2020年10月31日(土)明治安田生命J1リーグ第25節 ガンバ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~後は決める「だけ」?~
0.スターティングメンバー
|
スターティングメンバー&試合結果 |
- 札幌の菅が試合2日前に新型コロナウイルスに感染したと公表され、Jリーグのプロトコルに加えクラブとしても独自の検査等、対応を実施した上で試合が開催されました。
- 札幌は菅の代役に白井、最終ラインには出場停止処分明けのキム ミンテが復帰。ジェイを負傷で欠く前線にはドウグラスオリヴェイラを起用し、出場停止処分の第6節以外全ての試合に先発していた荒野がベンチスタート。
- リーグ戦ここ9試合を8勝1分と絶好調(つまり、9月の厚別での対戦以来負けていない)のガンバは、トップの宇佐美と組む選手を使い分けている以外は、このベストメンバーの起用をほぼ続けています。そのトップは、アデミウソンがピッチ外のトラブルでメンバー外。
1.ゲームプランの推察
- 遂に2位まで順位を上げてきたガンバ。その原動力は宮本監督の推進する(本心ではないかもしれないですが)リスクを徹底してコントロールされた試合運びにあります。得点を奪うために、ゲームのどこかのタイミングで一気にオープンになる傾向のある札幌相手ということで、基本的にはこの日のガンバは”待ち”だったと思います。
- 一方の札幌。現状は複数得点を期待できるチームではなく、ここ数試合は一時期のハイプレス・極端なオープン展開路線は落ち着いています。ガンバ相手だと、アデミウソンはいないにせよ、カウンターは脅威になるので十分警戒してゲームを進めたいと考えていたと予想します。但し、負傷のジェイを欠く状況でこの2トップを選択すると、途中投入でジョーカーとして起用してきたドウグラスオリヴェイラをスタートから起用せざるをえない。後半勝負どころで投入できるストライカーがいない、というのは、ドウグラスのパワーと突進力を活かしてオープンな展開に持ち込む、ここ数試合の展開とは違った戦略が求められることになります。
- なお、両チームとも60分でキープレイヤーを複数交代させているのは、火曜日(祝日)の試合を見据えた予定調和だったのかと予想します。
2.ゲームの基本的な構造
2.1 コンサドーレのビルドアップの目的
- 一時期の極端なハイプレス志向が沈静化し、”常識的なサッカー”に収束しつつあるのでこういう話を改めて書いてみます。結論としては、これはルーカスフェルナンデスに勝負させることです。
- サッカーは結局最後は個人のクオリティで勝敗が決まります。ですのでチームにはどんな選手がいて、どんなやり方ならゴールを奪える・ゴールを守れるか、から逆算して設計するのが原則だと。以前から書いている通りです。
- 札幌においては、現状のスカッドで最も決定的な仕事を、安定的に繰り出せるのが右のルーカス。ルーカスの突破が成功しクロスボールが供給されるシーンは大きなチャンスになります。
- ここで「安定的に」とありますが、例えばアンデルソンロペスも、何試合に1回かは、オープンなカウンターからドリブル突破などで決定的な仕事をやってくれるポテンシャルがある。が、それが安定的に発動するか、そしてチームとして形を作れるかと言うと、アンロペのクオリティが発動するには色々と解決しなくてはならないハードルがいくつかある。
- ですので、ルーカスのドリブル突破が、現在のチームでは攻撃の核に位置付けられています。ドリブル突破は、成功すれば相手のDFを無力化(≒フリーな状態に近い)してラストパスを供給できるという非常に大きなアドバンテージを取ることができます。
- という具合にルーカスはチームにおいて非常に重大な役割を担っており、かつその代替性がある選手は僅かなので、PKを失敗した程度ではミシャのルーカスへの信頼がゆるぎないのは当然です。サッカーを知らないゴシップ的な思考の方は、ルーカスが干されるとか言っていた気がしますが。
a)ラスト30mの設計
|
札幌のビルドアップの最終目標 |
- (速攻は別にして)なんらかの形でボールを保持しても、最終的にはルーカスに渡してから相手のDFを崩すプレーが始まることを念頭に置いて、チームは設計されています。
