0.プレビュー(スターティングメンバー)
スターティングメンバー |
札幌(1-3-4-1-2):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、チャナティップ、FWアンデルソン ロペス、鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、キム ミンテ、MF早坂良太、小野伸二、FW岩崎悠人、ジェイ。発表されたメンバーの登録ポジション上はいつもの3-4-2-1に見えるが、これは”偽装”。チャナティップをトップ下に置く、ミシャ体制で初めての布陣で臨む。中野をキャンプ地・熊本に残し、早坂、石川、キム ミンテが並ぶベンチメンバーを見ると、終盤の守備固めを意識した戦いぶりを予想させる。
浦和(1-3-1-4-2):GK西川周作、DF岩波拓也、マウリシオ、槙野智章、MFエヴェルトン、宇賀神友弥、長澤和輝、柏木陽介、山中亮輔、FW杉本健勇、興梠慎三。サブメンバーはGK福島春樹、DF鈴木大輔、森脇良太、MFマルティノス、汰木康也、柴戸海、FWアンドリュー ナバウト。天皇杯を制し、2/16のゼロックススーパーカップでシーズン開幕という最も短いオフシーズンを過ごしたチーム。ゼロックススーパーカップでは橋岡が右、宇賀神が左だったが、開幕節の仙台戦、この試合と続けて橋岡はスタメンを外れた。武藤と青木は昨シーズンからの故障の影響によりメンバー外。
1.中央エリアの活用
浦和ボールのキックオフで試合開始。直後、深井のファウルで浦和の直接フリーキック。山中のロングシュートが外れ、札幌のゴールキックとなるが、この1分過ぎに獲得した札幌のゴールキックからいきなりスコアが動く。またスコアへの影響だけでなく、札幌が用意してきた浦和対策の1つが垣間見れた局面だったので図示する。
1.1 浦和のハイプレスを肩透かし
このゴールキックで浦和が採った策は昨年11月、厚別での対戦と同じ。柏木を1列前に押し出し、2トップと併せて計3枚を用意する。札幌はク ソンユンからのパスを受けようとペナルティエリアすぐ外に位置取りをする選手が3人。こちらも前回と同じ(人の内訳は、浦和が武藤→杉本、札幌が兵藤→深井、に変わっており、この選手の差異は無視できないほど大きいが、とりあえず人の配置は同じ)。
浦和は前3枚が札幌の3人を見て、5バックを維持する。中盤にはエヴェルトンと長澤が残るが、この2人はそのままオリジナルポジション(中央と右)をとっている。つまり、浦和から見て左、札幌から見て右はオープンで、ここで進藤がフリー。進藤は「俺に出せ」とばかりに両手を上げてアピールする。
浦和がハイプレスの構えをとると進藤がフリー |
筆者が浦和対策と言いたいのは、恐らく「(ジェイがいないこともあり)最終ラインに数的同数で付かれたら、中央ではなくサイドの進藤か福森に蹴る」と決めていたと考えられるため。ロペスと武蔵だと福森がサイドでゴールキックのターゲットになることは2018シーズンにパターンの1つとなっていたので、進藤も同様の運用をすることは十分理解できる。
↓DAZN中継ではソンユンのキックの際に直前のリプレイを流しており確認できなかったと思うが、このような配置になっていた。進藤がフリーなことがわかる。
↓DAZN中継ではソンユンのキックの際に直前のリプレイを流しており確認できなかったと思うが、このような配置になっていた。進藤がフリーなことがわかる。
ゴールキック時の選手配置 |
1.2 中央とアウトサイドの関係
この時はソンユンからフリーの進藤へのパスが成功。進藤に山中が寄せてくるので、進藤はチャナティップへ頭でパス。山中が1列(フットサルで言うところの)”ジャンプ”する形で寄せると、槙野は山中の背後、サイドのルーカスにスライド。札幌は拾ったチャナティップが引いてくるアンデルソン ロペスに渡す。ここまでの浦和の対応は特に問題ない。ただ結果的にはこれにより生じたロペス~マウリシオの関係で、ロペスが勝ってボールを収め、サイドへの展開が成功したところで7割方勝負は決したと言っていい。
