2021年12月7日火曜日

北海道コンサドーレ札幌の2021シーズン(2) ~選手個別雑感・MF&FW編~

 全編に続いてMF&FW編です。


6 高嶺 朋樹:38試合(内スタメン30)、2,637分出場、1得点0アシスト

  • 6番を与えられ期待は高かったものの、開幕はバックアッパーとしてのスタート。アンカーでは宮澤、インサイドハーフではチャナティップが1st choiceで、どちらでもない(又は、この役割だと他の選手に劣る)とされた高嶺は、第8節までは(前線に負傷者が続出した3節を除く)長くても30分弱のプレータイムしか与えられず、よく言えば「課題が見つかった」状態でした。
  • 風向きが変わったのは8節(アウェイのFC東京戦)のミンテの退場で、以降は宮澤が最終ライン中央にスライド。空いたアンカーに高嶺が入り、以降はほぼ不動のスタメンとして、この役割の選手では最も出場機会を得ました。
  • この流れ、経緯だけを見ると、本人の向上によってポジションを掴んだというよりは別の要因によるところが大きく、それはピッチ上の振る舞いを見ても正直なところあまり変わっていない…開幕時の課題は実はそこまで解決していないまま試合に出続けている状態だと私は思っています。
  • にもかかわらず不動のスタメンであるのは、端的に言うと彼の希少性…FW陣を除いたセンターラインの選手では唯一の左利きで、最終ラインで相手のプレスからボールを逃がすときに必ず1人は左利きがいた方が周囲がプレーしやすいから、という要因が大きいでしょう。
  • ボール保持時の「役割」を、もっと細分化して考えると、「ボール保持時に最終ラインやや左に落ちて宮澤と福森の間でプレーする」と定義できます。利き足で全てが定義されることはないのですが、ボールの運び方をあまり丁寧に落とし込んでいないチームにおいては、左利きで相手のFWからボールを隠しながら持ち出しがしやすい高嶺の有無は、荒野や駒井、深井、宮澤と比較すると、チームのボトルネックの緩和に少なからず影響していました。
  • ただ、きつめのことを言うと、それだけで試合に出ている間は否めず、静かなスタジアムで宮澤や監督ミシャからのポジショニングやボールの持ち方に関する指示は毎回多く見られますし、しかも非常に基礎的な原則レベルのことを言っているように見えます。
  • シーズン終盤は宮澤や福森の不在があり、代役として更に重要性は増していましたが、この2人(役割は全然違うが)と比べると、ボールを保持している時の影響力や完成度は現状かなり落ちるので、今後の向上を望むところです。


7 ルーカス フェルナンデス:27試合(内スタメン21)、1,728分出場、2得点2アシスト

  • 1年前に等々力で始まった”勘違い”。逆足のウイングバックという、明らかに機能性が低いシステムの最大の犠牲者として左ウイングバックでのシーズンがスタート。
  • 結果的には、前線選手の負傷等で金子が1列上がり、ルーカスの定位置も戻ってくるのですが、金子がドリブルで抜群のスタッツ(主に試行回数等の頻度関係)を叩き出したことの裏側として、ルーカスはボールに触る機会も減り、得意なプレーエリアも割譲しなくてはならず(金子が頻繁にタッチライン付近に流れてくるから)、そして中央にはターゲットらしい選手もいない。ベストのパフォーマンスを発揮できる環境にはとてもなかったと思いますが、それでも得意のシチュエーションで受ければ独力でチャンスを創出する能力は健在で、本人に関しては特に注文はありません。
  • ルーカスのフィニッシュは95%右足なのですが、それは相手もわかっていても何らかフィニッシュに持ち込めるという点でこのチーム(相手に5枚のDFでスペースを消されがち)には貴重な戦力であることは、今後もしばらく変わらないでしょう。

8 深井 一希:27試合(内スタメン21)、1,082分出場、2得点1アシスト

  • 「今年も膝は守れてよかった」というのが率直な感想ですが、プレータイムは2シーズン続けて1,000分程度にとどまりまり、また離脱期間も複数回あったことで、コンディション面で難しいシーズンだったのでしょう。
  • シンプルに考えて、より”走りの量”を要求するようになった2020シーズンからのトータルフットボール路線以降、明らかに稼働率が下がってきたと捉えられます。
  • 加えて、マンマークで全て対応する関係上、アンカー(1-3-1-4-2の「1」)の選手は相手の2トップの一角になる選手を最終ラインに下がってマークする、CB的な役割を担うことが要求されていて、深井はこの兼ね合いもあって稼働率が下がってきた、もしくは使いにくくなっているのかと感じています。宮澤や駒井、高嶺が最終ラインで試されて、深井が試されない理由は能力的にはないので、恐らくミシャがそれをしない理由は、最終ラインだと守備による膝への負担が大きいと考えているからでしょうか(その割には中盤で元気に走り回ったりはできるので、詳しく説明はできないのですが)。
  • この予想が外れていないとしたら、1-3-1-4-2ならインサイドハーフで起用するとか、本人の選手特性以上に、負荷の少ない役割を考慮して使っていくしかないのかもしれません。