- 味方がボールを動かしている間に、メインキャストのルーカスは高い位置を取ります。ゴールを奪うという最終目的達成のため、彼と共に、高い位置…最前線に最終的にいなくてはならないのがFWの選手。この試合は2トップ気味の選手起用でしたが、1トップ2シャドーの形なら左シャドーもゴール前でターゲットとなることが望ましいです(この点では、チャナティップや駒井だとネックになる)。
- そして右サイドのシャドー/インサイドハーフである駒井、DFの田中も役割が決まっています。
- 前者はルーカスを警戒するDFのポジションを見ながら、中間的なポジショニングをとる。どんだけ優秀なドリブラーでも3人にマークされると難しくなります。そういう時は闇雲に勝負するのではなく、大外のドリブラーが相手選手を引き付けている状況を利用し、別な形でフィニッシュを狙うことの方が余程効率がいいですし、期待値が高い。
- その意味で、駒井はルーカスに渡す右サイドアタックにおいて、「プランB」を担っています。大外のルーカスを警戒して相手選手が集まれば、その周囲にはスペースができやすい。ルーカスが相手を引き付けて駒井(フリーになりやすい)にパスが成功すれば、その瞬間、「駒井がルーカスよりも更にゴールに近い場所・角度でフリーでボールを持っている」ことになります。この状態が作れるなら、ドリブラーが突っ込むか、パスをするか、どのような選択を取るべきかは明白です。そしてフリーになりやすい駒井のポジションに、このようなシチュエーションで仕事をしてくれるクオリティのある選手が求められることになり、元々攻撃的なポジションが得意な駒井はその要件を十分に満たします。
- よくいう「5レーンが重要」「ハーフスペースが重要」というのはこういう話で、ピッチ上に絶対的に引いた縦軸横軸自体に意味があるわけではなく、盤面の構造上、セオリー通りに攻撃を組み立てたらこっちが空くよね、という部分を極めて簡略的に説明しているものにすぎません。
- 田中の役割は、ルーカスを高い位置に置いて仕掛けに専念させることです。
- どれだけ優秀なドリブラーでも、敵陣1on1での成功率は5~6割程度というデータがあります。リスクを負った「仕掛け」は一定の割合で、ボールロストという形で期待されるリターンの代償が返ってきます。この4~5割発生するボールロストをどれだけコントロールできるか、がチームの機能性を左右します。
- ルーカスが仕掛けて失った時に、背後に誰もいなければガンバはそのスペースを使ってカウンターができる。札幌の誰かがカバーリングしない限り、ゴール前までフリーパス。
- 田中の重要な役割は、ボールロスト⇒即カウンターでゴール前、という非常にリスキーなシチュエーションになることを回避することです。ボールロストの瞬間に、封殺できそうなら前に出て対応、無理ならディレイしながら味方の攻撃→守備への切り替えの時間を作ります。
- 白石区が生んだ人気者・進藤が出番を失っている理由も、ルーカスとの相性もしくは後方支援能力によって説明がつきます。進藤はこの後方支援の役割よりも、自らゴール前まで侵入するような、ルーカスの前方でプレーしたい意識が強いので、彼とドリブラーが右サイドで並ぶとバランスはあまりよくない。勿論進藤に駿汰みたいなプレーをしてくれ、と要求することもできますが、そうなると田中の方がパフォーマンスは上、という判断なのだと思います。
b)ゴール前の設計
- 基本的にクロスボールはファーサイドを狙います。これは札幌に限ったことではなく、サッカーの普遍的な話として、中央にDFを配置しているなら、ファーに蹴れば相手のDFの視界の外でボールにアタックできる、DFを越えるクロスなら、高さで勝てなくても合わせられるといったメリットがあります。
- そして、仮にクロスが相手のDFを越えて、DFが処理できない場合は、ヘディング以外でのシュートに持ち込めるメリットもあります。クロスボール自体は非常に有効な攻撃なのですが、ヘディングシュートは実は非常に得点の期待値が低いプレー、ということはデータで証明されています(どっかから後でデータは引用してきます)。足で撃つか、頭で撃つか、どっちがミートしやすくて強くヒットできるかを考えたら明白ですよね。