中央で収まると守備ブロックが収縮し |
浦和はボールを中心に人を配してゾーンディフェンス基調で守る。札幌が中央でボールを保持すると、当然中央を使われたくないこともあり中央の密度を高めて守る。密度を高めるとともに、中央で札幌の選手が仕掛けているアクション(進藤→チャナティップのパス、ロペスのポストプレー、武蔵の裏抜け)に対応するため人が動かされる。
こうなるとサイドはケアする優先度が低くなり捨てられる。ロペスからのサイドチェンジを、菅が左サイドで時間と空間を得た状態でプレーできたのはそのため。
ジェイをベンチスタートとしたこの試合で、ロペスが起点役としてどこまでやれるかは未知数だったが、ロペスのパフォーマンスが開幕戦に比べて劇的に改善されたのは、左利き同士のジェイを含む1トップ2シャドーだとロペスには狭く、プレーエリアが被ってしまうが、ジェイを外した2トップにしたことでスペースが増え、役割が整理されたことが大きい。
1.3 2トップの関係性
ロペスからのサイドチェンジを菅が受けると、菅は中央の武蔵を狙った低い軌道のアーリークロス。これを武蔵がスルーし裏に抜け、一気にポジションを上げてきたロペスが中央で受ける。後は視線を左右に揺さぶられ、ついていけなくなった岩波をロペスがワントラップから浮き球のパス(ワンタッチプレーではないが形はミシャ得意のアタックそのものである)でフィニッシュ。
単にミシャのよくやるパターンじゃん、と言えばそれまでかもしれないが、札幌は試合を通じて2トップの関係性が非常に良好だった。先述のようにロペスが起点となる。武蔵はロペスが活動できるスペースを作るために裏に抜ける。ロペスにボールが入れば、セカンドボールに関与できるポジションを取る。そして武蔵は動き直しが非常に多い。1度、裏に抜けてボールが供給されなければ、すぐポジションを取り直し、次の動きを繰り出す。この点、浦和の杉本と興梠は、2人で札幌の5バックの前で並んでいるだけの時間帯も少なくなく、スペースに抜けてボールを引き出す動きの量も少ない(参考でしかないが武蔵の90分間のスプリント数に、杉本45分+興梠90分を足しても満たない)。
お得意のスルー&フリックでDFを無力化 |
2.2つ目の策
2.1 1-5-3-2に戻す浦和
浦和のハイプレスに対する対策(上記1.)がいきなり機能していなければ、浦和は厚別と同様にハイプレスで札幌を苦しめていたのかは今となってはわからない。結果的にはスコアが1-0となってから、浦和はすぐに柏木を中盤左とした1-5-3-2(ゼロックススーパーカップでもそうだったが、これが今の基本形なのだろう)のゾーンディフェンス基調の守備に切り替えてくる。
札幌とのかみ合わせは下の通り。浦和から見て前線は2on3の関係になる。開幕湘南戦もそうだったが、札幌は宮澤・深井・荒野の3人が運び役。今の福森は敵陣に侵入するまでに関与する純粋なビルドアップ要因とは言えなくなっていて、寧ろ敵陣に侵入する直前にビルドアップの出口であったり、崩しへの移行を担う(もしくは、特に明確な役割がないフリーロールとして念願の自由を謳歌している)ことが多い。
2試合見た感じ、ビルドアップの時の福森の関与のさせ方がミソですね。最初から後ろに置いておくとモビリティの欠如が狙われて川崎の惨事みたいになるので、自陣ゴールから25mは道民3人に任せて、その次のフェーズで使っていこう的な方針が感じ取れます。— ⑧北海道アジアンベコム北広島 (@british_yakan) 2019年3月2日
2.2 ベストイレブンの証明
ゼロックススーパーカップと開幕節を見た印象では、浦和は杉本と興梠の2トップが中央を切り、サイドに誘導させてからも2列目が中央を切りながら圧力をかけ、外外へと誘導させ、ボールサイドへ人を集めて閉じ込める…要するにオーソドックスなゾーナルな守備を志向しているとの印象だった。
この試合も同様のコンセプトで臨んでいたと思うが、両チームの登録選手、計36人のうち唯一の2018年ベストイレブン・チャナティップがその思惑と組織を破壊する。
