2020年8月12日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第3節 北海道コンサドーレ札幌vs横浜FC ~限られた椅子~
0.スターティングメンバー
|
スターティングメンバー&試合結果 |
- このブログがスタートしてから5年目にして、キングカズこと三浦知良選手が登場するのは初めてです。フルネームで書いている理由は、検索で少しでも引っ掛かってアクセス数に貢献してくれないかとの思惑です。
- 他、横浜のメンバーはリーグ戦でサブのメンバーが起用されていますが、ベンチには一美、斉藤光毅が控えており、後半勝負というシナリオが描かれていたと推察します。各チームとも過密日程下でやりくりが難しくなっていますが、横浜においては志知が右で起用されている点はまさにそうでしょう。システムはリーグ戦第2節の対戦とは異なり4バックでした。
- 札幌は特別指定選手の小柏剛が合流3日目にしてスタメン起用。メンバー表の並びでは右ウイングバックを予想しましたが、実際は金子が右に回っています。
1.序盤の構図
1.1 横浜の意図を考察
- 開始8分ほどで札幌の高嶺が接触プレーで痛んでしまい、公式記録では15分に進藤と交代します。それぞれの図ではこの交代を考慮した並びとして話を進めます。
- 横浜はこの試合に”あえて”[1-4-4-2]の布陣で乗り込んでいます。どの辺が”あえて”かというと、札幌相手には5バックの方が横幅を確保した上で守れますし、中断期間開けは3バックをメインシステムとして結果を出しています。前半はイーブンで折り返して後半勝負、というプランともマッチするので、3バックの採用理由はそれなりに考えられます。
- そうならなかったのは起用できる選手の問題というか、適したメンバーが揃えられないという点が大きいと思います。3バックで枚数を揃えるやり方だと、札幌の能力のある外国人選手(ジェイ、ルーカス、アンロペのうち誰かは出てくることが予想されました)に対して1on1的な性質が強くなり、ここを止められないと一気に崩されるというリスクがあります。
- もう一つは、カズをトップで起用していますが、やはりカズを何らかカバーしながらプレーしなくてはならない。そう考えると、特定の誰かの負担が大きくなりがちな3バックよりも、4バックの1[1-4-4-2]で選手間の距離を均等に保ち、札幌の選手よりもスペースの管理に重きを置いた戦い方が自然と選択されたのだと思います。
1.2 弄るところと出しどころ
- 札幌のいつもの[1-4-1-5]気味の形に対して、横浜はサイドハーフを前に出してプレッシャーをかけてくるところから試合がスタートします。誰が誰を見るというより、カズと瀬沼の脇はサイドハーフがカバーする、という構図なのですが、基本的にはこれは札幌の早坂と高嶺、高嶺の交代後は進藤への圧力になります。
|
横浜の対応 |
- 場数を踏んでいる進藤はそう問題がなかったのですが、高嶺の交代後、左に回った早坂には困難な状況になっていました。このポジションは左利きが圧倒的に優位です。それは左足で対面の相手から遠い位置にボールをコントロールしながらセーフティにプレーできるからです。
- 頼れるユーティリティプレイヤー(のくせに何もいじるところねえな!)早坂にはここでボールを運べるクオリティはないことが早々に露見されます。必然と中央の田中とミンテ、そして右の進藤のサイドに期待が集まります。
1.3 椅子取りゲーム
- 左にいるのが福森でも高嶺でもなく早坂であること、右利きのミンテや田中は右足でコントロールした時に右方向を見やすいこと、等いくつかの要因が重なり、札幌は最終ラインから右前方での展開をまず見るようにしていました。
- 序盤、ここで起きていたのは小柏の執拗な飛び出しです。横浜は札幌が横にボールを動かすと、サイドの選手がスライドして札幌のボールホルダーになりそうな選手に圧力をかけようとします。特に、札幌のウイングバックに対して積極的にSBが出てくることでスペースを奪おうとしており、本来は白井も金子も高い位置取りをするのですが、特に金子は横浜のプレッシャーを嫌ってかやや下がり目でスタートしていました。
- すると金子に対して出たSB高木の背後を小柏が走ります。小柏の早めの動き出しは札幌のこの日のバックライン…カウィンも含めてあまりボールを持ちたそうではないメンバーにとってありがたいもので、小柏のフリーランが見えるとすぐに放り込んでいました。この形から、ええの獲ったわ!!としか言いようがない小柏が開始早々のクロスボールに始まり、度々横浜のDFを切り裂きます。
|
小柏のスペースへの突撃 |
- GKのカウィンは、まだコミュニケーションが取れていないのか、あまりボールを保持したくなさそうに見えました。そうなるとカウィンもその周囲に立つDFも放り込むターゲットが欲しくなります。一つはこの小柏で、加えてジェイに蹴ってキープしてもらおうとする意図のあるボールも非常に多く見られました。
- 小柏の躍動により割を食った感があるのが金子です。金子はシャドーで主に起用されていますが、そのスタイルは割と自分の好きなタイミングで受けてゴールに向かっていきたい、かつできればスピードに乗るためのスペースが欲しいタイプだと見ています。札幌でシャドーを務めている際の印象としては、ややサイドに開きすぎで、大外の選手と被ってしまうことがある。大学時代は[1-4-4-2]の右MFだったという話もうなずけます。
- そのこともあってか、この日は金子が右で起用されましたが、小柏のサイドへのフリーランは結構金子と被っていて、金子が本来やりたいであろう、スペースに突っ込んでいくプレーはどちらかというと小柏が手中にしていました。全般にルヴァンカップはしょうがないところがあるのですが、アピール合戦の様相を呈するところがあり、アピールしずらい状況だった金子が後半シャドーに上がると、よく言えば積極的にシュート、悪く言えば無謀なシュートで簡単にボールを手放してしまうということもありました。