- ニア~中央だと、クロスがピンポイントでDFの間に落ちるか、DFとGKの間にスペースが合ってそこに蹴るか、空中戦で明らかに競り勝てる選手に蹴るか、立っているターゲットにピンポイントで蹴るか、といったパターンでしか得点できません(但しニアに蹴って1人が飛び込み、相手のDFを引っ張る動きは有効)。
|
札幌のゴール前の設計 |
- となるとファーサイド、右クロスなら左サイドに、得点力のある選手を置きたくなります。だから左シャドーはターゲットにもなれることが重要です。前節はジェイとアンデルソンロペスの2トップで、ジェイが左FWに入るポジショニングだったのはこの点では有効でした。
- ジェイが使えないこの試合では、ドウグラスオリヴェイラを置いていますが、彼はあまり空中戦が得意ではないように見えます(予想ですが、足元が好きなのでフットサル出身なのでは?)。ただ、それでも他の攻撃的な選手…中野やチャナティップをここで起用するよりは、190センチクラスのドウグラスオリヴェイラの方がマシ、ということ、他の仕事との兼ね合いもあってスタメン起用だったのかと思います。
c)ビルドアップの設計
- 最後にビルドアップの話をします。ここで「ビルドアップ」という言葉の定義について言及します。私がかつて16:30の鐘が鳴るまで公園でボールを蹴っていた頃はこんな言葉は存在していなかった気がするのですが、今日では色々な定義の「ビルドアップ」という単語が散見されます。
- 意味合いや意義を考えると、私はビルドアップとは「敵陣で崩しのプレーに移行するための形を作りながら、必要な選手・ポジションにボールを届けること」だと定義します。
- 札幌の場合、最終的にはルーカスが高い位置取りをして、彼へのパスが成功すれば一応はビルドアップが成功、と言えるのですが、なるべくルーカスがいい形≒ドリブルでの仕掛けやクロスボールでのラストパスを発動しやすい形でボールを預けることが、ビルドアップにおいては求められます。具体的に申し上げると、ルーカスのポジショニングもそうですが、相手選手をルーカスからなるべく引き剥がした状態でボールを渡したい、というのが札幌の狙いになります。
- 福森の黄金の左足は、上記の狙いのためにピッチ上に居場所があると言っても過言ではありません。
- 相手をボールサイドに寄せた状態でのサイドチェンジは、成功するとビッグチャンスに繋がりますが、相手DFが集まっているエリアをボールが通過するので、失敗のリスクもありますし奪われた時にはこれもカウンターを受けるリスクがある、非常にハイリスクハイリターンなプレーです。かつて、ザッケローニはリスクを嫌ってサイドチェンジはするな、と指示していた時期があります(主力選手との「話し合い」で解禁されましたが)。
- しかし福森の黄金の左足はそうしたリスクを矮小化できるだけのクオリティがあるので、勿論時にはミスもあるのですが、決まればビッグチャンスを1発で作り出せる魅力があります。これは別に特定のポジションで発動しなくても、福森がボールを持てるポジションどこでも発動できるということもあって、福森はフリーマンのような権限が与えられており、左サイドを中心に、自らがボールを持てるポジションを探し、このサイドチェンジを常に狙っています。
|
ゴール前までの設計 |
- 福森の左足以外にもルーカスに届けることもできるし、そのつもりでもあるのですが、ビルドアップに関しては特に有効なプレーということで、福森を中心にした設計だと見ることもできます。
- 本来左のDFは最終ラインからボールを運ぶ(相手の1列目を攻略する)役割がありますが、これは福森ではなく別の選手が担う必要がある。これはここ2年深井の役割でしたが、左サイドでボールを持つなら、左利きの選手の方が適すので、高嶺の重要性が高まっています。
- ウイングのルーカスと白井(いつもは菅)は、大きくサイドに開いたポジションを取ります。これは相手のDFを拡げて中央を使いたい、というよりも、ビルドアップの出口(ボールの逃がしどころ)を確保したいという意図が大きい。ルーカスは終着点でもあります。ただし、白井(菅)は福森の背後をカバーできるよう、常にポジションを修正しつつ、攻撃参加の判断は慎重に行う必要があります。
- 最終ラインは2人で同数マンマークが基本ですが、キムミンテは左サイドにスペースができやすい構造上、広くカバーリングの意識を持っています。
2.2 「成功率6割」の裏側