10分過ぎ頃から、チャナティップがポジションを下げ、興梠と杉本のすぐ背後に位置取りをするようになる。浦和としては本来2トップ下にチャナティップいる時はエヴェルトンを中心に監視することが基本だが、チャナティップが下の図のようにポジションを下げると、エヴェルトンがそのままついていくと、本来守るべきエリア(便宜的にバイタルエリアとする)を放棄することになるので、単純に付いていくべきか迷う。
浦和は当初チャナティップを”様子見”していたと思う。サッカーのセオリーとしては、本来、前のポジションで役割を持つ選手がボールを引き出すために下がりすぎることは、必ずしも歓迎されない。晩年に突入した中村俊輔が典型だと思うが、前で遂行すべき仕事ができなくなる(そもそも、仕事場にいなくなる)状況に陥りがちである。加えて札幌の可変式システムの場合、仮にこの状況でボールロストすると、CBがゴールからはるか遠くにいて、後ろは中盤の選手ばかりという間抜けな状況。
しかし、チャナティップをフリーにしておくと、普通にターンして縦パスを出したり、自分で運んでくる。もしくはボールを収めてからサイドに展開することで浦和陣内にチームを前進させる。そしてチャナティップの「フリー」の定義は、(今のJリーグでイニエスタの次に)狭小な空間しか必要としない。
チャナティップをフリーにすると中央を起点に展開される |
エヴェルトンをはじめ、浦和の選手がチャナティップを空けないほうがいい、と気づく。最初に動いたのはエヴェルトン。ポジションを上げて警戒を強めるが、チャナティップは「少し寄せる」程度では影響を感じない。むしろ、エヴェルトンが近づいたことでやはりバイタルエリアが空き気味になる。すると活動するにはスペースが欲しいロペスが使えるスペースが増える。
2.3 悪手だった”弱者の兵法”
浦和は25分頃から杉本を2列目左に下げた1-5-4-1で守備を行う。おそらく中盤4枚、中央2枚にすることで、チャナティップに使われまくっている中央レーンでの対応を強化したかったのだと思うが、前線を興梠1人にしたことで札幌はその脇からの前進が容易になる。
1‐5‐4‐1で守るとチャナティップは見やすくなるがかえって簡単に前進されてしまう |
そして別の問題が顕在化する。この状態で札幌が浦和陣内でプレーするようになると、2トップの場合と比べてセカンドボールを興梠1人で収めることが難しくなる。荒野や深井がセカンドボールをよく拾っていたのはこれも一因だった。
3.武蔵起用の理由
3.1 札幌の狙いも中央封鎖
浦和のボール保持時の陣形は基本陣形ほぼそのままの1-3-1-4-2。対する札幌は、チャナティップをトップ下にした1-5-2-1-2で守備をする。
図示すると以下の通り。中央に白い台形で示したが、札幌はこのエリアにボールを入れさせないたくない。中央を使わせたくないという点では浦和と同じである。そのやり方が異なっていて、武蔵とロペスの2トップで浦和の3バックをケア。同時にチャナティップが中央(基本的には、武蔵とロペスの背後にエヴェルトンがいる)を切る。そして柏木と長澤には、荒野と深井がマンマーク気味に対応する。
補足すると、考え方としては”人を捕まえる”のは手段であり、目的はあくまでピッチ中央を使われて攻撃を構築されることを防ぐこと(後述するがミシャの指示からもそれは読み取れる)。ただこの日の浦和はピッチ中央に出没する選手がほぼ決まっている(長澤、柏木、たまにエヴェルトン)ので、荒野と深井、チャナティップがそれらを捕まえておけば目的を達成できる。試合後にミシャの指摘にもあったが、広範に動き回り、高い位置でも低い位置でも、中央でもサイドでも、ボールがあってもなくてもアクションができる武藤がいるとこのやり方では問題が生じていたかもしれない。
浦和は中央を切られているのでサイドから前進を試みる。札幌が岩波と槙野、どちらに誘導するという意図があったかは個人的にはほぼイーブンだと思っている。岩波の方がフィードは巧く、逆足サイドに配されている槙野に持たせた方が困りそうだが、槙野サイドで展開されると、札幌はルーカスが守備をする時間が多くなる。よって札幌としてはどちらに誘導した方がよいか、というとどちらとも言えないだろう。
