2025年5月18日日曜日

2025年5月17日(土) 明治安田J2リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vsカターレ富山 〜ボクシングムーブメントと持久性〜

 1.ゲームの戦略的論点とポイント

ユナイトから18年:

  • 2025年現在、Jリーグに「ユナイテッド」を名乗るチームは福島(2006年にFCペラーダ福島とユンカースがユナイト)、鹿児島(2014年にヴォルカとFC鹿児島)、高知(2016年にアイゴッソ高知と高知Uトラスター)、そして老舗のジェフの4クラブですが、ジェフは母体は古河電工なのでサッカーチーム的にはユナイトしているとは言えません。
  • ジェフ的な大企業の合弁によるクラブは、Jリーグ黎明期にはフリューゲルス(全日空と佐藤工業、6対4)、セレッソ(ヤンマーと日本ハムがほぼ同じ、他株主も)といった事例がみられ、イメージとしてはアメスポの共同オーナーみたいなものだったのかもしれませんが、オーナーシップの形態としてはやはり口を出す権利と機会の確保が面倒になってしまう印象です。鹿島や磐田が同様の運営体制だったとするなら黎明期にスタートダッシュを決めることができたでしょうか?アビスパのようにより分散的なクラブの運営が更に難しくなるのは言うまでもありません。

  • 冒頭のユナイテッドの話に戻ると、ユナイトしているけどユナイテッドを名乗らなかった(2007年)のが富山。このユナイテッド勢に関して言えるのは、合併するとリソースや資金力が単純に2クラブ分になるとはいかず、企業側が関与を縮小したいが故の手段とされることが日本では多いのでしょう。2015年からJ3で10シーズンを過ごし、今回2014シーズンぶりのJ2参戦となりましたが、合併発足時の期待感と比べるとかなり苦労してきた印象です。
  • なお合併時に公募していて「ユナイテッド」も候補だったと記憶している、クラブ名に関しては、この時期(07年)はまだシンプルなFCとかSCよりも、愛称があった方が良しとされる時代とその次の時代の境目だったように思えます。これより後発だとFC今治とか、東京ユナイテッドとか、FC大阪とか割とシンプルな名称が増えてきた印象があります。


スターティングメンバー:



  • 富山は前節右SBの濱が左SBに回って右に西矢。中盤センターに植田→竹中、左SHに吉平→伊藤、2トップは武と松田から2人替えてきました。全体的にコンディションを意識した選手起用の傾向を感じます。
  • コンサは左にスパチョークを入れて青木を中央に。


2.試合展開

浮きやすい選手を探せるか(探せないのだが…):

  • 序盤はお互いにボールを捨てる選択を見せます。ただ、これまでの試合を見ていると、両チームともそうしたプレースタイルを好き好んでやりたいわけではないでしょう。
  • 富山の場合はアウェイで、相手が一応半年前までJ1にいたチームということで警戒心を見せていたのかと思います。
  • 最初のゴールキックを菅野が蹴っ飛ばしていたコンサの側も、同様に一応、警戒心というか前節と同じく慎重に試合に入る姿勢はあったと思います。しかしそれに加え、コンサの場合はチームとしての意思以上に家泉がそうした選択を好むというか、彼がピッチに立っているだけで前に蹴る選択が増えるということが言えるでしょう。4分に菅野がボールを持って富山が守備をセットした際に、岩政監督は「落ち着け」というジェスチャーを見せます。

  • お互いに見かけ上のシステムは1-4-4-2ですが、ボール非保持の際は互いに1-4ー◇-2というか中盤センターの選手が1人前に出る対応からスタートします。
  • 図示すると富山はコンサがボールを持っている時に↓の形になります。2トップと中盤2人のうち前に出た選手(図では竹中)の3人は、コンサのCBとアンカーにマンツーマン気味の対応。
  • ワイドの松岡と伊藤は、明確に人をマークするというよりはサイドのスペースを守っていて、状況によって前に出るか、人を捕まえるか、戻ってスペースを管理するかの判断が都度、必要になりますが、全体としてここでそんなにコンサの選手がマンツーマンでハマらなかったというのは富山がマンツーマンだけでなくスペースを管理する守り方も併用していることの表れかと思います。
  • 構図としてはコンサは下がってくる田中克幸と、見かけ上は中盤センターでスタートする青木に対して富山は明確なマークを置いておらず、スペース管理もそこまでタイトではなかったと思います(松岡と伊藤は広がり気味で中央のスペース以外も管理していたので)。
  • ですのでコンサとしてはこの2人にボールを渡して前を向くことができるともっとイージーな試合になったかもしれませんが、例えば家泉が持った時に、碓井が家泉の正面を切るので家泉は前に蹴っ飛ばすか、髙尾に出す選択が大半。
  • 高嶺は近くの人にボールを預けることよりも、幾分かはクリエイティブな選択ができるのですが、青木と克幸に渡すには2人くらい経由する必要があり、コンサはその手順は見えていない状態だったかと思います。