9 金子 拓郎:38試合(内スタメン37)、3,211分出場、7得点2アシスト

  • シーズンの約半分を、シャドー/FWという結果が求められる役割で起用され、残り半分はどちらかというと直接結果には現れにくいアウトサイドでの起用でした。
  • まず後者の役割(サイドアタッカー)に関して言うと、リーグ最高クラスのドリブルのスタッツを記録しながらアシストは2。37節のトゥチッチへのラストパスはいいとして、32節(アウェイ横浜F・マリノス)は菅のスーパーゴールで数字がついただけ。
  • 彼が幾度もドリブルで切り裂いても殆どゴールに繋がらないということを示していますが、これは確かに、中央にターゲットがいないとか、クロスボールからの攻撃の設計に乏しいとか、個人に責を問えない要素も多分に含まれます。しかし、右ウイングバックはこのチームで最もボールが集まるポジションであるので、金子の場合はは犠牲者というよりは当事者としての側面も強いと思っています。
  • プレーエリアで捉えても、シャドーの定位置を逸脱して露骨にタッチライン付近に流れてルーカスの活動範囲を狭める光景はシーズン中ごろの定番でした。
  • そもそも(川崎みたいに圧倒的に攻撃機会が多いチームでないなら)「ドリブル試行数が群を抜いて多い」というのは、いつでも好きな時に仕掛けているとも捉えられる。そのプレースタイルは常にfor the teamであるかというと微妙なところで、「絶えず優位なシチュエーションを模索し続ける」とするポジショナルプレー全盛のモダンサッカーにおいてキャリアアップできるのか、という疑問が浮かびます。24歳で「戦術的には荒削り」は誉め言葉にはならないでしょう。
  • 前者の役割(シャドー)に関して言うと、相手が全て下位チーム(ガンバ1、横浜FC、清水、大分各2)とはいえ、7ゴールは悪くない結果だと思っていて、MFで考えるよりはむしろゴールを奪う役割の方が、このままだとすると向いているのでは?と見ています。
  • ただ、誰かが「金子ゾーン」と安易に言ったことで、”丹生ちゃんの心”の持ち主はみんな勘違いしてしまったのですが、基本的にタッチライン付近からスタートするウイングバックが中央方向に15mカットインして、その態勢のままゴールから25m離れた距離から枠内にシュートを飛ばすのは非常に難しい。これにプロのDF5人とGKが配置されると、この形でシーズンに3本決められるのは火星人のメッシとロッベンだけが例外です。
  • リヴァプールの両サイドも逆足ウイングじゃん!って思うかもしれませんが、彼らは役割的にはそんなにタッチライン付近にいなくて(だってSBに高精度のクロスマシンがいるから彼らのために大外は空けている)、寧ろ彼らはシャドーとして中央付近に入ってプレーすることができる。ミシャチームはウイングバックとは別に、最初からシャドーが置かれているのでそのスペースはない。
  • これが、私が逆足ウイングバックを”勘違い”とする理由で、金子は確かにそれっぽい位置からシュートを決めたりしているのですが、それは相手の守備が整ってないとか枚数確保できていなくてスカスカな時に、カウンターなどで最初から中央付近に陣取っていたという、相手のエラーに乗っかった側面が強いものです。
  • ともかく色々な意味で考えさせられる、当「考えるブログ」にふさわしい選手だったなと感じています。


  • 最後に去就について。まず今の時代に大卒でサラリーマンにならずプロスポーツを選ぶ選手に野心がないわけがなくて、「J1でそこそこのチーム」「お金じゃなくて愛のチーム」「残留できればOKのチーム」は、そうした野心に応える存在だと私は感じません(野々村社長がソンユンに言ったらしい、『ソンユンの成長にクラブが追い付けなくなったら移籍すればいい』も同義)。
  • クラブはそのことを理解した上で大卒選手のリクルートに力を入れていて、次の大卒選手の呼び水にするために、積極的なステップアップを支援することは中期的にはメリットになる。これが当然だと思ったので残留の報道には驚きましたし、ありがたい話だな感じます。この、残るという決断以上に、(前から報道があったのかもしれませんが)あまり長い時間悩まずにすぐ決断したのは人間性を示しているなと感じました。彼の野心に色々な面で応えられるクラブに2022シーズンは向かってほしいと心から思います。