- イビツァ・オシム曰く「サッカーと人生にはミスがつきものだ」。「2.1」で優秀なドリブラーでも成功率5~6割と書きましたが、ドリブル突破の場面だけを見ても4割はボールロストが生じ、6割は札幌のチャンス、4割はガンバボールへのトランジションが生じることになります。これはドリブル突破だけにフォーカスした話で、ドリブラーにボールを届けるまでのボールポゼッションやビルドアップの過程一つ一つに、ボールを保持している側がミスによってボールを喪失するリスクは大小あれど潜んでいます。
- 宮本監督のガンバの現状は、この「4割」からそれ以上のパーセンテージにフォーカスしたチームになっており、言い換えれば相手のミスをいかに誘発するか、というところから設計されています。岡ちゃんこと岡田武史氏が「1-4-4-2でゾーンディフェンスからカウンターで攻撃するチームなんで3週間で誰でも作れる」みたいなことをかつて言っていたと思いますが、岡ちゃんがやりたくない、とするスタイルに寄っているとも言えるかもしれません。
- ガンバは特にルーカスフェルナンデスへの対応を徹底します。1on1なら福田でも厳しいとして、必ず倉田が中央を切るようなポジショニングで準備。ルーカスには駒井がサポートするので、山本は駒井がケアすることを徹底していました。これに、場合によっては、可動域が非常に広い井手口もボールサイドに寄せて刈り取り、奪った後は札幌のDFが空けているサイドのスペースを使って宇佐美、渡邉がボールを受けるところからカウンターを発動させます。
|
ガンバの札幌に対する対応 |
- ボールと反対サイドはセオリー通り捨てており、特にこれは札幌が左サイドで展開していても同様の傾向になります。ですので、「2.1」で示した福森のサイドチェンジ…これは、あらかじめサイドにルーカスのマーカーを置かれるとあまり機能しないのですが、ガンバ相手には有効な打開策になりえます。
3.序盤の攻防
- 序盤は蹴ってトランジションが多い、追いつかない展開から9分に札幌が先制します。この時もトランジションから福森が鋭い出足でボールを回収。そのまま流れの中でふらふらと中央にポジションを移し、キムミンテからの縦パスを受けて前を向きます。この時、ガンバはトランジションがあった関係で、前方の4選手は前への意識が強く、ブロックを組んで守れている状況ではない。
- この状況を福森は見逃さず、右のルーカスへ速く正確なサイドチェンジ。まさに「2.1」で書いたように、ピッチのどこにいても常にこのパスを狙っています。
|
福森からのサイドチェンジ |
- ルーカスが福田を引き付けると、駒井はその背後に走り込む。この時、ルーカスから駒井へのパスで、駒井があまり膨らみすぎないポジションを取れたことが次の展開に繋がります。
- そしてガンバは直前のトランジションの関係で、倉田と井手口の対応が遅れており、駒井とルーカスを福田1人で見る格好になっています。
- フィニッシュは駒井がコントロールからグラウンダーのパスをドウグラスオリヴェイラ。あまり膨らみすぎるとグラウンダーのパスでは難しいですが、そうはならなかったことでクロスボールに対して頭ではなく足でシュートできたことで得点の期待値が高まったと見ることもできます。
- ゴール前の2トップの動きとパスは決めていたパターンでしょう。ニアのロペスがDFを引き付け、その背後にはスペース(▼の白円)。ここにドウグラスオリヴェイラが走り、駒井のアシストも完璧に合った狙い通りのゴールでした。
|
札幌の先制点 |
- しかし16分にガンバがセットプレーの二次攻撃から、 渡邉の見事なポストプレーに井手口が走り込み、冷静に流し込んでスコアは1-1。これについてはセットプレーからの対応でしたが、札幌は徐々にラインが下がっての対応を余儀なくされます。
4.相手との対話
4.1 切り札は温存
- 飲水タイム後の札幌は、簡単にルーカスのサイドで勝負することを避け、ボールを大きく動かすことで「様子見」をしていたと思います。ガンバは引いて、プレスの開始位置を「ルーカスにボールが渡ったら」と明確に設定してきます。
- ですので安易にボールを渡すのではなく、ブロックの周囲を迂回するようにボールを動かすか、またはトップのアンデルソンロペスが右サイドで降りてきて、左利きの特性を生かして左サイドへサイドチェンジ。ここに、左利きの菅がいると選択は変わっていたかもしれませんが、白井はサイドチェンジを受けても無理に勝負はしなかったと思います。