実際、武蔵-深井-菅で守る札幌左サイドでの展開もいくつかあったのでそれを意識し、下に図示する。岩波に持たせると、武蔵は中央を切りながら寄せていく。同時にロペスがマウリシオ、チャナティップがエヴェルトン、深井が長澤を見ているので、武蔵に寄せられた状態で岩波は宇賀神に預けるしかできない。この展開はわかりきっているので、菅とルーカスがこのシチュエーションで必ず対面の選手にアタックする。
浦和はこれを見て(恐らく選手の判断で)形を変えて対抗する。一つは、長澤や柏木が槙野と岩波の前方に下りてくる。ただこの時も、ボールに近い選手は消されているので出しどころがない。10分頃、ミシャが荒野と深井に「あまり中央を空けるな」と指示を出したとのリポートがあったが、これは長澤と柏木が落ちてきた時にあまり中央を離れるな、受け手を消していれば問題にならないので、低い位置まではついていかなくていい、という意味合いだと思う(無視して荒野がついていくことも多かったが)。
もう一つは人をローテーションさせ、ポジションと役割をスイッチさせて札幌の守備の混乱を誘う。
33分頃に浦和が右サイドから前進し、札幌陣内に侵入が成功したのは、浦和のゴールキックのリスタートの際にチャナティップが中央で守備対象を見失い(エヴェルトンが高い位置にいたので、チャナティップは他の選手が見るよう指差ししていたが、チャナティップが下がって対応すべきだった)、荒野・深井のマークがずれたところを浦和の3人に使われたことが原因だった。
しかしこの後のセットプレーの際に確認したのか、これ以降のプレーでは再びチャナティップ、荒野、深井でそれぞれ人を見る形に戻る(人についていく傾向は、より明確になった)。そうなると再び、浦和はパスの受け手を探すことに苦労するようになる。
27分の武蔵の追加点も、浦和は柏木が右、エヴェルトンが左にローテーションしていたが、最終ラインからの出しどころはWBの山中しかない状況。ルーカスが山中のトラップを引っ掛け、一度マウリシオに渡るがそのパスをチャナティップがインターセプトし、スルーパスに武蔵が抜け出す形だった(実はルーカスはそこまで対人守備も苦手ではないのかもしれない)。
浦和は後半スタートから杉本→アンドリュー ナバウトに交代。この交代は予想通りで、1-3-4-2-1に変えて前3枚で守備を行うのかと思ったが、実際はナバウトはそのまま杉本の位置、2トップの一角のような扱いだった。
オーストラリア代表でもスピード系アタッカーとして定期的に招集を受けているナバウトの投入により浦和の前線が活性化する。あまり走るのが好きではなさそうな杉本と異なり、ナバウトはオープンスペースに次々と飛び出していく。特に狙いどころとなっていたのは、宇賀神と1on1関係で守っているため宇賀神が引くとその背後が空く菅の裏。
そしてナバウトが前方向にプレーすると、コンパクトな陣形を保てていた札幌のブロックは押し下げられる。深井と荒野が押し下げられると、ピッチ中央から札幌の選手が消え、試合開始から札幌が優勢だったセカンドボール攻防戦は浦和に傾く。
60分には浦和は長澤→柴戸に交代。柴戸がエヴェルトンに変わってアンカーポジションを務める。オリヴェイラからかなり入念に指示を受けていた柴戸は、チャナティップを中央から引き剥がすよう動いていたように見える。
柴戸がアンカーポジションを空けるとそこにエヴェルトンや柏木がシフトしてくるのは前半も見られた動きだが、それにレーン・ゾーンを広範に横断するナバウトの動きも組み合わさると、札幌は元々決めていたマーク関係だけで浦和の前進を阻止することができなくなる。
