2019年3月2日土曜日

2019年2月23日(土)明治安田生命J1リーグ第1節 湘南ベルマーレvs北海道コンサドーレ札幌 ~荒野のシーズンになるのか?~

0.プレビュー(スターティングメンバ―)

スターティングメンバー

 札幌(3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、アンデルソン ロペス、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、MF中野嘉大、小野伸二、ルーカス フェルナンデス、FW岩崎悠人、鈴木武蔵。駒井は試合直前にリリースがあったが、1月のバンコクユナイテッド戦で右膝半月板を損傷しており数か月の離脱が見込まれることとなった。荒野の開幕スタメンが濃厚だと盛んに報じているメディアがあったが、ここまでの重症だとは予想が難しかった。
 湘南(3-4-2-1):GK秋元陽太、DF山根視来、坂圭祐、大野和成、MF岡本拓也、松田天馬、齊藤末月、杉岡大暉、FW武富孝介、中川寛斗、山﨑凌吾。 サブメンバーはGK富居大樹、DFフレイレ、MF秋野央樹、古林将太、FW指宿洋史、野田隆之介、大橋祐紀。主力の引き抜きが相次いだ近年と比べると無風なストーブリーグだったと思われる。前のシーズンの主力では、梅﨑と菊地がメンバー外。


1.立ち上がりの攻防と両チームの狙い

1.1 互いの狙い


 開始3分ほどは互いに蹴って走る(走らせる)シンプルな展開が続く。次第に札幌がボールを保持する時間が長くなり、徐々に落ち着き始める。展開をもう少し見ていると、札幌も湘南も、指向性はもちろん基本設計も大きく変わっていないことが確認できた。

 札幌は(相変わらずだが)5トップがアグレッシブなポジションを取り続け、相手のDFに対し、常にダイレクトな脅威を突きつけることで敵陣に釘付けにし、自陣~ミドルサードで得た空間でボールを保持し続けることで試合の主導権を握ろうとする。5トップの大胆なポジショニングと、自陣でボールを保持するためのGK+DF+中盤センターの振る舞いはいわば表裏一体のような関係にある。

 (敵陣に押し込む=相手にブロックを作られた状態でも打開できる)札幌のジェイのようなウェポンを持っていない湘南は、札幌がブロックを作る前に攻撃を完結させたい。最大の狙いどころは、札幌が攻撃陣形から守備陣形に移行完了する前のフェーズにあることは言うまでもない。よって湘南としては、ボールを保持することは重要ではない。札幌に隙を作らせることと、その時に自軍の選手と回収したボールを敵陣に素早く展開できる状態を作っておくことがより重要である。
札幌ボール保持時の陣形変化と湘南のセット守備

 湘南は序盤から、札幌がボールを下げると最終ラインを大胆に押し上げて陣形の圧縮を図る。これは①中盤~前線の選手が担当するエリアを狭めてサポートする、②ボール回収位置を札幌ゴールに近づけ、速攻の威力を高める、③ジェイやロペスと自陣ゴール前で高さ勝負したくない、といったいくつかの理由が指摘できる。

1.2 福森vs武富


 湘南は札幌のボール保持に対し、「3-7」の関係で人を運用する。すなわち1トップの山﨑、シャドーの武富と中川は前線で札幌のビルドアップ部隊を見る。松田と齊藤の中盤2枚と5バックは、札幌の5トップに対する”保険”として残されている。
 湘南の前3枚は、札幌のFP5枚+GKク ソンユンには枚数不足ながらも二度追いを厭わない頑張りでボール保持に圧力をかけ続ける。特に、”チャナティップよりも小さく、チャナティップよりも頑張る男”中川の頑張りは、ユニフォームが黄色から緑に変わっても不変で、ク ソンユンまで下げられると必ず追いかけていた。

 この攻防でポイントになっていたのが札幌から見て左の、福森と武富の関係。右シャドーの武富にとり、守備での最大のミッションは、放っておくと危険な福森の左足のケアであることは今更言うまでもない。この試合いずれもチーム最多の21回のデュエル、6回のタックル(うち5回成功)というスタッツが示すように、武富の福森に対する守備対応は序盤から目立っており、少なくとも福森から自在にボールが供給される状況にはならなかった。
デュエル企図数(上位8人)
タックル数(上位8人)