- 最終的には、左の白井や福森に渡った後で中央のスペースを使って攻撃していました。選手としては回していたわけではない、という意識だったかと思いますが、特に急ぐ必要もないなら、中央で勝負しなくても、そのままボールを回していても良かったかなと思います。
- 一番惜しかったのは、34分に福森の右クロスに駒井のダイビングヘッド。バウンドが難しいボールでしたが、クロスはDFとGKの間で素晴らしいボールでした。ただ、頭で合わせるボールに結果的になったことで、これも得点の期待値的にはあまり高くないシュートシーンだったかもしれません。
4.2 ガンバのプレス回避と札幌陣内侵入
- 札幌はいつも通りの相手と枚数を合わせてのマンマーク基調の守備で対抗します。この日はアンカーの宮澤がガンバのFWを見るやり方に戻っていました。
- このやり方だと、相手チームは常にGKが「唯一フリーな選手」になります。しかしGKは現実問題、パスは出せてもドリブルはできないので、パスによるディストリビューション能力がまず重要になります。
- その意味では、札幌が直近で2連勝した横浜FCはGKのフィードは水準以上でしたが受け手のクオリティはそうではない。鹿島は逆で、GKのフィード能力に課題があったと思います。ではガンバはと言うと、リーグ屈指のフィードを持つ東口、そして前線に強力なアタッカーがいたことで、札幌は徐々に押し下げられる要因になったと思います。
- 構造上、札幌のWBはガンバのSBを専従的にディフェンスするだけでなく、最終ラインのカバーリングも一部担うので、ガンバのSBは各ポジションの中で比較的スペースがある。東口はまず左の福田にボールを逃がそうとしていました。そしてもう一つは、フィードの距離が東口の持ち味で、前線の左サイド奥…宇佐美や倉田がスペースに走ったところにも届けることができます。
|
東口からのフィードによるビルドアップ |
- スペースに蹴れば、互いのアビリティのうち高さよりもスピードや平面の競り合いの強さの重要性が増し、宇佐美でも田中駿汰相手にボールゲインできることが多くなります。
- そして最終ラインが下がり、自陣ゴールに近い位置での対応が多くなると、1on1基調の札幌はファウルを恐れて激しく当たることができなくなりますし、大きくピッチを横切る、視界をリセットするようなパスだと、選手を再び捕まえるのに時間が必要になります。
- 前半ATには、ゴールキックを回収したガンバの長いパスから倉田→ 渡邉と渡ってシュート。これは菅野が右手1本でゴールを死守します。
5.ファウルトラブル
5.1 マンマークの強度が下がる札幌
- 後半最初のプレーで、ルーカスフェルナンデスの背後に飛び出した福田をルーカスが厳しいタックルで倒してガンバにFK。これを皮切りに、ガンバが背後を狙う攻撃で札幌DFを並走させる→札幌はゴールに近い位置でのファウル、の展開が多くなります。宮本監督のインタビューを見ても、だいたいこの旨の話をしているんじゃないかと思います。
- そしてこの二次攻撃から、高尾のDF背後への浮き球パスに山本→倉田がゴールほぼ3m手前でシュートしますが、菅野が一瞬で身体の”面”を最大限に拡げて膝に当てるビッグセーブ。ガンバはビッグチャンスを逃しますが、49分にも小野瀬がドリブルでカットインし、ゴール正面約30mほどでFKを得ます。
- 55分にはスローインを中央付近で拾った宇佐美→小野瀬へのスルーパス。菅野と1on1になりかけますが、白井が小野瀬を引っ張り、菅野がシュートを体に当てる2人の対応で辛うじてここも守り切ります。
5.2 積み重ね
- そして59分に福森がペナルティエリアの右でファウルをしたところで両チーム選手交代。60分に両チームとも選手を入れ替えます。
|
60分~ |
- ガンバはキッカーが宇佐美から山本に交代。クロスボールをパトリックがファーストタッチで合わせて逆転します。
- 結果的には、このプレーの直前の3分ほどで札幌は計4回のファウルを自陣で犯しています。後半からガンバがピッチの縦幅を使い、特にGK-2人のCB-中盤センターの選手を受け手としてボールを動かしたことで、広く守るやり方の札幌の選手は走行距離が増えてしまい、マーキングの際に無理な態勢でボールにアタックせざるを得ないことが、ファウルトラブルとして結果になってしまったと感じます(高嶺のファウルが典型でしょうか)。