  • 前線では近藤とスパチョーク、ジョルディサンチェスが3トップ気味で、ずっとサイドに張っているというよりは岩政監督が好むやや中央寄りの配置から。
  • ここも選手の配置と特性からある種、必然っぽくなる話ですが、この3トップだとコンサは右サイドで近藤が何らか抜け出すか、1v1で対面のDF(左SB濱など)に仕掛けて勝つか、そういった展開が突破口になるでしょう。
  • 逆にジョルディやスパチョークはそうした特徴がないので、コンサが何らかボールを持つとして、その最終的な出口もしくは展開先は右サイドになりがちです。5分に近藤が縦パスで抜け出した場面はそうした特徴が発揮されたものでした(低いクロスを送るが中央のジョルディには合わず)。

コンサ(近藤)の外切り対策:

  • 富山がボールを持っている時は、コンサも富山と同様に中盤センターの1人(青木)が前に出て1-4ー◇-2っぽい配置で始まります。
  • 対する富山は、末木がCBとSBの間に落ちてくる形から始まります。富山の試合を全部見ているわけではないので自信がないのですが、おそらくこれはコンサが左(コンサから見ると右)に誘導して近藤のところでpressingを仕掛ける対応を山形、磐田、いわきとここ3試合続けているので、近藤が誰にpressingを仕掛けたら良いか迷わせるためにこうした措置にしたのかもしれません。
  • ただ富山は選手間の距離が空き気味で、トップや2列目から末木のところに顔を出せる選手もおらず、そこからの展開はSBの濱を経由して同サイドの狭いところを突いていくか、最初から高めのコンサのDFラインの背後に蹴ってFWや2列目が走るか、というシンプルな選択が多かったと思います。
  • 本来は末木が受け手になるはずなので、その受け手の選手が下がって出し手になっているのでこうした展開になるのは仕方ないでしょう。

  • どっちかというと末木が下がらない方が富山はチャンスになっていたと思います。
  • 例えば18分に富山が右SBの西矢から斜めのパスが入った時に、この時は竹中と末木が下がらず両方中央にいて、竹中が前方向に走って青木の背後、西野の脇をとるプレーを見せます。30分にも松岡が高い位置をとって、大外へのクロスに濱がボレーシュート、34分に竹中の縦パスから伊藤がカットイン、背後をとった古川にスルーパス…という場面がありましたが、ここも末木と竹中が下がらない状態から前にボールを運ぶことから始まっています。
  • このように末木が下がらないと中央の人が増えて前方向のパスコースが作りやすく、富山が前進するには本来はそうしたプレーがより必要なのだったでしょうけど、コンサ対策ということで普段とやり方を変えてきたのではないかと思います。

  • 13分にはこの末木が下がってくるエリアでのボール保持から、CB神山が持ち出したところをコンサが引っ掛けてスパチョークがミドルシュート。枠には飛んでいましたがGK平尾が横っ飛びで弾き出します。

富山のボクシングムーブメント:

  • ↑に書いたように富山はコンサがボールを持っている時に、前線高い位置からマンツーマン気味の対応とゾーンディフェンス(というかスペース管理する役割)を併用して、コンサのボール保持に対して広く守る手段を持っている。
  • 一方で、何らかコンサが富山陣内に入る(ロングボールを使うなどして)と、富山はコンサの攻撃に対しゴール前のスペースを消して守ることも仕込まれている印象で、広く守ることと狭く守ることの使い分けというか併存が十分にできていました。

  • 少なくともゴール前でスペースを消していれば、この日、前線で近藤やジョルディの単独突破に頼りがちなコンサに対しては十分な対応であって、これがコンサが簡単に富山ゴールを脅かしたりシュートに持ち込めなかった要因だったと思います。

  • 松田浩さんが主にゾーンディフェンスを念頭に置いて、前に出て相手のボール保持者にプレッシャーをかけるアクションと、下がって味方と連動しながらスペースを埋めるアクションを絶えず繰り返すことをボクシングのアクションを想起させながら「ボクシングムーブメント」と呼んでいましたが、富山がチームとしてやっていることもそれに近いというか、前に出る局面(陣形が広がり広く守る)と下がってスペースを消して守る局面(陣形が収縮し狭く守る)の繰り返しになります。

