2020年10月18日(日)明治安田生命J1リーグ第23節 北海道コンサドーレ札幌vs鹿島アントラーズ ~ゼロトップのメリット~
0.スターティングメンバー
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スターティングメンバー&試合結果 |
- 前回の対戦時から入れ替わっている選手としては、最終ラインの杉岡、関川、小泉、そして中盤左の荒木。関川と小泉、そしてGK沖はここ10試合ほどで見てもレギュラーに定着しています。
- 札幌はアンデルソンロペス→高嶺のみが変更点と、最小限の入れ替えのみにとどめています。
1.ゲームプランの推察
- 互いに言えることは、オープンな、シュートを撃ちあう展開に持ち込まないと得点を挙げることは難しそうなチームになっています。オプションとしてサイドアタックは持っているものの、エヴェラルド以外は前線にパワーのある選手や、クロスボールに合わせるのが得意な選手がいない。なので中央をボールが行き来する展開にどこで持っていくかは、リスクと相談しながら考えていたと思います。
- 一方で札幌は、前節は名古屋の高い位置での守備からの速い攻撃に苦しみました。プレスに対してどう対処するかという観点とは別に、攻撃に枚数をかけた後のリスクマネジメントも考えなくてはなりません(このあたりは、三歩進んで二歩下がる的なもので、今に始まった話ではないですが)。
- なので札幌としては、前節よりもクローズな形でゲームを進めたく、その解決策としてFWを1枚削って中盤の選手(高嶺)を1枚増やした上で、いつものマンマーク基調のやり方は維持するという選択・調整になったのだと思います。
- 見ている限りでは、鹿島もクローズな展開から入りたかったことは感じられます。これはボール保持の際の振る舞いに現れていたと思います。
2.ゲームの基本的な構造
2.1 息ができる相手
- 札幌ボールの際に見られた、幾つかの典型的な現象を確認します。
- 鹿島はハーフウェーライン付近に1列目を引いてのセット守備から始める傾向が強く、札幌の攻撃が始まる、キムミンテと宮澤(頻繁に最終ラインに下がる)には、そこまで強烈なアプローチはしてきませんでした。ですので、ここで札幌に何か問題がすぐ発生することはなく、これは可変式のシステムで戦うチームにとっては、人を動かす時間が確保できるのでありがたいことです。
- そしてミンテと宮澤が共にフリーだと、宮澤から攻撃が始まる傾向が強かったのですが、左サイドではアラーノと福森のマッチアップ…がそこまでクローズアップされることにはならない。これは、アラーノはマンマークというより2トップの脇のスペースを埋める形で守っているからで、その理由は、ボールを奪った際に前に飛び出してカウンターを仕掛けたいので、ある程度高い位置に留まりたいためです。マンマークだと福森の移動にずっとついていくことになりますが、ある程度プレスバックで対応できるポジションはとりつつも、そこまで極端な対応にはなっていませんでした。
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鹿島のセット守備と札幌の設計 |
- ですので、福森がアラーノのラインを越える位置で受けれるかどうか、がポイントの一つになりますが、これは配給役の宮澤へのプレッシャーの弱さもあって、比較的成功していたと思います。
- 福森の周辺に選手が集まっているように見えますが、札幌の前線は、金子が唯一のFWっぽい振る舞いをするというか、鹿島の最終ラインと駆け引きを頻繁にします。一方、荒野と駒井は、どちらかというとボールを受けに自由に、後半に動き回る。これを3人が同じ役割をしてしまうと、例えば全員が下がってしまうと、鹿島はラインを上げて圧縮して対応できるのですが、金子が裏を狙うことでその抑止になっていたと思います。
- 駒井と荒野が頻繁に下がってくることで、この2人を経由してボールを動かすこともあったのですが、それ以上に大きかったのは、ビルドアップ~鹿島ゴール前までの展開において、例えば福森からの展開が引っ掛かると、鹿島は前残りのアラーノ、エヴェラルド、土居でカウンターを狙うのですが、この時に駒井と荒野が中央で初動対応ができることだったと思います。
- 中央に人が少なすぎると、後ろに残っている高嶺、宮澤、そしてキムミンテがトランジションの際に前に出て対応しなければならない。そうなると後方は手薄になって、パワフルでスピードのあるエヴェラルドのクオリティが活きる展開になりますが、荒野と駒井がいると、宮澤とキムミンテは一旦リトリートして中央封鎖、態勢を整える時間確保ができます。
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ゼロトップのメリット |
- 中央を封鎖されると、エヴェラルドが強引にぶち抜いて最短距離でゴールに迫ることは一旦難しくなる。こうなると、鹿島はサイドに迂回して、SBの攻撃参加、もしくは2列目の仕掛けからのクロスボール攻撃を狙うのですが、先述のようにターゲットはエヴェラルドしかいない(しかも流れの中でサイドにいることも)。この展開に持ち込めれば、札幌はそこまで脅威を感じることはありませんでした。
3.試合展開
- 前半、時間が進行すると徐々に、互いにボールをあまり持たない展開になっていったと思います。
- こうなるとGKのフィード能力と、どのような展開を狙っているかがポイントになってくる。鹿島はGK沖のフィードはほぼ、トップのエヴェラルドと土居を狙ったもので、これは高さで勝る札幌のキムミンテ、福森、そして土居を担当する宮澤が問題なく対処します。