14 駒井 善成:37試合(内スタメン37)、3,211分出場、2得点4アシスト

  • 開幕時は、「ボール保持時は相手の中盤の選手をマークするインサイドハーフで、攻撃時には中盤センター」でスタート。ボール保持時の役割はシャドーにもなったりしましたが、非保持はでは変わらず、最終的には高嶺と中盤で組むユニットが定番になりました。
  • この、高嶺と組んで、高嶺が下がることが多い場合に私は駒井の役割を便宜上「アンカー」と書くことが多くて、それは基本形が[1-4-1-5]の配置だと[1]であるからなのですが、実際に駒井がやっていることはアンカーというよりフリーマンに近かったでしょうか。
  • それは積極的に下がってボールに触ろうとする選択もそうなのですが、それ以上に、本人が行けると思ったシチュエーションで、ドリブラーの血が騒ぐのか、密集地帯に自分で突っ込んでいくのが結構多かったため。本来「アンカー」ってバランスをとることを第一に考えて、どっちかというと味方が突っ込んだ後の対処をする役割だと思うのですが、駒井は自分で行ける時はいってしまう。
  • この選手が賛否両論なのは、負担が小さくないタスクを抱えながら、こういうセオリーを無視した選択から、ゴールとかアシストといった結果を残すことがあるところ。その意味ではフットボーラーというかアスリートとしては確実に能力があると言えるので、不動のスタメンである理由はそういうところにあると思っています。
  • ただ、センタープレイヤーとして起用されるようになって3年目になりますが、宮澤や田中駿汰と同じ役割で考えると要改善な部分もあって、そもそもボールの持ち方だったりボディアングルのとり方を見ていると、適性はアウトサイド、リスクを冒せる役割なんだろうなという個人的な見解は変わりません。

18 チャナティップ:23試合(内スタメン23)、1,859分出場、1得点6アシスト

  • 本来このチームでは別格の実績、経験、能力を有するインターナショナルなプレイヤー(あ、ガブちゃんも代表歴あるか…)で、給料はよくわからないですが、18年に完全移籍時の移籍金は300万ドルとどっかで見たのは、(マーケティング的な特性も含め)個人的にはリアルな相場感だなと勝手に思っています。
  • どうしてもチャナは弟キャラ感があると思っているのですが、鈴木武蔵が移籍、ジェイのキャリアが下り坂になって、それらに比肩しうるクオリティの選手が加わっていないなら、加入5シーズン目のチャナは、前線の牽引役として果たすべき責任はもっと大きくてもいいと捉えています。
  • この点では、2シーズン続けて負傷離脱が続いたことは、代表召集の負荷などを考慮しても中心選手としてはポジティブに見ることはできないでしょう。ただ、あれだけ動くプレースタイルだと他の選手よりも負荷は大きくて、その意味では深井と同じくトータルフットボール路線には向いてないのかな?と仮説を立ててもいます。
  • ともかくコンディションさえ整えばスーパースターに戻るはず…と見ていたので、なんとかシーズン大詰めになって切れが戻ってくれたのはよかったと思います。新シーズンへの展望を一つ挙げると、小柏との組み合わせや使い方(互いの配置関係など)が、チームの得点力向上に向けてはポイントになりそうです。前線で唯一「引き付けてリリース」をして味方アタッカーにスペースを与えられる存在なので、トゥチッチの命運を握ることにもなるでしょう。



