2025年7月6日日曜日

2025年7月5日(土) 明治安田J2リーグ第22節 北海道コンサドーレ札幌vsレノファ山口 〜僅かな広がりが、やがて大きくなる〜

1.スターティングメンバー



  • 志垣良監督が退任し、前節から中山元気監督が指揮を執る山口。現役時代はなんのひねりもないチャントが印象的だった新監督は志垣監督時代の1-4-4-2から、3バックの1-3-1-4-2を採用しています。
  • 勝てないチームがシステムを変えてとりあえずDFを増やすとか、逆に前線を増やすとかはありがちですが、山口は岡庭と亀川というこのカテゴリでは割と有力な?選手がいるので、ワイドは彼らに任せて中央により人を多くするシステムを採用するのは理にかなっているかもしれません。
  • メンバーは前節から左のインサイドハーフを成岡→野寄に変更したのみ。GKマルスマン、右MF横山といった選手が離脱中のようです。

  • コンサはパクミンギュがこの週の練習で負傷し右ハムストリング肉離れと診断されたようで代役に岡田。他に前節から荒野(出場停止)、青木、長谷川→田中克幸、原、木戸がそれぞれスタメンに入って、深井も膝の状態が良化したとのことでベンチ入り(厳密にはもう良化とかそういうレベルではないと思いますが)。

2.試合展開

色々な要素が噛み合う前半:

  • システム的には、1-3-1-4-2の山口はコンサのボール保持1-4-1-2-3に対し、WBを前に出してコンサのSBに当てればマンツーマンではめる形を作ることができるマッチアップ。
  • 一方でコンサはこの日、青木に変わって原が左MFでした。
  • 青木は最初から中央に入ってウイングというより左シャドーとしてスタートしつつ、後ろからボールが出てこない場合は下がって受けることも少なくなく、その場合はコンサは左SBが高い位置を取る(いわゆる”横幅を取る”)ようにしています。
  • この、青木が中央に入ってウイングやサイドハーフというよりシャドーのようになる形だと、コンサの左SBはSBとしての仕事とウイングとしての仕事を両方求められる構図になり、あまり私はこの形を評価していないのですが、原が最初からワイドに張ると、SBのタスクが一つ減ることになり後ろでの役割に専念できます。

  • 加えて原が最初から前にいると、山口はコンサの最前線に並ぶ3人(左から原・バカヨコ・白井)を3バックで見ることを嫌うので、山口がコンサのボール保持に対してマンツーマン気味のハイプレスで応戦したくても、必然とWBの岡庭と亀川が低い位置からスタートする5バックの1-5-3-2気味の形からスタートせざるを得ず、この形だと山口はSBの高嶺と岡田のところにプレッシャーをかけづらくなります

 

  • コンサはこの1-4-1-2-3の配置で相手のpressingを回避しながらボールを動かすことについては、前節(vs熊本)も割とうまくいっていたと思いますが、この試合はそれ以上によくできていたと思います。熊本はJ2の中でもマンツーマンで処理する部分がかなり大きくバランスが崩れやすいことを考えると、山口相手にやれた、ということは十分に評価して良いでしょう。
  • コンサは右インサイドハーフ扱いの田中克幸が高嶺の近くまで下がってくることが多く、中央は西野がアンカーの形。
  • 山口は前の4人でコンサのCBと西野、田中克幸にマンツーマン気味に対処しますが、まずコンサはGK高木がアンカー西野や、時にトップのバカヨコにもボールを届けることに成功しており、少なくともGKからアンカーに出せるだけでも山口の2トップが中央を閉じなければならなくなるので高木の存在は非常に大きかったと思います。

  • 山口の1列目をそうして外した後は、先述の通り、山口の守り方だと構造的にコンサのSBのところにWBが出ていくのが遅れるとして、その「山口が遅れるエリア」にいる高嶺と、(流れてくる)田中克幸という、コンサの中でも特にボールを持った時に落ち着きがある選手にボールを渡すと、彼らは特に追い込まれていない状況ではしっかりとボールをキープする選択ができる。
  • この、右サイドで左利きの選手が左足でピッチ中央方向を向いてボールを持ち、中央方向への展開を山口が阻害できないとするなら、コンサがピッチの右側を一時的に支配していたとする構図から、コンサの支配は中央〜左サイドにも及ぶことになる。
  • このようにコンサが左右にボールを動かせる状況になると、山口は前に出て後方にスペースを空ける対応では簡単にゴール前まで侵入されてしまうので一旦撤退することになります。
  • 前半は何度かこうしたプレーが見られ、コンサはこのシーズン初めてと言っていいくらいボール保持から相手に圧力をかけることに成功していたと思います。
  • 一応丁寧に説明すると、タイトルの「色々な要素が噛み合う」とは、GK高木、左ウイング原のポジショニング、右の田中克幸と高嶺のボールを落ち着かせる能力、バカヨコのポストプレー、といったことになります。