下の図は、浦和の前線がナバウトが下がって興梠1人になった状況を図示しているが、浦和が興梠1人が前線に張り、ナバウトが下がると札幌は最終ラインで”人余り”になり、浦和の選手が必ず中盤で1人空く(この時は柏木が浮きかけている)。このシチュエーションにおける守備原則はケースバイケースで対応しており、図では福森が浮いている柏木にアタックする場合を示しているが、福森が守っていたスペースが空くことと、そもそもあまりに距離が開いている状況で人を捕まえようとしても捕まえきれないという問題がある。
こうした変化と、疲労もあり徐々にオープンな展開になっていく。浦和はトランジションから70分にエヴェルトン、71分にナバウトが決定機を迎えるが、いずれも枠内にはシュートが飛ばなかった。
試合のテンポが変化しても、札幌がゲームのコントロールを失わなかったのは、ボール保持時のチームとしての振る舞いが安定していたため。
札幌の3+1のボール保持に対し、浦和は後半途中から中盤の選手を食いつかせ、高い位置から奪いに行く守備に切り替える。ビルドアップ部隊が受ける圧力が強まる中で効果的だったのは、右サイドの進藤による出口を作るポジショニングと、前線で体を張り続けたロペスの働きだった。福森と進藤の非対称性は明瞭になっていく。福森はえ?トップ下?と言われてもおかしくないポジションにまで進出していくが、進藤は後ろが詰まりそうになると右サイドの低い位置まで降りてボールを収め、落ち着かせる。ロペスはジェイ投入までの時間で一貫してターゲットとしてロングフィードを収める役割を担い続けた。
先述のようにオープンな展開が続くが、浦和のプレスがズレると札幌も荒野、チャナチップ、ロペス、ルーカスらのロングドリブルで陣地回復し応戦する。81分にロペス、ルーカスを下げ、撤収準備。撤収までの15分間でも事故は起こらなかった。
札幌は「自分たちのサッカー」をするために、ボール保持時に少なくとも2つ、ボール非保持時に1つのソリューションを仕込んでいた。かつそのうちの1つがファーストプレーでいきなり結実してリードを奪ったことは非常に大きく、また試合を通じ、中央のエリアを使えた札幌、効果的に使えなかった浦和、両チームの明暗を分ける格好となった。
スーパーマン・ジェイを諦めた分の前線での起点創出に大きく貢献したアンデルソン ロペス、イレギュラーな場面でも持ち前の人への強さを発揮して浦和の攻撃機会を摘むんでいた深井の活躍も印象に残ったが、一人特筆するならば、プレーメーカーとして、宮澤や深井、荒野と共に試合を支配していたチャナティップ。攻守ともにハイレベルのパフォーマンスかつ多くの局面に関与し続け、ゲームをコントロールしていた選手として挙げられるだろう。武蔵は、得点以上に動きの量(ボールが出なくてもすぐ動き直すので、スペースがある状況なら周囲はやりやすいだろう)が好印象だった。
浦和ボール保持時の札幌のセット守備 |
補足すると、考え方としては”人を捕まえる”のは手段であり、目的はあくまでピッチ中央を使われて攻撃を構築されることを防ぐこと(後述するがミシャの指示からもそれは読み取れる)。ただこの日の浦和はピッチ中央に出没する選手がほぼ決まっている(長澤、柏木、たまにエヴェルトン)ので、荒野と深井、チャナティップがそれらを捕まえておけば目的を達成できる。試合後にミシャの指摘にもあったが、広範に動き回り、高い位置でも低い位置でも、中央でもサイドでも、ボールがあってもなくてもアクションができる武藤がいるとこのやり方では問題が生じていたかもしれない。
3.2 ジェイにはできない仕事
浦和は中央を切られているのでサイドから前進を試みる。札幌が岩波と槙野、どちらに誘導するという意図があったかは個人的にはほぼイーブンだと思っている。岩波の方がフィードは巧く、逆足サイドに配されている槙野に持たせた方が困りそうだが、槙野サイドで展開されると、札幌はルーカスが守備をする時間が多くなる。よって札幌としてはどちらに誘導した方がよいか、というとどちらとも言えないだろう。
実際、武蔵-深井-菅で守る札幌左サイドでの展開もいくつかあったのでそれを意識し、下に図示する。岩波に持たせると、武蔵は中央を切りながら寄せていく。同時にロペスがマウリシオ、チャナティップがエヴェルトン、深井が長澤を見ているので、武蔵に寄せられた状態で岩波は宇賀神に預けるしかできない。この展開はわかりきっているので、菅とルーカスがこのシチュエーションで必ず対面の選手にアタックする。