27 荒野 拓馬:28試合(内スタメン15)、1,330分出場、0得点0アシスト
  • 全治8~9か月とされていた負傷から、第10節(4/16vs横浜F・マリノス)に5か月弱でピッチに戻ってきた時は、それまで9戦で2勝2分5敗のチームの起爆剤として期待されました。
  • が、この試合で直接失点に絡んだ時は「試合勘不足」という言葉が思いあたったのですが、その「試合勘らしきもの」はシーズンを通じて取り戻されることはなく、少数精鋭のスカッドにおいて少なくはない誤算だったでしょう。
  • 元々、荒野は財前監督が2列目でデビューさせて、バルバリッチはウイングバック、四方田監督はウイングバックとインサイドハーフから最終的にはアンカー、ミシャは中盤で宮澤と組む2枚のうちの1枚と、やっているポジションは違うにせよ、「繊細さよりも、無理がきく」のが持ち味。
  • 2020シーズンにトップで起用された時も、長い距離を走れることやその速さでチームに貢献していたのですが、コンディション不良からそうしたダイナミックさも失われていて、2021シーズン終盤には消去法的にシャドーで使われたりもしましたが、シャドーとしては中間ポジションでプレーする能力の不足(それは前からわかっているし、シンジとイナとノノが何度も言ってたらしい)が露呈されただけでした。
  • そして戦術的には、駒井で割を食ったとも言えるでしょう。「中盤で1人がバランスを取って、1人がフリーマン的に振る舞う」がここ2~3シーズンの定番だとしたら、駒井がまさに、ここ2シーズンの荒野と似た振る舞いをしていて、先述の通り駒井がたまに突っ込むのを許容する役割でいるなら、荒野と並べることは現実的ではなく、荒野はそれこそ最終ラインとかを練習した方が良いかも、と思い始めています。それでも、まずはとにかくコンディションでしょうか。

28 青木亮太:31試合(内スタメン17)、1,330分出場、4得点1アシスト

  • サッカー星人。アウトサイドでregate(相手を1on1で抜き去るドリブル。金子が得意なやつ)をする役割としては不足かもしれませんが、とにかく相手の逆をとるのが上手くて、金子みたいに高速で動いていなくても(いないように見えても)一瞬で相手との距離を作ってシュートチャンスを作ったりボールをキープしてくれる。
  • 初スタメンは第17節でしたが、その後は確実に出場機会を増やし、ポジションはアウトサイドがメインでしたが役割的には中盤でpausa(小休止、所謂”ためを作る”)をするとか、DFとFWの間を繋ぐとか…要するに金子、駒井といった他の主力選手が得意な、「縦に突っ込む以外の役割」を任せられる選手で、開幕時の期待以上に重宝されました。
  • 中野嘉大のウイングバック起用には否定的だったミシャでもスタメンで使える程度の守備能力というか、プレーを読んでポジショニングを調整することができ、必要な時には身体を張った対応もできるので、数字に表れない貢献もしていたと思います。
  • 右利きの左WBとして、田中宏武の加入がありますが、仮に田中が即戦力級だったとしても青木は常に18人には入れておきたい選手でしょう。一つ言うなら、ミドルシュートも備えているので、引いた相手に対するジョーカーとして期待されることも増えるかもしれません。


4 菅 大輝:36試合(内スタメン26)、2,240分出場、1得点2アシスト

  • 2020年11月の新型コロナウイルスへの感染による影響で、ポジションとコンディションを取り戻すところからのスタートでした。この点では荒野とやや近いのですが、菅は荒野よりはトップフォームに戻るのが早く、左サイドで福森と組む4年目(5年目?)のユニットは、どう転ぶかわからないサッカーをするチームにとって心強い存在でした。
  • シーズン中盤以降、青木の台頭により、ルーカスも含めた3人でプレータイムをシェアする関係も一時ありましたが、菅自身は良くも悪くも変わっていなくて、アップダウンしながら時折裏を狙う、縦に抜け出してからのクロスボールというタスクは安定的に供給していました。シーズンを通じてアウトサイドは金子>菅≧ルーカス>青木という序列のようで、相手のSBにアプローチに行く役割があることを考慮すると、ルーカスをサブに置いてでも菅を起用する思惑は理解できます。
  • 注文をつけるとするなら、菅の場合は早いクロスがオプションではなくスタンダードになっていますが、中の状況を見て配球できるとより良いかと感じます。
  • 変わったとするなら、福森の負傷で遂にリーグ戦でも最終ライン左で起用されたことでしょうか。ただ自分よりも大きくて(多分)速い武藤(めちゃコミック)にはやられてしまって、かつての大宮のバレーと曽田さんマッチアップを思い出しました。これは本人というよりは編成の問題でしょう。


11 アンデルソン ロペス:14試合(内スタメン14)、1,218分出場、12得点0アシスト

  • 報道及び移籍時のフロントのコメントからすると、3年契約の最終年だったようで、残り半年の時点でバブルが弾ける直前の中国に売ることができたのは、このクラブとしては久々に良い取引ができたと言えるでしょう。
  • しつこくて恐縮ですが、2020年8月の名古屋戦から、”9番”として覚醒の兆しはありました。以前は自分で突っ込むことしか考えていなかったのが、周囲を使えるようになって、加えて2021シーズンはより補完性の高い小柏の加入と、PKを蹴る機会に恵まれたことが特典量産の要因だった、とサクッとまとめておきます。