1.3 左サイドでの出口


 しかしながら序盤は札幌が左サイドからビルドアップに成功する局面が多かった。下に図示するが、札幌が前進を試みる際の福森のポジションは反対サイドの進藤よりも10mほど高い位置をとっていた。深井と離れたポジションを取ることで、福森は深井から足元へのパスを受けにくくなるが、深井と福森を射程範囲に入れたい武富にとっては問題が生じることとなる。福森は深井から受けられなくとも、GKク ソンユンや他の選手からの長いパスであればこのポジションは問題にならない。
 よって札幌が福森を預けどころにすると、武富は空けまいとチェックに来るが、武富の背後を取っている状態の福森を完全に消すことは難しく、福森が完全に消されない限りは、札幌の前進と敵陣侵入の成功が続いていた。
武富の背後を取る福森のポジショニングにより出口ができる

1.4 ジェイの質的優位


 札幌のFWジェイと、湘南のCB坂のマッチアップも試合展開を左右するポイントの1つとして挙げられる。その理由は、後方ビルドアップ部隊へのプレス回避に躊躇なくロングボールを使う札幌は、温泉ソムリエ・都倉を失ったためターゲットがジェイしかいない。対する湘南は札幌の5トップに数的同数で守るため、坂とジェイのマッチアップは頻発し(マークを変えられない)、ジェイとしても約15センチ小さい坂との競り合いを狙わない手はない、といった状況であるため。
 両チーム最多の27デュエル(うち16勝)の数値が示す通り、ジェイを狙ったロングフィードは試合を通じて多用され、試合前からの予想通り、サイズと経験で勝るジェイが坂を抑え込み、前線でボールを収め続けていたことも札幌のボール保持時間を確保することに一役買っていた。

2.答えはまさかのワンバック


 湘南はジェイや福森にボールが収まる展開が続くと、前線から捕まえる守備を一旦リセットして自陣に5-4ブロックで撤退し耐える展開が続いたのが15分~30分頃。
 依然としてボール保持時間を確保している札幌は、湘南陣内に入ると、湘南の1トップ山﨑をマークする宮澤は残しつつ、その脇に位置取りをする荒野と深井は更にポジションを上げていく。この時、基本的に左にいる深井はボールを運び、福森・チャナティップ・菅のトライアングルに届ける役割で、右にいる荒野はボールを持たずにポジションを上げていたが、荒野は札幌の5トップの背後に位置することでセカンドボールの回収を意識していたと思われる。また左で展開し、湘南の中盤の選手が札幌から見て左によると、右でオープンになったスペースにたびたび進出していたのは進藤。進藤はサイドチェンジを受けて自らがボールに触り、直接フィニッシュに絡もうとする時もあれば、荒野と同様スペースを意識している振る舞いも見られた。
札幌ボール保持時に荒野や進藤が追い越していく

 いずれにせよ、この時札幌は宮澤1人が最後方に残る形になっており、この状態で攻撃を完結(所謂「シュートで終わる」)できず、湘南ボールでトランジションが生じると、
宮澤の脇を狙って一気に走る湘南

 1バック状態の宮澤の両脇に、湘南のシャドーとWBが全力でスプリントすることで度々背後を突かれるようになっていく。
 プレシーズンの札幌について、2年目のミシャはトランジション対応の強化を意識しているとの報道が一部であったが、荒野や深井、進藤の位置取りを見て「そういうことか」と感じた。中盤空洞化の4-1-5では中央の薄さが問題となるので、ならば最終ラインから人を移動させて中央に投入しようとの考え方になるが、マンマークで捕まえるとして、潰しきれない場合は必然とこのように背後を取られまくってしまうという常識的な話がさらけ出されることとなった。