2.兄弟の背後での対応
- 札幌は、横浜陣内深くから守備を開始する際の対応が興味深いものでした。1列目はドウグラスとジェイの2トップにしてCB2人と枚数を合わせる。特に「兄」のジェイは”かなり融通がきかない人”扱いで、ボール保持時は中央のFWなのですが、非保持に切り替わると、ほぼ常に左CBの小林の監視役になり、他の役割をほとんど持っていないのが特徴でした。これまではこのような起用法はなく、最も多いのは中央でアンカーをマークさせるタスクを担わせていました。
- この2人以外は下図のようなポジションを取ります。ここも小柏のポジションと対応がポイントで、スタートポジションはサイドと言うより中央のハーフスペース付近。ボール保持時は、「1.」に書いたように金子の前方のポジションから侵食したりするのですが、横浜ボールになると小柏はかならず中央に戻っていたので意図的な対応だったと言えます。
- 小柏は、ボールが中央にある時は安永の近くを守っていますが、安永のマンマークではなく、寧ろ左SBの高木への対応を非常に意識していました。横浜はやりくりの問題か?右に左利きの志知を起用しているので、あまり志知は使われず、高木のサイドからの展開が中心で、しばしば高木からの前進を模索するのですが、ここに金子ではなく小柏がスライドして対応することが試合を通じて非常に多かったです。
- このスライド対応を数回繰り返すと、普通の選手はそれだけで疲労を感じますし、スライドが遅れて雑な対応になることも少なくありません。ただ小柏は前後半を通じて殆ど動きが鈍ることがなく、かなりタフな印象を受けました。そして走るだけでなく、高木のところでボールを引っ掛けたり、最終ライン近くまでそのままついていってボールを回収するような貢献もあり、攻撃以上に守備でかなり計算できることを示しました。
|
横浜のよくあるパターンと札幌の対応 |
- 横浜は2トップのうち、カズが引いてトップ下のようになっている時間帯もよくあり、その時はアンカー気味の田中がカズに対応。札幌のWBは武田と齋藤にマンマーク気味で、これで最終ラインは3枚を残せるので、前半はあまり不安を感じることはなかったと思います。
3.前半の展開
- 札幌がボールを持って横浜が守る(のちカウンター)という構図でほぼ進んでいきます。
- 選手特性によると思いますが、金子、小柏、白井、ドウグラスにボールが入ると、そのボールが下げられることは稀です。そして中央に入っている中野も、本来は前を向いてボールを運べる選手なので、札幌ボールになるとあまりボールを動かして横浜の守備を観察するというより、ボールが入った選手が順次仕掛けるような展開になっていました。
- 通常このような”単調な”試合展開だと失ってからの逆襲が怖いのですが、横浜の前線のパワー不足に加え、小柏や白井が簡単にボールを失わないことで、見かけ上チャンスっぽい展開にはなっていたと思います。ただ、シュートの多くはボックス外で、積極的に撃っていたとも言えますが、横浜のブロックを崩したものは殆どなく、またGK市川を脅かしたものも30分過ぎのドウグラスのハーフボレー気味のシュートのみでした。
- 全般に札幌のルヴァンカップは、CB中央とMFにダイレクトな選択が多い選手が何らか入り、宮澤と深井が同時起用される機会が殆どないので、普段この2人がゲームを作っていることが感じられます。
4.後半の展開
- 後半頭からジェイ→アンデルソン ロペスに交代で札幌は前線の並びを変えます。
|
46分~ |
- これで前半の小柏の特徴的な役割もなくなり、いつもやっているような、シャドー2人がCBを監視、トップの選手が下がって相手のアンカーを見るようなやり方に変わるのですが、ポイントとなる横浜の左SBへの圧力は、走りまくってくれる小柏が対応していた前半の方が明らかに上でした。
- このこともあって、カズが下がった55分以降徐々に横浜の攻勢になります。ただ、その前に後半開始早々、ロングフィードを競った小柏がボックス内で志知のファウルを誘ってPKに。これをPK職人・アンデルソン ロペスが落ち着いて決めて先制。
- しかしカズ→一美の交代直後の57分、横浜のスローインから、進藤が瀬沼に簡単に背後を取られてそのまま流し込まれ同点。
- 以降もあまりゲームが落ち着くことなく、並べられたアタッカーというかドリブラーが得意なタイミングで突っ込んでいく展開になります。札幌は依然としてシュートの選択はミドルシュートが多く崩せてない印象は変わらず。カウンターのチャンスを窺う横浜の方が、よりゴールに近づき、札幌DFが少ない状態でシュートを撃てていたと感じますが、カウィンの頑張りもあって1-1のまま終了しました。
雑感
- ラスト10分で登場した檀崎の必死さについては言うまでもないですが(必死だけど危ないプレーもあった)小柏の登場は、純粋に戦力としても期待がかかることに加え、金子や若手選手にはこれまで以上に競争意識を植え付ける効果があると感じます。
- ただ、それがゲームになると、ドリブラーを3人も4人も並べていればいいわけではないし、この日の金子と小柏の関係のように、得意なエリアを使える選手の棲み分けや整理も必要です。11人起用できるといっても、それ以上に攻撃の選手の”椅子”は限られています。
- このあたりが、選手を休ませながら結果も求めるといったテーマになっているルヴァンカップを戦う上では難しいところで、特に札幌の場合はややアタッカー偏重の編成になっているため、色々と難しい状況ではあるものの来年以降は編成も見直して欲しいと感じます。
0 件のコメント:
コメントを投稿