- 一方の札幌のGK中野のフィードがゲームを動かします。小次郎はキックの質もいいのですが、それ以上に常に味方が優位な状況でプレーできるシチュエーションを狙ってフィードします。
- 具体的には、▼の図で言うと福森と田中を狙う。鹿島は、札幌がGKまでボールを戻すと前4人で押し上げてアプローチからのボール回収を狙うのですが、この4人の背後にボールを落とす(列を越える)と、4人は無力化され、背後は他の選手が対応しなくてはいけなくなる。31分のルーカスの決定機はこの形からで、荒木が置き去りにされ、杉岡が出た背後をルーカスが突いたものでした。
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小次郎のフィード |
- 小次郎のフィードにはもう一つ意味があり、中央に蹴らずサイドを狙うので、簡単に中央で失って鹿島が最短距離でカウンター、となるシチュエーションを回避します。これも、キックに自信があるからで、サイドの選手を狙っても簡単にタッチラインを割らない。そして、駒井や金子といったサイズがない選手が前線にいても、コントロールできるボールを蹴れる強みを存分に発揮していたと思います。
- 札幌は、鹿島が時間をかけるとゾーン1に撤退して枚数確保する意識がここ数試合と比べて非常に高く、時に金子1人を残して全員で戻る、場合によっては金子も戻っていたので、マンマークを意識しすぎてスペースに落とされると終わり、となるこれまでのやられパターンは少なかったと思います。この点については、ホーム/アウェイの違いやコンディションの影響はあったのかもしれません。
- 41分の札幌の得点も、端的に言うと札幌の速攻からの二次攻撃。鹿島はアラーノ、エヴェラルド、土居以外の7枚が戻っていましたが、セカンドボールを拾った宮澤の上下動、そして福森の針の穴を通すようなラストパスがシンプルに良かったと思いますが、シンプルに走れないと成立しない攻撃だったと感じます。
- 前節前半だけで交代したキャプめしコンビ…福森は平常運転にしても、宮澤の運動量は序盤から際立っていたと思います。土居のマークを担当するので、その宮澤が前線に顔を出す場面が何度かありましたが、それでいて本来の仕事も怠らないのは相当な運動量ですし、DAZNの番組で語っていたミシャのやり方への信頼は口だけではないんだなと感じさせました。
- 後半、札幌は恐らく予定していた通りにアンデルソンロペス、ドウグラスオリヴェイラを投入し、オープンな展開から2点目を狙いに行きます。鹿島も同じようなタイミング(55~60分)で3枚替え。からの、放り込み主体に切り替える。エヴェラルドを左に移し、上田をターゲットにするなど配置と役割を変えて打開を図りますが、キムミンテのいる札幌が問題なく対処していたと思います。
雑感
- 互いに似た狙いを持っていたものの、「相手に対してプレーさせない」意識は札幌の方が強く、この点で鹿島の対応はイージーでした。
- 札幌は前線の構成を変えたり、その守備の仕方を調整したりと試行錯誤が続きますが、全くプレッシャーがかからず自陣に撤退するやり方は暫く採っていません。特殊なシーズンであることを考慮しなくなると、どこまでプレスの強度を維持したままシーズンを戦えるのかはまだ見えないですが、この日に関しては、一定の圧力は確保していたまま後方でバランスが取れるように、との微調整が功を奏したと思います。
- 既知のトピックですのであまり深く掘り下げませんでしたが、相手が1-4-4-2ないし1-4-2-3-1だと、札幌のマンマークで対応する[3-1]の[1]…アンカーに入る選手の負担が大きくなります。前節45分でピッチを後にした宮澤の、この試合の攻守にわたる貢献は非常に大きく、ただこのパフォーマンスが続かないと簡単に破られてしまうのが現状のスタイルの難しいところでしょうか。
いつも拝読しています。
返信削除チームの賞味期限は3年といわれますが、ヴェンゲルやファーガソンのように選手を入れ替えながら長期政権を維持するやり方もあります。
報道ではミシャの契約は来季でいったん切れるはずですが、チームの戦術も新しいことに挑戦していますし、選手もソンユン、武蔵と中心選手が入れ替わってきています。ジェイとチャナティップは来季いるか怪しいです。
また今季来季の大卒組5人はミシャを慕って加入していますし将来的に中心になりそうな素材であることからも、ミシャでサイクル2周目に突入する選択もあり得るのかなと思っています。
来季終了後か分かりませんが、ミシャに代わる監督はどういったタイプが良いと思いますか?
こんにちは。
削除まず、早急に結果を出したいなら内部昇格とか継続路線がいいんだろうなと思います。
ただ戦力的に急ぐ理由がないとしたら、ある程度は維新した方がよさそうですが、
やはりミシャを経験した選手はそのサッカーというより考え方に染まっているので、
例えばロティーナみたいなタイプが来ると受容に時間がかかりそうな気がします。
その際に合わない選手をばっさりと切り捨てる覚悟とコスト負担が可能ならいいのですが、
現実問題、難しいだろう、と考えるとソフトランディング路線が妥当でしょうか。
ミシャほどはオープンに殴り合うスタイルはないとして、
もう少し確実性のあるサッカーにできる人がいいでしょうか。
ただ結局は社長以下、フロントがどれだけサポートできるかにもよるでしょうね。
例えばリカルド・ロドリゲスはミシャとは全く別質だと私は思うのですが、
彼のようなタイプが来た時に、「新しいサッカーをやる」と言うか、
「ミシャを継承しつつ攻撃的なスタイルだ」と言って実際は全然別のやり方を仕込むか、
その辺のメッセージにある意味引っ張られるのは、選手にせよサポーターにせよあると思います。