  • 一方で、少なくとも後半途中までは富山はこれができるけど、90分間全員で続けるとなると体力的な問題もあるので、試合展開によっては選手交代も使って変化させていこう、という考え方はあったかと思います。

コンサのアクシデントとポケットを取る攻撃:

  • 開幕当初にコンサがよく見せていた「ポケットを取る攻撃」は、ポケットに突入する選手が中盤センターの馬場や荒野、SBの髙尾といった選手が多く、場合によっては2列目の近藤がそうした動きをすることもありましたが、その場合は近藤が一旦馬場や髙尾に預けてからになるため、いずれにせよポケットを取るにはコンサは中盤センターやDFの選手が高い位置を取る必要があります。

  • しかし家泉の起用が増えたあたりから、コンサはよりボールを大切にしなくなりましたし、そうすると例えばDFの選手が前に蹴ったりクリアといった「相手ボールになりやすい選択」が増えると、後方の選手が前で攻撃参加する選択を取りづらくなります。これがコンサのポケットを取る攻撃が控えられた要因だと見ています。もう一つは高嶺がDF起用、馬場、パクミンギュ、岡田が負傷で離脱と、走力や意識が一定あったりその役割に慣れていそうな選手が当該ポジションに不在となったためです。

  • この日はコンサがボールを持っている時の富山のディフェンスの対応が、即時奪回というよりは陣形を整えてからスペースを消して対応していたため、コンサとしてはマイボールの時間自体は一応それなりにありましたし、ピッチ上の選手もそうした感覚はあったのかもしれません。
  • ボールを持っている認識があったからか、32分にサイドチェンジから髙尾のアンダーラップを皮切りに、徐々にコンサはポケットを取る攻撃を見せ始めていたと思います。

  • しかし接触で傷んだ中村桐耶が38分に田中宏武と交代でピッチを去ります。
  • DF不足のコンサはトレーニングでは宏武や原(ついでにカン)がSBをやっていましたが、宏武は右、原が左が多かったと思います。この局面ではより体力がありそうな宏武を優先して、左に入れたと解釈します。

  • そしてコンサのアクシデントは続き、44分に富山が先制。最初に家泉と髙尾が関与して、高嶺がクリアしようとしたところで家泉と被ってしまいました。

ボクシングムーブメントの持久性:

  • 後半立ち上がりから、コンサは左サイドで田中宏武が高い位置からスタートし、左サイドで開けた位置にはスパチョークや田中克幸、青木がボールを引き取りに下がってくるように変化します。

  • 富山はコンサのCBとアンカーには誰が見るかは決まっていて、それ以外はマンツーマンで明確に決めているわけではないので、コンサの落ちてくる選手には割とそのまま静観気味だったのは前半からあまり変わりません。
  • コンサはボールを預けられる選手(青木、克幸、スパチョーク)が多く触るようになって、かつ富山がそこを潰してこないということで徐々に富山陣内に入っていくようになります。左サイドは、ワイドに開く役割ならスパチョークよりも田中宏武で適任だったでしょう。

  • 56分には15本くらい?のパスで前進して、近藤が斜めにドリブルで進んでから中央の田中克幸。シュートは右ポスト直撃でしたが、ポジションにとらわれずボールに関与して前進するプレーは悪くなかったかと思います。
  • ↑のプレーと、直後58分に青木の右へのサイドチェンジ→近藤が髙尾に落としてクロス…といった攻撃がありましたが、この2つで共通しているのはコンサの選手が富山の1列目と2列目の間でボールを受けることに成功しており、かつ富山はそこへの対応が不明瞭になっていて、中央を占有した形になったコンサがサイドへの展開で富山を動かすことに成功していた点です。

  • 前半、富山は中央を固めて(あとはコンサのDFの選手のスキルというかクオリティの問題もあって)このスペースを使わせないことになっていましたし、中央で起用された青木もほとんどここでボールに触れない展開だったと思います。

  • ですので富山は小田切監督が61分に交代カードを切って(伊藤・竹中・古川→布施谷、・河井・松田)、システムを1-3-4-2-1、撤退時は1-5-2-3気味の形に変えてくるのですが、55分頃くらいからのコンサのパフォーマンスを見ていると、確かに富山がこのままのやり方で中央を守り切れるかは微妙だったので、5バックで大外のスライドが楽というか、近藤や田中宏武が持った際に誰が対応するか明確になる形に変えてきたのは理解できる展開だったかと思います。