6.一番難しい作業
6.1 ウインガーとしての開眼
- ルーカスは連戦も考慮しての交代だったと思いますが、札幌は変わって入った金子がルーカスの仕事をほぼ同じく引き受ける形で躍動します。
- 63分に右サイドでロペスのパスに抜け出してから、左足に持ち替えてのファーへのクロス。これは大外で白井が合わせますが東口のセーブ。しかし、札幌は選手が変わってもクロスからファーサイドを狙うことは徹底しています。そして、左利きの金子のインスイングのボールは、右利きのクロスと異なりGKから離れたとこからファーに届くので、ルーカスのクロスよりもガンバのDFに対しては脅威になります。
- シャドーとして世界のシンジオノがもお墨付きでの入団だったはずの金子ですが、1on1もしくは1on2でボールを受けた時に、得意の左足に持ち替えてフィニッシュまでいけるクオリティがあります。シャドーのより内側のポジションよりも、大外の人材として開眼しつつあると感じます。そして、縦を切られても、突破を仕掛けなくても相手とのタイミングを図れば目的達成(クロスボールが供給)できる。福田はルーカスと全くタイプの異なるドリブラーの登場で、非常に難しい状況になっていました。
- 左利きのドリブラーは左足に持ち替えることを考慮すると、サイドハーフのサポートが重要で、ここにガンバは途中交代の川崎が入っていましたが、より経験のある選手ならうまく対処できたかもしれません。
6.2 決める「だけ」?
- 飲水タイム後も札幌は金子にボールを集めます。ガンバは川崎の対応を見ると、飲水タイムで何らか指示があったように思えますが、ボールが渡れば何らか可能性を感じるシーンに繋がるぐらいこの日の金子は効いていました。75分にも、やはりファーへのクロスでドウグラスオリヴェイラが惜しい場面を作ります。
- 札幌は69分に高嶺→チャナティップ。このチャナティップは右のインサイドハーフという、得意なポジションとは反対の位置に入りますが、これは一言で言うと”駒井ロール”を期待しているため。つまり金子にボールが入る時に、内側のポジションを取って2人で右サイドを攻略して欲しい、との意図だと思います。チャナティップのサイドチェンジは札幌の武器の一つですが、この日はボール自体は金子に供給できる、など、複合的な判断だったでしょう。
- 札幌の3度目(4人目)の交代は85分、ドウグラスオリヴェイラ→早坂。最後、クロスボールに対して誰が飛び込んで決めるのか、が残された課題であり、空中戦が得意ではなさそうなドウグラスオリヴェイラよりは、フレッシュな早坂の方が期待値が高まる、ということで納得できます。ただ、殆どユーティリティープレーヤーとなっている早坂よりは、パトリックのような強さのある選手の登場を望みたくなるシチュエーションでもありました。
雑感
- 上位のチームに対し、明確なゲームプランを持っての真っ向勝負だったと思います。結果的には、最少失点での負けで、ラスト20分ほどは狙いの一つであるサイドアタックから惜しいシーンを何度か作り出しました。これについては、確かに何度かあったうちの一度でも決めていれば展開は変わりましたので、決める”だけ”だと言ってもいいのかもしれません。
- しかし、札幌のよくやるサイドに展開→相手を押し込んだ状態からドリブルで仕掛け→クロス、という展開は相手のDFの揃っている状態でゴール前で勝負することが多くなります。ジェイボスロイドのようなボーイを大人に変える能力があるFWがいればいいのですが、一般にはクロスからのヘディングシュートという形は、決める難易度は決して低くない。確かに決めるだけではありますが、この作業が一番難しいものです。ガンバはドウグラスオリヴェイラに対し、ファーサイドで体格では劣る高尾がうまく対処していたのは目立たないながら大きな功績でした。
- また、右クロスが主体なので、左のFWの人選が重要になります。それがウーゴヴィエイラかというと微妙ですが、右利きのFW自体はオプションがあってもいいとは思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