ワンサイドカットしてからFWが追い込み中盤3枚で中央を塞ぐ |
3.3 浦和の対応
浦和はこれを見て(恐らく選手の判断で)形を変えて対抗する。一つは、長澤や柏木が槙野と岩波の前方に下りてくる。ただこの時も、ボールに近い選手は消されているので出しどころがない。10分頃、ミシャが荒野と深井に「あまり中央を空けるな」と指示を出したとのリポートがあったが、これは長澤と柏木が落ちてきた時にあまり中央を離れるな、受け手を消していれば問題にならないので、低い位置まではついていかなくていい、という意味合いだと思う(無視して荒野がついていくことも多かったが)。
塞がれている中央を避けてボールを動かすが外→外でしか展開できない |
もう一つは人をローテーションさせ、ポジションと役割をスイッチさせて札幌の守備の混乱を誘う。
中盤をローテーションさせて混乱を誘う |
33分頃に浦和が右サイドから前進し、札幌陣内に侵入が成功したのは、浦和のゴールキックのリスタートの際にチャナティップが中央で守備対象を見失い(エヴェルトンが高い位置にいたので、チャナティップは他の選手が見るよう指差ししていたが、チャナティップが下がって対応すべきだった)、荒野・深井のマークがずれたところを浦和の3人に使われたことが原因だった。
チャナティップがエヴェルトンを見失ったことが発端で中盤を使われる |
しかしこの後のセットプレーの際に確認したのか、これ以降のプレーでは再びチャナティップ、荒野、深井でそれぞれ人を見る形に戻る(人についていく傾向は、より明確になった)。そうなると再び、浦和はパスの受け手を探すことに苦労するようになる。
27分の武蔵の追加点も、浦和は柏木が右、エヴェルトンが左にローテーションしていたが、最終ラインからの出しどころはWBの山中しかない状況。ルーカスが山中のトラップを引っ掛け、一度マウリシオに渡るがそのパスをチャナティップがインターセプトし、スルーパスに武蔵が抜け出す形だった(実はルーカスはそこまで対人守備も苦手ではないのかもしれない)。
4.後半の変化
4.1 アンドリュー ナバウトの投入
浦和は後半スタートから杉本→アンドリュー ナバウトに交代。この交代は予想通りで、1-3-4-2-1に変えて前3枚で守備を行うのかと思ったが、実際はナバウトはそのまま杉本の位置、2トップの一角のような扱いだった。
オーストラリア代表でもスピード系アタッカーとして定期的に招集を受けているナバウトの投入により浦和の前線が活性化する。あまり走るのが好きではなさそうな杉本と異なり、ナバウトはオープンスペースに次々と飛び出していく。特に狙いどころとなっていたのは、宇賀神と1on1関係で守っているため宇賀神が引くとその背後が空く菅の裏。
ナバウトはスペースを意識し流動的に動く |
そしてナバウトが前方向にプレーすると、コンパクトな陣形を保てていた札幌のブロックは押し下げられる。深井と荒野が押し下げられると、ピッチ中央から札幌の選手が消え、試合開始から札幌が優勢だったセカンドボール攻防戦は浦和に傾く。
スペースへの動きに引っ張られるとDFが押し下げられる |
4.2 柴戸の投入とマークのずれ
60分には浦和は長澤→柴戸に交代。柴戸がエヴェルトンに変わってアンカーポジションを務める。オリヴェイラからかなり入念に指示を受けていた柴戸は、チャナティップを中央から引き剥がすよう動いていたように見える。
柴戸がアンカーポジションを空けるとそこにエヴェルトンや柏木がシフトしてくるのは前半も見られた動きだが、それにレーン・ゾーンを広範に横断するナバウトの動きも組み合わさると、札幌は元々決めていたマーク関係だけで浦和の前進を阻止することができなくなる。