強引に中央を割る:

  • そしてこの両チームの交代(コンサも61分にジョルディ→バカヨコ)から程なく得点が生まれましたが、これは家泉のやや強引な縦パスを末木が引っ掛けたものの、コントロールができずセカンドボールを田中克幸が拾うところから始まっています。
  • この際、富山はシャドーの松田や碓井が高い位置からコンサのDFに圧力をかけ、布施谷もコンサのSB髙尾を捕まえに前に出ている。

  • ですので富山は5バックにして引いてスペースを消すというよりは、後方は最低枚数を確保した上で前に出て高めの位置でボールを奪って、ショートカウンターからあわよくば2点目を狙うくらいの姿勢ではあったと思います。
  • おそらくは前線にそこまで速い選手がいないこともあって、ボールを奪う位置をあまり下げたくなかったのかと思いますが、結果としては中途半端に中央が空いてしまって、陣形を整える前に青木と克幸の、これも強引な縦パス連発でこじ開けられた感があります。

甘くないですね:

  • 同点になった後もコンサは中央を使える状況が変わらずで、富山はコンサのボール保持に対し更に撤退での対応を余儀なくされます。
  • 一方で、富山ボールになった際は↓の、富山のDFとコンサの前線が同数の噛み合わせになりますが、コンサは富山に対してマンツーマンで前からはめていくのか、リトリートするのかが不明瞭で、富山のDFにプレッシャーがかからない状態で運ばれて、WBにコンサのSB(髙尾、宏武の両方)が食いついてスペースを作って、そこをカバーしようとコンサのCBも動いて中央から人がいなくなる…という状況が簡単に生じていました。


  • 終盤の交代カードは富山が79分に松岡→吉平、82分に末木→深澤。コンサは83分に田中克幸・スパチョーク・田中宏武→木戸・大﨑・原。

  • コンサは食いついてスペースを空けがちな対応はあまり整理されていなくて、監督のコメントの通り前線に走る選手とバランスを取る選手を入れたということなのでしょう。一応、コンサのDFが食いついた時には大﨑が下がってカバーしてはいましたが、88分の布施谷のインスイングクロスなどは肝を冷やす場面だったと思います。

雑感

  • 何度も書いている通り、ある程度ボールを保持することを前提としてボトルネックは明確で、そこに変化がないので前半は非常に内容に乏しいパフォーマンスでした。
  • 後半、相手の疲れやシステム変更もあってか、割とボールを簡単に手放さないようになってからは、監督の掲げるプレーが幾分か発揮されていたと思います。ただ、富山が極端なマンツーマンではなくて、割とコンサの選手に考える時間を与えてくれたことは幸いでした。

  • 岩政監督からバカヨコについてコメントがあり、
  • 私もバカヨコは持久力があまりないと見ていて、1度アクションをすると連続して次のアクションをすることが得意ではなく休んでしまう。これは攻守の切り替えが速いプレーや、FWの守備タスクが多いスタイルだとマイナスになる。ジェイボスロイドが典型ですが、中島大嘉も似たような課題があると見ています。
  • バカヨコの場合はポストプレーで味方を助けてくれるけど、そこからすぐに切り替えてもっとゴール前に走り込んでほしい、というのが監督のリクエストなのでしょう。もっとも、ビルドアップがもっとできればFWにポストプレーをさせなくてもよいので、真の問題はそっちのような気がしますが。

  • ただそもそも190センチで筋肉隆々でスプリントが得意な人に、持久力も求めること自体が間違ってるところもあって、都倉のような例外中の例外もいますが、室伏(スポーツ庁長官)なんかもそうですが速筋比率が高いのでそうした選手はどうしても持久力とか連続したアクションは苦手なのでしょう。
  • 岩政監督の「相手を圧倒するサッカー」だとFWも前線守備でそれなりの量的な貢献が求められるのでしょうけど、アクションの量に関してはジョルディを使ってみようと思う考えは理解します。もっともジョルディはアクションの質が課題なのですが。また大嘉はかなり悩んでいるようで、水戸のような、FWにそこまで守備範囲を要求しないチームの方が合っているのかもしれません。
  • 確実に言えることは、現状前線にサイズとパワーのありそうな選手は複数いますが、アクションの量と質を両立する選手がいないので、FWを補強するとしたらそうしたタイプかなと思います。これでまた「大きいけど動きの量に課題がある」タイプを連れてきたら強化担当はグーパンです。( ¨̮ ) それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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