32 ミラン トゥチッチ:11試合(内スタメン5)、449分出場、2得点0アシスト

  • 加入時に「都倉みたい感じだと思う」と、見る前に書きましたが、見た後も印象は変わっていません。
  • 背後にいるDFに対し、入れ替わって反転するのが好きそうで、器用そうなイメージがあるかもしれませんが、それはつまり相手DFをブロックするプレーが得意ではないことの裏返し
  • 9番としてはあまりポジティブに捉えらえないほど動いていて、このチームが[1-4-1-5]ないし[1-3-4-2-1]のようなシステムでプレーするなら、シャドーがFWを活かすのか、FWがシャドーを活かすのか、という考え方はありますが(というか、相互性があるのが一番いいんでしょうけど)、トゥチッチはシャドーを助けられるタイプの選手には見えなくて、あまり器用さは感じないですし、周囲がトゥチッチに合わせてあげる必要がある。となると彼はその期待に応えられるだけのゴールを、リターンとして返してくれるのかな?という点はまだ不透明です。
  • 得意な形は、恐らく柏戦の1点目のような、左に膨らんで走って相手DFと距離をとっての左足シュートなのでしょうけど、1パターンだけでやれるほどJ1は甘くないと思いますし、札幌はどうしても頭を狙ったクロスボールの放り込みが主体なので、そっちの方でやれるかどうか、がキャリアを決めることになるかもしれません。
  • ただ、前線が小柏、チャナティップ、駒井でアウトサイドに菅、といったスカッドだと、セットプレーのディフェンスで高さが欲しいところで、(ドドちゃんでも別にいいんですけど)トゥチッチ。


33 ドウグラス オリヴェイラ:21試合(内スタメン0)、331分出場、2得点0アシスト

  • あんまりドドちゃんに関しては書き記す感想がない(どんな選手かは知っているし、その範疇のプレーだったから)のですが、一つ言うとしたら、ジェイのコンディションの問題があり、「終盤に高さで強引にゴール前勝負」のシチュエーションで、あまり空中戦得意じゃないドドちゃんに白羽の矢が立つことは何度かありました。

  • ホームの徳島戦(7/4、第21節)では、恐らくリーグで最もパワーがないDF陣相手にドドちゃんを入れると相手がアワアワしてくれて、最終的にオウンゴールで決勝点、って展開ではあったのですが、基本的にはトゥチッチと同じで背負うよりも反転したいタイプなので、高さ要員として計算に入れにくいのがネックかと感じています。


35 小柏 剛:30試合(内スタメン27)、2,338分出場、7得点4アシスト

  • 開幕直後に離脱もあり、初ゴールは11節、その次が17節とコンスタントにゴールがあったわけではありません。ただ、特にシーズン序盤に、ポストに嫌われたりで決定機を逸している、決定力が課題の印象があるかもしれませんが、GKを外してシュートまではできていましたし、そもそも小柏にやらせたい役割がチーム内で多すぎて、ゴール前で勝負できるシチュエーションがそこまでなかったと思っています。
  • 一時はウイングバックで途中出場するとか、試合中にインサイドハーフに移動するとか、起用法も定まらない中での7ゴールは十分に立派だと言えるでしょう。なおFootball labによると、FWでの先発起用は12試合(後の15試合はシャドー/セカンドトップ)。
  • プレースタイルはイメージ通りで、速さもそうですが動き出しの量が秀逸で、タイミングが合わなければ何度も前線で動き直しを繰り返す。これは裏へのシンプルなボールを多用する札幌には合っていますし、トップの補佐役としての性質が強いシャドーではなくて、彼がFWとして定着すれば、その動き出しに合わせるボールももっと増え、結果も自然とついてくるはずです。この記事を書いている最中に日本代表への初召集が発表されましたが、2022シーズンは間違いなく攻撃の中心として期待されるだけに、コンディショニングは気を付けてほしいです。