3.セカンドボール攻防戦


 後半立ち上がり10分は湘南の攻撃機会が増加する。ピッチ上を見ていると、両チームとも前半と比べてやり方にそう大きな変化はなかった。札幌はジェイへの放り込み、守備では相変わらず”辻褄が合う限りは”マンマーク基調の数的同数守備を継続する。湘南は札幌のビルドアップに対して高い位置からのプレッシング、ボール保持時は、こちらもGK秋元からの山﨑への放り込みが多かった。
 一つ挙げるとするならば、札幌のマンマーク基調守備の”辻褄が合わなくなるとき”…どこまでもマンマークで付いていくと決め切っていればいいが、札幌はそこまでの割り切りはない。具体的には山﨑が下がったりサイドに流れると、宮澤とのマーク関係が曖昧になり、秋元の山崎へのフィードが宮澤の射程範囲内から外れると(これは狙っているのか、多少ミスキックなのか、あるいはピッチリポーターがリポートしていた風の影響か、色々あるだろう)、山﨑の競ったボールが湘南に収まり、二次攻撃に移行できるようになっていたと思う。

 55分以降、再び札幌がボールを持つ時間帯も一部できるが、その後はまた湘南が蹴り、走り、セカンドボールを拾う展開にシフトしていく。ミシャのコメントにもあるが、湘南はセカンドボールを拾うことに長けている。こぼれた瞬間を複数の選手で狙っている湘南と、あくまでボール保持時の陣形変化がベースにある札幌の差は終盤になって表れる。武富の1点目、体力が尽きていた?菅はイージーなタックルでしか対抗できず、2点目もシンプルな、しかし早いタイミングでのクロスを札幌DFは掻き出すことができなかった。75分に投入したルーカスが2度チャンスを作るも実らず、黒星スタートとなった。

4.雑感


 湘南のアグレッシブなスタイルを警戒した上での(前回の対戦時、野々村社長に「ジェイと(ソムリエ)都倉にボールを放り込んでいいか?」と確認したという話があった)早坂スタメン・ルーカスサブという選択だったと思われる。アウトサイドで幅をとって中央で仕留めるイメージだっただろうが、ジェイ・チャナティップはともかく、ジェイ・アンデルソン ロペスの関係がイマイチで、この2人で殆どパスが成功しなかったこともあり、攻めている時間帯にゴールを割れなかったという印象である。またチャナティップについては、どちらかというとチャナティップよりも、供給源である福森や宮澤が自由を奪われた印象である。
 最後、オマケのような書き方だが、個人で際立っていたのは荒野。この試合は、これまで見せていたような不用意すぎるポジショニングや食いつきが目立つことなく、持ち前の強さと速さ(40分のカバーリングには、筆者の隣に座っていた湘南サポーターの小学生もどよめいた)、駒井が担うはずだったポイントガード的な役割も無難にこなしていた(今シーズンもボール保持時にCBを押し上げるスタイルを継続するなら、最終ラインに置いておく選手は対人能力に長けている選手がいいはずである)。遂に「荒野のシーズン」が到来するのか?という点は今後継続的に見ていきたいところである。

2 件のコメント:

  1.  こんにちは、にゃんむるです。今シーズンも楽しく読ませてもらいますよー('ω')ノ でも仕事の関係で、リーグ戦は4~5試合しか参戦できません。超悲しいシーズンです。お願いだから土曜の早い時間の試合は勘弁して下さい。
     チラッとしか動画観てないですけど、メンツ見ると復帰の武富や中川のようなくせ者と湘南スタイルが融合しそうで、今年も湘南は油断できないチームという感想をもちました。最後まで走り切る選手達には、たとえ相手とは言えいつも関心させられます。そして個人的にそういうチームは好意的に観てしまいます。
     ウチのチームの面々にも最後まで諦めずに走って欲しいなとピッチをみてみると・・・ おや?なんかもう一皮むけてスケールアップしそうな漢(おとこ)が一人。「荒野のシーズン」。来るかもしれないですよ。いや、来てほしいです。そろそろ熟成して、しっかりとした選手になる時がきたんじゃないですか。チームのリンクマンとして羽ばたいて欲しいものです。
     そんな感じ。今年もマッタリ待ってます。 にゃんむるでした。またのー('ω')ノ

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    1. 4試合は少ないですね、そう考えると、去年横浜に行って思いましたが金Jみたいな試みは大事ですね。試合は荒野が頑張ってたのと、宮澤1バックになって背後に湘南に走られまくって湘南ビッグウェ~ブで終了、というシンプルな内容でした。少ない観戦機会が当たり試合になることを願ってます。

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