最後に誰がゴール前に入ってくるか:

  • 一方でコンサはバカヨコのポストプレーがオプションとして重要であるので、後方でボールを保持して縦パスを入れようとするシチュエーションでは、ほぼ彼がゴール方向から遠ざかり中盤付近でボールを受けようとするプレー選択をします。
  • 山口はインサイドハーフが前に出て守りアンカー1枚の形になることも多かったですし、バカヨコのポストプレーにCBの下堂や松田がついていくことも稀でしたので、バカヨコのところで潰されることは少なかったと思います。
  • しかしコンサが、一度バカヨコを低い位置で使ってしまうと、そこからボールをキープして前に出ていくフェーズでは誰のところからゴールに迫ることができるか。この点についてはコンサはあまり明快な答えを持っていなかったと思います。

  • 例えば最初にワイドの原や白井に渡すとして、その選手が縦突破して中央にクロスボールが入るとするなら、バカヨコがその時に間に合っていないという話なので、代わりに原や白井、木戸といった選手がスプリントしてゴール前に入ってFWの役割をすることが求められますが、これらの選手はまだそこまでの仕事は難しそうに見えました。
  • 結果、前半のコンサの決定機は、20分過ぎに高嶺が中央で持って浮き玉のスルーパス。白井が抜け出しますがループシュートを山口のGK田口がセーブ…というのがありましたが、(最初から前でワイドに張っている)白井や原がウイングのプレーをするよりもいかにFWのプレーをさせられるかがポイントで、この時は高嶺が出し手になりましたが、白井が出し手ではなく受け手になるならこの高峰のように別の出し手が必要な状況だったと思います。

  • そんな感じで「どうやって点を取るかねぇ」と見ていましたが、45分にバカヨコのポストプレーから田中克幸と木戸が高い位置でサポートして、やはり高嶺が前に出る形から強引な逆足シュートをバカヨコがうまく押し込んで先制。
  • 「どうやって点を取るかねぇ」…ゴール前に入っていく動きを増やしつつあるバカヨコが答えを示してくれました。
  • 1試合のうちにこれを10数回やることは彼には無理なのでしょうけど、今はベンチにマリオというカードもいることもあり、そのあたりのプレースタイルが変容しつつあるのかもしれません。

少しずつ仕事を増やしていく:

  • 山口がボールを持っている時の話をします。
  • 山口はボール保持をほぼ毎回1-3-1-4-2の形で行うのが特徴で、前の"4-2"が列移動というか下がってボールを受けたりすることはほぼない。中山元気監督体制では、前節の秋田もこの日のコンサもセット守備は1-4-4-2なのでこのシステムの優位性を活かしやすいのは悪くないシチュエーションだったかもしれません。

  • 山口はDFがあまりボールを運ばないので近くの選手に渡すプレーが主ですが、アンカーの輪笠をコンサの2トップが閉じていると、必然と左右CB→WBへのパスが多くなります。
  • 山口にとって好都合だったのは、この日のコンサはここ数試合と比べるとサイドの守備の基準が曖昧でした。
  • ↓の図でいうと、原は右DF喜岡に出ていくのか、我慢してSBの岡庭に出ていくのか曖昧というか、もしくはサイドハーフの原や白井はタスクが決まっていたのかもしれませんが、だとするならサイドバックの岡田や高嶺が山口のWBに遅れ気味で、山口はWBのところで割とボールを持てていたのが気がかりでした。
  • 山口は前線の4人がいずれも一定程度の機動性を備えており、特にサイドに流れて前を向いてからコンサのゴール方向に向かっていくプレーでそれは発揮されます。
  • 左インサイドハーフの野寄は典型で、本来インサイドハーフというと中盤でボールを受けて後ろと前を繋ぐような役割を一部はになっていると思いますが、野寄は繋ぎ役というよりもカットインが得意なウイングかサイドハーフみたいなイメージで、ボールを持ったらほぼ前を向いて仕掛ける選択をしていたと思います。

  • 山口はこの野寄以外にも両サイド起点でコンサのSBを外して、前4人のうち誰かに前を向かせて3-4人で一気にゴールに迫る、というプレーが一つのパターン。
  • もう一つは、後ろからボールを運ぶことをせずロングボールを前線に当ててセカンドボールを拾って攻撃するもの。この時は前線の選手がワイドに流れるというよりは、WBが攻撃参加してクロスボールを供給することが多く、特に岡庭の右クロスは高さがそこまでないGK高木の処理では結構怖いところがありました。前半途中からは後者の放り込みが多かったと思います。