48 ジェイ:24試合(内スタメン7)、871分出場、1得点4アシスト

  • ジェイに関しては2021シーズンどうだった、というトピックよりも、それまでの思い出の方が圧倒的に多いので今回は何も書かなくてもいいかなぁ、と思ったのですが、スタッツを見てて気づいたのは、この限られた出場機会で4アシストもしている。そしてそれらは全部「アバウトなボールをジェイに放り込んで、空中戦で落としたところをシュート」というもの(そこまでアバウトじゃないボールもあるけど)。
  • 昨年の総括の際に、ジェイについて「ゴールは減っても、起点を強引に作る能力は代替不可能」と書いたんですが、これで4点も入ってたんだな、と改めて凄さを思い知らされますし、この働きはジェイ以外には絶対できないので明白な戦力ダウンになるでしょう。接戦になった時に、不在を嘆くようなシーズンにならないと良いのですが。

2021年12月6日月曜日

北海道コンサドーレ札幌の2021シーズン(1) ~選手個別雑感・GK&DF編~

※このシーズンはチームのプレー内容に対する総括が難しいので、選手への感想から書くことにします。


GK

1 菅野 孝憲:36試合(内スタメン36)、3,240分出場、46失点

  • 個人的にチームMVPを選ぶなら菅野です(次点が田中駿汰、3位が宮澤)。このシーズン、14勝のうち1点差勝利が8勝で、セーブ数とかのデータが乏しいので印象論になってしまいますが、菅野は平均して毎試合2本くらいは枠内シュートを防いでいるとしたら、順位や結果に最もポジティブな影響を及ぼしていると言えると思います。
  • プレーを見ると相変わらず、このサイズの選手としては抜群に完成度が高くて、特に放り込まれても殆ど弱点を露呈しないのは頼もしいです。
  • また、コンサドーレのここ2シーズンで最もスキルアップした選手かもしれません。バックパスの処理を毎試合完璧とは言えないとしても、入団直後と比べると処理の安定性は見違えるほど向上していて、以前はただ蹴っていたシチュエーションでも役割を遂行することができています。
  • クラブとしては小次郎の台頭に期待したいのでしょうけど、恐らくあと3年程度はかかると考えると、まだまだトップフォームを維持してほしいですし、自陣で形らしい形がない守備対応をしていて、依然として緊縮財政下であることを考えると、2022シーズンも菅野の存在が生命線なのかと思います。


34 中野 小次郎:2試合(内スタメン2)、180分出場、4失点

  • アウェイの浦和戦(5節)で、菅野に特にトラブルがないのに起用されたのは莫大な期待の表れで、この試合では持ち味のフィード能力を披露しながらクリーンシートを飾りましたが、翌節は神戸相手に4失点で「育成投資としても危ない」とする認識になったのか、また負傷の影響もあって以降は出番に恵まれませんでした。
  • 菅野をJ1水準の比較対象とすると、まだシュートストップが不安定で、それは中~遠距離の反応もそうですし、至近距離で誘導しながらコースを消す対応にも課題は感じます。入団前の紹介だと、「高3~大学で急激に動けるようになってきて…」とありましたが、見ている限りはまだこうした身体動作も向上の余地がありそうで、25~6歳くらいまでは長い目で見守るべき大器なのかなと思います。


DF

2 田中 駿汰:37試合(内スタメン37)、3,285分出場、1得点1アシスト

  • 「安定」や「秩序」という言葉とは無縁のフットボールをピッチ上で展開するチームにおいて、フィールドプレイヤーでは最もそれらをもたらしていた選手でした。
  • 特に2021シーズンは対戦相手のシステムが1-4-2-3-1ないし1-4-4-2系が大半のため、右サイドバックっぽい仕事や役割がメインだったと思いますが、アウェイ川崎戦(14節)で三笘を封殺したように、役割がセンターバックから変わっても寧ろ強みを発揮していたと感じます。
  • 選手特性としては、顔は小籔千豊さん味がありますが、駿汰は手足が長くリーチがあるので、相手と対峙した際に無理に足を出してボールを取りに行く(バランスを崩す)必要がないのが特徴かと感じます。役割は違いますがパトリック・ヴィエラを少し想起させます。
  • ボール保持時は、こちらも相手が1-4-2-3-1ないし1-4-4-2だとSBになりますが、2021シーズンはSBというよりはフリーマン的に中央に出ていって、セカンドボールを拾ってシュートしたりと攻撃性能を発揮していました。この点ではミシャの言う「なるべく高い位置をとって対面の選手を押し込め」に忠実で、今のチームでそこそこ楽しんでやれてはいそうですが、恐らく引く手あまただけにオフの動向は注目されます。