下の図は、浦和の前線がナバウトが下がって興梠1人になった状況を図示しているが、浦和が興梠1人が前線に張り、ナバウトが下がると札幌は最終ラインで”人余り”になり、浦和の選手が必ず中盤で1人空く(この時は柏木が浮きかけている)。このシチュエーションにおける守備原則はケースバイケースで対応しており、図では福森が浮いている柏木にアタックする場合を示しているが、福森が守っていたスペースが空くことと、そもそもあまりに距離が開いている状況で人を捕まえようとしても捕まえきれないという問題がある。
柴戸はチャナティップを中央から動かすため自分が引く |
こうした変化と、疲労もあり徐々にオープンな展開になっていく。浦和はトランジションから70分にエヴェルトン、71分にナバウトが決定機を迎えるが、いずれも枠内にはシュートが飛ばなかった。
5.出口は見失わず
試合のテンポが変化しても、札幌がゲームのコントロールを失わなかったのは、ボール保持時のチームとしての振る舞いが安定していたため。
札幌の3+1のボール保持に対し、浦和は後半途中から中盤の選手を食いつかせ、高い位置から奪いに行く守備に切り替える。ビルドアップ部隊が受ける圧力が強まる中で効果的だったのは、右サイドの進藤による出口を作るポジショニングと、前線で体を張り続けたロペスの働きだった。福森と進藤の非対称性は明瞭になっていく。福森はえ?トップ下?と言われてもおかしくないポジションにまで進出していくが、進藤は後ろが詰まりそうになると右サイドの低い位置まで降りてボールを収め、落ち着かせる。ロペスはジェイ投入までの時間で一貫してターゲットとしてロングフィードを収める役割を担い続けた。
進藤とロペスが出口を作り後ろを助ける |
先述のようにオープンな展開が続くが、浦和のプレスがズレると札幌も荒野、チャナチップ、ロペス、ルーカスらのロングドリブルで陣地回復し応戦する。81分にロペス、ルーカスを下げ、撤収準備。撤収までの15分間でも事故は起こらなかった。
6.雑感
札幌は「自分たちのサッカー」をするために、ボール保持時に少なくとも2つ、ボール非保持時に1つのソリューションを仕込んでいた。かつそのうちの1つがファーストプレーでいきなり結実してリードを奪ったことは非常に大きく、また試合を通じ、中央のエリアを使えた札幌、効果的に使えなかった浦和、両チームの明暗を分ける格好となった。
スーパーマン・ジェイを諦めた分の前線での起点創出に大きく貢献したアンデルソン ロペス、イレギュラーな場面でも持ち前の人への強さを発揮して浦和の攻撃機会を摘むんでいた深井の活躍も印象に残ったが、一人特筆するならば、プレーメーカーとして、宮澤や深井、荒野と共に試合を支配していたチャナティップ。攻守ともにハイレベルのパフォーマンスかつ多くの局面に関与し続け、ゲームをコントロールしていた選手として挙げられるだろう。武蔵は、得点以上に動きの量(ボールが出なくてもすぐ動き直すので、スペースがある状況なら周囲はやりやすいだろう)が好印象だった。
前節湘南戦のレビューで荒野のシーズンになるかと投稿されてましたが、今節の浦和戦でも随所に荒野の光るプレーが見られたと個人的には思いましたが、筆者様はその辺どう思われましたか?
返信削除途中いつもの課題点(いるべき場所から離れてしまう、役割以上のことをやろうとしてしまう)が散見されましたが、深井ともにユニットとして非常に機能していたと思います。チャナティップに中盤の守備タスクを付与したことで、開幕戦以上に荒野のタスクが明確になり、持ち前の対人の強さ、守備→攻撃の切り替えにおいて対面の選手(柏木)に圧勝でした!
削除いつも拝見させていただいております。1つ気になった点として、フォーメーションを表すときにキーパーも入れる必要はないのではないでしょうか。基本的にキーパーは1人であり、無人になることや2人になることはないので、1-3-4-1-2⇒3-4-1-2でいいのではないでしょうか?
返信削除オランダ式だとGKも入れて表記します。まぁ札幌の場合あまりGKの役割関係ないので、必要ないっちゃないですが、気分でこうしましたw
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