではないのですが、マリノスに対してマンマークで捕まえていけば、マリノスのMFはターンがあまりうまくないし、CBの畠中は第1戦でも指摘しましたが左足が使えないという、このプレーモデルのチームで左で起用されるには致命的な問題がある。
  • ですのでこの辺から、金子やルーカス、駒井といった本来前目の選手主体で、深井がいなくても簡単に前進させない…つまりは仲川と福森が勝負する形を簡単に発生させない対応ができていたと思います。
  • マリノスは、前半この局面でマルコスジュニオールがほとんど画面に登場しないので、天野がトップ下に近い形だったでしょうか。もしかすると、マルコスと高嶺のマッチアップを回避する狙いもあったかもしれません。ただ、天野はマルコスほど可動域が広くなく、マークを剥がす観点では札幌としてはやりやすい。ですので、札幌が高丘を深追いしすぎて1列目がズレる、などがなければ、何かが起こる気配は薄めでした。
問題なく捕まるバックライン
  • 13分に小池からボールを回収し、ルーカスの折り返しを荒野がボックス内で空振り、というビッグチャンスを迎えましたが、畠中はこの時も左足でトラップして、札幌のDFから遠い位置にボールを置きたいところです。高丘は速いパスを出していたので、それは、「勢いを殺さずに左足側までボールを伸ばしてからトラップ」というメッセージにも感じられましたが。
  • 札幌の対応に苦戦することがわかっていたから、なのかもしれませんが、この試合は、高丘のロングフィードの割合が今シーズンのこのカード3試合で一番高かったように感じます(evidenceはないですが)。
  • が、だとしたらマリノスも札幌同様、ターゲットがいないことがマイナスに働いていて、蹴ってくれるなら札幌としては楽だな、という印象でした。札幌は前線にはターゲットがいないですが、サイドのDFに蹴るのは以前から共通理解があって、菅野のフィードの方が高丘よりも効果的だったと感じます。

必然の展開:

  • 20分前後からマリノスが札幌陣内でプレーする時間帯が増えます。これは、札幌は引いて自陣で5バックで守った後にクリアで終わるとボールを回収できないから。ボールを回収できないのは、マリノスのCBと競る役割の選手がいない、もしくは青木が頑張るしかないから。
  • このあたりは、FWとしての金子の貢献度の低さが目につきます。はまった時の爆発力というか、ドリブル突破と左足のシュートは持っているのですが、それはスペースがある間延びしたゲームならともかく、1点を争うゲームになると1試合で披露するチャンスは殆どない。90分で何ができるかがプレイヤーとして問われます。
  • 17分に中央でマルコスが落として、左から走り込んだエウベル。札幌はボールと反対サイドは絞って一時的に人を捨てることから、マリノスはトップに当てて、反対サイドを最終的に使うのは意識していたように思えます。
  • 32分には中央からマルコス。これも菅野が触って、押し込まれながらも札幌リードのままラスト45分に突入します。


3.試合展開(後半)

撤収の準備だ:

  • メンバー交代なしで後半開始。いきなり右クロスに仲川がヒールで合わせますが、菅野はこのプレーを読んでいて足でセーブ。
  • 6分にCKから菅。これはもう展開とか関係ないと言っていいでしょう。
  • こうなると札幌は早めに撤収を準備します。その前に55分、マリノスがレオセアラ、水沼、扇原の3枚替え。水沼は非常にわかりやすいメッセージです。札幌は58分、岡村→荒野と青木→ドウグラスオリヴェイラ。後者の意図はわかるとして、荒野はコンディションの問題もあったのでしょうか。変えるには早い気がしますが、水沼が入ってクロスボールが多くなるとみて、ファーサイドを守る岡村の投入は理解できますね。そして駒井も高嶺も下げられないとなると荒野だったのでしょうか。
  • 61分に、その警戒していた水沼からではなく、エウベルのクロスが流れてファーで水沼。引いたときに大外のウインガーをそのまま左右のCB(この時は岡村)に任せるか、WB(ルーカス)にスイッチするか曖昧な印象がありましたが、エウベルが右足でマイナス方向に持つと猶更そのギャップは突きやすかったかもしれません。
  • 札幌は70分に金子→柳。個人的には、ドウグラスオリヴェイラは1人だと奥行きも、ターゲットとしても難しいので中島の出番がありそうだと思っていましたが、柳はターゲットとしての期待もあったでしょうか。

個人技爆発:

  • 77分にマリノスは岩田→樺山。トップのすぐ背後に入って、マンマークの札幌は駒井が更に下がっての対応を強いられます。
  • それでも後はゲームをクローズするだけ。ドドちゃんの頑張りからボールを残して、個人技が爆発したのはドリブル三銃士のうちピッチに残っていた金子…ではなくて、札幌のスーパークラック・ルーカスフェルナンデスでした。

4.雑感

  • 2試合を通じてちょっと慎重すぎる、仕掛けが遅い印象のマリノスに対して、ここぞのところでスーパーゴールが2つ飛び出す、我々の日ごろの行いの良さが勝敗を分けた最大のポイントだったでしょうか。特に2戦目は札幌に小柏もアンデルソンロペスも不在な中で、マリノスの選択は失うものが多かったように思えます。ところでルーカスを左で使う意味はなんでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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