3 柳 貴博 :25試合(内スタメン1)、335分出場、0得点0アシスト

  • まず本人はすぐに試合に出たいと思っていたでしょうが、年齢や選手構成も考慮すると、クラブとしては短期的だけでなく中期的な視点もあっての獲得だったと思います。結果としては、短期的には強みも一定は出せていたものの、スタメンで使うにはまだ課題があって、特にチームのスタイルというより可能性のある役割(最終ライン)への適応に苦労したシーズンだったでしょうか。
  • 田中駿汰の項目で書きましたが、最終ラインの左右の選手はサイドバック的な役割が強まりつつある中で、”SB歴”が割と長めの柳には一定の期待があったと思います。
  • 宮澤の不在もあり、リーグ戦で唯一のスタメンとなった名古屋戦(第26節)も、対峙する名古屋のサイドアタッカー(マテウス)への対応を期待されてのもので、実際に、ピッチに立っていた前半の45分間はまずまずのパフォーマンスだったと記憶しています。
  • ただ、この試合後半から駿汰を右、高嶺を中央に移す形が一時期定着したように、駿汰が務めることが多くなった右DFは「最初に敵陣にボールを届ける人」の側面が強くなっていて、どっちかとうと大外の滑走路をアップダウンするタイプの柳はこの役割を最後まで消化できず、コンサドーレの最終ラインだと使い方が難しくなってしまいました。
  • それでもこのチームにはon the ballで特徴を発揮する選手は飽和気味で、監督もそうした選手を好みますが、ボールは常に1つしかないので柳のようなoff the ballでも活きる選手は不可欠でしょう。
  • そのフリーランとサイドを封鎖する能力はWB起用の貴重なオプションとなり得ましたし、また一定のサイズがあり空中戦で頭数に含められる、そして3バックでの起用も可能である点は、シーズンを追うごとに徐々に重要性を増していきました。(正直ここ4シーズンを見てこの点の監督の手腕にはあまり期待していないのですが)こうしたタイプの選手を今後カスタマイズして、期待している役割を遂行できるようにしていけるかは、選手を自由に買えないチームとしては極めて重要な視点かと思います。


5 福森 晃斗:32試合(内スタメン32)、2,798分出場、1得点5アシスト

  • ポジティブな面を挙げると、前方向に突っ込んで守備をしたいとするチームポリシーによって菅の庇護も弱まり、また俊足のDFキム ミンテもいなくなった中で、相手のウイングに対して福森はどこまで守れるか?という点は大きな懸念でしたが、結果的には思ったほどSBとしてweaknessが問題になることはなかったと思います。これは福森がどうというか、Jリーグにはそもそもウイングとしてプレーできるタイプの選手が非常に少なくて、だいたいの選手は中央に入った時に特徴を出せるタイプだから、と言えるでしょうか。
  • 攻撃面に関しては相変わらず、チームで一番信頼されている選手で、出し手として(無論トライの数相応のエラーもあるとして)びっくりするパス(いや、福森だとそうは驚かないか)で決定機を演出したりもありましたが、チームにとって大きいのはGKや中央のDFからのボールの逃がしどころとして非常に頼りになる点でしょうか。田中駿汰にも言えますが、多少難しいボールでも体で収めてくれるので、中央で相手の圧力を受けてもとりあえず福森に預けておけばそうそう事故にはならないのは、柳や岡村、一時代役を務めた高嶺、そして中村にはないスキルで、これらの選手が出場機会を増やすにはそこがポイントになるかなと思います。
  • 気がかりなのは、これはまず福森個人の問題ではないのですが、中盤で触って展開できるチャナティップが不在だと最終ラインから前線にダイレクトに蹴っ飛ばす雑なアタックが増えるな、という点は、チャナティップ不在期間が長いシーズンにおいては特に感じるところでした。もう一つは、恐らく慢性的に足の状態が悪そうで、プレースキックを田中駿汰や菅に任せたり、全般にピッチ上を動いている時にあまり足に負荷をかけないような動きが増えている(ように見える)点です。