  • コンサは西野や木戸のプレスバックでの頑張りが印象的で、前線〜SBの守備があまりはまっているとは言えない中で、宮や浦上が時間を稼いだのち、西野や木戸がプレスバックして中央で身体を張ってボール回収という場面が何度かありました。

大ちゃん劇場:

  • 後半早々に山口の岡庭のクロスがコンサの左SB岡田の顔面に当たって、脳震盪の疑いにより田中宏武と交代。
  • しかしSBのタスクができない宏武(例えば、右SBが攻撃参加している時に自分がステイする原則を徹底できず勝手に前に上がっていく)をそのまま左SBに入れたことで、コンサは左SBのところでボールを収めたり左から中央に動かして山口のプレスを回避したり…といったプレーができなくなって一気にバランスが悪くなります。

  • 加えて55分にバカヨコ・原→マリオセルジオ・スパチョークのカードを切りますが、プレスバックが効いていた木戸を中央から外して、ウイングのプレーができるわけでもない彼を左においたことで、代わって入ったスパチョークが木戸のようにセカンドボールを拾ったり潰れたりできるわけでもないこともあって、コンサは中央でもボールが落ち着かなくなったりセカンドボールを山口が拾ってそのまま前に出てくる展開が増えていきます。

  • 山口は62分に田邉→小林、古川→山本。
  • 小林成豪が左インサイドハーフというのも面白い使い方だなと感じましたが、タスクは野寄や他の前線の選手と一緒でとにかく前を向いてスピードに乗った状態で仕掛ける、というところかと思います。
  • 早速65分に小林が、コンサの2トップが動いたところでその脇で受けて、そのまま白井と西野の間を割る中央突破。山本がスルーパスに抜け出してCB浦上を引っ張って、マイナスの折り返しから野寄がシュート…もGK高木が横っ飛びでセーブ、という場面がありましたが、山口がこの試合で繰り返しているパターン:前線の4人が前を向いたらスピードに乗った状態で仕掛けてDF(特にSB)の背後を取る、というものだったと思います。

  • 66分にコンサは白井→近藤。コンサはオープンな状態を利用しながらフレッシュな近藤にボールを集めることで、ようやく選手交代を有効に活用し始めます。

  • 73分にコンサは木戸・田中克幸→家泉・大﨑。75分に山口は亀川・松田・野寄→小澤・磯谷・奥山。

  • 山口は特に狙いは変わらないですが、既存のDFよりも前でボールに関与できそうな磯谷を入れて全体を押し上げたいという感じだったかと思います。
  • コンサは家泉を入れて、ラスト20分以上ある段階で逃げ切りと、これまであまり見られない選手起用を見せます(そもそも今年リードする展開があまりないのですが)。4バックを維持してミスマッチを放置するのはどうかなと思いましたが、家泉自体は非常に効いていて、突破された後のゴール前でのブロックや放り込みへの対処で、20数分間で好対応がいくつもありました。

雑感

  • 中山元気監督がプロサッカー選手として試合に出ていた期間の大半を知っている身としては、氏がそんなに良い指導を受けたり良いプレーをするチームにいたか?というと…であり、どんな監督になのかは興味深かったですが、前節のvs秋田を見ても思いましたが予想以上に整理されているチームでした。山口でのコーチ歴が長いですが、山口はこれまでに興味深いスタイルの監督を定期的に招聘していたからかもしれません。

  • 岡田がアクシデントでピッチを後にするまでは非常に良い内容というか、相手の特徴を見極めた上でボールを動かして落ち着いてプレーできていました。
  • その岡田以上に、中央で3人目のMFとなりつつ前線にも顔を出すことが求められている木戸がキーマンで、長谷川が使えない中でスパチョークとプレータイムをシェアすること自体は仕方ないのですが、木戸の有無というか彼が中央にいる時間帯とそれ以降でかなり試合展開が変わった印象でした。
  • 木戸は開幕スタメンでスタートして一時は序列が下がりましたが、ここ数試合は仕事の量や範囲を徐々に広げており、同じくバカヨコ、白井といった選手も同様で、これがさらにチーム内で広がっていけば上位を狙うチームとしてようやく相応しいチームになれるかもしれません。
  • また現状でもすごく頑張っているのですが、あとは(駒井のように)ゴール前に飛び出すプレーが増えればもっと市場価値の高い選手になれるかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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