10 宮澤 裕樹:29試合(内スタメン28)、2,423分出場、0得点0アシスト

  • アンカーでスタートしましたが、ミンテの不調によって最終ラインにスライド。その後はミンテの事情だけでなく本人のパフォーマンスによって最終ライン中央として不可欠な存在でした。「宮澤はCBじゃないでしょ」と言い続けた私ですが、30歳を過ぎても衰えない能力と向上心によって、今やチームで一番DFらしい選手になっていると思います。
  • 役割的にはまず相手の1トップをマークすることが大きくて、ここ物理的にめちゃくちゃ速い選手がいると厳しい時もあるのですが、宮澤のすごいところはパワーで劣勢でも簡単にやられずに粘り強く対処できる(荒野だと相手にチョップして退場でしょう)点で、対人能力は年々進歩していると感じます。
  • そして最終ラインからの配球については、アンカーでもCBと同等の要求水準ではありますが、最大の違いはアンカーに高嶺が入ると宮澤は右に回れる点で、ミンテと組んでいた時は左で窮屈そうにしていたのが解消されたことで本人の負担も減りました。カップ戦で最終ラインに宮澤も田中もいないと、誰も相手を引き付けてからパスしてくれないので、中盤から前は狭いスペースで走って蹴るだけのプレーに終始していましたが、今のところは、CBとして基本的なタスクを必ずやってくれるキャプテンの存在なしにはチームの未来が想像できないところです。


20 キム ミンテ:9試合(内スタメン7)、628分出場、0得点1アシスト

  • あくまでこのシーズンに関しては、結論としては、ミンテニスタの私も全面的に認めますが、宮澤との競争に敗れた格好となりました。
  • 2020シーズンにかなり序列が下がった印象でしたが、今シーズンは開幕からスタメン出場が続きました。それは相手に対して1on1で対処する方針が再確認されて、パワーとスピードのあるFWに対してはミンテが不可欠だと考えたからででしょう。
  • 開幕戦では横浜FCのクレーベに対して期待通りの強さを発揮するなど、ミンテにとってこのチームスタイルは追い風だなと思っていましたが、次第にチームのプレス強度が落ちていき、また各チームとも札幌にボールを持たせる選択を続けたことで、対人の強さよりもボールを運んで味方に届ける能力が重要になっていきます
  • そうなると、ずっとミシャが4年間気にしていて、試合中も大声でミンテの名前を読んでいる理由なのですが、ミンテは相手と対峙すると簡単にクリアでボールをリリースしてしまうので、味方(主に中盤の選手)に負荷がかかっていく。最終的には2度の退場(8節と15節)は、そのポテンシャルに期待して我慢し続けたミシャが考えを変えるには十分だったかと思います。
  • それも8節は数的優位下で相手の誘い出しに乗ってしまってDOGSOを取られて、15節はクローザーとして投入されたATにバックパス処理のミスから。それぞれずっと課題とされていたプレーでもあったので、残念ながら擁護は難しいものでした。


50 岡村 大八:21試合(内スタメン4)、458分出場、1得点0アシスト

  • ポジティブに言うと、勝っている試合のラスト10分でピッチに送り出すだけの能力は信頼されている(彼よりも若い選手にはその役割が与えられていないので、ここには明確な差がある)。一方でスタメンのDFとしては、サイズにせよDFとしての経験にせよ不足なのは承知で、終盤は高嶺や菅の後塵を拝していました。
  • ラスト10分跳ね返すだけならOKなのですが、イーブンのスコアからスタートして90分プレーすると考えると、大八にできることが現状少なすぎて、位置づけとしてはミンテに近いのです、味方のMFに負荷がかかることが、その守備能力のプラスを上回っているので起用には慎重にならざるをえないのは理解できます。
  • 一度書きましたが、ボールを保持している時の振る舞いは悪い意味で進藤化していて(とにかく高い位置を取れ、というのはミシャが言っているようですが)、受け手及び出し手としては全く機能しなくなるので、右DFで出ていると1人少ない状態でプレーしているぐらいの影響がある。ボールを預けられないとか運べないとか配球ができないとなると、モダンなフットボールでは、その選手のかなり可能性を狭めてしまうというか、非常にクラシカルな選手だなと感じました。
  • ただ24歳でJ3からプロデビューの大卒3年目、クラブの戦略としては、彼のような選手が主力になってくれることが前提でもあるので、何とか出場機会を確保してほしいところ。ただそのためには、繰り返しになりますがもっとモダンなDFにならないと難しいかなと思います。

2021年12月4日土曜日

2021年12月4日(土)明治安田生命J1リーグ第38節 横浜FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~変わらないことの価値~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 横浜は厳しいシーズンでした。4/8に早川監督が就任し、5/26の福岡戦からは韓浩康が中央に入る3バックの1-3-4-2-1が多いようです。噂では、夏のマーケットで加入したGKブローダーセン、FWサウロ ミネイロといった選手はまずまずのクオリティで、彼らの個人能力を押し出しているようなチームに変わったと聞いていましたが…この日は前線は日本人選手3人のユニットでした。
  • 札幌はジェイが帰国して、また”インパクトプレイヤー”(横浜ではサブの選手をこう呼ぶようです)にFW不在のスカッド。